12.【演習】冒険者ギルドへ行こう!
おれは父ヒースクリフと護衛のスパロウ、ローレル、それとヴィオラと共に冒険者ギルドにやって来た。
理由はベルグリッドにやって来た有名な冒険者だ。
「ギルド長、今日は見学させてもらいますよ」
「ヒースクリフ卿。どうも~」
憮然とした態度のギルド長に対し、伯爵であるヒースクリフが遜ってあいさつした。
独特な地位だな、ギルド長というのは。
冒険者ギルドはどこの国にも属さない。
冒険者は自由人。
貴族に媚びない。
「くひひ。ギルド長、その小奇麗な格好した兄さんはお客人ですかい?」
「お貴族様だ。それも嫁に騙されて他の男のガキを育てさせられてたってよ!!」
「ぎゃはは、知ってるぞ!! お間抜けな領主様だな!!」
ヒースクリフをバカにする男たち。
ピリつく護衛のスパロウと、ローレル。
媚びないのはいいが、良い気になるのは考え物だな。
実際戦えばヒースクリフの方が強いだろうに。
「止せお前らぁ~。すいませんね~伯爵。こいつらは思ったことが口から出てしまうんで~」
「いえ、気にしていません」
「そうですか~」
チラリとギルド長がおれを見た。
「その子が噂の新しい御子息で~?」
「ええ、ロイドです」
おれはお辞儀してあいさつした。
「お行儀のいいお坊ちゃんだ~。しかし、その子に見せるにはまだ早いと思いますがね~」
「ロイドは優秀です。将来は大魔導も夢ではありません」
「ははは~、身びいきが過ぎますね~。お坊ちゃんに期待するには大き過ぎるでしょ~。大魔導が何かも知らないのでは~?」
「知っています」
大魔導は魔導士の最高位の称号だ。
冒険者ギルドが決めたランキング『星導十士仙』の一位をそう呼んでいる。
万国共通、最強の魔導士を表すものだ。
冒険者のランキングが『栄位百傑』、常に入れ替わる冒険者の上位100人。
魔導士のランキングが『星導十士仙』、不定期で決まるこの世の優れた魔導士10名。
総合的ランキングが『神士七勇』、純粋に強さだけで選ばれる現世最強7名。
「若者が夢を見るのは自由ですよ~。しかし、彼女を見てその子が自信を失っても文句は無しですよ~」
感じ悪。
超見下されてたおれたちは冒険者たちの奇異の眼に晒されながら演習場へ。
演習場には多くの見物人が来ており、そのほとんどが冒険者と見受けられた。
「姐さん、行っけぇーーー!!」
やけに気合の入った応援だ。
その視線の先には一人の女性。
そこへ別の冒険者が囲んで襲いかかった。
「うわ……」
屈強な男たちが女性に群がる様子は犯罪に近い画だったので、その異様さに引いた。
戦いは一瞬だった。
女性は長い髪をなびかせながら、スルスルと器用に男たちの包囲網をすり抜け、省略詠唱で素早く魔法を発動させた。
対人級魔法『突風』により、次々と男たちは吹っ飛ばされていく。
あれ? ひょっとしてこれ、訓練を受けてるのはあの男たちの方か!
