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14.日傘


 夏休み期間。

 北部の王立魔道学院も直射日光がきつくなってきた。



 炎天下の中、巨大な杖を持ち、己の生み出した炎で身を焦がす少女。



 しかし相手はその炎を難なく躱す。

 一方的な戦いだった。



 杖の発動する火魔法は時折大きく外れる。



 接近して距離が縮まると当たることもあるが【印掌術】の盾で全くダメージが無い。



 これでは前進を止められない。



 相手はただ前進してくるだけなのに、二人の間合いが詰まるともはや勝負は決していた。

 



 その身の耐久力、剣技、そして魔剣の必要最小限の使用。



「これが南部兵の戦い方か」



 以前見たブルゴスたちの戦い方と似ている。



 しかしもっと洗練されたものだ。




 おれとシスティーナは感心しながら平原の秘密エリア(以前フェリエスが隠れて訓練していた窪地)で訓練を観察していた。



 フェリエスは汗を流し、息も絶え絶えだ。



「つ、強い‥‥‥」

「お前さんが弱すぎるんだ」

「うっ‥‥‥は、はい‥‥‥」



 南部兵がヘルメットを外す。



 親父さんが呆れた顔をしている。



 そう、フェリエスの師としておれが紹介したのは親父さんだ。



「お疲れ様です。どうですか?」

「‥‥‥だめだな」



 親父さんは見てたんだからわかるだろという目でおれを見る。


 でもフェリエスにどうダメなのか伝わらないと。



「‥‥‥心身ともに虚弱。技術が未熟」

「ううっ‥‥‥はい‥‥‥」



 確かに焦りすぎ、杖の反動に耐えきれてないから一々身体がブレる。


 あと単純に杖の重さで動けてなかった。



「や、やはり私も魔剣を‥‥‥!」

「やめろ。素人が刃物を持つな」

「‥‥‥うううっ、はい‥‥‥ひん」



 フェリエスはおれたちに背を向けて肩を震わせている。


 フェリエス泣いている?




