3.救世あるいは報復へ
「ところで、ここって『都市迷宮』ですか」
聞いていたミカルディーテとフォンティーヌが息を飲んだ。
だって、教祖が七大迷宮の場所を探るためにここを目指しているのは二回目。最初の17年前のときは、錆の魔王が『白闇迷宮』の次に来たとティタニス王が言った。一回目は場所が分かっていたってことでしょ。まぁ、他の迷宮の場所を探るためだったとも考えられるよね。でもおれはピンときた。17年前の大戦時、帝国と事を構えていた錆の魔王が、わざわざ魔導連盟の本部を狙うだろうか? 世界中の魔導士を敵に回すようなものだ。魔族対帝国人。その構図を崩すメリットはないから、二番目のターゲットは普通パラノーツの『地下迷宮』になるはず。おれならそこで力を得て、戦争に勝ってから魔導連盟に探りを入れるだろう。でも、帝国への侵攻と同時にここ、本部に襲来した。
つまり、錆の魔王はそうとは知らずに攻略しにここへ来た。
帝国にある七台迷宮の一つ、『都市迷宮』へ。
「正解だ。よくわかったな」
「何となくです」
ということはやっぱり魔導連盟の本部は都市迷宮内にあったってわけだ。
「ちょっと待って。ここが迷宮って……うそでしょ」
「ん? フォンティーヌ様も知らなかったんですか?」
「魔導連盟本部へは『転移』でしか行き来できないのよ。おそらく、この事実、知るものは極一部……まさか、あなた様は……」
フォンティーヌが跪いた。
どどど、どうしたの?
「魔導連盟は膨大な知識を維持するために、魔物の力を使い、魔物もまた知識のため魔導連盟に協力している。そう思っていたわ。いえ、そう伝わっていたわ。しかし、違ったのですね……」
「余は魔物ではない。余は魔導の知識を護るため、魔導連盟を創らせた」
『知識の魔物』と思われた男は魔導連盟創設者だった。
ん?
魔導連盟って創業何年でしたっけ?
5千年ぐらい?
この人、何歳?
「ミカルディーテを使い、『怪童』を導いたのは教会討伐のためでしょうか? 連盟は静観する構えですが……」
「連盟は知識の喪失を防ぐための保存機関である。だが、狙いが知識である以上、静観はできぬ。とはいえ、余が直接連盟を動かしているわけではない。自由意志も尊重している。そこで、自主性において余の知識を使い、社会貢献を推奨するものとした。それも、資格のあるものにのみ」
「ここに来ました。それ以外に資格が?」
「能力次第だ。教祖の持つ指輪はしぶとい。前回は逃げられたゆえ、対策は万全を期す必要がある。もっとも重要なことは」
「教祖の特定……」
ミカルディーテが呟く。
「そうだ。指輪の力は『転移』、『魔物化』、そして『洗脳』である。『洗脳』で身代わりを用意している可能性もある。標的を間違えれば教祖は姿を消す。邂逅一番、逃がさす確実に捕らえ、指輪を破壊するのだ。それには『怪童』―――貴様が頼りだ」
全員の眼がおれに集まる。
おれはここにくるまで、なぜミカルディーテがおれなら教祖が分かるのか疑問だった。
だが、謎が解けた。
錆の魔王が手にした太古の力――指輪が異界で手に入れた叡智、それは地球の知識のこと。
つまり、地球の人間がこちらに来ている。おれ以外にも。
それなら医学や銃の知識があっても不思議ではない。
おれがその人間を見たらわかる。
日本人だからか?
いや、日本人に似た顔つきをした民族はこちらにもいるかもしれない。
おれだけにわかる。
検討はついている。
「教祖はぼくが知っている人物かもしれません」
おれは忘れもしない男の顔を描いた。
「えぇ! 絵上手っ!」
それを見たフォンティーヌの顔色が変わった。
「……この男とどこで!?」
やはりいたらしい。
荒木だ。
この名前、お忘れの方もいるだろう。いや、一話から読み返す必要はない。こいつの話題は気が滅入る。
サクッと説明するとおれを刺し殺した男だ。
パワハラクソ上司。
あ゛あ゛あ゛!! 腹立ってきたねぇ!!
おれがこの世界に来た時、奴も来ていた。
そして指輪の力で生き残り、さらなる力を得るために人々を利用している。
いいねぇ!!
地獄の門を潜って、わざわざおれの報復を受けに来たわけだ!!
「えっと、この男は今は何をしてますぅ?」
「教会討伐の総司令よ。数年前、公国内の教会討伐で目覚ましい成果を上げた功績で帝都宮殿の要職についた男」
「教会討伐のトップが教祖ということですか!?」
ああ、そうだった。あいつは余計な仕事を増やす天才だったね。
しかし馬鹿だな。
この場所を知っているのは『知識の魔物』に師事する異端の派閥。
ミカルディーテのような人物を洗脳すれば早いはずだ。
いや、なぜそうしない? できないのか?
おれは本題に入った。
「敵の能力について教えてください。詳しく」




