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7.【死線】先を読む力、データ予測演算

 

 その感覚をおれの魂は覚えていた。



 無力感と後悔が死の恐怖と混ざり合い、命が削られていく焦燥感。



 なぜおれはこうなったのか?



 疑問が湧き、すぐに答えは出た。



 オリヴィアが言っていたように帯剣していたら。

 システィナの忠告を聞いて訓練を受けていれば。

 自分が優秀な魔導士だと過信していなければ。

 護衛は楽な仕事だと慢心していなければ。


 おれ以外がここに居たら。




 後悔の念は絶えず湧き 命は尽きていった。




 視界がぼやけ、身体に力が入らない。


 自分が立っているのか、倒れているのかもわからなかった。



「ロイド!! ロイド!!! いやぁぁぁ!!!!」




暗闇の中、おれの耳はかすかに少女の悲鳴を捉えた。


 前回と違い、おれが死んだら姫や他の令嬢たちも死ぬ。




「覚悟! 死ねぇ!‥‥‥お?」




 賊は足元にできた穴に嵌った。

 土魔法『砕岩』




「ロ、ロイド!?」



 姫が心配して駆け寄ってくる。

 それをおれは手で制止した。



「‥‥‥」



 剣で刺された感覚は『記憶の神殿』にハッキリ記録された。

 貫かれた皮膚、肉、内臓、血管、神経の感覚。

 それらが曖昧だったおれの人体についての知識を補完した。


 神気を操り、人体を修復する感覚は詠唱時に経験済み。

 それを直感的に操った。


 死線を越えて神聖魔法、『治癒』の無詠唱に成功した。




 一か八か、賭けは成功し、おれの腹に空いた大穴は何とか塞がった。



 殺したはずのおれが立ち上がったことで、賊の注意はおれに向かった。





「この死にぞこないめ!!」






 距離感は不利だ。

 それに聖銅(オリハルコン)の攻略法はまだ無かった。



 おれは大量の魔力を地面に注ぎ込んだ。



「こ、これは‥‥‥」

「じ、地面が上がっていきますわ」




 姫たちを中心に、新たに拠点を作ることにした。



「うぉ! 地面が下がっていってやがる!!」

「くそっ、どうなってる!」



 庭の石畳と土を盛り上げ、丘陵を造り、逆に敵の足元を崩した。



 ちょうど要塞の周囲に堀を造る要領だ。



「小癪な、時間稼ぎを‥‥‥!!」

「こいつ、土魔法をこの速さで!?」

「おのれ、バリリス侯の噂は本当だったか!」




 敵の脚が止まった隙に池の水を引き込んだ。



「くそ、ここから出ろ!! 鎧で巻き込まれたら出られねぇぞ!!」



 濁流に襲われた賊たちは鎧の重さで思うように動けず、無力化された。





「ロイド? 大丈夫?」

「はい、ですが動かないで!」

「え、ええ」



 不安そうな姫たち。

 だが態勢を立て直した騎士たちが賊を打ち負かし始めていた。



「ええい、小癪な!!!」



 池の水に嵌った者を足場にして何人か丘陵を駆け登って来た。



 魔法で牽制するが攻撃が届かない。

 全員聖銅(オリハルコン)の剣を持っている。

 重い鎧を身に纏いながらも軽々と飛び上がる。




「――っぐ! 何だ?」

「避けろ!!」

「うぉ!?」



 おれは雑兵の持っていた剣をありったけ、『風圧』で飛ばした。


 物体そのものならば聖銅(オリハルコン)で武装していようと関係ない。



 だが三人は空中で背後からの不意打ちを避けた。



「ちっ!」



 避けた剣は当然こちらに向かって来る。



 おれは剣の一本を受け止めた。

 回転していた剣の柄を正確に掴めた。

 回転した刃物でも、身体の硬直はせずよく見える。

 どうやらおれはこの時先端恐怖症を克服していたらしい。


 魔導士のおれに、敵は距離を詰めて来た。

 だが、地理的には高所のこちらが有利。



「ロ、ロイド? 大丈夫なの?」

「ご安心下さい、姫。必ずお守りします」



 騎士が強いのは拠点から出てからだ。

 自然と体が動いて丘から飛び出した。



「うぉぉお!!!」

「コイツ!!」



 こっちは敵を池に落とせばいい。



 思い切って当たりに行った。




「馬鹿め! 子どもの剣など恐るるに足ら――!!」



 寸前、光魔法『閃光』で目つぶしした。



「ぬあぁ!!」

「っ! 何も見えん!! ――っがは!」

「ぎゃあ!!」

「うあああ!!」




 鎧で池の水に沈んでもがいているうちに敵兵たちは体力を奪われていった。




 予め池の水を『蒸発』で気化させ、水温を下げておいた。体温が下がれば異常な体力を持つこの世界の戦士もその力を失う。



「大した魔法力だ。土、水、光を同時にこれだけの規模で発動させるとは‥‥‥だが、私の勝ちだ!!」




 一人、仕損じた。


 落下したおれをやり過ごして頂上へ向かう。


 男は一直線に姫の下へと丘を駆け上った。




「いや、おれが操ったのは土、水、光、それと風だ」

「剣でも飛ばしてみろ! 間に合えばな!」



 勝ち誇る賊。



「避けてみろ」



 男の身体が宙に舞った。



「――がはっ!?」




 飛ばしたのは剣ではない。



 オリヴィア副隊長だ。



「よくやったわ、ロイド卿!!」



 見ると方々で乱戦は治まり、侵入してきた賊のほとんどが捕縛、投降していた。




「おのれ‥‥‥何たる、何たる不条理だ!! 我らの理想がこのような子供に阻まれるとは!!」



 オリヴィアの一閃を受けて瀕死の男は、それでもまだ立っていた。



「しぶといわね。それほどの腕があってなぜこんなことをする!? 王家に反逆するなんて!!」

「何が王家! 何が反逆!! 我らは人々を王家と神殿の権威主義から解放するために立ち上がったのだ!! 平等無きこの国に大義は無い!!」

「罪の無い少女を殺すことが平等? そんな乱暴な平等があってたまるか!!」

「違う! おれたちは正義だ。お前たちのような恵まれた者たちに搾取され、虐げられてきた。これは貴様らの傲慢に対する制裁なのだ!!」




 男はおれに向かって剣を振るった。




「死ねぇ! 『陰謀潰しのバリリス侯』!!!」



 刃を見ても身体の硬直が無い。

 おれの身体は真に『記憶の神殿』の機能を引き出し、これまで見て来た全ての人の動きから敵の動きの先を知るに至った。


 膨大な映像資料から先の展開を読む。



 おれの剣は敵の鎧のスキマを縫うように、無駄なく刺し込まれた。



「――ぐぁ!!? バカな‥‥‥こんな子供にこのおれが‥‥‥く、くそぉ!!」



 ようやく膝を着いた男が自分の首に刃を突き付け叫んだ。



「正義は我らにあり――――!!」



 男の剣を弾き飛ばし、尋問のため拘束した。



「この国に、子供を平気で殺そうとする者の正義など無用だ」



 こうして王宮侵入並びに王女暗殺は失敗に終わり、鎮圧された。


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