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20.【対立】王弟ジェレミアからの挑戦

 

 うわ。お姫様って実在したんだな。





「コホン……皆さま、本日は私の10歳の誕生日にお集まりいただきありがとうございます―――」



 彼女は絵に描いたようなお姫様だった。


 あいさつが終わると会場から拍手が鳴り響いた。



「10歳とは思えないくらいしっかりしてますねぇ」

「6歳の君が言うかい?」

「あれは大物になるのう。頭の冴えはプラウド譲りじゃが、加えてあの容姿。おまけに心臓も強い」



 やがて姫の方へとあいさつに向かう者の列ができていった。

 姫は一人ひとりに感謝の言葉を送り、プレゼントを受け取っていった。

 髪飾りやブローチなどだろうか。



「あれらはただの宝飾品ではない。一流の魔導士に作らせた魔道具だ」


 ちなみにヒースクリフはそれらを安全にしまう宝石箱を贈り好評を受けていた。

 順番はおれに回ってきた。


 周囲の注目が集まっている気がする。


 おれは意を決して姫の前に歩み出た。



「お、お初にお目にかかります姫様。ロイド・バリリス・ギブソニアと申します。本日はおめでとうございます」



(やばい、なんか緊張してきたぞ……)



 四大貴族や王を前にしても平気だったのに。



 姫様はまだ10歳だがちょっと大人びて見える。

 金髪金眼の非常に整った顔立ちで、華やかなドレスに身を包むその姿はまさにお人形のようだ。


 だがあの女神に会ってから人の美醜で臆することは無くなっていた。


 つまりこの緊張は場の空気のせいだ。

 何か良からぬ視線や息遣いのようなものに無意識に反応しているのだ。





 何十回もあいさつされているから社交辞令は短めに終わらせる。

 それから小包を姫に献上した。

 それをやけにでかい侍女?らしき人が受け取り包みを開けた。



「えっ……」



 侍女が声を漏らした。

 その声にビクッとしてしまう。



(そんなにおかしいだろうか?)


 

 マズいものを贈れば当然心証は悪くなり、立場が一気に危うくなる。



「日記帳……ですか? いい装丁ですね」


「ほう、システィーナ、私の言葉を書かんでくれよ? バリリス侯に捕まってしまう」


「まぁ! お父様も陰謀を企てておいでで?」



 会場で笑い声が沸き上がった。



(ウケてる‥‥‥よね)


 心臓に悪い。



「あはは……いえ、あの、中をご覧ください」

「あっ……これ、まさか全て……」



 少し恥ずかしい。



「ベルグリッド領の風景や、人々の姿や顔を描いたものです。最後の方は王都も……」



 おれが贈ったのは絵だ。


 前世でも絵を描くのは得意な方だったが、転生して以来『記憶の神殿』に明確なイメージをストックできるようになって、より正確に描けるようになった。

 ここには娯楽というものが中々ない。

 だから美しい風景や出会った人々、珍しいものを記録する作業はライフワークになっていた。

 それらを綴りにして、鹿の魔獣の革で装丁した。

 誰かに贈るためのものではなかったから飾り気の無い、日記帳のようなぶ厚い画集となった。



「絵師に描かせたのでは無く自分で? バリリス侯は多才だな」

「……きれい……うわぁ……」



 姫が年相応の笑顔を見せた。

 その顔を見ておれは心底うれしく思った。



「平民出身らしく、実に他愛ない贈り物だな」



 王の弟。

 ジェレミアだ。


 おれが子爵になる際に猛反対してきた男。



「止せ、ジェレミア」

「兄上、平民がこの格式あるパーティーにいるだけも不遜ですよ。おまけに野蛮な冒険者まで連れて来て、その上贈り物の最低限の格も守らないとは‥‥‥これはベルグリッド伯爵の教育のせいだな」



「言い返せよロイド」

「今、私たちも馬鹿にしましたね。ねじ伏せなさいロイド」


 護衛二人が二人がブチ切れかけている。



 いやさすがに王の弟はまずいから。



「おじ様、私は大変気に入りましたわ。とても、心が籠っていて素敵です。まるで城の外を旅した気分になります」

「そうかい。それは良かった。絵が好きなら王国で腕のいい画家に肖像画を描かせよう。王族ならば高尚なものの価値を知っておくことこそ――」



 自分のプレゼントよりもシスティーナが喜んでいるのが気に入らなかったのかな?



「いや、遅れてすまないね。ん?」


「む、彼は‥‥‥」

「お知り合いですか、リトナリアさん」


 文句を言っていたジェレミアも慌てて挨拶した。

 男が近づいてきた。



「絵は、どこで習ったんだい?」

「え? いえ、独学で」

「ほう‥‥‥素晴らしいね」



 話しかけてきたのは王族に似た金髪金眼の人だった。



「フル公。奥方は息災ですか」

「やぁ、リトナリア姫。久しぶり」

「姫はやめて下さい」



 リトナリアに紹介されたのは四大貴族の一人。

 フル・スターン・ロー公爵。



 プラウド国王の親戚で、各地に領地を持ち北部でも最大の魔導士団を有する。その力は宮廷魔導士団に匹敵すると言われている。

 政事には興味がなく、芸術を愛し、自由奔放に外遊する変わり者だ。

 リトナリアとはその外遊先で出会ったらしい。


「画材はありふれたもの。だがこれだけの描写力は観察力と表現力の賜物だね」

「ありがとうございます」

「君、どこの家の子かな?」

「はい。ギブソニアです。父はベルグリッド伯爵です」

「そうかい。君、私の娘と婚約しようね」

「え?」



 唐突で驚いていると、あの三人が割り込んできた。



「フル! 貴様~!!」

「油断したらこれかい」

「はぁ、全く節操のない者ばかりだ」




 よくわからないまま、四大貴族のおれをめぐるバトルが始まった。



「我が娘はすでにベルグリッドで長く付き合いがある。ロイド卿とも懇意にしているという」



 そうだったっけ?


