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13.ドラゴン、王国に到達する

 


 システィーナと婚約して程無く、おれには嫌がらせの手紙や訴状が届いた。


 システィーナが人気だから民衆からも反対がある。それはわかっていた。公爵家にも反対が多い。これも仕方のないことだ。

 しかし商人ギルドの訴えはシスティーナとは関係ない。

 おれが魔獣の被害を拡大していると賠償金を求め始めた。

 ベルグリッド迂回路の開拓を邪魔するため、魔獣をけしかけたのがおれだというのだ。気にする必要はない。


 だが魔法省の資料課に問い合わせておれは奇妙なことに気が付いた。


「魔獣討伐数が多すぎる……確かにこれでは駐屯魔導士団が魔獣を刺激していると思われても仕方ない」


 魔獣探知機と光暗号通信でどこに魔獣が現れたか場所と時系列を分析できる。

 それを地図に当てはめると俯瞰的に状況が見えてきた。

 駐屯魔導士団は関係ない。


 これは異常だ。


 ある一点から逃げるように魔獣が移動している。移動の連鎖が魔獣の遭遇率を上げている。



 その一点に何があるのか、調査に向かったおれたちが遭遇したのは……


「なんだ、タンクか」

「ロイド、お前もか」


 タンク、リトナリア、マスのパーティがおれと同じように調査に来ていた。


 こちらは紅月隊から五席のメイジー、内務省からデッカード、魔導連盟のミカルディーテとその護衛のランハット、支部の駐屯魔導士団と駐屯騎士団から数名ずつという顔ぶれだ。


「ロイド君、そちらのお姉さんたち紹介してくれる?」

「何かわかりましたか?」


 マスは無視。


「ああ、なんかいるぜ。魔獣が食い散らかされてる。そこら中荒らされてるしな」

「お姉さん、お名前は?」

「ごめんね、結婚してるの」

「わ、私も……」


 ミカルディーテは嘘だろ。

 まぁ、対応は間違ってないけど。


「ランハットとは?」

「おお、顔見知りだ。一回指名依頼でな」

「私も以前すれ違った程度だが」

「おれ、おれも知ってるしぃ~」


 マスは絶対初対面だろ。

 タンクとリトナリアの顔が異常に広いだけだが。


「ああ、『大陸一位』と『赤い手』、『魔弾』だな。よろしく」


 ランハット優しい。

 

「タンク、魔物かな?」

「どうだろうな。だとしたら、ここで集まってるのは――」



 おれたちが互いの情報を交換している時、それは現れた。


 木々の間からおれたちに影を落とし、覗き込んできたのは鋼鉄の鱗としなる強靭な筋肉の塊、大気をつかむ巨大な翼をもつ最強の生物――



 誰かが叫んだ。


「ド、ドラゴンだー!!」

「逃げろー!!」

「なんで、ローアにこんな化け物が」



 臨戦態勢を整える暇もなく、その口から放たれた音の塊で、おれたちの平衡感覚は失われた。

 ただ、咆えただけ。

 魔法でもないのに。


 おれは『記憶の神殿』で自分の普段の動きを再現し、なんとか持ちこたえた。


 立っていたのはタンク、ランハット、リトナリアの三人。



 おれは『流星剣』で首を飛ばそうとした。

 プラズマは魔力の濃密な壁に遮られ到達しなかった。



「防がれた!?」

「ただの魔法防御力だ!! 口から鉄を熔解する炎を吐くんだぞ、こいつは!!」

「戦うな!! 魔法は効かない!!」

「こいつ、赤竜の成体だぜ。ロイドちゃん、防御だけに専念しよう。タンク、長耳ちゃん、撤退の準備だ」



 それは凄惨たる戦闘だった。



 その日、南西部の森から上がった火柱は王都でも確認されたという。

 森に広がった火は森全体を焼き尽くし、そこには巨大な支配者が君臨した。


 パラノーツ王国は国土の約5%をドラゴンに占有されてしまった。



 おれたちが全員生きていたのは奇跡だった。



 

 ◇



 南西部にある前線となった街、その神殿に集まったおれたちは作戦を立てようとした。

 

 魔法が通用せず、接近にも気が付かなかった。

 妙案がすぐに出るはずもなく、絶望的な空気が漂っていた。


 そのおれたちの前に唐突に連盟員のローブを着た女が現れた。

 アラスが一緒にいる。



「フォンティーヌ様」



 ミカルディーテがいち早く気が付き、跪いた。



「ちょっと、やめてー。今日は連盟員として来たしー」

「ロイド、おお、ロイドよ!! 貴様に会わせるために姉上を連れて参ったぞ」



 この人が『土星』、土魔法を極めた魔導士か。


 どうしてここが?

