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幕間 【システィナ】メイドで採用

 

 ロイドは私が書いた書類に目を通し、ため息をついた。



「え~っと、それでは自己紹介からお願いします」

「ん? ああ。名前はシスティナ。年齢は秘密だ」

「お帰り下さい」




 面接は不合格?



 わざわざメイド服を着て来たのに。

 ひどい奴だ。



 ロイドが顕現させた私は当然お金も無いし、剣も無い。



 私は行くところも無いので屋敷にやって来た。



『剣の師匠とか間に合ってるので結構です』



 開口一番丁重に断られてしまった。



 いや困る。



 私剣神なんだが。

 ロイドの元居た世界では神とはそういう扱いなのだろうか?



 私は食い下がった。



 せっかく下界に顕現できたのだ。

 いろいろしたい。



 それには大義名分が必要だ。

 ロイドに剣の才能は無いが私が教えれば中の上ぐらいにはなれる。




 私が食い下がるとロイドは非常に面倒そうに『メイドならいいですよ』と言った。



 私が断ると思っていたのだろうね。


 私は快諾したよ。



 メイド。

 やったことが無いしおもしろそうじゃないか。



 私はいろいろやりたいのだ。



「ダメですよ、ティーナさん! メイドは言葉遣いが大事なんですから。ご主人様に対して粗相があってはダメですよ」



 メイドの女の子、ヴィオラちゃんに怒られた。



「なるほど。名前はシスティナ。年齢は秘密だ」

「何か変わった?」




 ロイドは細かい性格のようで苦労した。

 細かい男、嫌いなんだが。



 やはり魔導士気質。



 相容れない。



「『特技、剣。趣味、剣。職歴、剣士。自己アピール、強い』、ふむ。刃物を振り回す以外に何かできますぅ?」

「言い方悪意あるよね」

「坊ちゃま、この方、メイドの面接で来たのですよね? いっそ護衛とかで採用した方が‥‥‥」

「ぼくもそう思ったよ。冒険者でもやればいいのに」

「ねぇ、ロイド。もしかして私を遠ざけてこっそり『神域』やろうとしてない?」

「してないない」


 わっかりやすー。

 このガキ、性懲りも無くまたエリアス様に会う気でいたのだ。

 廃人になりたいのか。



「護衛の方がいいならや、る、け、ど‥‥‥高いよ?」

「ではメイドとして採用ということで」

「よろしく」



 めんどくさくなったようだ。

 鬱陶しそうにしないでよ。



「えぇ~、坊ちゃま!? え? なんでですか!? 採用する要素ありました!?」

「彼女がメイドのヴィオラ。分からないことは彼女に聞いて下さい」

「うん、よろしくヴィオラちゃん」

「えぇ~!! こ、こちらこそ‥‥‥」




 私はそれからというものヴィオラちゃんの下、メイドとして働き始めた。



 いやぁ、彼女には迷惑かけっぱなしだったね。



「きゃあ、ティーナさん!! 何してるんですか!?」

「いやぁ、ちょっと庭を掃除しようと箒を振っただけなんだけど」

「なんでそれで、木々が薙ぎ倒れるんですか?」



 いけないいけない。

 つい癖で力が入り過ぎてしまった。

 なにせ、私がやってきた掃除って意味が違うからね。



「大丈夫、私が破壊した大地と緑はよりたくましく成長するという説がある」

「説!?」



 あとで庭師のおじさんにすんごい怒られた。

 神だしもう怒られたくないのに。




「きゃあ、何してるんですかティーナさん!!」

「洗濯物が乾かないから、晴らそうと」

「意味わかりませんから!!」



 曇天を物干しざおで斬った。


 洗濯物は乾いたけど早朝に轟音が響き渡り、窓が割れ、迷惑極まりないと怒られた。



 夜勤の人たちへの配慮。

 勉強になった。



「昔はよくやってとせがまれて喜ばれたんだけど‥‥‥」

「どんな過去ですか‥‥‥」



 やっぱり時代かな?



