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13.対軍

 宮廷魔導士ヒースクリフ対紅月隊。


 どちらが勝つのか、全く想像がつかなかった。




 ヒースクリフは天才にしてあのドラコ一族の末裔だ。数千年を誇るパラノーツ王国建国時代から続く魔導の血族ドラコ唯一の生き残り。

 学術論者ではなく本物の魔導士。


 宮廷魔導士として数々の危険な戦闘に参加してきた猛者だ。

 扱う属性は風、水、火の三属性。

 各属性魔法で対軍級まで扱える逸材。一人災害発生マシーンだ。最悪ヒースクリフと遭遇した敵軍はその一発の魔法で全滅を余儀なくされる。


 実際の戦闘は実戦的で無駄が無い。

 軍を壊滅に追い込む程の魔法力を個に向けて精密に放つ。

 当然、多数の騎士を想定した戦いにも、勝算を持って臨んでいることだろう。



 対するは紅月隊。

 王女システィーナの護衛騎士。

 曲者揃い、女騎士のエリートたち。


 この隊の最大の強み。

 それは多様性だ。


 一糸乱れぬ動きで軍として動く軍人騎士たちとは違い、それぞれが別個の流派を修めた達人たち。



 その達人同士の連携による多種多彩な陣形は対人、対軍、対魔とあらゆる敵を想定している。



 中でも王宮騎士最速の騎士と呼ばれるオリヴィア副隊長。

 そして対魔導戦闘の権威、マイヤ隊長。


 この二人が突出している。

 若干17歳で王宮騎士団の副隊長を務める天才―――オリヴィア副隊長は子供と見間違えるほど小柄だが瞬きの間に3歩以上の距離を進む。


 これは瞬きをしている間に視界から消える速さだ。

 ウサインボルトの倍速いと言えばわかりやすいだろうか。


 チーターとかの走力を超える。しかも鎧や剣を持ってだ。



 この圧倒的速さと超人的反射神経、動体視力で常に先手であり続ける。


 高度な身体操作術『鬼門法』『気門法』を合わせて使える天性の素質の持ち主だ。



 一方マイヤ隊長はオリヴィアと対照的だ。

 西の対魔に特化した剣術を修めた正統派騎士。


 おれの目算で195センチはあるその長身。扱う剣も刃渡り150センチ以上、全長は180センチにも及ぶ。その長い剣と長い手足を活かし、平均間合いは半径3メートル60センチ。他の騎士の平均間合いより50センチも長い。両手持ちでこの間合いは驚異的だ。


 だが彼女の強さは手足の長さとか広い間合いではない。

 システィナ曰く、彼女の強さは修めた剣術流派の強さ。



「武術はね。まず基礎を叩きこまれる。でもその後でその基礎を徹底的に否定される。それに対し導き出した答えがまた否定される。そうやって研磨し、研ぎ澄まされていく」



 結果、穴が無くなる。

 マイヤは愚直に一つの流派を修めた。

 だから一つ一つの動きにおいて厚みが違う。



 今やその厚みは王宮騎士としての経験でさらに増した。


 聖銅の剣と鎧で、魔法にも対処ができる上、『鬼門法』とその聖銅の超重量で当たり負けもしない。

 総合能力では王宮騎士の五指に入る。



 ヒースクリフが勝算の無い戦いを挑むとは思えない。

 しかし勝つイメージもわかなかった。




「本当にいいのかい?」



 システィナがヒースクリフに尋ねた。



「ああ、私は一人で問題ないよ」

「そうじゃない。ロイドに見せていいのかい? 彼は魔導に限界を感じたかもしれないけど、魔法で挫折を味わったわけじゃない。もし見せて彼にそれができなければ、ロイドはただの凡人になるかもよ」



 システィナはこの対決を観たらおれが挫折すると危惧しているようだった。



 ただシスティナはヒースクリフがやろうとしていることを分かっている。

 そんな感じだ。




「全く、立ち入ったことを言うメイドだ。しかし、私はロイドを信じている」

「ふーん。隊長さんはいいのかな? ロイドの受け止め方次第では教習のお話は全部無駄になるかもよ」

「私はロイド卿が対魔導戦闘の上を行く魔導士になると確信しています。それに、それぐらいでなければ姫の憂いは晴れないでしょう」



 マイヤも気が付いていた。

 システィーナのおれへのよそよそしい態度に。

 彼女の不安を取り除くには強くなるしかない。



 それが魔法で可能だということか?




「でもいいのかしら。私たちはロイドの魔法に慣れてるわ。大勢で相手する必要はないんじゃない?」



 オリヴィアがヒースクリフに忠告した。

 おれには勝てるからと、自信満々だ。



「お気遣いは結構ですよ。ロイドの魔法と私の魔法は違う」

「ふーん、有名なベルグリッド伯爵が私のスピードにどう対処するのか見ものね」




 張り切るオリヴィア。

 騎士はマイヤ隊長も含めた総勢6名。

 おれ以外の席次持ち全員だ。




 互いに50歩の距離を取った。

 大体7,80メートルぐらい。



「騎士のみんな。開始と同時に距離を詰めるんだよ。躊躇しないことだ」



 なぜかシスティナが仕切り始めた。



「なんであんたが‥‥‥隊長」

「そうですね。詠唱の時間を与えない。セオリー通りに行きますよ」

「はい!」





 対戦が始まった。



 最初に動いたのはやはりオリヴィア。

 いきなり全速力だ。70メートル以上あった距離がもう半分しかない。


「ふふ、一発発動させる前に終わらせてあげるわ!!」

「そうはいかない」




(父上は無詠唱を使えない。あのスピードに対処するなんて不可能だ)



 ヒースクリフが巻物を広げた。



「オリヴィア、止まりなさい!」

「――え?」



 巻物から白い霧が発生しオリヴィアが飛びのいた。



 魔法陣による魔法。



 予め魔法陣を記した巻物に魔力を通すことで魔法が発生する魔導具。


 法陣符(スクロール)だ。



 便利だし詠唱の必要が無いが、あまり戦闘で使うものではない。



 しかし、牽制になった。

 ヒースクリフほどの魔導士がスクロールを出せば何かが起きると警戒を誘える。




「ただの霧です、隊長!」

「霧は斬れませんね。密集陣形、索敵」




 すぐさまマイヤが指示を出す。

 濃霧で姿を隠そうと、気門法を扱う者はその鋭敏な五感で気配を察知する。



「見つけました、隊長」

「散会して包囲します」

「下手な小細工なんか通用しないのよ!」




 ヒースクリフが囲まれた。




 オリヴィアがヒースクリフの背後を取り、正面にはマイヤ。




 まさに前門の虎、後門の狼。

 逃げ場はない。




 ヒースクリフに紅月隊の剣が突きつけられる。




 その寸前。





 勝負が決した。


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[一言] 待ってたで 面白い作品に出会えたから応援するわ
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