「しかし、問題は杖にもありますね」

「そうだな」

「や、やはり魔剣を‥‥‥」

「お前さんは自分を鍛えてろ。軟弱だぞ」

「‥‥‥ひん」



 泣きながらフェリエスが走らされる。



 かわいそうだけどガンバレ。



「ロイド、それで対抗戦は夏休み明けすぐだけど、どうするの? 杖の次世代型は?」

「大丈夫です。今見て問題点は見えました。この杖は全体的に役立たずです」

「あら、ばっさりね」



 これだって先輩が造ったものだから悪く言いたくないが、忖度せずに言うと、おもちゃだな。



 無駄が多く、威力が安定せず、照準が定まらず、魔力の消費も大きい。


 これで狙い撃ちするには特殊な才能が必要だ。マスみたいな。



「これでも杖は詠唱魔術を使えない者が魔法を発動できる画期的な魔道具、のはずなのだけど」

「数百年前だったらそうなんですけど」


 この中途半端で役に立たない狙撃性能のために複雑かつ鈍重な造りになっている。これを担いで拠点から降りたらそりゃ標的にされるだけだ。



 おまけに消費魔力に対して威力が散漫だ。

 半分ぐらいは標的じゃなく自分の方に散っている。

 バックファイアというレベルじゃない。

 己の魔力で生み出した魔法だからダメージはほとんどないだろうが視界も悪いし、心理的に動きを止めてしまう。




「一先ず【魔力循環プール】を活用しましょう。あれに普段から魔力を貯めておけば魔力問題は解決します」

「なら防御面も魔法で何とかしろ。機動面はどうしようもないからな」



 確かに、今オリヴィア用に製作している『プロトワン〈試作版高機動式魔導甲冑〉』は装着する者にある程度の身体能力を必要とする。万人向きじゃない。



「『耐久魔導服〈コンバットスーツ〉』で何とかなりませんか?」

「魔剣も中距離なら魔法を放てる。集中砲火でも耐えられるか?」

「それも魔法で対抗策を講じないとだめですか。親父さんがさっきやった【印掌術】はどうでしょう?」

「あれは片手が空いてねぇと使えん。腕の交差で魔法陣を造る簡易的魔法だからな」

「う~ん‥‥‥」



 おれはふとシスティーナが炎天下から肌を守るために持っている日傘を見て思いついた。



「なぁに?」

「親父さん、あれです」

「‥‥‥おお、いいんじゃねぇか」



 おれと親父さんがアイデアを出し合うのは時と場所を変え、学院の訓練場と安食堂両方で行われた。



 おれたちが議論している様子を常連客が唖然として見ていた。



「単発の威力を追求するべきだ。あれでは通用せん」

「いえ、対抗戦では対人級魔法に使用が限定されているので」

「ふん、軟弱な。魔導士の戦いだろ」

「同感ですけど、そもそもぼくは照準性能ごと威力は捨てていいと」

「ほう‥‥‥」

「例えば‥‥‥」



 おれはアイデアを先輩たちのところに持っていく。


 システィーナに集められた先輩たちがおれを見て「またか!」と逃げようとする。




「先輩~?」

「ひぃ~!」

「頼む、地元からさっき帰って来たばかりなんだよ」

「これから課題を‥‥‥」

「堪忍やで~。課題落としたら落第なんや!!」

「その課題、魔力供給する人は誰ですかぁ~?」



 先輩たちの動きが止まる。



「ちなみに夏休み明けの課題の期限は延ばしていただけるよう、各専攻の先生方に交渉致しました。対抗戦に貢献するならそちらが優先でいいそうですわ」

「なんなりと」

「まぁ、今忙しいのも君たちのおかげだし」

「ロイド君にはいつも魔力でお世話になってるしね」



 さすがシスお姉様。

 先を見透かした鮮やかな手口。

 いや人を操る手練手管。

 あ、いや、なんという人徳。




「ま、まぁ‥‥‥手伝うくらいなら――って何だこの設計図は!! 杖? これ杖!?」

「無・理・だ・!」

「あはは、あはは‥‥‥これじゃ冷凍冷蔵庫の二の舞だ‥‥‥」




 先輩たちはおれの無理な注文も快く引き受けてくれた。



 あとはトライアンドエラーの繰り返しだ。

 フェリエスに実際に使わせて調整。




「な、なぁ、この機能必要だろうか? 対抗戦は対魔級魔法の使用は禁止で」

「わかってますよ?」

「なら‥‥‥あの申し訳ないんだが。ちょっと重くてな」



 フェリエスは親父さんの度重なる厳しい訓練で心が折れかけている。



「実戦で使えんものを造ってどうする? 対抗戦に勝てればそれで満足か? よくできましたと言われるのが目標か?」

「いや、あの‥‥‥すいません!! 親父殿!!」

「教官と呼べ」

「はい、教官!!」



 月日は流れ‥‥‥




 新しい『次世代型杖』が完成していくにつれて、フェリエスの戦い方も変わっていった。




「よくやった。一先ずギリギリ及第点をやろう」

「教官‥‥‥ありがとうございました!!」

「フェリエスよくがんばりましたね。これはぼくとシスお姉様から餞別です」



 おれたちは杖を肩から掛けられる肩掛けベルトをプレゼントした。




「‥‥‥こんないいものがあるならなぜ今!?」



 フェリエスががくりとうなだれた。

 いや、普通に今の今まで思い至らなかった。

 こういう単純な解決策って意外と思いつかないもんなんだ。

 ごめん。



「それで、この杖の銘は?」

「ああ、そうだ。私も気になっていた」

「いつまでも『次世代型杖』では味気ないものね」



 名前か。



 考えて無かった。



「‥‥‥『日傘』ですね」

「なんだか弱そうねぇ」

「杖の最高傑作に付ける名か?」

「私は構わないが、何だか女々しいな」




 不評のようだ。



「ではフェリエススペシャルと――」

「いやすまない、『日傘』でいい」



 




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