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9.剣神の体技『虚門法』 vs 大陸一位

 


 勢いを付けたわけでも無いのにまるでハンマーで殴ったかのように壁に穴が開いた。



「君も騎士たちの動きを見ていて気が付いただろう。鎧を着て高く跳躍し、風のように駆け抜ける者。小さな体で巨大な敵の攻撃を受け止める者。凄まじい膂力で剣を振るう者」



 オリヴィア副隊長はおれの魔法より早く動く。

 マイヤ隊長は全長2メートル近い剣を自在に振るう。


 他の騎士たちも重い鎧を着ていてもまるで平服のように動く。


「もちろん鍛錬の先にある力だよ。でもこれらはある種の()()であり、才能の無いものには会得できない」

「体技?」

「そう。人の身体能力には三段階ある。第一段階は筋肉と体の構造だ。誰もが使う力の根源。第二段階は、身体操作で肉体を活性化させる。それで肉体が発揮できる最大限の力を引き出す」



 聞いたことがあった。

 人の筋肉は100%の力を発揮することなく、リミッターを設けている。


 筋肉や骨の自壊を防ぐためだ。



「これを『鬼門法』という。壁を倒したのがそれだ」



『鬼門法』はそれを瞬間的に行うことで100%を引き出す体技。



 なるほど。

 どうりでみんなオリンピック選手以上の身体能力を発揮しているわけだ。



 この世界の人間は身体能力が高いと思っていたがそういうことか。


「第三段階は、内包している力を身体や五感に集中し、皮膚を頑強にしたり、感覚を研ぎ澄ます体技。『気門法』と呼ばれている。さっきは掌に力を集中し放った」



 要するにエネルギーそのものを纏ったり、集中させる、気のようなもの。


 そう理解した。



「これらを意識的か無意識的に使い、戦士は常人をはるかに凌駕する力を発揮する」

「な、なるほど! まずはそれを体得するための修行ですね」



 ワクワクしてきた!

 ねぇ?

 超人になっちゃうよ!



「違う。ロイド、君にはこれらは出来ない」


 冗談?

 おれはシスティナの顔をみた。

 その金色の眼は真っ直ぐとおれを見つめていた。


 そうだった。この人冗談言わないタイプの人だった。

 才能無いって、これのことか。


「えぇー!!!」


 じゃあなんで説明したの?って感じだ。


「これらは元来魔力の少ない非魔法職だからできる体技」

「それってつまり力の源には魔力が関係してるってことですか?」

「そうだね」



 誰でもが体内に魔力を有する。

 それを魔法の燃料として使うのが魔導士、肉体の起爆剤にするのが戦士。



「ただね。この『鬼門法』と『気門法』に対抗する術が無いわけじゃない」

「え?」



 システィナはもう一度、壁に向き合った。壁に恨みでもあるの?



「せい!」



 またもや壁に穴が開いた。

 何が違うんだ?



「今のは呼吸法と体重移動による技。要は工夫だ。『鬼門法』も『気門法』も使ってない」

「えっと‥‥‥つまり、対抗策って言うのは」

「そう、さっき説明した第一段階の力、筋肉と体の構造を用いた技術だ」



 おれの中で希望が確かなものになるのを実感した。



 力でも気(魔力)でもない。



 技術。


「結果が同じなら、別にどっちでもいいのさ。もちろん限界はある。雲を斬る芸当は出来ない。でも君に限って言えば、剣で修めるべきは対人を想定したもの。魔獣とかは魔法があるでしょ」


