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9.魔力共感覚者

 



「大商会の御曹司たちらしいで。魔族のうちにそないなこと言われてもな」

「ああ……」



 天幕で不満気にふんぞり返る若者たち。



「あ、おい! そこの魔族、ロイドはいつ来るんだよ!!」

「こっちは大事な商談を他に任せて来てるんだぞぉ?」

「こんな粗末な場所に放置するなんて冗談じゃないわ!」

「ぼくたちを怒らせたら君じゃ責任取れない事態になりますよ?」



 ふむ。



「なぁ? これや。力づくで追い返しても良かったんやけど駐屯騎士団の連中が止めろ言うから」

「有名な商会で、ベルグリッドに支店を持っているんです。商会ギルドでも顔が利きますし、貴族に大金を貸し付けているので影響力もあります」

「それは厄介やな」

「いいえ。こういう忖度が起きないようぼくがいるんです」



 おれは御曹司たちの気配を探った。

 本当に魔法が使えるのか?



「失礼」

「なんだ小僧?」



 ちょ、なんでおれを貴族だと見抜けないんだ?

 節穴め。



「ナターク商会のレミオ様、クシン商会のダロン様、ヘリッツ商会のリジュエット様、タクス商会のナルクス様ですね。私はロイド・ギブソニア。以前お会いしております」



 四人は何だか反応が薄い。

 偽物だとでも思ってるのか?


 おれは天幕全体を瞬間冷凍した。

 四人は召使たちと慌てて日陰の外に出た。



「粗末な天幕ですいません」

「こ、これは氷魔法か!」

「……ドラゴの……ということは」

「おおーおおーロイド卿、ご無沙汰しているのだよぉ!」

「あら、すっかり立派になられてわかりませんでしたわ!」



 白々しい。


「それでどのようなご用向きですか? 試験は終わったと聞きましたが?」

「それはそこの魔族が無能なのだ!」

「そーだよぉー! ぼくは大魔導士になれるとパパに言われてるんだ」

「ワタクシの才能を見抜けないなんてこと、ロイド卿はありませんわよ?」

「試験の方法に納得いかないですね。ぼくの魔法は特別なので。王国にとって損失ですよ?」



 その自信はどこから?

 まぁいい。

 確かにプレートを打ち落とす形式では実力が分からないだろうな。



「では、再試験としましょう」

「さすが、話が分かる」


 得意満面の四人。

 シャロンがギョッとしている。分かってるって。こういう特例を造ると後が面倒だ。



「ただし、再試験で不合格の場合は二度と試験は受けられません。それでもいいならどうぞ」

「ふん、二度目はない」

「ロイド卿ならぼくの力がわかるからねぇ」

「ワタクシの力をお披露目できるなら問題ありませんことよ」

「試験内容によるね。ぼくの魔法は」



 はいはい。



「どうするんや? 多分落ちてもまた言いがかりつけてくるで? まさか、師匠が直接戦うんか?」

「いいえ」



 おれは彼ら望む試験形式で再試験をすることにした。

 プレートの打ち落としではなく、地面に設置した的を射抜く、旧来のやり方だ。

 時間制限が無く、重なった的を何枚射抜けるかという競技。

 今となってはあまりに非実戦的で魔導学院でも廃止なった。



「こんなんで合否を決めるんやったら、うちらを巻き込んだ意味ないやろ?」

「そうですね。ところでシャロン、合格者はどこです?」



 ◇


「いや~、さすが師匠や~。あっさり解決しおったな~フヘヘ」


 さっそく酔ってやがる。

 まぁ、楽しく酒を飲めるのはいいことだ。


 魔導士団の中には食堂もあり、中々に美味い食事を出していた。



「あれでは戦いで足手まといだしすぐに死ぬ。四人の命を救いましたね」

「でもずっと先生の悪口を言っていた。きっと仕返ししてくる」

「大丈夫です。四つの大商会がベルグリッドを迂回するルートでも開拓しない限り影響は出ないです」


 不合格者たちは二度と試験を受ける資格を失った。

 ただ、試験合格者と競わせただけだけど。


 なにせ奴ら、やたらと詠唱が長い上に対した威力の魔法も使えない。短縮詠唱した合格者より精度も威力も下だった。



「お礼にどや~! うちが世界中で美味いと思ったレシピを料理人に教えたったんやで~。お姉さんがおごったるで~」

「ふむ。全部酒のつまみじゃん」

「いや、なんでわかるの? 師匠酒飲んでる?」

「食堂でバイトしてるんで」

「なんでやねん」


おれとシャロンの軽快なトークの中、アカネはずっと浮かない顔をしている。


「先生、あたしはあの合格した人たちみたいになれないよ。みんなすごかった……あたしは不合格の四人の方だ」



 うなだれているアカネ。


「あたしには魔法しかないのに……」

「師匠、なんやのこの子?」

「何って……」

「自分の才能に気付いてないんやない?」

「あたしの……才能?」


 シャロンめ。

 おれにはおれの弟子を育成するプランがあるのに。


「ロイド、アカネちゃんはあんたとちゃうんや。入口には立たせてやらんと」

「入口には立っていると思ってますけど……」

「それを気付かせてやることも時には必要なこと……と、弟子をたくさん見てきたうちは思うで~」



 経験者のアドバイスは素直に聞いておくべきか。



「アカネ、合格者から四人を選んで連れてくるよう頼んだでしょ?」

「うん……?」

「君は優秀な四人を選んだ」

「え? ただ適当に呼んだだけ」

「だから、それが君の才能なんだってば。魔力の流れを呼んで、君は直感的に相手の魔法力を感知できる」

「魔力共感覚者いうんやで。希少な才能で、うちの弟子にも居らん」

「でも……」


 本当にピンときてないようだ。

 彼女は無意識にやってる?

 天才かな?


「初対面でぼくを魔導士だと見抜いた。それにシャロンを見て萎縮していた。無意識にでも君は気付いている」


 攻撃魔法を覚える必要なんてない。

 それはおれの考え。

 どんな魔法職を思い描き、進むかは彼女次第だ。


「あたしはどうすれば?」

「今の曖昧な感覚を言語化して具体的な意識にする。そうやって技術に。その技術を元に何をするかはあなた次第ですよ」

「うん、わかった。あたしは先生みたいにズルいぐらい一方的な魔導士になる!!」

「お、よく言った~!!」

「ぼくはズルいかな? 一方的かな?」


 何はともあれ、少しは道が見え始めただろうか。

 


「……『怪童』、スラスラアドバイスしおったけど、あんたもその手の技術を持っとるいうことか?」

「弟子にしたからなんでも話すというわけではないよ」


 シャロンはただおれの弟子になったわけじゃない。

 おれの何かを探っている。



「なら、ゲームしよ。互いに知りたいことを質問し合う。答えられなかった方が負け~」

「いや、いいよ」

「質問。商会の迂回、本当にあったら勝算は?」


 勝手に始めやがった。

 まぁいい。おれも聞きたいことがある。


「商家には伝手がある。勝算もある」

「ふ~ん。じゃあ、そっちも質問してみ」


 踏み込んでみるか。


「ミカルは何者?」

「知ら~ん。じゃあうちの番。ランハットをどうやって倒した?」


 ふざけてるな。


「いくつか上位属性が使える。それを組み合わせた。こっちの番だ。ミカルは次に何をする? ぼくを使って何をする?」


 シャロンは虚ろな目でこちらを見ている。

 酔い過ぎだな。


「今日はお疲れ様―――」

「『怪童』、教会について、どこまで知っている?」


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