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1.『知識の魔物』

 

 王国に魔物が現れた。そろそろ教会には退場してもらおう。

 ミカルディーテからその目的は聞いた。

 謎なのは、その手段だ。


 教会の教祖はわかっているだけで三つの力を持っている。


 まず洗脳だ。これは言葉巧みに操っていることも考えられるが魔法と考えるのが妥当。魔法による洗脳はカテディウスが魔物堕ちする前にほのめかしていた。

 おそらくミカルディーテと同じ精神干渉系の魔法だろう。


 次に魔物化。

 これは魔物の総数が教会の出現以降明らかに増加していることから確かだ。だがその条件、方法は不明。



 三つめは科学だ。

 教会は神殿の治療に依らない医学知識や、魔法を使わない飛び道具――銃を生み出している。

 知識から現物を造り上げたとしたらその技術力も脅威だ。他にも予期せぬ道具を造っている可能性がある。



 そう言うわけで、これらの教祖の力の源と対策について知っていそうな人物に接触することにした。


『知識の魔物』である。

 ミカルディーテやシティのような異端の派閥を率いる者。

 魔導連盟の大書庫に住み、知識を管理しているという。


 つまり会いに行くには大書庫に行かなければならない。


 魔導連盟の大書庫。

 そこに行くには条件がある。『星章』を10個持つこと。


 おれは8個だったが弟子のシャロンがローアの研究で新たに獲得した。その分け前ではないが、彼女たちを活動させた貢献で1つ新たに獲得した。



 残りは1つ。



 それをどうしたかと言うと、順当に試合で獲得した。


『光星』と『焰星』をいきなり獲得したおれに懐疑的な眼を向ける連盟員は多く、またおれのことを知らない者が大半だった。

 そこで魔導連盟はおれを連盟議会に招集した。



 ◇



 フォンティーヌに連れられ、『転移』した。


 そこは巨大な聖堂のような場所だった。

 石造りのようだが継ぎ目が無い。それに、窓が無いのに明るい。


 声が降り注いだ。


「『土星』よ、彼がそうか?」

「はい。彼が『光星』『焰星』の二冠―――『ローアの怪童』」



 だだっ広い空間のいくつかの柱に沿って、人が立っている。ローブの色がバラバラだ。彼らが称号を持つ魔導士たちか。

 意図的に距離を取っている。

 警戒されている。


「初めまして、皆さま。ローアのパラノーツ王国より参りました、ロイド・ギブソニアと申します。未熟者ではございますが、よろしくご指導のほど賜りたく存じます」



 頭は下げなかった。

 未熟者と自称したのは謙遜ではない。

 世界最高峰とされる魔導士たちの反応を見るためだ。



「よろしければこちらをどうぞ」



 何もない空間に冷凍冷蔵庫が現れた。


 手土産だ。



「あれが噂の魔道具か」

「食料革命を起こしたあれか」

「称号は『光』と『熱』だが、氷魔法も使うらしい」

「今、当たり前のように『逆転送』を使ったよ」

「疑似精霊魔法を使いこなしている」


 上の階がざわざわし始めた。

 あちらは魔導博士たちのようだ。



「随分と威圧的だ。ここは力を見せる場ではない。これだから蛮族は」



 喧嘩を売ってきたのは『火星』の後ろに立っていた男。『火星』陣もそうだが皆ローブを目深に被っていてどこの生まれかも推察できないが、その男はローブをまくり、顔をさらした。険しい顔つきのバルト人だ。


 どうやら『火星』から指示されてわざとこちらを煽っているようだ。



「これは大変失礼しました。ええっと」

「三等『天星』、『火矢』のアクセルだ。そんなに力を見せつけたいならおれ様が相手をしてやるぜ。その力が見せかけでなければな」


 見たことのない魔族だ。

 アクセルはおれに杖を突き付けた。


「私は構いません」


 その試合は承認され『星章』を賭けて戦うことになった。


「貴様のようなガキが正当な手段で称号を得られるわけがない。パラノーツ王国が何をしたのか知らないが、紅火族の名誉と誇りに賭けて、そのペテンごと焼き尽くしてくれる!!」



