19.捜査
どうすればいいかわからず、やって来た。しかし何も変わらない。王宮監査部が捜査をしてわかるのはどうせ、背後にジェレミアがいるということだ。そんな分かり切ったことを改めて知る必要は無い。
王の弟であるジェレミアを捕まえるなど監査部でも簡単ではないだろう。
システィーナも伯父を処刑台に送ることなんて望んでいないはずだ。伯父が自分を殺そうとしたことに向き合わなければならない。
それに純血統派貴族たちの反乱につながる恐れもある。
特に平民出身のおれが関わっていればなおさらだ。
「なるほど、監査部を監査に来たと」
「まぁ、そんなところです。早く黒幕を捕まえて下さい」
「手厳しいですね」
実際監査部はおれより遥かに頭のいい人達が絶対的忠誠心で動いているので、おれの出る幕は無い。だが何かしてないと何もしていないようで不安なのだ。
山のような資料。
埋もれてしまった机。
全体に漂う疲労感。
昔を思い出す。
みんなお疲れのようだ。何か手土産でも持ってくればよかったか。
「手こずっているようですね」
「分かりますか。ロイド卿のおかげで実行犯は捕まえましたが、実際に指示を出していた人物については不明」
計画が失敗した時点で何人か自害したので、その中に指示を受けていた者がいたのだろう。
その指示を出していた者が割り出せなければ、ジェレミアとのつながりを証明できない。
「まさか帝国の反政府勢力『教会』と手を組むとは。ジェレミアもなりふり構わずといったところか。それが事態をややこしくしている。いやそれが狙いか」
「はぁ」
教会というのはよく知らない。
この世界にある神殿の信仰とは違う、カルト的集団、邪教徒だということぐらい。
「帝国では教会の影響力が大きいんですか?」
「いえ。邪教徒ですから。大義なき者たちが悪であることを開き直ったような組織ですね」
「そんな連中を抱き込んで反乱を?」
何かおかしい。
おれなら海の向こうのB級犯罪者たちをこんな大きな計画に使わない。
もし反乱が成功して王位を簒奪したとしても、それを誰が支持する?
ジェレミアの純血統派?
彼らは古い習わし、伝統が大事だ。
だから敬虔な十二神信仰だろう。
矛盾しているぞ。
そもそも、反乱を企てるのなら帝国政府と組めば話が早いではないか。
帝国は魔王との大戦で勝利宣言をしたが、実質得るものは無かった。土地も賠償金も獲得できず大赤字。
その帝国からすれば王国の広大な大地はフロンティアだ。略奪できる口実はのどから手が出るほど欲しいはず。
「ジェレミア公はバカなのかな」
「おやおや」
「だって、色々と支離滅裂というか‥‥‥」
おれを殺したいのは分かるが、純血統の正当な王家の血を引くシスティーナを殺す意味は?
彼女が死んでもジェレミアに継承権が回ってくるわけでも無いし。
いや、ジェレミアは直情的で後先考えないタイプ。
だから支離滅裂な行動はおかしくない。
おかしいのはそのバカなジェレミアが、ここまで計画的で周到に反乱を企てたことだ。
綿密で几帳面な印象を受ける。
誰か配下に計画させた?
いや、だとしたらジェレミアに不利となるこんな計画を立てないはず。
あれ?
なんでおれはジェレミアが黒幕だと思ったんだっけ?
「これは本当にジェレミア公が起こした反乱?」
「‥‥‥そう考えるのが合理的でしょう。なにせ、王宮内の情報をあそこまで詳しく知り、あなたとシスティーナ王女を討つ動機があるのは彼だけだ」
そうだ。
でも、違う。
少なくともおれはそう考えて無かった。
おれがジェレミアを黒幕だと思っていた理由は全く別の理由からだ。
「今、ジェレミア公がどちらに居るかわかりますか?」
「はい、把握してますが‥‥‥え、ちょっとロイド卿? 何か気が付いたのなら教えてください!!」
おれは部屋を駆けだした。
◇
王宮の広い敷地内にはたくさんの建物がある。そのうちの一つがジェレミアの住む宮殿だ。
突然行って会えるものでは無いのだが、おれは会わずにはいられなかった。
宮殿を警護する銀河隊はおれを見るや否や剣を抜いて飛び掛かってくる勢いだった。
「馬鹿な‥‥‥身体が動かん‥‥‥!!?」
「これは、まさかドラコの『氷結』か!?」
「我らの対魔装備が無力だと!!?」
面倒なのでサクっと無力化して宮殿に正面から入った。我ながら乱暴狼藉甚だしい。
「ロイド卿‥‥‥!!!」
「ジェレミア公」
騒ぎを聞きつけ本人が逃げずにやって来た。
エントランスの階上からおれを見下ろし、剣を抜いた。
「私を捕まえに来たか。誰に命じられた!? 監査部か? 軍務局か!? 兄上か!! いずれにせよ私はやってない!! これはバカげた茶番だ」
剣をおれに向け叫ぶ。
「全くその通りです」
「これは誰かの陰謀だ!! 私じゃない!!」
「はい。分かってます」
「私は潔白だ!!!」
「分かってますって!!」
ジェレミアが口をパクパクとさせた。
「は?」
やっとおれの言葉が脳に届いたようだ。




