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4.教師


 陽気で優しく、学生たちからは人気が高い刻印魔法学の教師。

 学部間でもめ事が多い学院でよく仲裁を買って出る正義漢であり、いくつかの第一級秘術を有するという学術魔導師。

 甘いものに目が無く、お茶は渋めが好み。

 研究と講義以外では神殿に通うことが多いらしい。



 それ以外は不明。

 学生や教師たちからは「オズ」と呼ばれているが、本名、年齢、出身、ベールの下がどんな顔か、誰も知らない。



 そのオズにある日呼び出された。


 

 おれとシスティーナは彼女の研究室を訪れた。



「あら~、よく来ましたデスネ~。さぁ、こちらにどうぞ~」



 彼女はお茶を用意し始めた。システィーナがそれを手伝おうとするが客だから座っていてと促された。

 テーブルには焼き菓子がずらりと並んでいる。多いな。



 目元までベールで覆っているのに、テキパキと慣れた手つきでお茶を並べた。




「あら、先生その手はどうされたのですか?」



 彼女の腕には包帯が巻かれていた。



「実は、先日学部間の争いを治めるために話し合いが行われたのデス。しかし」




 オズは事情を説明し始めた。

 おれたちを呼び出したのは、どうやら先日の追求の続きではないようだ。




 話し合いには各学部の代表と教師たちが参加した。

 学院長が主導の下、学部間の差別や対立を無くすため意見を求めたのだ。

 ところが話し合いはすぐに不満をぶつけあう争いの場に変わったという。




『魔法工学部は何の成果もあげていないにも関わらず王立の設備を享受し、我々と対等であろうとする!!』

『初等科をギリギリ卒業した落ちこぼれたちの集まりでは無いか!!』

『魔法工学部など廃止して付属校として分けるべきだ! 彼らの存在はこの学院の品位と歴史を穢すだけだ!!』





「まぁひどいわ!」

「そんなことを言い出したら話し合いにはならないですね」

「そうデス。これを聞いた魔法工学部の学生代表たちが不満を爆発させました」




『何の成果もあげていないと言うが、我々が作った魔道具で魔法士は結果を出しているではないか!!』

『王立の設備を享受しているだと! おれたちは最低限の設備でやりくりしているんだ!! 予算が多く割かれているのは毎年詠唱魔法学部だが、あんたらのほとんどは実戦では役に立たないだろうが!!』

『そもそも、学院内では身分は無く平等のはずなのに、ルールを護らない貴族が多すぎる!!』




 話し合いは貴族と平民の対立へと脱線した。




「話は平行線のまま、最後は暴力沙汰となり、話し合いは決裂したのデスネ」

「そんなことが‥‥‥」



 彼女はそれを仲裁しようとして怪我を負ったらしい。



「どうして全員に知らされてないんですか?」

「『ここまで来てしまってはいっそ魔法工学部は付属校として分けるべき』という考えが多数派となり、この話が広まるとまた暴動に繋がる恐れがあるのデス」



 付属校か。

 当然そうなれば今までより予算は縮小されるし、平民はそちらに通うしか無くなる。



 しかしまぁ、争いが無くならないのなら仕方ないかもしれない。




「そうなった場合、新たに王立魔法学院内に魔法工学部が新設されるでショウ」

「え? なぜですか?」

「魔法工学そのものは魔法という分野において欠かせませんネ? 貴族はより格の高い魔道具を求めて貴族中心の学部を新設しますデスネ。そうなったら私たち教師は付属校ではなくこちらに残ることになり、分校の教師はどこの誰が務めるかわかりませんデスネ」



 要するに一時的な学生の受け皿を造り、事実上消えて無くなる運命ということか。

 それは困る。




「なぜその話を私たちにだけするのですか?」



 システィーナが尋ねた。



「今の内に学部を移った方が良いということですか?」

「いえ‥‥‥ロイドさん、あなたは実はとても、とても頭いいデスネ? シスさんも賢いですが、あなたの頭脳は超人的です」

「ぼくまだ七歳です」

「フフ、講義であなたを試したことが不思議だったのではありませんか?」





 やはり、おれを最初からターゲットにしていたのか。




「あなたが何者かは知りませんが、私はたくさんたくさん学生を見てきて、あなたのような子は初めてデシタネ」



 彼女は装飾品が付いたベールを上げた。



「え?」



 誰も知らないベールの下をそんな簡単に?