「ロイド、剣買ってくれないか。腰に無いと落ち着かなくて」

「ティーナさん、坊ちゃまにため口やめて下さい」

「剣持ってるメイドってあり? いや無しでしょう。あと高いからダメです」

「えぇ~、他の子には買ってあげてるじゃないか」



 特にヴィオラちゃんにはいろいろと貢いでいる。

 


「平等って聞いたことあるかい?」

「公平って知ってますか?」



 私に剣を渡したら余計にやらかすとか思われていたようだ。



 それからも新人メイドが主人にため口するな、失敗ばかりのくせに高いものをおねだりするな、物を壊すなと怒られた。



 それからも口調をお淑やかにとか、立つときは脚を揃えるだの、客が来たら丁寧にお辞儀しろだの、細かく指摘され続けた。




「システィナさん」

「何だい? 私に剣を教わる気になったかな?」

「次にヴィオラに迷惑をかけたらクビです」

「えぇ~」

「ひと月頑張れたら、剣を買いましょう」

「分かった!」




 完全に乗せられた。

 でも、楽しい日々だった。



 ロイドは頑なに週休二日、一日の労働八時間を護らせた。



 空いた時間にヴィオラちゃんと買い物に出かけたり、近所の子供たちと遊んだり、意味も無くロイドのあとをつけてみたり、ヒースクリフに戦いを挑んだり、紅月隊の演習に潜り込んで騎士たちと戦ってみたり。



 そうしているうちに、やはり気がかりなことが浮き彫りになった。


 最初は大義名分のため。

 下界に居る理由が必要でロイドに剣を教えようと申し出た。




 でも、ロイドが心配になったんだ。

 情が湧いたというかね。




「それにしても惜しいなぁ」

「何がですか?」

「君が剣を習わないことさ」



 ロイドには感心させられた。本人には言わなかったけどね。

 見た目通りの年齢ではないことは知っているけど、それにしたってここまでやって来たことは称賛に値する。



 彼は働く人々に働きやすさと生きがいを与えることにこだわった。



 そもそも、彼が初めて魔法を使ったのもヴィオラちゃんのため。

 それ以来、彼は屋敷をボスコーン家から解放するために戦った。

 困っている街の人のため、冒険者のルールを変えた。



 誰かのために戦える。



 ロイドの本質は騎士に相応しい。


 だからこそ心配になった。


 ロイドの将来がだ。

 困っている者を見捨てられない彼は、この先もトラブルを見て見ぬふりをして通り過ぎることはできないだろう。



 その頭脳と魔法を使い問題を解決していく。



 でも、彼はその魔法に()()があると自覚していない。




「知ってるかい? 人族は魔法で魔人族に敵うことは無い」



 その証拠に星導十士仙(スターズ)に人族はいない。

 つまりこの世で真に魔法を極めることは人族には土台不可能なのだ。



 ちなみに魔人族は魔力の多い魔族の中でも最も人族に外見が似ており、魔法に特化した種族だ。



「君の慕うヒースクリフでさえ、魔人族たちの前では凡人だ。だが、剣ならば‥‥‥『天下三剣』の内、二名は人族だ」



『天下三剣』は『三剣』とも言われる、世界トップの剣士三人のことだ。



 このランキングはここ数年変わることがなかった。



「でも才能無いんですよね?」

「そうだね。先端恐怖症はダメだね。でも、なんだろうな‥‥‥剣神の勘が君に可能性を感じさせるんだ」

「そうですか?」



 そもそもロイドには刃物を振るうことに対する抵抗が見られた。



 それは先天的なもので治しようがない。



 けど、魔法だけではこの先、ただの凡人になり下がる恐れがあった。




 五属性魔法など、人族が操れる範囲の分類法に過ぎない。



 魔導とは人族の短い寿命で極められるような浅い分野ではないのだ。



 もし、並みの剣客としての実力と宮廷魔導士を超える魔法力を持ったら。

 私はそれがロイドにとって最善かつ最高到達点だと考えた。



「気は変わったかな?」

「いえ、時間の無駄なんで遠慮します」

「えぇ~!!」




 この時、ロイドは自分の魔法に絶対の自信を持っていた。


 五属性魔法は修得済みだし、このまま順調に成長すればすぐにヒースクリフも抜く。


 星導十士仙(スターズ)も夢ではない。



 そう思っていたのだろう。




 でも、それが大きな間違いだと、すぐに思い知る事件が起きた。



■ちょこっとメモ


『天下三剣』

 一位『韋駄天』帝国のさらに東の国、バルト六邦の武人。バルト固有の武術『瞬回』の師匠。

 二位『三代目五式剣』魔人族、都市国家ノトスの魔導特殊部隊エルシオン所属。神級魔導具『五式剣』の継承者。

 三位『飛剣のガリア』帝国とバルトの間にある共和国の聖騎士最高権威『剣聖』

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