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7.繁忙

 冷凍冷蔵庫は正式名称が『魔導式氷室』となった。



 パラノーツ語で冷凍冷蔵庫を表現すると『特別な冷やかな風が物を凍て付かせつつ、適度に冷え方が違う空間が存在する箱』と、説明的でとても長いので、元からあった『氷室』という言葉と『魔道具の~』という修飾語で『魔導式氷室』としようと先輩たちが名付けた。



 でも、おれは日本語で『冷凍冷蔵庫(レイトウレイゾウコ)』と呼んでいてその発音がかわいいからとシスティーナたちがおれに習って『冷凍冷蔵庫(レイトウレイゾウコ)』と呼んでいた。



 今じゃみんな『冷凍冷蔵庫』と呼ぶ。



 季節的タイミングもあって冷凍冷蔵庫は大ヒット。



 思いがけず、王都の鍛冶屋の仕事が倍増して魔導学院の魔法工学部を中退した人や、卒業しても野鍛冶のように何でも造る職人で食いつないでいた人たちが職にありついた。




 この世界、加工する金属が豊富な上、基本的に手工業だ。職人業は一朝一夕で身に付くものでは無い。それが、魔法という別のファクターがあることで、ややないがしろにされているような気がする。おれの主観だけど。




 ‶魔法工学部の出身者はいい仕事をする〟




 いい仕事は、次の仕事を生んだ。

 


 学院に行くと必ず学部塔に他所の学部が直談判に来ているのを見かけるようになっていた。



「金は払うって言ってるだろ!」

「こっちが先だ!!」

「冷凍冷蔵庫を考え出した者がいるだろう! そいつを呼べ!」



 やれやれだぜ。

 相変わらず自分の立ち位置が分からず態度のおかしい連中がいた。 




「またやってるよ」

「こっちは忙しいんだ。付き合ってられるか」

「放っておこうぜ」



 先輩たちもずいぶん変わった。

 前はビクビクして「はいはい」言うことを聞いていたのに、一つの大きな仕事をやって自信がついたのか、肝が据わるようになった。



 冷凍冷蔵庫の製造は王立魔導学院の最優先事業と化した。何せ王宮が奨励し、多額の援助をしているのだ。



 魔法工学部としてもこの製造はあらゆる専攻が関わり、魔道具製作の粋が費やされるため、推奨した。



 他学部の横暴な依頼など無視だ。




 ほとんどの学生の態度は以前よりまともになった。

 魔法工学部に無視されるとマズいと気が付いたのだろう。起動実験には本人が付きそうのが当たり前になった。


 おかげで魔道具の製作も捗った。

 冷凍冷蔵庫を製作したものたちが造ったとなれば箔も付く。



 さて。



「みんな忙しそうぉ‥‥‥」

「忙しいよ!!」



 おれは忙しく働く先輩たちを見ているぐらいしかできることが無い。


 繰り返しになるが職人の技術はそう簡単にまねできるものでは無い。



 なんだか申し訳ない。

 代わりに差し入れを用意していくようになった。安食堂のまかないを冷凍しておいて、熱魔法でこっそり解凍する。デリバリーサービス。これも儲かりそうだ。


 デザートはアイス。ヴィオラは色んな味を開拓してもはやお店だ。店を出したら流行るだろう。



「まだ温かい! ロイド君、急いで持ってきてくれたの!? ありがとうー!」

「へへ、どういたしまして」



 先輩達には好評。

 また親父さんの店のリピーターを増やしてしまった。



「ああ、ロイド君のせいで最近太ったかも」

「何を食べてるのか分からないけどおいしいな。何を食べてるのかわからないけど」

「えぇ~説明したじゃないですか~。これは南部蛇魚(ウナギ)の『イドゥ・モイ・パウ(蒸し魚の野菜詰めパン)』、こっちは南部魔怪鳥(オオワシの魔獣)の『イドゥ・キリー・ルチ(鳥肉の竜田揚げパン)』、それと『シマ・ハイ(南部風シチュー)』です」

「はは、またロイド語か?」



 最近言われて気が付いたが、おれはふとパラノーツ以外の言葉を使っていることがある。



 日本語とパラノーツ語。

 それに今は中央大陸語を習得している(本を読んで覚えた)



 それとシスティナが時々共和国語とか死語を使うから移ってしまうのだ。

 それが学院で講義を受けてからは顕著だ。先生たちが国際色豊かだからだろう。


 親父さんや南部兵たちは南部訛りだからそれも影響する。



『記憶の神殿』は便利だが、普通の人が影響されないようなことでも、しっかりインプットされておれに影響を及ぼす。



 おまけにおれは今二重生活。

 時々混乱する。



「南部料理も美味いけど、故郷の味が恋しいな」

「夏休み、今年はどうなるかな」

「今の状態だとムリじゃないか? 予約でいっぱいだし。おれたいは学費免除で奨励金もみんなもらっただろ‥‥‥」

「ぼくは実家に帰りますけどね」



 先輩たちが泣きそうな顔でおれを見る。

 だってしょうがない。

 おれが残ってもあれだし。



「まぁ、将来のことを悲観して、ビクビクしてた頃よりはいいか」

「そうだな。おれ、今なんだか充実してるんだ」

「おれも。なんか、必要とされてるっていいよな」



 でも働き過ぎは良くないな。

 セーブしてもらえるように王宮とゼブル商会に言っておこう。




「そう言えば、ロイド君と姫ってどこの生まれなの?」

「‥‥‥王都ですよ?」

「今実家帰るって言ったじゃん」




 さすがにベルグリッドと言ったら、関連付けられそうだ。だが下手に他所の領地とも言えない。

 被ったらボロが出る。




「あれ~? でも、実家じゃないんだろ?」

「え?」

「前に住み込みで働いてるって」

「そう言えば店で働いてる先輩が、二人とも住み込みだって言ってたのに、夜になるといなくなってるって言ってたな」



 ここは取り調べ室かな?


 えーっと、えっと。



「住み込みと言ったのは嘘です。シスお姉様の実家は王都です。お姉様は実家に住んでます。でもぼくは違うんで、親戚の家に泊めてもらってます」



 先輩たちの追及は止まった。


 そう、ここは地雷原だ。


 デリケートな家庭の事情には踏み込まないのが常識。


 踏み込めば幼気な七歳の少年の心を深く傷つけてしまうだろう。

 なんてかわいそうなおれ。



 ちなみにウソは言ってない。



「なんかわりぃ」

「そう言えば、お前たち全然似てな――」

「おい、やめろよ」

「ロイド君、困ったら何でも相談してね」

「はーい」



 ふぅ、なんとか乗り切ったぜ。



 そういえばこういう時いつもフォローに回るお姉様がいない。


 どこだ?


 声がした気がして学部塔の下を確認。

 見つけた。



「おれたちの魔道具を造れ!!」

「いいから呼んで来いよ、平民が!!」

「勅命である事業を止め、あなた様方のお家の立場を優先せよとおっしゃるなら、王国民たる私共に勅命に逆らえとおっしゃっているのと同じです。それを強制するなんて、まさかまさか王国に仇を成す意図でも?」

「な、何を言ってる!!」

「この出来事が国王陛下の耳にはどう聞こえるでしょう? ねぇ?」

「うっ‥‥‥なんだこいつ、生意気だな」


「王宮への奏上は格式に則って手続きを踏めば平民でもできるとご存じ?」




 システィーナが他学部の学生を言い負かしているところだった。





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