 一度王都に来たのなら、そこからここまで七日はかかる。

 入国したときに報せが来るはずだ。


 どうやってきた?


 混乱した頭で、心無く雑な挨拶をした。



「君が『怪童』? ふぅ~ん……何歳かな?」

「十歳です」

「だよねだよね、そのくらいだよねー」



 皇女、ローア語が堪能だが、どうも皇女らしからなぬ軽い口調だ。先生が悪いなこれは。



「おいーアラス! 『怪童』ってホントに子供じゃないのさ!! わたし、自分より弱い男に興味ないって言わなかった? 言ったよね? なんだ、行き遅れの姉には何でもいいと思ったか? わたしはそんなに女として見込みが無いか!?」



 帝国語でも下町のお姉さんみたいだ。

 


「い、いえ、姉上。このロイドは相当な腕前、いずれは姉上を越えることもあるかと……」



 フォンティーヌが改めておれをじっくりと見る。



「……魔法力はありそうだけど、なんか弱弱しいわよ」

「ど、どうした、ロイドよ。その疲れ切った顔は」

「聞いてませんか?」



 ドラゴンが現れたことを二人は知らなかった。

 魔法が一切通用せず、おれのハートはずたずただ。



「ああ~、たぶんそれは教会のせいねー」

「教会?」

「教会は魔物を生み出している。ドラゴンが住処を追われるとしたら魔物ぐらいよ」

「あ、姉上、それを言っては!!」


 魔物。

 教会が生み出す?


「個体数が少ない以外に弱点はない。だから対策なんて無駄よ。さっさと逃げなさい。ドラゴンとまともに戦えるなんて、そこの『韋駄天』ぐらいだけど、一人じゃ無理でしょ?」




 ランハットが肩をすくめた。

 確かに、逃げる時、ランハットだけがドラゴンの攻撃を受け流せていた。

 おれたちは足手まといだった。倒れた仲間たちを連れて逃げるだけで精一杯だったからな。



 おれたちに成す術はないのか?



「一つだけ、手があります」



 そう切り出したのはミカルディーテだ。



「おそらく唯一といっていい確実な方法です」

「何ですか?」

「ロイド君、方法を教える代わりに一つお願いがあります」


 お得意の駆け引きか。

 だが、目的は知ってる。


「……教会討伐には協力します」

「いいえ。帝国に行ってください。アラス殿下、フォンティーヌ様も、彼を帝都宮殿に招くために協力してください」

「どういうことだ? ロイドを招くことは構わぬが」

「その子に何ができるの?」




「ロイド君は帝都宮殿に潜り込んだ教会の黒幕を見抜けます」


 

 おれが?


 待て。いやな言い方だ。

 まるでおれがその黒幕とつながっているようではないか。



「いやいや、ぼくにそんな約束はできませんよ?」

「あなたはまだ知らないだけです。しかし私は『同調』で知りました。あなたにそれができることを」



 そういえば、シャロンがそんなことがあったはずだ、と言っていた。『同調』は失敗していなかったのか?



「私はそれをあなたの『記憶の神殿』で確かに見た」



『記憶の神殿』を他人の口から聞いたのは初めてだ。


 ミカルディーテ……

 嘘ではない?

 おれが知らない、おれの情報を読み取ったのか。


「おもしろいわね。帝都宮殿内に黒幕が潜むことは皇室の一部の者しか知らないこと。ミカル、あなた、今自分の寿命を縮めてるってわかってるー?」

「黒幕の存在は師匠の推論です。でも、ロイド君が見極められることは私が『同調』で探り当てたこと。もし間違っていたら、私の首をはねて下さって構いません」



 これは彼女にとってもリスクの大きい賭け。

 全ては教会の黒幕を探し出すため。

 それにはおれの力が必要。


 本気か?

 この賭けはおれ次第なんだぞ。


「聞かせてください。ドラゴンをどうにかできる方法があるなら、どこにだって行きます」

「あのドラゴンを倒す方法。『神士七雄』に協力を頼むんです」


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