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23.お疲れ様会 

 

 教会の目的についてミカルディーテの話を聞いた後、おれは迷っていた。



 一度に魔物が四体も現れたが、ミカルディーテの話を聞く限り、今後はもっと増えるかもしれない。

 王国を死守しなければならない。

 だが、それでは根本的な解決にはならない。


 敵は帝国にあり。



 悩んでいるとシスティーナに声をかけられた。



「ちょっといいかしら、英雄さん」



 馬車に揺られ、ちょっと。

 下町にある安食堂だ。

 親父さんの店。



 中に入ると見知った顔がずらり。



「よぉ、英雄の御到着だ!!」



 タンク、リトナリア、マス。



「遅い! 待ちくたびれたわ!!」



 オリヴィアたち、紅月隊。



「さぁ、坊ちゃま、こちらの席ですよ」



 ヴィオラ、ヒースクリフ、マイヤ。



「これは?」

「お前、がんばったんだろう。シスが労いたいんだとよ」

「親父さん」

「魔物の件は公にできないけど、みんなロイドががんばったことを知ってます。だから集まったんです。この度はお疲れ様でした」

「あ、いやまだ……」



 何も終わっていない。

 そう言いかけてやめた。



 いつの間にか社畜モードになっていた。

 一人で解決する必要はない。

 頼れる仲間がこんなにいるんだから。



「皆さんも、お疲れ様でした!!」



 ◇



 お疲れ様会は歪な様相を呈し、本来の趣旨から脱線していった。



 きっかけは後から来たシャロンの一言だった。



『おっ待たせー!! いやぁ、ちょっと手土産をつくってたら遅くなっちゃって~。これが世界一美味い焼き菓子や! 酒にも合うからみんなで食べよ』



 それを食べた瞬間、後から来たフォンティーヌが異議を唱えたのである。



『我が帝国の宮廷料理こそ世界一だわ』



 そこからは一気に連鎖反応だ。



『おっとそいつは聞き捨てならんよな』



 後から来たランハットが参戦した。



『食文化で帝国にバルトが負けたことは一度もないでしょう』

『おい待て。バルトの食文化は私たち長耳族(エルフ)国の恵みが起源だろう』



 美味いもの選手権が始まった。

 ガタガタと席を立ち、国々の勇士たちがお台所に詰めかけた。


 みんな国の威信を背負い、思い思いに調理を始めた。



「あぁ、ちょっと『土星』普段料理せんやろ!! 出汁出し尽くしてなんで出汁の方捨てようとしてんねん!! ああぁ、『韋駄天』、あんた手早いだけ!! そこはじっくり待て!! おおい!! 『赤い手』、あんたは焼き過ぎ、何焦げてんの黙って見てんねん!!」



 シャロンの悲鳴が続いた。

 彼女的にはあり得ないことらしい。

 ツッコまれてもみんなかたくなに自分のやり方を通し、そして見事に失敗していった。


 やれやれ、仕方ないな。

 脳筋たちに格の違いを見せてやるか。

 おれの生活力というものをな。



「師匠、料理したことないやろ?」

「はい?」



 料理をしてない。

 だから料理ができない、というわけではない。


 できないからしないのではない。

 やればできるけどする必要がなかったからしてないのである。   



 おれには『記憶の神殿』がある。

 古今東西ありとあらゆる料理のレシピとこれまでに見てきたプロの料理人の技術を真似すれば、おれの料理はそのままプロのそれなのだ。



「やるなら早よやり」

「……いやでもこの食材を切る包丁が」

「目の前にあるやろ」

「ちょっと長くないですか?」

「切れればええやろ」

「あ、そっちの金属の器を」

「だから目の前にある木のやつでええやろ。なんのこだわりやねん」



 くっ、形から入れない。

 頭ではわかっていても、どうしても深読みしてしまう。

 一つの手順を間違えたら再現は不可能。

 これは集中力と根気がいる作業だ。



「料理にむいとらん。どけ」

「あぅぅ!!」

「シャロンさん、手伝いますね」

「ああ、頼むわメイドちゃん」



 厨房を占拠され、おれたちは自分たちの無力を思い知った。

 所詮おれたちは世界を救うとか、ビックなことしかできない性分なのだ。

 おれたちは自分たちのスケールのでかさにため息しかでなかった。


 とかしていたら親父さんに、食材を無駄にするなと詰め寄られた。

 有名冒険者とか高名な魔導士だとか世界何位とかは親父さんの前では関係なかった。

 そうこうしているうちにシャロンはおれたちがつくり損ねた食材を適当に処理してパパッと一品つくりあげた。



 出来上がったそれはラーメンだった。



 おれはスープをすすり、涙が出た。

 麺をすすり、その手が止まらなかった。


 その時おれは確信、いや神の啓示を受け取った。


 この味を世界中に届けなさい、と。



 おれはこの世界になんの使命もなくただ転生した。

 だが、生まれたからには自分がするべきがあるという予感があった。

 それが何なのか確信を持てずに、できる限りのことを全力でしてきた。



「大将、この味は世界に通用するぞ!!」

「そらうちのこと? 教会は?」



 妙なテンションで盛り上がっていたら夜が明けていた。

 みんな力尽き死屍累々。

 今攻められたら全滅だな。



 そんなことを思いながらうとうとしていたら表に馬車が止まった。

 びくっとして、表に出た。


 国王陛下がいた。



 システィーナを迎えに来たのかと思ったが、おれに木箱を手渡した。ちょうどボトル一本という感じだ。

 もうお酒は十分です、とは言えず受け取った。思いのほか軽かった。



「余の推挙による正式な使節であることを証明する書類である。そなたの言動の責任は余が負う。余にできることはそれぐらいだ」



 おれのやろうとしていることはお見通しのようだ。



「はい、このロイド・バリリス・ギブソニア。神々への信仰と王国を護るため、帝国に行って参ります」


 魔物の襲来に備え、じっくり構える方法もある。

 だがおれはミカルディーテが言っていたことを信じることにした。



 教会は間もなく全世界へ侵攻を開始する。

 教会は魔導連盟の大書庫に辿りつく。そこで真に欲する情報を手に入れる。



 そうなる前に、おれが帝国宮殿に乗り込む。



『ロイド君なら教会の黒幕がわかるはずなんです。そして黒幕はおそらく、帝国の中枢、帝都宮殿にいます』



 教会による洗脳と魔物と銃の脅威、いやそれ以上の災厄が訪れる前に、カタをつけることにした。



五章終了となります。

いったんキャラ紹介なんかを挟んで帝国編に入る予定です。


ここまでの内容でよろしければ評価をお願いします。

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