2.【神域】ロイド神説
前回のあらすじ。
突然姫の騎士になって評判が悪いので神殿に禊に来たら、おれ以外全員倒れた。
パニック映画の導入みたいだけど、今回するのは謎解き。
真相解明だ。
別室の講堂のようなところで皆席に着く。
皆そのころには冷静になり、ことの大きさを実感し始めていた。
大神官の『聖域』を超える『神域』に神が降臨したかもしれないのだ。
みんな意識が朦朧としていたが、おれに指示をして助けてくれた誰かが居たのは分かっていた。
皆の意識はその何者かと話していたおれに集中した。
それを察し、姫が問う。
「ロイド……卿、あなたが見たのは本当に神でしたか?」
とりあえず『記憶の神殿』から先ほどの映像を取り出し鮮明に思い出した。
「私には神様というより普通の人族の女性に見えました。金髪の美人さんでしたよ。腰に剣を携えていました」
金髪、金眼、たれ目のどことなくまったりした顔立ちの女性だった。
歳は20過ぎくらい。
声は少し低めで宝塚みたいだった。
ただ簡素な紺色の服にズボンと長靴姿で地味めの格好だった。
装飾の凝った腰の剣だけが異彩を帯びていた。
「おいそれって……」
「まさか嘘に決まってるわ」
「でもさっきのは本当に……」
周囲がざわつき始めた。
おれの出したヒントでみんなはあれが誰だか察したようだ。
やがて場がシンとなり、皆の視線がおれに集中した。
「ロ、ロイド卿……曲がりなりにも剣を持つものなら知っておいて下さい。その方は我々の神ですよ?」
なんだ? おれが知らないのが恥ずかしい感じなのか?
「ロイド卿、女の神で剣を持つのは一柱だけなのよ。かつて英雄として歴史に名を刻み、のちに神格化された剣神、システィナ。私の名前の由来でもありますわ」
「システィナ……ああ……」
この世界は何度となく魔王が現れそれを勇者が倒してきたとされている。
歴史上、魔王とされるのはただの大規模な戦争の敗者だったり、革命を起こして世界を変えた偉人だったり、世界規模の疫病を指したりと色々だ。
五百年ほど前に現れた緑の魔王【獣王】は獣人のあらゆる部族をまとめ上げ、その他の種族に攻め込んだ。
中央大陸全土を戦火に巻き込んだ至上最大規模の大戦といわれている。
それを阻んだ英雄の一人が人族の若き女剣士、システィナ。
魔法を使わず剣技のみで、身体能力で優る獣人の軍勢と渡り合い、獣王の首を取った。
嘘か本当か、システィナは剣を振るい、雲を斬ったという。
「……私が作った結界が本当に神を降臨させた……ありえん……まさか……!」
大神官は何かに気づいたのかこちらを見つめ何か確かめている。
ん?
何かな?
「【神聖級魔法】を使うための神気とはこの神殿が建つ場に生まれる力なのです。我々は普段己にその神気を宿らせ、神々に力の行使をお願いすることで魔法として発動させます。しかしその力は限定的です。場に満ちた力を借りるだけですから。本来この神殿の神気のみで『神域』は作り出せません。せいぜい『聖域』を造り、そこに神託をいただくくらいが限界でした。しかし結果的に『神域』ができた。ではいつもと何が違うのか? それは明確です。あなただ、ロイド卿」
「は?」
突然言い訳を始めた大神官。
犯人扱いされたおれ。
おいおい、それは無いんじゃないか?
おれはただ、『あの詠唱最初に覚えたやつやん』ってちょっと頭の中で大神官と一緒に唱えただけだぞ。
「大神官様! いくら何でも……」
「いえ! すいません! 今回のことの責任は私にあります。ロイド様が悪いということではなくてですね……ロイド様には神殿一つ分以上の神気が宿っているのではないかということです。『神域』は神の領域。そこで平然と立っていた。それどころかその『神域』を破壊するなど……あなたは人の身をした神なのではございませんか?」
まさか、おれは実は神だったのか!!?
「ボスコーン家の悪事を裁いた……」
「もしかして『コンチネンタル・ワン』が従っているのって……」
「『レッド・ハンズ』もよ。あの気高いエルフが人に従うはずないって思ってたけど……」
「四大貴族が取り合っていたわ」
「5歳まで平民だったのにその時には全属性魔法が使えたらしいし……」
「王国中の冒険者の横暴を抑止したのも、ロイド卿がやったって」
「魔法を使わずにマイヤ隊長に一太刀入れたし」
周囲の紅月隊の面々が妙に納得し始めた。
おれはただ純粋無垢な少年だと、無害アピールのために来た。
なのに、皆おれの奇異の眼で見始めた。
事態は神殿に来る前より悪化した。
■ちょこっとメモ
ロイドの持つ剣は飾り。軽くて短い上に刃引きされている。




