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22.『金槌』は泳げない

 


 少し時間をおいてミカルディーテと共に檻の中に戻ると、カテディウスが気を失っていた。

 泡を吹いて倒れていた。


「大丈夫なんですか?」

「この密閉空間で爆発を繰り返せば、一気に酸素が燃焼されるので、酸欠になるってわけです」

「酸素?」


 おれは残りの魔力を『吸収』した。

 これで完全に無力化完了。


「さぁ、ちゃちゃっと『同調』して情報を抜いて下さい」

「はい。うーんと……」


 ミカルディーテが檻の周りをウロウロする。

 格子の間に手を入れた。


「届かないです」

「私は入れないですよ」


 完全に身体の一部がつっかえてるな。



「違いますよ? これは成人は通れませんってだけです!!」

「別に何も言ってません」



 仕方ないので、格子のそばまで寄せてやった。



「ベルグリッドは大丈夫でしょうか……」

「あそこには今師匠がいるんで大丈夫です」



 偶然ではない。

『転移』がある以上魔物がそれを使い、同時多発的に襲ってくる可能性は考慮に入れていた。

 だから戦力をばらけさせておいた。

 東のブルボン家領にはリースを。

 西のリヴァンプール方面にはランハットを。

 南のピストックノーツ方面にはタンクたちを。

 北にはシャロンとその弟子たちを。



 しかし、教会についてもっとも情報を掴んでいるミカルディーテを狙うか、その近くにいるおれを脅すためにベルグリッドを狙うことを考え、ベルグリッドにはシスティナにいてもらった。ヒースクリフ、エリン、マイヤがいるが念のためだ。



 ミカルディーテが『同調』し始めた。



「……これは!!」



 突如カテディウスが跳ね起きた。



 まだ意識が?


 おれとミカルディーテは大気魔法で圧縮した酸素を供給しているから呼吸ができるが、カテディウスは何故動ける?



『転移』か。

 空気までこの中に送ってしまったのか。

 その些細な酸素で覚醒したっていうのか?



「きゃあぁぁ!!」

「大丈夫。この聖銅の檻は壊せない」



 その身体が変貌していくのを見た。

 腕が分解し、胴体に癒着していく。



「うぁぁ……」

「わ、わ……」



 脚が枝分かれして四脚に。



「うわぁ……」

「わ、わわ…‥」



 それは生物の形をしていなかった。



 顔があった部分には肉とも骨とも違う無機質な塊があった。

 ぎりぎりと胴がのけぞり、頭部のいびつな形状の塊が振り子のように揺れた。

 首に当たるパーツがギリギリと伸びる。

 その塊が射出された。



 その瞬間。おれとミカルディーテの身体がフッと浮いた。炸裂音にも似た、激突音がハコの中を反響し、駆け巡った。

 地面が激しく波打った気がする。



 聖銅の格子をにめり込み、ゆがませている。

 ハンマー人間。いや人間ハンマー?

 いや……



「ま、魔物になった。『金槌の魔物』か?」

「に、逃げましょう!!」


『金槌の魔物』は再び頭を振りはじめた。


 もっと情報が欲しかったが仕方ない。



「よし!!」



 おれとミカルディーテは檻から離れ、部屋の一角にある極銀の魔法陣に乗っかった。壁にあるダイヤルを回し、鍵穴に鍵を入れる。

 これはあえて一回しか使えないように設計した『転移』発動の魔道具だ。

 このカラクリを作動させておかないとおれたちが『転移』しても、すぐに追って来られてしまう。


「い、急いでください!!」

「せかさないでよ」



 とてつもない衝突音が背後で鳴った。

 地面が波打って鍵を落とした。



「あわわ」


 早く早く!!


 焦れば焦るほど鍵穴に鍵が入らない。



「落ち着いて!!」

「そう言われると焦るからやめてぇ!!」



 振り返ると、『金槌の魔物』の姿がさらに変化していた。


 無機質なパーツの集合体がギリギリと巻き上がり、引き絞られ、ねじれていた。体内で何かを燃焼させているのか、胴体は赤く膨張し、煙を上げている。

 もはや人だったころの面影が無い。



「まずいですよロイド君!!」

「よし、入った!!」



 転移が作動した。緊急脱出用。

 これを作動させると魔力を通している極銀のケーブルが外れ、外部と魔法的に遮断される。



 強烈な音の断片が鳴り響いた。



「……はぁ、はぁ……助かった、の?」

「間に合った、ようですね……」



 景色が変わった。

 王宮の玉座の間だ。

 最後の残響ごと『転移』したようだ。


 やつはいない。



 爆破の影響だろう。

 宮女の一人もいない。

 シンと静まり返った大広間で、おれとミカルディーテはしばらく沈黙し、閑静をかみしめた。



「まだ、頭の中であの音がする気が」

「……あれが本来の魔物……生き物と呼んでいいのか?」

「大丈夫でしょうか? 追ってきませんか?」

「魔法は使えないし、あの部屋自体が深い海溝の底だ」

「へ?」


 聖銅で造ったハコだから極銀のケーブルを介さない限り魔法的に外部と隔絶されている。

 そのケーブルは先ほどの鍵で外れる仕組みだから、もうあの中から『転移』やその他の魔法による移動は不可能。


「アプル伯爵に頼んで、一番深いところに沈めておいてもらったんだ。水圧がかかるから破るのは困難。破っても海の底だ。金槌は泳げない」

「さ、さすがです。『転移』にこんな使い方があるなんて……」

「それより、『同調』は?」



 ミカルディーテが首を振る。

 あんなチャンス、またあるかどうか……

 魔物になった方法、数、目的。

 何もわからない。



「そんな目で見ないで下さい。私を信用してくれたロイド君には私が知っていることをお話しします。とは言っても、私の師匠が知識をもとに推測したことがほとんどですが」

「師匠も、あんな感じ?」

「違いますよ!! 私の師匠は確かに魔物ですが由緒ある魔物です。魔導連盟の創設時から居られる『知識の魔物』で、彼女は魔導連盟の大書庫を護っているんです」



 魔物にもいろいろあるのか。



「ロイド君、会ってみますか?」

「いえ、あれを見た後に魔物に会うのはちょっと……」

「大丈夫です。知識を理解し、得るために師匠は理性を持っています。知識を生み出す人間に危害は加えませんし、あんな化け物じみてもいません。そもそも、気に入らない者には姿を見せませんし」



 ふむ。

『知識の魔物』はともかく、大書庫には興味がある。魔物関連の知識が乏しい。


 教会にしても、魔物を生み出す方法、人を操る方法など、おれの知らない魔法を使っている。

 それらについて、事前に調べておきたい。



「会うかどうか、それはあなたの話を聞いた後で考えます」

「わかりました。では、お話しします。まず教会が何をする気なのかを」



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