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20.炸裂する聖銅の弾丸

 カテディウスは部下と思われる男たちを引き連れ、ロイド工房に押し入った。



「随分と不躾じゃないですか」

「そこの女は帝国の内情を他国にリークしている疑いがある。これは魔導連盟員の立場を利用した背信行為だ」

「それはぼくが情報を悪用するということですか?」

「とんでもない。君の力には敬意を表する。だが、協力を要請するなら軍が正式にする。そこの女にその権限はない」



 なんだかややこしいことになってきた。



「これは王国にも関係する話です。彼には聞く権利があります」

「わからん女だ。情報を持っているならまず帝国軍に提供するのが帝国人の役目。まして貴様は軍閥の娘。祖国と家族を裏切っているとわからんか、この売国奴が!!」



 手下たちがミカルディーテを取り囲み、槍を向けた。



「私は国も家族も裏切っていません。軍こそ、民から略取し、戦火を無為に広げ、教会の蛮行を止められていない。あなた方は信用できない」

「信用? フハハ!! おかしなことを言う。貴様こそ信用に値しない。『怪童』、この女に騙されるなよ? この女は『同調』で他人の意識を読み取り、印象や思考を操作できる。今見ている見た目や、印象も本物か怪しい」

「『同調』は知ってます」

「ならこれはどうだ? 教会はカルト集団ゆえ洗脳を使う。そして実際に魔法的に大衆を操り、今の規模に拡大したのだ」


 教会も『同調』に準ずる精神干渉系魔法を有している。


 黙っていたのはこれが原因か。

 確かにこれは疑われても仕方ない。



「そんな女がドラゴンを使役した。君たちを操り、自分は難なく力を手に入れる。次は王国だ。騙されるな」

「言いがかりです」

「なら事実を話そう。『怪童』、この女は異端者と呼ばれている。その理由を知っているか?」

「魔獣を操るからでは……」

「違う。この女も含め、異端者たちはな、魔物を師と仰いでいるのだ」

「魔物を?」

「そう、『知識の魔物』より力と知識を授かった代わりにその命令で動く手先に成り下がった。そもそも人類に背を向けている、裏切り者なのだ」



 ミカルディーテは立ち尽くし、反論する気もないようだ。



 魔物に従い、人を操り、ドラゴンを手に入れた。



「分かっただろう。その女は帝国軍が預かる。ドラゴンもな」

「帝国軍は教会とつながっている!!」



 囲まれて拘束されかけた彼女が叫んだ。



 苦し紛れのでまかせか。



 カテディウスの部下たちは相手にすることなくあざ笑いながらその手にした槍の石突きでもって彼女の全身を滅多打ちにしようとした。


 その前に目が合っていなかったら、おれも迷ったことだろう。



「魔導連盟の『将星』に軍が手を出すとはランザレアの黄昏事件を彷彿とさせる」



 男たちがバタバタと首を抑えて倒れた。

 大気魔法『拡散』で彼らの周囲にある酸素を奪った。


「『怪童』、これがどういうことかわかっておるのか?」

「ロイド君」

「ぼくは陰気な嫌がらせを結構受けてきたものですから、性根が腐っているかどうかは見てわかる自信があるんです」



 そうだ。

 おれはそこを見誤ってはいけない。

 切羽詰まって、誰かに助けを求めたい。

 切実な人間のシグナルを見逃してはいけない。


「そんな印象など、操作されていると言っているのだ!!」

「ぼくを操れるなら、彼女は回りくどい真似をする必要ありません。ぼくは彼女を信じますよ」



 おれはミカルディーテを信じる。


「あと、なんだか正論を言うあなたの方が性根が腐って見えるんですよね。不思議だ」

「おのれ……」

「ロイド君!!」



 ミカルディーテが駆け寄り、おれにすがるように身を寄せた。



「ありがとうございます、本当に」

「あ、ちょっと離れてください」

「ごめんなさい、感動してしまって!! 王女様がいますものね」

「いえ、『同調』で操られたくないんで」

「感動を返してください」



 ギシギシと床を鳴らし、カテディウスが近づいてきた。

 ため息をつき、こちらを見下ろす。

 その眼には侮蔑が籠っている。



「失望した。『星導十士仙(スターズ)』『神士七雄(セブンズ)』にまで到達した人族として、帝国に迎え入れられたというのに、情に左右されるとはな」

「それがぼくのいいところだと自負しています」

「悪いが、その女の味方をするのなら、帝国に来られては困る」



 そう言ってカテディウスは軍服の内ポケットから小さい機械(カラクリ)を取り出した。


 筒の端にある金具を親指で引き、人差し指に半月状の金具をひっかけて、引いた。

 部屋を突き抜け反響する轟音。

 筒の先から放たれる金属と火の粉。



 放たれた金属の玉はおれの脳天目掛けて飛んだ。



 そして、鋼鉄の剣の腹にめり込み、おれをミカルディーテごと倒れ込ませた。



「あっぶね!!」

「何!! どうして反応できた!? 魔道具ではないのに!!」

「近づいてくれて助かりました。遠距離だったら逆に弾道を予測できなかった」



 鞘の中で高めた空気圧を一気に解放し、抜刀して盾にした。剣を振らずに斬撃を飛ばすのは無理だが、おれだって手を使わず剣を抜くぐらいはできるんだ。



「貴様、これを武器だと知っていたのか!? なぜ!?」

「ぼくは天才なんで」



 球は聖銅(オリハルコン)

 魔法で防げない。

 仮に武器だと分かっていなかったら魔法で防ごうして失敗しただろう。



『風切』でカテディウスの手に持っている単発銃を弾き落とした。


「ぐっ……!!」

「さて。言い訳をしてもいいですが、ぼくを納得させられますか?」


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