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17.星導十士仙 『焰星』・『光星』 ▲

 ドラゴンの件を片付けた後、王国に噂が立った。



 ロイドは帝国と共謀しドラゴンを使って民衆の不安を駆り立てている。



 商人ギルドが流した噂だ。



「ロイドは我ら商人ギルドが被った損害に対し、償いをするべきである。よって、ロイドの保有するベルグリッド商団の経営権とドラゴンに対するあらゆる権利を商人ギルドへ委ねることを正式に命じる!!」



 王宮に乗り込んできた商人ギルドの有力者たちは得意満面に国王の前で要求を告げた。



「ロイドはドラゴンを鎮めた功労者である。罪はない」

「王室は商人ギルドの決定を無視するおつもりか? それは民衆の声を無視するとも同じですぞ」

「商人ギルドは偽りの情報を流布し、民を扇動することをやめよ」

「なんと、我らの口をふさぐおつもりか! ロイドが諸悪の根源なのは事実!!これ以上庇うならば、民衆の疑いは王室にも及びますぞ!」



 商人ギルドの有力者たちの前に、男、女が数人引き出された。手縄で拘束されている。



「余を見くびるな」



 商人ギルドが噂を広めさせた者たちはすでにつかまっていた。


 商人とは情報網が違う。

 光暗号通信で情報の出所はすぐに判明した。それだけあれば内務省の密偵が証拠を見つけ出せる。



「こ、これは陰謀だ!! 我らの財力を奪うつもりだろうがそうはいくか!! 民衆は信じないぞ!!」



 商人ギルドの連中は裁かれた。

 だが一度広まった疑惑はしつこく残った。




 ◇



「いやぁ~噂ってやつは信じられないもんですな」

「あはは。そうでしょう?」


 おれは片田舎で魔獣討伐を手伝った。

 小さな町の食堂に集まった町人たちと宴会を開き交流した。



 共に荒れ野に潜む巨大な化け物と戦い築いた絆がある。



「もう悪評には騙されない。ロイド侯は我らの味方だ」

「あはは、どうもどうも。今後ともよろしくお願いします」



 まるで選挙活動だ。

 いや、王国全土をめぐるから全国ツアー?



 友人たちに言わせれば、おれは得体が知れないらしい。




『歳を考えなさいよ。姫を救ったとかはともかく、王国一の魔導士だの人族最強に勝っただのドラゴンを飼っているだの、信じられないでしょーが』

『世界は広いんだからもっとあちこちめぐって見た方がええよ。王都とベルグリッドの往復しとるから変な噂が立つんやで』




 おれはシスティーナの護衛騎士として北から離れられなかったんだ。ドラゴンでも出ない限り。


 だが今は違う。



『土星』ことフォンティーヌの教えてくれた『転移』によって全国の駐屯魔導士団の拠点や神殿まで一瞬で移動できる。

 というか、連盟員にはこの『転移』ができるものが何人かいて、これまでも協力関係にある神殿にこっそりやってきていたらしい。



 リトナリアたちに借りを返すために冒険者ギルドに協力したり、従士たちに経験を積ませたり、アカネの修行、シャロンの発掘、システィーナの面目、システィーナとのデートなどを兼ねて、おれは呼ばれれば全国各地に飛んだ。



 山賊退治に魔獣討伐、災害救助や貴族同士の調停などその活動は多岐にわたった。



 幸いおれは親しみすい顔をしているらしく、いっしょに何かすれば割とすぐに信用してもらえた。



 しかし、回数を重ねていくうちに、訓練の相手とか闘技大会のゲストとか魔獣研究発表会の参加とか、緊急性の低い催しに招かれることも増えた。

 実はこっちの方が話が広まるのが早かった。


 これまでこういう社交を断っていたのも悪かったんだと反省した。



 おかげでおれの顔と名前とちゃんと国のために働いていることが周知されていった。


 そういうわけで噂を聞いた吟遊詩人に取材を受けるなんてこともある。



「なるほど。ですが、要請が無い場所にも行ってますよね? 何してるんですか?」

「魔獣の多い場所や神殿には招かれなくてもこっちから出向いてます」



 教会対策だ。


 ドラゴンの情報から魔物の脅威を知った。


 フォンティーヌたちいわく教会は神殿と古代の遺跡を狙う。


 王国は広い。

 教会が魔物を生み出し、操れるとしたら複数の魔物が同時に全土に出現する場合も考えられる。


 その場合駐屯魔導士団と騎士団、聖騎士たちだけでは足りない。



「ほほう。最近、町や村に魔獣が侵入できない結界なるものが張られていると聞きましたが、あれはロイド様の仕業でしたか」

「仕事、仕事ね」



 大気中の魔力を扱える『吸収』は応用が広かった。

 刻印魔法で、大気中の魔力を『吸収』し、それを魔力の集中により生まれる『障壁』の発動に運用する。


 魔獣の接近を報せる魔獣探知機と組み合わせれば魔獣から魔力を吸収する罠にも使える。



「これはいい話を聞けた。さっそく唄にしましょう」

「あ、女性は出さないで下さい」

「……え?」



 吟遊詩人がとぼける。

 もうこいつらの魂胆は分かっている。

 おれの物語は何の危機もないので、勝手にエピソードが追加されたりする。



「えぇ~何々? うちのことも出してくれるん? うへへ、何かすまんな~。遺跡の発掘も手伝ってもろうて」



 シャロンは古代の魔物の骨やら魔道具やらを見つけて上機嫌。

 ずっと飲み続けている。



「出すならありのままにしてください。美化せず」

「……あ、じゃあ尺の都合があるのでカットします」

「なんでや!! ベルグリッドの顧問官さんは別嬪やて有名なんやで!」

「酒乱でがっかりすると有名なんで」



 おれの物語にはおれの知らない美女がやたらと出てくる。いつも違う女を連れているともっぱらの噂だ。

 もはや、ロイドという人物が複数いなければおかしいというぐらい内容が違う。




 取材を終えたら『転移』で直帰。



 王宮で三人が待っていた。


 エリン、フォンティーヌ、リース。


「お帰り。孝行息子」

「ようやく帰ってきた!! 最近あちこち行き過ぎだわ」

「どうしたんですか皇女殿下?」

「仕事だ。仕事」

「まずは私からだ」



 エリンが上質なローブを手渡してきた。

 フォンティーヌが着ている派手なやつだ。



 帝国における最高位の魔導士、【宝神龍紋(ヴァルシリオン)】の証。




「なんで? 試験受けてませんよ?」

「称号を得る者がライセンスを持たないでは問題だからな。連盟員の総意でもある」

「称号?」


 フォンティーヌが扇子をおれに向けた。


「『怪童』、君の魔法力が認められたわ。私の報告のおかげで。で、称号が授けられた。魔導連盟を代表して私、一等『天星』・『土星』たる私フォンティーヌが『ローアの怪童』、ロイドに『焰星』・『光星』を名乗ることを許す」

「え? 『焰星』・『光星』って何ですか?」

「称号にはいくつか空位があるのよ。君はあの『流星』の力で【光】とその上位属性【熱】の使い手と認められたってことね」



 フォンティーヌが神鉄でできた丸い牌を二つ手渡した。

 これが称号を持つ証か。

 フォンティーヌのものとは紋様が違う。


「星導十士仙へようこそ」



 世界最高の魔導士十一名の中に数えられることになった。


 もう満腹だ。

 なのにまだリースが残っていた。



「主よ。『神士七雄』、七番目に列せられたことを御報せ申し上げる」


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