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12.魔法への信頼 動き出すヒースクリフ


 師匠システィナの指南を受けひと月。

『虚門法』についての理解を深めたおれは目覚ましい成長を遂げた。



 自画自賛になっちゃうけどしょうがない。



 本当のことだから。



 システィナは本当に教えるのがうまかった。

 合理的だし、精神論で漠然とした体育教師のような教え方はしなかった。



 理解できればできる。



 そういう類のものだった。



「前よりずっと動けるようになったわね。あんたにこんな才能があったなんてね」

「いやぁ~」



 オリヴィアもおれの上達ぶりには舌を巻いた。



「まだ歩法と体捌きのコツを少し会得しただけだ。調子に乗るんじゃないぞ」



しかしシスティナは厳しかった。



「厳しいわね。まだ七歳なのよ!」



 逆にオリヴィアはおれにちょっと優しくなった。

 敗北して傷ついて人の痛みを知ったおかげだね。



「そうだね。人族の全盛期は20代前後。つまりあまり時間は無い。なのに訓練時間は限られる。なのに君たちに魔法の教習までして時間の無駄だよね」




 何も言い返せないおれとオリヴィア。



 実際魔法教習は何の実績も上げられず、周囲からの反応も良くない。



 おれの教え方が悪いって?


 違う。

 騎士たちは魔法を覚えにくい。

 体内の魔力が薄い。



 だからこそ鬼門・気門法を扱えるわけで、優秀な戦士ほど魔法を習得するのは至難の業なのだ。






 困ったおれは相談することにした。

 自分の師に。


「魔法は誰にでも修得できるものではない。あまり期待させない方がいい」




 ヒースクリフもおれが魔法を周囲に教えることに賛同していないようだった。


 意外だった。



 別に秘術を教えるわけじゃない。

 紅月隊で教える魔法は風魔法の『送風』と『風圧』に絞った。



 ギブソニア家に何か不利益をもたらすわけじゃない。




 ただ確かに簡単な道では無かった。



 魔法について話しても、図で説明しても彼女たちはピンと来ていない様子だった。

 はっきりと魔力を知覚していないのだ。

 だから魔力を込めると言っても伝わらない。


 犬がしっぽをどう動かしているのか。

 おれたちに知る由もないのと同じことだ。



 ある日、見かねたヒースクリフが演習にやって来た。


「ロイド。お前はまだ自分の魔導を極めていない。それなのに他人に教えるだなんて。私はその尊大な態度を叱らねばならない」



 おれに自分の魔導と向き合わせようとしたのだ。

 それもマイヤとずっと相談して決めたらしい。



「当主様、坊ちゃまは困っている副隊長さんを助けようとしただけなんです」

「副隊長を?」

「ええ、実は‥‥‥」



 ヴィオラが庇ってくれたおかげでおれがなぜ他人に魔法を教えることになったのか理解してくれた。



「すいません、ベルグリッド伯爵。息子さんのご厚意に甘えてしまいました」

「いえ、マイヤ隊長が謝ることではありません。息子が自分で言ったことですから。そういうことなら最後まで責任を取るべきだと思います」




 許しが出た。


 と思ったら違った。




「だが、ロイド。お前は自分の魔法を信じているのか?」

「え?」



 その質問は核心を突いていた。



「剣に身を入れていることを咎める気は無い。実際頑張っているようだし、騎士として先が長いのだから何か考えがあるのだろう。だが、それが魔法を見限ってのことだとしたら、私は姫に直談判してお前をここから脱退させなければならないよ」

「いえ、おれは‥‥‥」




 魔法の可能性について、おれは限界を感じていた。



「自分の魔法を信じられない者が、他人に本物を伝授できるのか?」


 おれは自分が思い上がっていたことを知った。



 自分はすでに魔法の限界を知った気でいた。

 だがそれはただの諦め。

 新しい何を模索するという、開拓精神、想像に欠けていた。



 そんなことで人の望みを叶えようとしても、半端なものになるのは目に見えている。



 それに気づかされた。




「ロイド卿、あなたはオリヴィアに困っている時周囲を頼っていいと諭してくれましたね。なのにあなたは魔法についてどうしてお父上に相談しないのですか?」


 マイヤが痛いとこを突いてきた。


 別にヒースクリフを超えているなどと思っていたわけじゃない。



 だが五属性が使えるおれができないことを三属性を使うヒースクリフが解決できると思わなかっただけだ。



「ロイド、お前の魔法にはまだ先がある」

「え?」

「もっと先の話になると思っていた。お前が魔導学院の中等部を卒業してから、じっくりと教える気でいた。だが、お前が突き当たっている壁を乗り越えるには、どうやらその予定を前倒しにする必要があるようだ」




 そういうとヒースクリフは騎士たちと向き合った。



「私が見せよう。対魔導戦闘の上を行く魔導を」



 それに続き、マイヤも剣を抜いてヒースクリフに向き合った。




 聖銅の剣だ。

 



(おれが越えられなかった壁を父上は超えているということか)



「勉強させていただきます」

「ああ。ただ、一度だけだ。よく見ておきなさい」

「はい!」



 マイヤを中心に、他の騎士たちもその場に並んだ。




 これは聖銅がどうとかいうレベルではない。



「言っておくが、手加減は出来ない。今日の任務は諦めてもらうよ」




 王国随一の剣の腕を持つ女騎士たちを相手に啖呵を切ったヒースクリフ。




 おれはただ事ではないこの事態を固唾を飲んで見守った。



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