 対人において、大きすぎる力は返って無駄になる。



「そして、君には技術を模倣する特殊過ぎる才能があり、ここに世界最高の技を見せられる私がいる」

「おお!!」

「どうだい? 希望が持ててきただろう?」

「はい!!」



 さすがは剣神。



 わけのわからない体育会系の修行とかすると思ってた。

 でもちゃんと論理的に考えてくれていた。

 こうしておれは剣神の技を吸収していった。



 おれがシスティーナの暗殺を防いだことを知り、王都の屋敷を訪れる客が増えた。



 呼んでないのに来て、会わせろというのだから困っちゃう。



 大抵は居留守を使うのだが、その日は違った。



「よぉ、有名人。サインくれよ」



 タンクたちが遊びに来た。



「何しに来たんです?」

「なんだ? 王女を救った小さな英雄を、この『大陸一位』が称えに来てやったんだぞ。喜べよ」



 相変わらず図体も声も態度もデカい。



 正直、遊びに来てくれるのは悪い気はしないのだが。

 あまり歓迎するとずっといるからな。



「まぁ、ぶっちゃけ兄貴はロイド君が心配だから様子を見に来たんだよね」

「あぁ? おれはリトナリアがロイドに会いてぇってうるせぇから付いて来ただけだ」

「お前がロイドの噂を聞くたびに『どうしてるか。また困ってないか。無茶していないか』と私に聞いて来るからだろう」

「いや、あんまり有名になり過ぎて道を踏み外しでもしたら興ざめだからよ」



 親戚のおじさんか。

 というか自由人の冒険者に言われたくない。




「それにしても、三人はいつも一緒ですね。パーティを組んだんですか?」

「「「いや?」」」



 三人とも否定する。



「え? じゃあなんでいつも三人でいるんですか?」

「こいつらがおれに付いて来るんだ」

「馬鹿を言うな。お前の無茶に付いていけるのが私とマス以外にいないからだろうが」

「いや~ぶっちゃけ、タンクの兄貴に寄生しようとする冒険者が多いっすからね。ギルド側が配慮して大きいクエストには各分野の精鋭を選出するんすよ」



 タンクは前衛剣士。

 リトナリアが前衛魔導士。

 後衛として弓使いのマス。



「え? じゃあ、後衛の魔導士の方は?」

「‥‥‥なぁ、ロイド。堅苦しい貴族なんて辞めておれらと冒険しようぜ!」

「冒険しようぜー!!」

「私たちはお前を見てしまっているからな。冒険者の魔導士だとどうしても見劣りしてしまって」



 冒険者で言う魔導士の多くは実際のところ、詠唱魔法を使う魔術師ではなく、魔導具を使う魔法士が多い。


 道具を使いこなすのにも技量が必要なのは確かだが、できることは限られる。あらかじめ魔導具に組み込まれた単一の魔法しか使えないのだ。




「冒険者になるなら私が面倒を見てやるぞ。最近は冒険者も保険があるから老後も安心だぞ」

「ハハ‥‥‥お断りします。貴族を辞めると言っても言うほど簡単ではありませんし」



 辞める気も無いし。

 辞められたとしても冒険者にはならないな。



「冒険者には冒険者にしかない楽しみがあるんだよ? 知りたいくない?」

「ほぉ、例えば?」

「魔獣肉が食べられるよ。おいしいよ!」

「いえ、いらないです」



 マズそうだなと思った。

 これでも貴族なのでいいものを食べている。



「フフ、ロイド。ひょっとして魔獣肉を食べたことがないのか?」



 不敵に笑うリトナリア。



「無いです。普通に」

「無ぇだろうよ。あれは冒険者の特権だ。ああ、かわいそうに。冒険者にならないお前は一生あの味を知ることがないんだな。ああ、かわいそう」

「かわいそう、かわいそう」

「可哀想」

「ぐぅ、大人気ないですよ」


 魔獣肉。

 そう言えば市場でも見たことが無い。


 魔獣肉はすぐに鮮度が落ちて臭くなるため狩った者ぐらいしか食べられないらしい。




「まぁ、お前は肉より女か」

「人聞きが悪いです」

「ったく、女だらけの騎士団でモテモテなんだろう? うらやましいねぇ」



 好き勝手言うタンク。



「今度、席次を持つことになったらしいな。ということは従士を就けるのだろう」



 従士は騎士の見習いであり、世話係だ。

 馬の世話やら剣や鎧のメンテ。どこに行くにも付いていく。


 その代わり技を教える。



 これが結構問題だ。

 おれに教えられる剣技などない。

 選ばれた方も迷惑するだろう。



「年上のお姉さんたちを侍らせるってこと!? なんて羨ましいんだ!!」

「しかも、王宮騎士の従士なら貴族の令嬢だろ? 色男め。誰か紹介しろよ」



 おれを茶化しに来たのか。

 いや、マスは本気のようだ。



「そんなにロイドが羨ましいなら冒険者を辞めてお前たちも紅月隊に入ればいい。ロイドの従士ぐらいにならなれるだろう」

「ああ? なんでおれがこいつの下に就かなきゃならねぇんだ」

「いいじゃないっすか! 姉さんも就いたら、4人パーティみたいっす。無敵っすよ」



 三銃士ならぬ三従士か。

 確かにその方がおれも気楽だ。


 悪くないかもしれない。



「ちょっと待ったー!!」



 その時、話を聞いていたのであろう。

 メイドがドアに突入してきた。




「誰だ?」

「私はロイドのメイド兼剣術指南役、つまりはメイドであり師匠。そして剣神システィナその人なのさ!!」




 タンクたちが痛い人を見る目でシスティナを見ていた。


「君たち、ロイドをとろうというなら私を倒してからにしろ!!」



 

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