21.解決
王宮監査部が帝国内の教会と繋がりのある人物を精査した結果、黒幕が捕まった。
帝国大使。目的はやはり帝国が王国に進出するための口実造りだった。
ジェレミアとも交流があり、王宮の抜き打ち訓練のタイミングを調べた痕跡も見つかった。
システィーナとおれをターゲットにしたのはやはりジェレミアの計画だと思わせるため。
大使ともあって外交特権を盾に逮捕時抵抗したようだが神殿が邪教徒として捜査し始めたため観念したようだ。
対外的には帝国と王国が協力して邪教徒たちの企てを阻止したこととなる。
教会という邪教徒が捏造した対立構造という点を強調することで、反王権派が勢いづくのを牽制することとなった。
こうして、王宮襲撃事件は一気に解決へと向かった。
◇
普段慌ただしい王宮監査部が祝杯を挙げていた。
「いや~見事なお手並みだ」
「万事解決しましたね」
「いや、これもロイド卿が情報を提供して下さったおかげだ」
おれは監査部に招かれ、共に解決を祝わせてもらうことになった。
「たまたま情報が手に入っただけですよ」
「また謙遜を。あの情報軍務局も持ち合わせていなかったというのに、どうやって‥‥‥」
「内緒です」
顔だけ出し退席した。
監査部を出て、システィーナの下へ向かう。
彼女の心のおもりがいくらかでも減ったことを期待して。
「ロイド卿」
その途中、声を掛けられた。
「ジェレミア公」
ジェレミアが銀河隊を伴って現れた。
おれは急ぐ足を止め、丁寧にあいさつをする。
「今さらそのような礼儀は良い。これからシスティーナのところへ行くのか?」
「はい」
「そうか。ではやはり、監査部を動かしたのは貴様だな」
「はて‥‥‥」
「ゼブル商会に情報を開示させるほどの情報を持っているわけだ。内容によっては国家反逆罪だな」
耳を疑った。
これが汚名を晴らしてやったおれへの態度か?
いや、結果的にそうなっただけでジェレミアの信用などどうでもいい。
結果的に無実だと証明されただけ。
ジェレミアもそういう考えなのだろう。
「いや、冗談だ。貴様の働きは王国に忠誠を誓う臣民として称賛に値する。そこで私から褒美をやろう」
「え?」
なんて上からな態度。
確かに王国と陛下、それに姫には忠誠を誓ったけど、別にお前にじゃないよ。
「殿下、このような下賤な者に、渡す必要は!!」
「ええい、黙れ。確かに私はこの者が気に食わぬ。だが、義に背くは上に立つ者の姿に非ず!!」
「さすがは殿下!!」
「こんな庶民の成り上がり者を差別せず、平等に評価なさるとは」
「なんと懐の大きさか!!」
なにこれ。
別に何もいらないので通してください。
「ふん、受け取るがいい。貴様には過ぎた宝だ」
そう言って銀河隊の騎士の一人がデカい箱を置いていった。
「これで貸し借りは無しだぞ、ロイド卿」
「はぁ‥‥‥」
そう言い残してジェレミアたちは去っていった。
箱の中を覗くと鎧が入っていた。
趣味の悪い意匠が施されている。
それに、何の皮肉か嫌がらせなのか、絶対におれのサイズじゃない。
「要らないな」
しかしこのまま捨て置いても邪魔になる。
おれは宮女にシスティナを呼ばせた。
「ナニコレ?」
システィナが首を傾げる。
「師匠、あげます」
「要らないものを寄越してない?」
「ではぼくは急ぐので、それちゃんと持って帰って下さいね」
「神を召使のように使うとは、我が弟子ながらすごい胆力というか‥‥‥」
システィナはそう言いながらおれの身だしなみを整える。メイドの仕事が癖になっているようだ。
「王女殿下に拝謁するならキチンとしないと」
「師匠も行きますか?」
「いや。彼女を救いたいんだろ? 自信がないのかい?」
この薄暗い王宮の深奥から、明るい外の世界へ。
怖気づいたわけじゃない。
「ぼくに10歳の少女の気持ちなんてわかりませんし」
「私だって普通の10歳の少女の気持ちなんて分からないよ」
「普通の‥‥‥そうですね」
「おや。怒っていいかな」
「そういう意味じゃありませんよ」
「ふ~ん。何か思いついたんだね。いいよ。行っておいで、姫の騎士様」
今までシスティーナを10歳の普通の女の子として見ていなかった。
周囲がそうだし、本人もそうだった。
でも、彼女だって普通の女の子だ。
王女というのは生まれながらに背負った使命。
仮面にすぎない。
「失礼します。紅月隊ロイドがシスティーナ王女殿下に拝謁願います」
「どうぞ~」
部屋に入るといつも通り。
笑顔の仮面で素顔を隠す10歳の少女がいた。
「どうしたのかしら。今日は護衛の日ではないでしょう? マイヤがいるから大丈夫よ」
「今日はお知らせに参りました。先日の事件の主謀者が判明し、捕まりました」
「えぇ、聞いたわ。まさかロイド卿が関わっているの?」
「はい」
「‥‥‥また、無茶をしたの?」
「ジェレミア公の宮殿に強攻を仕掛けました」
「えぇ!! なんてことを」
「大丈夫です。お咎めはありません。むしろ、なんかお礼をもらいました」
システィーナはしばらく唖然としていたが、王女の顔を取り戻した。
「ロイド卿。勝手にそのようなことをしてもらっては困るわ。伯父様の不興を買っていたかもしれないのだから。これは主として処分を下さないといけないわ」
「そうですか。わかりました」
宮女たちがざわめく。
マイヤは黙っている。
「ロイド卿。あなたを紅月隊から除名します!!」
「姫様そんな!!」
「あんまりですよ!!」
「お考え直し下さい!!」
宮女たちが慌てておれを庇う。
しかし、システィーナに耳を貸す気は無いらしい。
「お構いなく。主として正しい判断だと思います。マイヤ、異論はありませんわよね?」
「姫様の御心のままに」
「今までご苦労でした、ロイド卿」
システィーナはそれでおれが出て行くのだと思ったのだろう。しばらく立ったままおれを見ていた。
しかし、おれが動く気が無いのを悟り、焦り始めた。
「‥‥‥ロイド卿?」
 




