14.『神士七雄』 世界で二番目に強い奴
神殿の一室で顔を突き合わせ、おれとミカルディーテ、ランハット、アラス、フォンティーヌが座っている。ドラゴン討伐の唯一にして確実な方法とやらを聞くためだ。
すると、ミカルディーテから提案されたのは『神士七雄』の協力を仰ぐというもの。
『神士七雄』
世界最強の七名。
一位『始祖』 神魔族
二位『黒獅子』獣魔族
三位『竜王』 竜人族
四位『大賢者』魔人族
五位『韋駄天』人族(バルト民族)
六位『不死王』翼手族
七位『大災害』紅火族
そこに名を連ねるのは存在も怪しい、奇人・怪人ばかりだ。
「『大賢者』である師匠を当てにする気? だーめだめ。今は教会対策で忙しいんだから。それに魔導士はドラゴンと相性が悪いのよ?」
「いえ、別の方です」
ミカルディーテが首を振る。
『土星』フォンティーヌの師は『大賢者』
連盟の一等『神星』、一級魔導博士、『大魔導』の三冠を有する者だ。
だが連盟員で帝国人のミカルディーテがほかにだれを当てにできる?
「ランハット、貴様そのような伝手があるか?」
「いえいえ、おれが会ったことのあるのは『大賢者』ウルフィンだけだね。他はなんて言うか、おれたち人族と話すタイプじゃないからね」
「一人だけ、可能性がある方がいるんです。それも、ロイド君が説得できると思います」
「ぼく? いえ、ランハット以外に『神士七雄』の知り合いなんていませんよ」
ミカルディーテの顔は真剣だ。
そんな分かり切っていることをあえて言うからには何か勝算があるのか?
おれだと説得できる?
「アラスといい、あなたといい、その子に入れ込む理由がわからないわ。歴史上ドラゴンと渡り合えたのは女神の祝福を受けた神鉄級冒険者レイダー・カルバイン、獣王を倒した剣神システィナ、あとは」
「たった一人で帝国軍と渡り合った『神士七雄』第二位、『黒獅子』のリース。彼です。彼を仲間に引き込みます」
みんな押し黙った。
アラスはため息をつき、フォンティーヌは手に持った扇子をバシバシと苛立たし気に弄ぶ。
「無理でしょーね。あの『黒獅子』が力を貸す理由はないわ」
「荒唐無稽だ」
おれも彼らに同意だ。
まったく現実的ではない。
何故なら、『黒獅子』は帝国の敵ともいえる存在だ。
王国とは縁もゆかりもない。
彼がドラゴンと戦うためにはるばるここまでくる理由は何一つない。
なぜおれが説得できると確信できる?
それより、師匠の名が出た。
神がこの事態に干渉するのは問題かもしれないが、彼女を説得する方が勝算がある。
「いや、あながちそうとも言い切れない」
ランハットが賛同した。
「ロイドちゃんが説得できるかはわからないが、『黒獅子』は純粋に戦いを楽しむために戦う戦闘狂だと聞く。ドラゴンと戦えと聞けば、むしろ乗ってくるかもしれない」
どうやら一考の余地はありそうだ。
しかし疑問がある。
「その人はこの近くにお住まいで?」
「いや、暗黒大陸だろうね」
どれだけ離れてるんだ? 2、3日の小旅行とはいかない。大冒険になってしまう。
行って戻ってくる間に王国が滅んでるかもしれないぞ。
「時間はかからない。私の魔法を使えばね」
「姉上、ミカルディーテの言葉を信用する気ですか?」
「馬鹿、アルス。これは信用とは関係ないの。結果を知るにはだらだら待って報告を聞くより、いいってだけ。それにドラゴンの被害の責任の一端は帝国、ひいては我々皇室にも責任があるでしょ。あとであれこれ文句言われたくないわ」
今、帝国の責任を認めたな。何だこの人、黙ってればいいのに。いい人だな。
「『獣星』、場所はわかっているんでしょうね。あなたの魔獣でそこに私の魔法陣を敷きなさい」
「すでに設置済みです」
「……それは用意がいいこと。じゃあ、『韋駄天』と『怪童』、『獣星』行くわよ」
「姉上、余は!?」
足元に魔法陣ができた。
砂を使った、刻印魔法。この人、すげぇ! 土魔法で刻印魔法を瞬時に! こんな使い方があるとは……!!
