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1.【神殿】儀式を受けたら神様が来た

 


 王都大神殿。

 白い石造りの簡素な建物だが、その柱の一つ一つに神を象った彫刻が施されている。




 今日はおれの(みそぎ)だ。



 おれはシスティーナ王女の騎士になり騎士爵となった。

 少し前まで平民だったのにいきなり大出世したわけだ。



 当然、反感を持つ者たちもいた。



『ベルグリッドのロイドは化け物だ!』

『姫に取り入った悪鬼め!!』

『紅月隊に入って何か問題を起こす気に違いない』



 周囲にどう思われようと構わないが、隊内にもおれを疑う者がいる。

 それでは任務に支障をきたす。



 そこで禊だ。



 神殿では邪な考えを持つ者を見つけ出す術がある。

 小さい頃、母親に連れて行かれやったあの儀式だ。

 難しいことは無い。

 神官が祝詞を唱える。

 何も起きない。

 ロイド君は健全な青少年だね!

 みんな仲良し!


 これでお終い。


 担当は大神官。


「この神台を中心として神殿内には清浄な力――【神気】が満ちています。神気を依り代に神々は我々にお声を届け、傷を癒し、魔を払い下さるのです。これからロイド卿には魔を払う術を施します。それに掛からなければ一先ず、潔白と言えましょう」



 もちろんおれは潔白だ。


 単なる通過儀礼だから心配はいらない。



「神々の恩寵、清浄なる力に祈りしは、不浄なるものを阻む四方の壁、悪しきものを捕らえる篭、善良なるものの安息の場、清浄なる盾、我が祈りに応え、ここにその意を示し給え……『聖域』!」



 静かに詠唱し終えた大神官が手をかざすと淡く発光するサークルができた。



 そのサークルは大神官、姫、紅月隊の面々を囲んで立方体になった。




「なぁ!」

「うぐっなんか息苦し……」

「これはッ……」


「――え?」



 結界内で皆が呻き始めた。



 一人や二人ではなくおれ以外全員だ。



 小姓や従騎士のほとんどがその場にうずくまり、苦しんでいる。


 マイヤ卿はさすがに持ちこたえている。



「ロイ……ド卿……姫様を……」



(マズい……姫様をここから出さないと……)



 システィーナ姫はぐったりとしている。



「いたっ! あれ、なんだ? 透明な壁が‥‥‥」



 抱えて、場を離れようとするが、結界に阻まれて出られない。




(大神官は何をしたんだ?)



 大神官の方に目をやると結界を造った本人が失神していた。



「えええっ!!?」



 御付きの聖騎士二人も倒れて起き上がれないでいる。 



(発動失敗?)



 しかも本人が意識を失っても消えないということは込めた分の魔力がなくなるまで持続するタイプ。


 とりあえず、魔法を使おうとしてみた。

 あれ、魔法が使えない?



「クソ……どうすれば……」

「バカもの! 腰のものは飾りか!」



 突然背後から怒鳴られて驚いて振り返った。



 そこには結界が張られる前にはいなかったはずの女が立っていた。


「さっさとこの『神域』を斬れ! 人間にはそう長く耐えられんぞ!」

「え? でもこれを斬る?」



 おれの剣の腕で魔法より高度な術を斬る?


「落ち着くんだ。これは神気を源とした【神聖級魔法】あるいは【神聖術】の結界。神気は神気で相殺可能だ。剣に意識を集中しろ」


 剣を引き抜き振りかぶった。



 [ガキィィン!]



「だめでした!!」

「大丈夫だ。君は今自身の神気で全身を無意識に覆っている。それを剣の先まで延長するんだ」



(おれ自身の神気?)



 おれはもはやそのアドバイスをそのまま受け入れる他無く、言われるがまま身体の周囲に意識を向け、剣を含めた全身を覆うイメージをした。



「よし、それを突き立てろ! 早く!」

「はぁぁ!」



 おれは剣を結界の壁に突き立てた。

 すると今度は弾かれず、ほんの少し切っ先が壁を貫いていた。



 ヒビが広がっていく。



「やれやれ、ヒヤヒヤしたがまぁ何とかなったな」



 崩壊が広がり結界が完全に消失した。


 その瞬間、解放されたかのように皆正常に戻り、呆然と互いに顔を見合わせていた。

 マイヤ卿はすぐさま姫に駆け寄るが、システィーナも特に異常はなさそうだった。



 それを見て汗がどっと流れ出した。まさか初の仕事がこんな突然くるとは思っていなかった。


 時間にして一分もなかったが、とても長く感じられた。




「今のはなんだったの? 私たちは不浄ということ……?」

「いえ、おそらく大神官が【神聖級魔法】の行使に失敗したのでしょう」

「ロイド卿は平気だったの? それと誰かと話していなかった?」



(そうだ、あの人は……)



 辺りを見渡してもどこにもいなかった。


 もしかして、幽霊!?


 う、う、うわぁぁぁ!!


 あ、いや違うか。




「うっぐぅ……」



 聖騎士に介抱されようやく大神官が目を覚ました。



「大神官様、大丈夫ですの?」

「これはひ、姫様……申し訳ございません……私はどうやら――」

「大神官様……ひょっとして今の神聖級は『神域』という結界ですか?」



 おれは意識のはっきりしていない大神官に単刀直入に聞いてみた。



「なっなぜその術のことを?……いえ、私にそんな力があるはずは……」



「あのぉ~大神官様~、ひょっとして神様降臨させました?」



 おれは単刀直入に聞いてみた。


■ちょこっとメモ

大神官に世俗的な地位や財産は無いが、国王が膝を着く唯一の人物。

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