「ひぃ‥‥‥」



 システィーナが呻いた。

 おれにすがり付き身体を震わせている。


 まるでひどい顔をしたバケモノでも見ているようだった。



「シスお姉様、失礼ですよ」

「だって‥‥‥」

「いいんですよ、シスさん。眼を見ないで下さい。ロイド君、私を見てどう感じますか?」



『デスネ』はどうした?


 なんだ?


 何が起きている?



 わからないぞ。



「いや、まぁ‥‥‥きれいな眼ですね」

「フフ、ありがとうございます」



 初めて見る眼だ。

 紅く、ルビーのように輝いている。

 瞳孔は猫のように細く収縮している。




「ロイド君、私は‥‥‥魔族なんです」

「はぁ‥‥‥」


 これが魔族!


 噂には聞いていたが、実物は初めてだ。

 なにせこの国には魔族なんて滅多にいないからな。


 ベールの下隠れている耳もエルフとまではいかないが尖っている。

 

 口を開けると牙は生えていない。


 頭部を確認する。


 角もないな。


「ちょ、ちょっとロイド‥‥‥」

「ロイドひゅん、話へまふぇん‥‥‥」

 

 気が付くとオズの顔を弄んでいた。


「あ、すいません」

「人族は魔族の眼を見ると畏怖するものなのデス」

「え?」



 じゃあ、おれって人族じゃないってこと?

 違うか。

 噂よりずっと人間って感じだ。


 肌も白いし鱗も無い。



「魔族の眼は魔力を色で捉えるんデスネ」

「魔力が見えるですか?」

「はい。私は見える方の中でも特別見えマス。だからあなたの魔力がフツウの人族より遥かに濃く、多いことも、教室で一目見て気が付きました。それでイタズラしましたネ」



 おれを嵌めた理由は分かった。



 だが、まだここに呼ばれた理由を聞いてない。




「あなたならこの対立を治めることができると思いますデスネ」

「ぼく七歳ですよ?」

「ロイド君、シスさん。魔力が見えると色々わかるんですネ。魔力の源である魂の大きさとその揺らぎ。それは感情や思考デスネ」



 おーっと、つまり、おれの正体どころか、本当は七歳ではないことがバレてる?



「特にロイド君、あなたの魔力の流れはとてもとても流麗デスネ」

「弟は体質が特殊で‥‥‥」

「ちなみに、講義でロイド君に解かせた魔法陣ですが、あれはどこにも載ってません。私のオリジナルです」



 王手じゃん。



 若いから完全に見くびっていた。



 どうする?

 おれの転生と、『記憶の神殿』については誰にも話してないトップシークレット。



 これ以上詮索されると厄介だ。



 それに学部ごと消えるとなれば他人事じゃない。

 大顎族(オーク)長耳族(エルフ)、魔族の先生は貴重だ。

 このつながりは維持したい。


 それに学院の秩序はシスティーナの安全に直結する問題でもある。



「わかりました。手が無いこともありません」

「ロイド? そんな安請け合いしてはダメよ」

「もちろん、交換条件があります。先生が魔力で色々覗き見しているのなら―――」

「言い方、ひどいデスネ!!」

「これと思う優秀な学生がいるはず。それをできるだけ専攻ごとにピックアップして教えてください」

「はい、いいですよ」




 もともとおれが魔法工学専攻にしたのは各専攻の優秀そうな学生を探して、造って欲しい物があったからだ。


 オズはさらさらとリストを書いた。



「どうするの?」

「学部間の対立で真っ先に出た主張が『実績』です。魔法工学部の実績は魔法士育成学部と一蓮托生ですが、手柄は実質奪われているようなもの。だから確実な実績をつくれば、他の学部は魔法工学部を認めざるを得ません」

「簡単に言いますネ~。それが難しいのデスよ?」



 難しいことを成し遂げる。



 だからこそ価値がある。



 そして、この成果でおれは王国の食料事情を変える。


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