景色が変わった。
牧歌的な草原。
目の前に、長身の男が立っていた。
「闘うか、さもなくば去りなさい」
品よく笑顔で話す男の威圧感に、おれたちは誰も言葉を発することができなかった。
◇
気が付くとおれはその場に尻餅をついていた。
一瞬で移動した『土星』フォンティーヌの魔法に驚いたのか。
いや、目の前の男の気迫に圧倒されたからだ。
それは隣にいるフォンティーヌ自身がへたり込んで動けないでいることが証明だった。
「帝国人ですか。別に恐れる必要はない。戦争は終わりましたし、女子供を相手にするつもりはありません」
意外と紳士的だった。『黒獅子』なんていうからどんな化け物かと思ったら、魔人族と大差ない。
当たり前のように中央大陸語を話している。身なりも整っている。襟の付いた品のいい黒い服装。
戦闘狂???
「それで、だれが闘う?」
「おれだよ」
ランハットが名乗り出た。
さすが、恐れる様子もなく、前に歩み出た。
「『神士七雄』五位、『韋駄天』のランハット・ソード。会えて光栄だ。第二位『黒獅子』のリース」
二コリと笑った『黒獅子』が手招きをする。それに応じるランハットは韋駄天走りの三次元的な空中殺法で接近と同時に二刀を乱れ撃ち、前後左右上下を斬りまくった。
ドシン、という重い響きと共に、ランハットが動きを止めた。
『黒獅子』の拳が腹に入っている。
それとほぼ同時に、その側頭部に蹴りが入った。
いや、おれの眼には入っているように見えたが、ランハットはくるりと身をひるがえし、距離を取った。
土煙が舞う。
「ほう? いい動きだ」
すごい。
これが『神士七雄』同士の――
「は、はは、全くだめだな。おれでは無、理……だ……!!」
ランハットが血を吐いて倒れた。
「えっえええぇぇぇ!?」
「うわぁぁぁ!!」
「ぎゃああああ!!」
この人ドラゴンと渡り合ったんだぞ?
それを一撃。しかもあれだけ斬られて何で無傷?
「ロ、ロイド君、お、お願いします!!」
「いいいいいや、お願いしますって!! ぼく10歳なんで!!」
「ちょっと、男でしょ!? 何とかしたらたくさんお菓子あげるから!!」
「要りませんよ!! 子供扱いしないで下さい!!」
「だから、ロイド君なら大丈夫ですってば!!」
あ、あああ、だめだ。
膝が笑ってる。
口が乾ききって痛い。
「あ、あのあの……ドラゴン討伐に興味は?」
「無いですね。ドラゴンは形勢が不利になると逃げるので、追っていると無駄な被害が出て迷惑ですから」
ああ、説得力のある理由で断られた。
無理じゃん。おい、ミカルディーテ!!
「他に要件が無ければお引き取りを。彼は治療しないと死んでしまう」
「あ、ああ! ごめん、ランハット!!」
おれは急いで『治癒』を使った。
「神聖魔法ですか……」
ああ、眼をつけられる前に、帰りたい。
でもドラゴン……
「あの、困ってるんですけど、助けていただくことは――」
「……ふむ」
あれ?
ちょっと考えてる。
普通に頼めばいけるのか?
「あ、あれ?」
『治癒』が終わっても、神気が止まらない。
自分で制御できなくなった。
神気が抜けていく感じがした。この感じ、何度かあった。『神域』の神気をシスティナに吸収された時と同じ。
でも今回は魔力も抜かれている。
これは、エリアス様に出会ったときの感覚。
攻撃ではない。
でも自分の操縦桿を他人が握っている感じがする。
気が付くと、『黒獅子』の前に誰かが立っていた。
『Mr.レジェンド参上!! さぁ、第二ラウンドの相手は誰かってー!!? おれだー!!』
謎の男はローア人で、何とも不気味な顔と声をしていた。
誰だこいつは?




