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16.至高


 対戦が始まりすぐにフーガルは拠点から飛び降りた。



 そのまま一直線に迷いなくフェリエスが立つ拠点へ激走する。




 思っていた通りだ。

 南部兵の戦い方は『勇猛果敢』



 戦い慣れているくせに、戦略はシンプルだ。



 まぁ確かに厄介ではある。

 対面すると相対した者に恐怖と焦りを生じさせる。




 でもね~。

 

 その戦法の対抗策もシンプルだ。



 まずはプレッシャーへの慣れ。



 フェリエスは散々親父さんに鍛えられてきた。



 そして叡智の結晶たる『日傘』は対突撃戦法を想定。



 戦法を変えなかった時点で結果は決まった。


 

 フーガル。さらばだ。




「どうした? 北部校代表が動かんぞ!?」



「あれ?」




 フェリエスが動かない。どうして?




「まさか」




 緊張?

 例年にないこの大観衆。



 しまった。

 彼女は大貴族の令嬢だが、中身は14歳の女の子。親父さんの特訓でいつも泣いていたし。

 貴族的豪胆な振舞いは後天的教育によるもの。



 短期的な訓練で本質を覆い隠すには至らなかったか。




 それにああ!

 声を掛けたいがおれやシスティーナが声を上げたらおかしいし。伝わんない!


 彼女はおれたちが学生たちの群衆のなかにいると思っている。王侯貴族が集中するこの貴賓席にいるなど想像していないだろう。



 あれだけ準備したのに、終わる。

 終わってしまう。


 


「臆するな!!!!」




 バカでかい声が鳴り響いた。

 



 ビクッとフェリエスの身体が反応したのがわかった。




 声の源は親父さんだ。





「なんだあの南部人?」

「でかい声だ」

「見ろ、今のでナイブズ家の令嬢が動き始めたぞ!!」

「だがもう遅い! 距離が詰まり過ぎた!!」

「遠距離用の杖では――」




 遅すぎることは無い。



 フェリエスが拠点を降りた。



 距離はさらに詰まる。

 互いの顔色が読めるほどの距離。



 フーガルは勝ちを確信している。




 フェリエスは肩にかけた杖を構えた。




「なんだあれは!」

「杖なのか!?」




 杖?

 違う。両手で脇に抱える杖などありえない。

 魔石と魔法陣を刻印した金属盤、それらを組み込み魔力を込めやすく軽く頑丈な樹木から成るのが杖だ。



 歴史的に杖の大型化・小型化、威力の拡大と集中、照準性能の洗練は在ってもこの基本は変わらない。



 しかし彼女の持つそれは持ち手と幾らかの部品は木製であるものの、その大半を金属で覆い、形状は大型の杖よりか短いが太く、先には小型の杖らしきものが何本も装着されている。




 一体なんだあれは?



 なんちゃって。



 みんな驚いているのでおれも驚くフリ。





 その異形なる杖に、尋常ならざる気配を感じただろう。しかしフーガルは速度を緩めることなく突進していく。



 少しは警戒しろよ。




 多少の法撃など自分には効かないという過信か。それとも【印掌術】を使いこなしている実力ゆえか。




 だからだめなんだよ。




 フーガルの魔剣が届くかと思われた瞬間、彼女の『日傘』が火を噴いた。




「――っ!!」



 放たれたのは『風切』だ。


 一発ではない。



 無数の細かい『風切』がガトリング砲の斉射のように弾幕を張り、フーガルに浴びせかけられた。




 面食らったフーガルは【印掌術】で盾を造りたたらを踏んだ。



 いや、強制的に止められた。



「バカな!!」

「あれが杖か!?」



 宮廷魔導士たちが唖然としている。



 どーよ、これ。



「何故だ? なぜあのように魔法を連発できる!?」



 そう、杖は構造上連発ができない。

 発想の違いだ。


‟魔力は貴重で、一発一発を狙い澄まして当てなければならない”

 

 精度重視だ。

 それは自然と高出力化を是としていった。



 だが粗末な照準性能などいらない。

 おれは切り捨てた。


 代わりに小型の杖を5基組み込み、法撃の反動で回転するようにした。



【五連装自走回転式法撃砲】とでも呼ぼう。



 これは杖の操作を簡略化するためだ。



 フェリエスは5本の杖を使うことなく単一の操作で五倍の攻撃が可能となる。




「しかし、あれだけ魔法を連発してしまえばあっという間に魔力切れになるぞ」




 フーガルもそれを期待しているのか、動かない。




 だがフェリエスの攻撃は止まらない。




 待っても無駄だ。




『日傘』には【魔力循環プール】を応用した【魔力容量】を搭載している。自分で魔力を加えることで魔力循環プールには魔力が溜まる。それらが消費されないよう保存したものが魔力容量―――つまりはバッテリーだ。



 フェリエスは起動のための魔力は使っているが、法撃の消費魔力はバッテリーが担っている。



 バッテリーは夏休み中貯めたから一日中でも持つぞ。




「うそだ‥‥‥こんな、学生の魔力量じゃない!!」

「何らかの仕組みで長時間使用が可能になったのか。ということは不利なのは【印掌術】を使っているフーガルの方だ」




 フーガル本人もそう考えたようだ。



「法撃の嵐を突き抜けたぞ!!」



 ここで逃げずに前進を選ぶとは見上げた根性だ。




 ここまで想定内だけどね。




【印掌術】を解き、被弾覚悟で魔剣を振るうフーガル。



 さすがは戦士。

 対人級の小さい魔法では膝を着かないか。



 しかし、一か八かのその戦法、思い切りの良さが仇になったな。




 フェリエスが『日傘』の持ち手をグッと回した。



【五連装自走回転式法撃砲】が持ち上がり、その下からもう一基の杖が顔を出した。




「その距離なら当たるだろ」




「―――っ!!!」



 バコリと、大気が唸る。

 



 五連装に分割された威力を一極集中した『風圧』がフーガルにヒットした。




 大きくフッ飛ばされたフーガルはゴロゴロと草原を転がった。




 勝負あったな。




「うれしそうですね、ロイド卿」

「あ、いえ‥‥‥そう見えます?」

「はい。お見事です。あれは素晴らしい武器ですね」



 マイヤに褒められた。



 思わず笑みがこぼれる。



「きっと、フェリエス嬢と魔法工学部の総力、北部校の底力なのでしょうね。ねぇ、姫様?」

「そうね。彼女の力は関わった者たちの努力と英知の結晶なのでしょうね」




 今きっとシスティーナも同じことを考えている。


 早く先輩たちに会いたい。

 この喜びを分かち合いたい。



「喜ぶのは早いわよ」

「「え?」」



 オリヴィアが不吉なことを言い出した。



「あの南部代表、直撃する前に魔剣でガードしてたから」

「ウソ!?」




 遠すぎて見えなかった。

 フーガルはまだ立っている。



 何て奴だ。

 学生レベルじゃないぞ。



 長期戦を匂わせればフーガルは無理やり突撃してくる。そこを隠し玉の大砲で仕留めるというプランだった。



 初見であれを回避するということはオリヴィアと同じ『気門法』が得意なタイプってことか。





「‥‥‥振出しに戻っただけ。勝負はここからですよ」




 フェリエス自身も成長している。

 あとは彼女の頑張りを信じるだけだ。






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