 ローレルとはそんな感じじゃないぞ。



「国防という大儀の為にも、ロイドはピストックノーツに来てもらう!!」

「待ちなよ。問題起こしておいてロイドを南にだって? 反感を買うだけさ。それより、ロイド坊の知恵を帝国との貿易に生かすべきさ! あの大国との商売で渡り合うことこそ国益になるだろ!」



 国防に貿易か。


 考えたことも無かった。


「この業突張りめ! お前は金のことしか考えられんのか!」

「あんたこそ、戦う事しかできないのかい!?」



 彼らはなせそこまでおれを買ってくれてるんだ。


 それを見ていたジェレミアがテーブルを叩き、大声で叫んだ。




「何と情けない!!! あなた方はそれでも王国を支える四大貴族の当主かぁ!!! 下賤な平民の子供一人に入れ込むなど、これは王国全体の格を下げる行為ですぞ!!!」



 これは問題発言だった。



 四大貴族が王国の権威を衰退させるとでもいう主張。



 この男は何も理解していない。

 四大貴族がいるからこそこのパラノーツ王国は戦争せずに済んでいる。


 ジョルジオ都市伯の治める都市は王国では王都の次に大きい都市だ。


 一国の王でもおかしくないほどの力がある。


 同じく、アプル伯爵も港湾都市を治めている。

 なにより巨大な運河を所有しているため、その財力は王国随一。


『南の戦王』エシュロンなど、ほとんど南部の貴族の取りまとめ役だ。

 仮にエシュロンが反乱を起こせば屈強な南部貴族たちが彼に付く。


 フル公爵も、所有する魔導士団だけで一国並みの戦力を有している。

 いや、要職に就いているロー家の者たちが反乱を起こしたらそれは静かに淡々と遂行されるだろう。



「まぁ、落ち着け。ジェレミア公」

「その子供が今の時点でどれだけの力があるというのだ!! あなた方の眼を覚まさせてみせよう!! おい!!」



 ジェレミアが呼ぶと、魔導士がやって来た。



 王族には側近に顧問官が配置される。

 その魔導顧問。

 自由にできる魔導士というわけだ。



「いい見世物を用意しよう。ロイド卿、この者と試合をして見せろ」



 退くに退けないジェレミアはおれを見せしめにして自分が正しいと証明しようと考えた。



 リトナリアさん、笑わないの。



「ジェレミア、止さないか。バリリス侯は客人であるぞ」

「そのバリリスの名も、やはりこの子供にはふさわしくありません!!」




 もはや国王でも止められなくなった。


 止める理由が他の者達にはない。

 魔法を見られるのだから。



「陛下の御命令であれば、賜りしこの名がふさわしいこと、陛下の御判断が正しいことを証明してみせます」



 そしておれにも断る理由がない。



 だって、宮廷魔導士長の前で魔法を使えば、いいアピールになる。



 宮廷魔導士にしてもらえるかもしれない。




 それによく知らない人たちに好き勝手に噂されるのはいい加減うんざりだ。


「これがローア牛の鉄板焼きを超える料理だ」

若者が出したのは鍋だった。

「何だと? 血迷ったか。ローア牛を煮込むだと? むっ、これはただの湯ではないか!!」

「そうだ。この湯に薄く切った肉をサッとくぐらせ、卵と絡める」

「フン。こんな品の無い食べ方がうまいはずが無い」

「能書きは食べてから言うんだな」

「‥‥‥こ、これは!!」

老人は目を見開いた。

「ローア牛は確かに美味い。だが、パーティーの食事のメインには必ずと言っていい程このローア牛の鉄板焼きが出される。どれだけ美味くても何度も食べていれば飽きてくる」

「しかし、それだけではない」

「そうだ。最上のローア牛は脂も美味い。だが余分な脂がくどく感じさせることもある。だからこうして少量の肉として出されるが、こうして湯にくぐらせ、油分な油が落ちることでより上品な味わいを堪能できる」

老人は溶き卵に肉をくぐらせ口に掻っ込む。

「くっ、そして卵黄に絡めることでまた違った濃密さが生まれる」

「どうだ。これでもまだローア牛の鉄板焼きが最高の食べ方だと?」

若者は勝ち誇った笑みを浮かべた。だが、老人は動じない。

「フン‥‥‥この食べ方。まだ完ぺきでは無いな」

「な、なんだと! 負け惜しみを!」

老人は懐から黒い液体を取り出し、溶き卵にかけた。

「魚醤を加えることで、より一層深みが出る」

「なんだと? た、確かに、なぜ気が付かなかったんだ!!」

「フフフ、貴様は半端なものを出した。それでよく美食家を名乗れるものだ!! まぁ今回は引き分けにしておいてやろう」

「ちくしょー!!」


二人の対決は引き分けに終わった。

だが、その戦いを見ているものは誰も居なかった。



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