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19.召喚

「正式な召喚状です」



 王宮にある紅月隊の本部に行くと、マイヤに手紙を渡された。



 臨時会議は一度解散し、魔法関係の専門集団で再結成したらしい。



『魔導技術応用研究統合本部』



 その会議からすぐに呼び出しがあった。




「~遠回しに『意見を聞きたい』、『助勢を請う』とありますが、これってそういうことですかね?」




 おれの声は緊張で上擦っていた。

 心臓の鼓動が嫌な跳ね方をしている。




「ロイド卿‥‥‥一緒に行きましょうか?」



 マイヤが心配そうにおれに尋ねる。

 不安になるのも当然だ。

 魔法関係の官僚だけ集めた会議など前代未聞。秘匿技術である魔法は技能も知識も人材も管理を一元化すると権力が集中し過ぎるからだ。

 そこで保護特区のような機関として学院を造り、その後の進路は自主性に任せて干渉は最小限にするという措置が取られた。


 全ては魔法技術を特権にしたい貴族に配慮した形だ。



 そうした反発を抑えて小規模ながら魔法関係者だけを集めるということは大きな方針転換があったということだ。



 一大プロジェクトだ。



 そしてその会議の議題には『怪童』とその考案技術についての調査と今後の管理が含まれるとバッチリ明記されている。



 単純に考えれば全部バレてしまったということか。





「会議はぼくの管理を申し出るでしょう。そうなったら紅月隊との兼務は難しいですね」




 これまでの生活を全て捨てることになる。

 地位と名誉。


 システィーナとの日々も終わる。



 だが、そうはいかない。




 おれには彼女を護る責任がある。




「隊長、お願いします」

「‥‥‥! はい!」



 おれは深々とマイヤに頭を下げた。


 マイヤはおれが頼ってきたことが意外だった顔をしたがすぐに決意に満ちた笑顔を見せた。



 話を聞いていた少女が腕を組みながら、脚を鳴らした。



「はぁ、もう~!! しょうがないわね!! 私も行ってあげるわ!!」

「あ、副隊長は忙しいでしょうしダイジョウブです」

「断ってんじゃないわよ!! うちから部下を引き抜こうなんて絶対許さないわ!!」

「部下‥‥‥」

「ちょっと、あんた私の部下よ!? 四席なんだから!!」



 オリヴィアが号令をかけ、紅月隊席次が全員出動することになった。




 紅月隊には頼りになる隊員がたくさんいる。

 戦闘の才能はもとより、やや変わった経歴の者を採用しがちだ。

 異色の経歴の持ち主が多い。



「会議で追及される点を考慮に入れた答弁をあらかじめ作成しますわよ」

「経歴詐称は神殿と陛下双方の同意を得てのこと。一か月名乗り出なかったことによるもろもろの責任は調査費として弁済しましょう。今後の管理問題については、会議のメンバーをつついて信憑性を疑えば切り抜けられるでしょう。楽勝です」

「では会議の参加者を探りに行ってきまーす」




 次々と動く隊員たち。

 全く頼もしい。

 おれは深々とお辞儀して彼女たちを見送った。



「私は姫にこのことをご報告して来ます」

「はい」



 マイヤがシスティーナの下へ向かった。



 おれも行こうかと迷ったがここは彼女に任せることにした。

 システィーナのトラウマを軽減するために始めたお忍び外出はいつの間にか学院生活に延長されていた。それが危うくなれば、彼女への心理的負担は大きい。



 おれにはおれの生活だけでなく、彼女の今の生活も守る義務がある。

 そのために、おれはやれるだけのことをしよう。




 対策は昼夜を問わず行われた。




「皆さん、ありがとうございます!!」




 自分がどれだけ大切にされているか、気づいた。

 状況はピンチだが何だがとても温かい気持ちになった。



「これは他人ごとではありません。任務ですから」



 まぁそうか。

 責任という面ではおれより紅月隊全体がマズい状態だもんな。




「ご迷惑をお掛けして‥‥‥」

「部下のしりぬぐいをするのは上司の仕事よ!!」



 オリヴィアは何もしていない。お茶と食事の配膳しかしていなかった。

 でも、今日のところは感謝しよう。



「ありがとうございます!!」



「普段は与えられてばかりだ。こんな時ぐらい力にならせろ」

「あなたはこの隊のエースなんだし、いずれは隊長になるんだから、こんなところで躓かれたら困るわ」

「それに、大人として子供の面倒はキチンと見ませんと」

「この先こっちがどれだけ迷惑をかけても今日の日のことを忘れないで! 一生恩に着せるからね!!」



 何だか色々と含むところはあるみたいだが、おかげで対策は練れた。




 おれたちは会議が行われている王宮の離宮に参上した。




 到着早々、会議への参加はおれだけだと、他の隊員は突っぱねられたが、マイヤだけは同行を許された。




「では行ってきます」




 隊員たちに見送られ、おれは会議室として使われている居室の重々しい扉の内側へと足を踏み入れた。




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