 試合開始と同時におれはアクセル周辺の酸素を『拡散』させた。

 アクセルは酸欠で倒れた。



「……今何をした?」

「アクセルの火魔法を反魔法で打ち消したのか?」

「魔道具を使った様子もなかったが……」


『火星』派閥で『火矢』の字名で赤い魔石を付けた杖。

 火魔法なのは馬鹿でもわかる。



 こうしておれはあっさりと目的の『星章』を獲得した。



「どうかのう、皆。『天星』を倒した。わしは彼に空いている『勇星』を授けるべきと思う」

「いや、『大魔導』様。それは……」


 老人が提案した。

 あれが『大魔導』、一等『神星』と一級魔導博士を兼ねる唯一にして最高の魔導士か。

 確かにこの場でずば抜けた魔法力だ。



「わたくしも賛成致しますわ。この実力では試合を受ける『士星』や『将星』は現れませんし、彼と戦って称号を失うのは余計ないざこざの元でございます」



 フォンティーヌが説得した。

 それ以上異議はなく、おれに五等『勇星』が授けられた。



「うむ。では『ローアの怪童』に五等『勇星』を授ける」

「ありがとうございます」



 するとおれのローブの紋様が動き出した。場に仕掛けられた魔法陣による刻印魔法だ。

 ローブの紋様と色が変わった。

 おれのは黄色だ。派手だ。




 完了すると上から声が降り注いだ。

 魔導博士たちによる評議会の声だ。



「大書庫への道は『土星』に尋ねよ」

「『勇星』は魔導評議会への参加が義務となる」

「魔導の遺産を護り、先に飛躍させることを優先するのだ」

「新たな発見、未知への理解、常に魔導の歩を進めることを考えよ」


 おれたちはフォンティーヌの『転移』で大書庫に向かった。



 ◇



 大書庫には無数の本と魔導士がいた。

 思っていたよりもずっときれいに管理されている。それに人も多い。大学の図書館みたいだ。

 利用している魔導士たちおれのローブを見てすぐに階級の上下関係に気が付いた。

 紋様は五等『勇星』を表し、色が称号を意味しているようだ。

 丁寧にあいさつをしている。魔導連盟は階級社会。年齢や出自は関係なく、実力がすべてだ。



 ここが魔導連盟の拠点とも言うべき場所なのだろう。



 しかし、ここに『知識の魔物』はいないようだ。

 どこかに潜んでいるのだろうか。


「お待ちしてました。では参りましょう」


 待っていたミカルディーテが案内役だ。



 本を管理するという『知識の魔物』はこの大書庫のさらに深い場所にいるらしい。


 大書庫と言ってもメインの書庫以外にも無数の部屋があり、すべてに本が収められている。

 迷路のような細い道や隠し扉を抜ける。

 時折、個人が占有している部屋もある。それを横断し、進むこと一時間。

 ミカルディーテはとある一室で本を探し始めた。



「何してるの?」

「師匠は最後に会った時に必ず暗号を残すんです。それを元に本を探すとそこに師匠への道筋が隠されているんです」



 どうやら『知識の魔物』がいる場所は一定期間を過ぎると場所が変わるらしい。

『転移』もできない。

 道は直接ヒントをもらった弟子しかわからず、それも期間が過ぎたら意味を成さなくなる。



 そこからさらに下へ下へと進む。

 隠し通路や秘密の部屋へと進み、『転移』を繰り返すこと一時間。


 ようやくそこにたどり着いた。


「うわっ! まぶしい!!」



 扉を開けるとそこは外だった。

 青空が見える。



 いくつもの建物があり、街みたいだ。

 遠くの方は霧が立ち込めている。



「どこかの廃墟? いや、遺跡か」

「ここからまた歩くのかしら? もう疲れましたわよ!!」

「大丈夫です。師匠がお迎えに来てくださるので。師匠―!! ミカルが参りましたよー!!」



 おれたちが警戒していると、視線を感じた。

 建物の陰からこちらを見ている。


「あれは……」



 幼女だった。

 五歳ぐらいの幼女。

 紅い眼と銀色の髪、白い肌、とがった耳。全て魔人族

 の特徴だ。



「師匠―!!」


 ミカルディーテは幼女に突進して抱きしめる。


「えぇ!? あれが!!」

「『知識の魔物』?」

「はぁ!! 師匠~、今日もかわいいですぅ~!!」


 幼女は死んだ目でこちらをにらんでいる。


「知らないやつらがいる! 知らないやつらがいるぅー!!」

「大丈夫ですよ。ロイド君です」



 おれは持ってきたものを渡した。

 何がいいかわからなかったからお菓子にした。



「初めまして、ロイドです」

「わぁ!」


 幼女が包みを開けると目を輝かせすぐに食べ始めた。

 普通に食べている。


「おいしいっ! おいしいっ!」

「どうも。よかったです」



 おれたちはしばらく幼女がお菓子を食べているのを見させられた。


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