『突風』を掻い潜り一人の素早い男が短剣を構えて接近した。
「彼は銀級ですよ~。短剣と素早い動きに加え、素早い魔法の行使を可能とする~」
「ほう‥‥‥」
「使える属性は~土と火。土は対魔級まで使える~」
「素晴らしいですね。動きながら魔法まで使えるとは」
「この冒険者的な戦い方こそ~もっとも優れたスタイルだ~」
短剣使いの魔導士は土魔法で障害物を形成。
姿をくらまし、リトナリアの背後を取る。
彼女の風魔法は避けられ、ついに近接戦の間合いに踏み込まれた。
「だが~、あの銀級ですら足元にも及ばない~。それが『レッド・ハンズ』だ~」
女性は淡々と短剣を交わしながら、男を殴った。
カウンターで入った拳は男のみぞおちをえぐり吹っ飛ばした。
「ええええ!!」
明らかに女性の腕力ではない。
「風の魔法を纏って『風圧』で拳の威力を上げたんだよ」
「なるほど。いや、そんな精密な操作ができるのなら距離を取った方が安全に倒せるのでは?」
風魔法を近接戦闘に応用するなんて発想は無かった。
魔法がそもそも遠距離武器だ。
機関銃があるなら殴るより撃つ方が確実だろう。
「若様ぁ、私たち前衛職から言わせてもらえば、遠距離の魔法は確かに怖いですけど、それを掻い潜った後、接近戦で魔法を撃たれるのはもっと怖いんですよー」
「そりゃ、まぁそうでしょうけど」
「うむ、若様は魔法を遠距離で使用することに固執して居られる。こちらは確かにやり辛くもあるが、予想できる戦法でもある。近距離で何かをしてくる相手の方が精神的プレッシャーを感じる」
「あの魔導士はまさに、攻めにくい、守りにくいを体現しているのだよ。私にはできないが、ロイド、お前には参考になる戦い方だと思ってね」
「彼女がリトナリアだ〜」
〈血塗られた両手〉の異名を持つ金級冒険者。
人族には無い長い耳。
煌めく長い金髪は金糸のよう。
眩い瞳はエメラルドのように輝き、肌は赤ん坊のようにきめ細かく瑞々しい。
長くスラッとした手足。
引き込まれそうな美貌。
それをひけらかさない気品。
かえって増す妖艶さ。
戦い方は美麗にして華麗。
そして大胆なものだった。
冒険者たちが果敢に挑んでいったのも最初だけで、挑む者は減っていった。
「お、お前まだだろ、行ってこい!」
「無理言うなよ! 一人じゃ何もできねぇじゃん、お前行けよ!」
「いや、たぶんここで見てた方が勉強になるんじゃないかと」
「「「確かに……」」」
ヒースクリフをバカにしていた冒険者たちがしり込みしている。
かっこわるぅー!!!!
リトナリアへの畏怖が場に萎縮した空気を生み出しているようだ。
「これまでかな。他にめぼしい者は――ん、誰か挑戦者が現れたようだな」
「ご子息が~」
「え?」
「黙って席を立って行きましたよ~」
勝ち目がない?
そうだろうか?
おれは見つけた。
彼女に勝つ方法を。
「ん? まさか!!」
慌てる大人たちを尻目にすでにおれは演習場へ降りていた。
リトナリアはすぐおれに気が付いて、駆け寄って来た。先ほどと変わってにっこりと微笑んでいる。
作り笑いだが。
「どうしたの? ここは遊ぶところではないんだよ?」
「いえ、見ているだけでは物足りなくて。飛び入りってありですか?」
彼女は作り笑いを止めて、無表情になった。
美人の無表情怖いよね。
「おい、なんだあのガキ、まさか挑むってのか?」
観客が騒ぎ出した。
彼らが見に来たのは冒険者同士の戦いだ。
おれのような子供はお呼びで無いのは当然だろう。
すいませんね。
「おい、職員はやくつまみ出せよ!」
「ボウズ!! そのネーちゃんは見た目よりおっかないぞ! 気ぃ付けな!」
ヤジが飛ぶ中、リトナリアがおれを値踏みするように見つめる。
「真っ直ぐ見返すか、私の眼を。君は誰かな?」
「失礼しました。私はロイドです。あなたの魔法を間近で見たくて来ちゃいました」
「そうか、正直な子供は大好きだ」
彼女が笑顔で構えた。
おれはそれを了承と受け取って、戦闘態勢に入った。
会場全体に響き渡る大きな音が周囲の雑音をかき消した。
リトナリアがいきなり『暴風』を発動した。
【対魔級魔法】の『暴風』は『風圧』の上位互換。
より殺傷力の高い魔法だ。
6歳の幼気な子供にいきなりこれはない。
『暴風』を発動させたリトナリアに対し、おれは『暴風』で相殺させた。
それを合図としておれと彼女の演習試合が始まった。
「あぁ゛~?! 防いだ~?!!」
ギルド長が席を立ち驚きの声を上げた。
『神士七勇』
一位『始祖』 神魔族
二位『黒獅子』獣魔族
三位『竜王』 竜人族
四位『大賢者』魔人族
五位『韋駄天』人族(バルト民族)
六位『不死王』翼手族
七位『大災害』紅火族