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6.食堂

 

 今更だが、親父さんのお店は南部料理を出す。


 これまでは北部の王都でも手に入る代替食材を使っていたが、事情が変わった。



「これだ! これだよ!!」

「泣かせてくれるぜ、親父~!!」

「まさか北部に来て南部の懐かしい味が味わえるとはな‥‥‥」




 南部の食材が手に入るようになった。

 もちろん値段は高いがその分北部で手に入る食材が安くなったから全体で利益はとれている。



 おれも南部料理は大好きだ。

 北部の料理は素朴だが、南部はスパイシーで複雑な味がする。


 加えて、親父さんは魔獣肉の調理に慣れていて、お店のメニューも増えた。魔獣肉が美味いことでも客が多く舞い込んできた。


 お店は大盛況だ。



「魔獣肉の赤身なんて食ったことねぇぞ」

「冒険者ぐらいしか食えねぇからな」

「なんでだ?」

「すぐ腐るんだよ」

「親父、大丈夫か?」

「問題ねぇ。地下が冷凍室になってる」

「え? それって今話題になってる奴か!」

「なんでこんなボロい食堂にそんなもんが」



 それはおれとシスティーナがプレゼントしたからだ。地下の食品庫を丸ごと改造した。



「へぇ~、坊主たちが造ったのか」

「なぁおれの店にも付けてくれよ」

「うちにも!!」

「小さいものなら予約待ちです。部屋ごとになるといつになるやら‥‥‥」




 これで夏や雨季に腐らせる心配が無いし、何よりお酒を冷やしておける。



「いいなぁ、親父~」

「次期に普及するだろ」



 親父さんの言う通り、基幹部品以外は単純な構造だから普及するのは早かった。



 夏のピーク時には王都の肉屋や魚屋はもちろん、酒屋や小さな料理屋にも必ずと言っていい程設置されていた。



 しかし地下丸ごととなると親父さんの店だけだ。


 何せ基幹部品である氷魔法の法陣が特別製だし、魔力循環プールも通常の三倍以上必要となる。


 貴族の屋敷に同じ注文が来ているが今のところ見積もり予約をしている段階だ。



 夏、思った通りキンキンに冷えた酒で店は大繁盛した。



「ねぇ、親父さん? 酒の注文10倍にしてよかったでしょう?」

「フン、いいから料理運べ」



 酒が儲かる分、食事と宿泊料金は安くしていった。親父さんは儲けようという気があまりない。



「きゃあ、やめて下さい!!」

「いいじゃねぇか減るもんじゃないし」



 客が増えるのはいいが、どこの世にも愚かな奴らはいるものだ。



 客が増えたため夜は学院の先輩で働きたい人を何人か雇っている。そのおかげか近所の人や南部出身者以外に学院の関係者なども頻繁に来店するようになった。



 だが、店にどんな客が来るかは選べない。




「おい、出ていけ」



 そういう輩は親父さんに摘まみ出される。

酔っ払いはまず親父さんに凄まれると逃げ出す。

次に多いのがビビって殴りかかってくる。

親父さんはびくともしない。




「お、なんだてめぇ!! 客に向かってその態度は!! この店は客に暴力を振るおうってのか!?」


暴力を振るったのはお前だろ。


「うちの給仕に手ぇ出す奴は客じゃねぇ」

「はぁ? じゃあおれが飲んでるのは何だ? てめぇの店の酒を飲んでるおれは客だろうが!!」



 今日の輩はしつこいな。

 儲かっている店にはこうして難癖をつけて飲み食いをタダにしようとするどうしようもない連中が現れる。他にも儲かっていることへの嫉妬から嫌がらせをしたり、悪評を広めるためにわざとケンカをふっかける者もいる。




「出て行け、酒がマズくなる!!」

「てめぇの面見たことあるぜ。他の店でも同じことやってるだろ?」

「衛兵を呼ぼうか? 変態食い逃げ野郎」



 しかし多勢に無勢。

 ここは常連と近所づきあいの長い屈強な男たちが通う店でもある。



 一人で乗り込んでくるとは馬鹿なやつ。



「やろうってのか? おい、野郎共!」

「え?」



 なんと仲間を連れて来てたのか。

 始めから荒らす気じゃん。



 さすがにこれは荒れそうだ。




「おい」




 おれが魔法を使おうか迷っている間に、店のドアが開いた。

 空気が一変した。

 やけに古傷の多い屈強な衛兵たちが来店。



「お前ら、連行する」

「な、なんでだ!? おれらはまだ何もしてねぇし!!」

「抵抗するな。()()()()迷惑をかけることは許さん」



 衛兵たちは取り合うことなく、迷惑な輩をボコボコにして取り押さえた。




 おや。



「ご苦労様です。でも、こういうのはちょっと」



 おれのことを知っている衛兵もいたか。



「ん、どうした坊主?」



 ちがった。

 恥ずかしい。



「ご苦労様です。ですが、私のためにやり過ぎーー」

「ん、お嬢ちゃんどうした?」



 ちがった。

 システィーナが赤面している。



 じゃあなんだ?



「お前‥‥‥」

「はい、レディントン閣下が配下、南部方面軍元第一師団所属、クルーガーであります。南部の練兵場で魔法士戦闘演習の際お世話になりました、教官殿」

「‥‥‥フン、余計なことを」

「申し訳ありません!」

「奢ってやる。食っていけ」

「はっ! 頂戴いたします!」



 親父さんは元軍人だったようだ。



 衛兵だと思った兵隊たちは街の衛兵ではなく、南部方面軍から派遣されて来たらしい。


 近く王都である行事に、多くの南部貴族が参加するため、その前の打ち合わせと下調べだそうだ。



 この日を境に、安食堂にこの南部兵が入り浸るようになり、愚かな輩は寄り付かなくなった。


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