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18.傷心



 おれは日をまたぎ、次々と魔力感覚獲得の儀を行った。

 席次持ちの残り5名だ。



 しかし、やはり個人差があって全員が成功したわけではなかった。



「もう一回。後もう一回やってよ!」

「もう、最後っていったでしょ。めっですよ」


 せがむ子がいて困る。

 この方法は身体にかなりの負担を強いる。

 いくら体力のある騎士でも限度がある。


 だからおれは心を鬼にして事実を伝える。

 


「何でよ!! 私には才能が無いってこと!?」



 オリヴィアは三回もやったのに獲得できなかった。



「無いは無いです」

「え~無いの!?」

「無いです」



 オリヴィアだけではない。

 できない者とできた者で何が違うのか。それは分からなかった。

 魔力感覚を獲得しても魔法が使えない者もいた。

 属性との相性。

 おれは[理解]がこの[相性]と相関関係にあると思っていたが、そう単純でもない。


 理解したことと自分の経験則や実体験から来る印象や意識がかけ離れている、もしくは一致しないと理解か経験かを無意識に選択する。

 その無意識が魔法の発動を阻害しているのかもしれない。


 


「オリヴィア、あきらめも肝心です。ロイド卿を困らせてはいけませんよ。むしろ数年かけてこの結果に行きつくより良かったではありませんか」

「うぅ、隊長は出来たからそう言えるんですよ」



 成功例はマイヤ隊長に加え一人だけ。残りは全員失敗と言える。

 確率的には半分以下だ。



「まぁ、隊長は魔法を使いたいという気持ちが長かったことと、魔法を理解する頭脳があったので」

「じゃあなによ、私はバカだからできないの?」

「いえ、それ以前の問題です。原因はぼくにもわかりません」


 残酷だが事実。


 オリヴィアがガッとおれの頭を両手で掴んだ。


 顔が近い。


 眼が怖い。



「ロイド‥‥‥まさか……私を見捨てる気じゃないでしょうね?」



 再びオリヴィアがヤンデレ化し始めた。

 元々はシスティナに敗れたことで魔法に活路を見出した。また部屋に引き籠られても面倒だな。




「ご安心ください。まだ最後の解決方法が残ってます」

「え? 何、おしえて!」



 答えを言うまで解放されない。



「魔法工学ですよ」



 それを聞いてやっと解放された。



「まさか、私のために、魔導具を造るってこと?」

「そのまさかです」



 オリヴィアが見直すべき点は本来「魔法」ではない。

「装備」の方だ。



 いずれにせよ魔法工学は学ぶ予定だった。

「氷」「熱」の属性を獲得して試してみたいことがあるのだ。


 


「なのでもう少し待って下さい」

「わかったわ!」



 でもその前にやるべきことがある。



 王女システィーナの閉ざされた心を開放する。






 あの事件以来、システィーナは外に出ていない。

 もうひと月以上経っているがどこにも行かず、王宮の奥へと引き籠ってしまっている。


 あの手この手で宮女たちが外へと関心を向けようとしているが……



「姫様、もう限界です」

「あらなあに?」

「姫様の好きなブランドの店主が姫様が来ないことを苦に‥‥‥」

「亡くなったの!?」

「迷走し過ぎてこんな感じで新作を出しました!」



 宮女たちが毒々しいドレスを広げた。確かにこれはひどい。



「‥‥‥どこかおかしい?」



 宮女たちが固まった。



 これはひどい。

 重傷だ。



「姫様、もう限界です」



 おれも同じ調子で会話に斬り込み、システィーナを外に出そうと試みる。



「限界‥‥‥」



 システィーナの身体が震える。

 おれと話すと明らかに反応が違う。



「外に出ませんか?」



 システィーナは少し沈黙した。



「ロイド卿。今こう思っているのでしょう? 私は襲われて外が恐ろしくなり、こうしてここに引きこもっていると。ですが違うのよ。この王国で最も古く美しい王宮の歴史的価値を再認識してより深く理解し後世に伝えることが私の役目だと気が付いたのよ」

「突然に?」

「そう、突然に歴史的建造物に興味が湧いたのです。まだ小さいロイド卿にはこの趣きは分からないでしょうけど」

「では大神殿に行きましょう。知ってますか? この王宮は一度大規模な改築したので、正確には最も古い建築物は大神殿の敷地内にある旧講堂なんですよ。なんとその建てられたのは4000年以上前です」



 システィーナは何とも言えない顔をして目を泳がせた。


 必死に言い訳を考えている。



「姫様、神殿はすぐそこです。それに私が護りますから」



 少し、彼女の気持ちが動いた。

 彼女だってここに居たいわけではない。


「姫様、このままではお身体に悪いです」

「護衛をたくさん呼びます」

「ロイド様がいれば安心です」




 宮女たちも必死に後押ししてくれる。



 しかし、彼女の表情は曇っていく。



「ロイド卿」

「はい」

「私が王宮内を観察し続けている間は、何をしようと自由です。こういう機会でも無いと王都を出られないでしょう? 私に付き合ってここに居る必要は無いのですよ」



 彼女もここに居たいわけでは無い。外に出たいだろう。

 おれが側にいることで安全が確保されるかどうかは問題にしていない。



 自分が外に出ることで周りが危険にさらされること。


 彼女はそれが耐えられないのだ。




「‥‥‥わかりました」



 自らの不自由を担保に傍に居る者の安全を確保した。



 こうなってしまった責任はおれにある。



 今度は大丈夫だ。

 おれの魔法力は各段に上がった。



 そう説明したところでどれほどの慰めになるだろう。

 彼女は未だにおれが死にかけたのを自分のせいだと思っている。


 おれが自分より年下というのが余計に罪悪感を大きくしているようだ。



 この平和なパラノーツ王国で、こんなことになるなんて思いもしなかっただろう。護衛とは自分を窮屈にさせる存在。せめて歳が近い、話し相手になるであろうおれを採用した。彼女は自由が欲しくておれを選んだ。

 だが、今はおれのせいで不自由な生活を送っている。


 



(いっそのこと真実を話してしまおうか。いや証拠が無い)



 システィーナはまだ10歳だ。

 自分のせいで他人が危険にさらされることを自覚するにはまだ幼過ぎる。


 同時にこの窮屈で限られた彼女の世界では気を許せる相手は限られる。



 おれに嫌われているのではないかというショックもあるのだろう。その反動でおれを優遇してしまっている。これは良くない。



 だがこれ以上話しても彼女を追い詰めるだけだ。

 オリヴィアの時とは違う。

 彼女は今のままで十分強い。

 強く賢く優しいから、この選択をした。



 この現状に変化を生むには、おれが彼女のために動くこと。

 彼女を取り巻く状況を変化させる。

 結果で忠誠を、いや、想いを示すしかない。





 おれはシスティーナの部屋を退出し、王宮内にある部屋を訪ねた。




 王宮内の不正を取り締まる王宮監査部。






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