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24.進路


 お忍び外出のおかげでシスティーナに笑顔が増えた。

 素の笑顔だ。



 恐怖が無くなっていくにつれて好奇心が増し、行ってはいけないところに行こうとしたり。スラムとか色町へ。


 お姫様ごっこをしていると思われるのが恥ずかしくなったのか、口調も砕けてきた。


 職人街に出かけ、作業を覗いて怒られてシュンとしたり、犬に吠えられて不機嫌になったり、感情豊かになった。



 王宮への平民からの視点を知って、王女としての自覚や責任を強く持ち始め、街を散策して気づいたことや問題を宮廷の官吏に伝えたり、考えることも多くなったようだ。




 最初に行ったあの安食堂が気に入ったらしく、お忍びの日は必ず行く。


 店の親父にも覚えられていて、常連にもかわいがられている。相変わらずおれとシスティーナの関係については地雷だと思っているのか触れて来ない。



 いつの間にか常連と共に客の配膳や注文を受けたりと仕事の手伝いまで始めた。

 そのおかげか客も増えた気がする。




 おれも無邪気に過ごす平民のシスお姉様といる時間は結構気に入っている。



 だから、おれが王立魔道学院に入学することになり、少し寂しく思った。



「仕方ないわ。ロイドの魔法は王国のために必要だし、人々のために使われるべきだもの」



 システィーナも理解してくれた。




 こうしておれは何の憂いも無く、魔導学院で新たな学びを得るべく入学した。







「だめだ!!」

「ぇぇぇ‥‥‥」


 開口一番、入学を拒否された。

 魔導学院の学部長室。



 ドワーフの男がおれに怒鳴った。

 この学院の魔法工学部学部長だ。



 帝国の外れに暮らすドワーフは長寿で好奇心旺盛。世界各国に旅をし、現地の技術やノウハウを吸収している。


 学部長もその一人だ。

 かつては様々な冒険をしてきたのだろう。

 お偉いさんというより頑固職人のような凄みがある。


 だが背丈はおれと同じぐらいだ。



「なぜダメなんですか? ぼくは入学審査を免除だと学院長から言われてきているのですよ」

「入学はおめぇさん自由よ。だがな、魔法工学部だと? うちで面倒を見ろってか? それはならねぇ!!!」

「だからなぜですか!!!」



 学部長はため息をついた。



「よし。おれも責任ある立場よ。ハッキリ言ってやる。おめぇさんをここに置けねぇ理由は三つある」

「三つも!!?」

「まず、おめぇさんはギブソニアだ。ここじゃギブソニアは悪名よ。特に標的だった魔法工学部には悪夢だ」



 こんなところであいつらの悪行に足を引っ張られるとは。



「でも、あいつらは神殿送りですよ。というか実際はボスコーンだったわけですし」

「ギブソニアの悪行はあの兄弟だけじゃねぇ。ドラコ一族の本家ギブソニアは代々強力な魔導士を輩出してきた名家ではあるが、ことごとくが異常者!」



 そう言えばヒースクリフ以外のドラコの血族は後継者争いで殺し合ったと聞いたな。

  


「おめぇさんの親父はドラコの中でも異質なのよ」

「では二つ目は?」

「学院内序列だ」



 魔導学院内には身分制がない。

 評価を公平にするために、家柄や立場を利用することは禁止されている。


 しかしどうしたって階級社会の考えは排除できない。



 魔法の才能を持つ貴族が魔法詠唱学部や魔法士訓練学部に集中するように、魔法の才能が乏しい者は魔法工学部に集中する。

 つまり平民が多い。


 魔法工学部は冷遇されている。



「ただでさえ平民の多い魔法工学部にギブソニアが入ってみろ。何が起こるか想像したくも無いわい」

「三つ目を」



 これは何だか想像がついている。



「システィーナ王女殿下まで魔法工学部に入るとはどういうことだ!!?」

「だっておもしろそうだから」



 そう言ったのはシスティーナ本人だ。



「ロイド・ギブソニア! おめぇさん、おれに恨みでもあるのか?」

「別にぼくが焚きつけたわけじゃないです」



 おれもついさっきまで知らなかったのだ。



「私が入学すればロイドはずっと学院に集中できます」

「ぼくのせいではあります」



 同じ学部にいればそれは護衛と見なされるのでおれが魔法を学ぶ時間は格段に多く確保できる。



「しかしですな、王女殿下」

「それに、魔法を学ぶことは王女として有意義なことです。魔法は便利だけれど市井に浸透せず貴族が独占しています。私はもっとロイド卿の魔法の力を誰もが享受できるようになって欲しいと考えているのです」



 良く回る口だ。

 制服がかわいいとか、同世代と遊びたいとか、夏休みに友達の実家に招待されるのに憧れるとか言っていたくせに。



「お考えはわかりました。だが‥‥‥」

「学部長、ロイドが入学するのならむしろ私が一緒の方がよろしくてよ。ロイドのことだからきっとトラブルを起こします。コントロールできる者が傍に必要ですし、ロイドの魔法を直に知っても良い人間は主人である私を置いて他にはいませんわ」



 それは確かにそうかも。

 すごい説得力だ。


 この子、本当に十歳か?



「わかりました。わかりましたから、どうかこちらにも対策を練る時間を」

「先ほどの問題1ギブソニア、問題2学内カースト、問題3王女の入学については解決策がすでにあります」

「何? どうする?」



 システィーナが魔導具で変装した。



「ぼくらは平民として入学します。それなら問題無いでしょう」

「随分と用意が良いな。さてはおめぇさん方、それいつもやってるな? 身分詐称はこの国の法に反するが」

「もちろん、二人共神殿で誓約をしてます。問題ありません」



 身分を偽るのは罪に問われる。だから事前にそれを利用して誰かを罰したり、訴えを起こさないことを約束した誓約を交わしてある。



 それ以上学部長は何も言えずおれたちの入学は許可された。



 ちなみに入学審査をシスティーナは難なくパスした。


 魔法工学部の入学審査はおもに知識問題の筆記テストと魔力量の計測だ。



 頭のいい彼女は筆記はもちろん高得点を出し、魔力量もかなりの測定値を出した。魔法の才能は無いというが幼少期から大量の魔道具を使っているため魔力量は相当なもののようだ。


 ちなみにおれも自分の魔力量を測定しようとしたがシスティーナに止められた。



「しっかし分からねぇな。おめぇさんの力はすでに宮廷魔導士に匹敵、いやそれ以上だと聞いている。今更魔法工学を学ぶ必要があんのかい?」

「えぇ、ぼくには夢があるんです」



『氷』と『熱』の属性を獲得してからずっとやりたかったことがある。



「副隊長の魔法のことかしら?」

「ああ、それはついでです」

「じゃあ何なの?」

「それは‥‥‥」




 おれはシスティーナに真の目的を話した。



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