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18.怪童

 


 対抗戦から早一か月。


 おれの周囲はびっくりするぐらい静かだった。



 学院内においておれが『日傘』の作製に深く関わっていることはバレていた。



 当然だ。

 いくら学院内が閉鎖的空間でも、噂は広まる。



 今、製作を頼んだ先輩たちは合宿という名目で工房都市アルアンツにて保護されている。

 魔法の情報を狙った輩から護るためだ。


 同時に製作の経緯や図面などの情報と共に、おれのことも聞かれているだろう。



 彼らからおれのことがバレる心配はしていない。

 その為の手は打ってある。


 だが結局のところその合宿が一か月も長引いているという事実はその中から発案者が見つからないという証だ。



 消去法でおれだと推測することは容易い。



 しかしそれは学院内での話だ。

 学院内は魔法情報の流出を防ぐための情報統制がある。

 加えて貴族と平民、学部間でバリバリの隠蔽体質でバチバチだ。

 それらが幸いしたのだろうか。正確な情報は外に漏れていないようだ。



 だがそれが逆に事態を悪化させてもいる。

 おれにとっては幸運だったが王国の会議が親父さんのところに人を派遣したりと色々と迷惑が掛かっている。システィーナも学院に来られないでいる。



 問題がこじれる前に名乗り出るべきなのかもしれない。



 でも、怖い!



 権力欲に塗れた大人たちに利用されたくない。

 どうしてみんなおれをそっとして置いてくれないの?



 おれはただ世の中のためになる魔道具をもっと増やしたいってそれだけなのに!




「純粋ぶるのはやめたらいかがか? すでに学院内ではあなたが『怪童』ということは知れ渡りつつあるのだから」



『怪童』というのはあだ名だ。

 会議ではおれのことをそう呼んでいるらしい。


『怪童』=学生ロイド。ここまでは学院内においてはバレている。

 なのに学院内でおれの周囲が静かな理由は一つ。


 おれの隣にいるこの男だ。




「きゃ~『南部の一等星』様よ!今日もロイド君と一緒だわ」

「はぁはぁ『端麗王子』美しすぎる、はぁはぁ‥‥‥『怪童』との組み合わせも、あり寄りのありぃぃ」

「『綺羅星のフーガル』様、なんと健気でお優しい‥‥‥弟君が一人ぼっちなのを気遣っているのね」

「私、話しかけて来るわ」

「ダメ!! あの方はレディントン家の次期当主様で在らせられるのよ! その建前抜きにしてもあの空間を壊してはダメよ!! 見守るの、それがファンの道なのよ!!」




 女学生たちを惑わす甘いマスク。屈強な体つき。

 16歳にはみえない風格。



 レディントン家のフーガル。



 学院の図書館。

 長机に座っているのはおれたちだけだ。




 遠くの本棚の陰や上層階からは女子学生たちの集団がこちらを覗く。


 ふとフーガルが脈絡もなく女子たちに、微笑みかける。

 何名かが失神した。



「ぼくはむしろ、あなたがぼくの傍に居ることで、ぼくがその『怪童』であると喧伝されている気がしてなりません」

「まさか。そんな意図は無いし、彼女たちがそんな裏を読んでいる事実は無い」



『怪童』=学生ロイド=ロイド・ギブソニア

 ここまで気が付いているのは彼ぐらいだ。




 フーガルは自力でおれにまでたどり着いた。

 頭がいいというか、勘働きがするどいというか。



 それでおれに接近してきた。

 南部校からの留学という形だ。







 いずれにしても他の学生が近寄って来ないのはありがたい。

 その代わり余計な注目も倍増している気はするけど。


 はぁ、なんで「きゃ~ロイド君かわいい!!」は無いんですかね?




「はぁ、背に腹は代えられないか」

「勘違いなさるな。おれはあなたの秘密を握っている」

「脅す気ですか?」

「ああ、正体をバラされたくなければ」

「クッ‥‥‥!!」

「おれとまた試合を」

「やだ~疲れる~!」



 こうして毎日戦いを申し込まれる。

 何事にも代償は必要だ。




 いくら『日傘』を考案したとはいえ、おれは魔法工学部の学生だ。


 魔法を使うのはおかしい。



 おれは一切の魔法を使わない。



 おれには剣神直伝の『虚門法』がある。




 もはや隠れて試合することも面倒で(というかどこでやっても突き止められてギャラリーができる)、公然と演習施設を利用する。



 迫ってくるイケメンを何度も投げ飛ばす。

 やりたくはない。

 弱みに付け込まれて仕方無くなんです。




「クソ‥‥‥理屈がわからん!!」




 フーガルはイケメンで頭がよくて度胸があり、人望も優しさも持っている。



 でもしつこい。




『虚門法』の技には相手の力と人体の構造を用いた投げ技がある。

 系統の違う力業主体のフーガルにとっては相性が良くないのだろう。

 対処できないことに納得いかないようだ。



「こう、脱力し筋肉に頼らず、相手の力の流れに沿って力の行き場を無くしてしまう感じです」

「おれはその技を体得したわけではない。おれはあなたに魔法を使わせる!!」



 最近では掴みにかかると【印掌術】で無理やり剥がしにかかる。

 そうするとフーガルはその場から動けないので、おれは逃げる。



 おれの体格で関節を極めるのは難しいので、受け流し、相手の態勢を崩し、距離を取る。


 システィナからはそれを徹底的に教え込まれている。



 フーガルは段々と動きが柔軟になってきたけど、おれは朝システィナにしごかれ、夜も紅月隊でしごかれるのだ。



 疲れる。動きたくない。



 ふと油断した。



 フーガルの蹴りが直撃。




「あーー!」




 これはおれが悪い。

 でも、これぐらいで戦意を途切れさせるとは意外に甘い。



 これぐらい毎日受けてる。



 蹴りを食らった衝撃を、体捌きで吸収し、それをそのまんまフーガルに返した。



 木刀で。




「がはっ!」

「ほら~、ぼくが『気門法』を使えないと思って油断するからですよ」

「いつ抜いて‥‥‥というか今のは魔法では‥‥‥」

「いえ、大陸東方に伝わる『瞬回』という技らしいです」



 これで諦めてくれれば‥‥‥




 しかし、フーガルという男はしつこい。

 むしろ、その顔は歓喜に満ちていた。



「えぇ~、なんか怖い~」

「越えるべき壁を得た。おれはあなたを倒し強くなる!!!」



 漫画の主人公みたいな奴だな。



 疲れる。




 こうしてフーガルのおかげで何とか学院内ではやっていけている。

 しかし、その外ではついに事態が動き出した。


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