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8.ベルグリッド駐屯魔導士団への視察

 ベルグリッド市の近郊にある平野に真新しい石造りの要塞がある。

 緑の草木の中にポツンとある灰色の建物。


 駐屯魔導士団、ベルグリッド支部だ。



 まるで刑務所のように高い塀で覆われている。騒音対策だな。

 中では早朝から次の日の早朝まで永遠に魔法が発動され続ける。

 良い兆候だ。

 ライセンス試験が順調に行われ、並行して駐屯魔導士団の採用試験も行われている。



 おれはここに視察にやって来た。

 なんでも、おれに会いに来る志願者が多く、『ロイド卿に判断してもらいたい!』と、不合格なのに不服とする者が後を絶たないらしく、ここを担当しているシャロンからSOSが来た。


 ついでなのでアカネを連れてきた。まだライセンス試験を受けさせる段階ではないが魔導士が使う魔法や評価を見ておくことは課題の明確化に役立つだろう。



 随分と慌ただしい。みんな忙しそうにあっち行ったり、こっちに行ったり。

 師走かな。



「さて……」



 入口で受付をうけることにした。



「ロイド・ギブソニアですが、本日は視察に伺いました。魔法省から通達があったと思いますのでご確認ください」



 受付のお兄さんが首を傾げた。



「見学? えっと聞いてないんですけど。ここに名前を、書けます?」

「ああ、いえ、あの……ギブソニア家のものなんですが」

「……すいませんが、貴族や大商会の方でも試験は順番です。手続きは受けていただきます。例え領主の家の縁戚の方でもです」



 ベルグリッドにエリン室長が同行していたのに、急にギブソニア邸に残ると言って、おれとアカネしかいない。


 誰か連れて来れば良かったか。



「シャロンいませんか?」

「お、おい、君。どこの貴族かしらないけど連盟員の魔導士を気安く呼んではダメだぞ」

「えぇ?」

「試験に受かるかどうか、試験顧問であるシャロン様の心象は大きく影響するんだよ」

「ちょっと待ちなよ。先生はシャロンの師匠だぞ。『ベルグリッドのロイド』だ」


 アカネの発言に受付のお兄さんが笑い出す。



「アハハ!!」

「冗談じゃないぞ!!」

「『ベルグリッドのロイド』って……騎士だろ? 王女様の護衛の……それに抜身の剣のように鋭い気配の美少年と聞いたけど」




 なぜだか、普通に試験を受けることになってしまった。


 おれの噂は独り歩きしていた。

 まぁ、新聞もないこの世界で正確な情報なんて一般には知らされないんだろうけど……



「アカネ、ぼくって抜身のように鋭い系? 美少年?」

「全然!」



 アカネには少し忖度を覚えさせるか。



「でもなんで? 先生有名なのに」

「アカネも他の貴族知らないでしょう?」

「うっ……確かに」



 でも視察するにはちょうどいいかもしれない。



 試験はプライバシーに配慮していくつかのブースに分かれている。ざっくり見学はできないようになっていた。アカネは身内のため通されたが、試験官以外はいない。試験官と言っても魔導士ではないようだ。

 試験用のカラクリを動かす技師みたいだな。

 


「では金属のプレートが放たれるのでそれを打ち落としてください。チャンスは十回。タイミングはランダムで……」



 ◇



 試験が終わると部屋に通された。

 そこにいたのは眼鏡のスラっとした品のいい女性だった。



「シャロン様!! 久々に十回成功者ですよ! しかもプレートは全て完全に破壊。その上、無詠唱で複数属性した!!」

「そうですか。では上級は確定なので、連盟員の推薦のため試合形式で査定を……」



 白い軍服と流れるような黒髪。

 彼女は凛々しい姿に似合わず口をぽかんと開けている。



「え? 『怪童』……あ、いえ師匠がなぜ?」

「し、師匠? こんな子供が!?」



 試験官たちが驚いている。

 おれも驚いている。

 シャロンはこんな顔ではないし、姿勢も話し方も違う。なにより酒臭くない。



「本物のシャロンはどこですか? 本当の彼女は酒浸りで署名もまともにできない飲んだくれ。化粧なんてしませんし、そんなパリッとした服装ではない」



 おれの『記憶の神殿』には正確なシャロンの情報が記録されている。容姿、姿勢、顔つき、におい、気配、その全てシャロンと違う。



「仕事をサボって、あなたに押し付けているとしたら―――」

「顧問が酒飲んどったら信用されんやろ!!」

「あ、シャロンの声がする? シャロン、近くにいるんですか?」

「ここに居るわ!」

「うそだ!! ぼくの知っているシャロンじゃない!!」

「シラフで会うたことないだけやろ! これに関してはうちが悪いな!!」



 何か怒ってる?

 シャロンが試験官たちを戻らせた。



 通された部屋には山のように書類があり、酒はない。


「ん? あんたがロイドの一番弟子か。シャロンや。よろしゅう」

「あたしはアカネ」

「まぁ、仲良う頼むわ」


 アカネはシャロンと初対面で戸惑っている。

 伊達メガネは魔族特有の視線を遮るもので、怖がってはいない。だが、自分とシャロンの実力の違いに気付いたようだ。すっかり恐縮している。


 おれも、シャロンの放つ魔力の質や存在感には驚いている。

 酒を飲んでいる時は分からなかったが、これが本当の五等【将星】か。

『三面白蛇』は彼女の二面性のことか。

 もう一面は知らないが。



「ロイド師匠、確かにうちはあんたの弟子になる言うたけど……忙しすぎる!! 人手が足りんわ!! お酒飲まれへんよ……およよ……」



 あ、ヤバい。働かせ過ぎたか。

 こんなちゃんと仕事してくれるなんて思ってなかったから見張れるベルグリッドに置いておいただけなんだけど。



「ごめんね。でも、裏を返せば盛況ということでしょう」

「ここだけな!! あんたの出身地であんたに会える、見てもらえる、あわよくば弟子にっちゅう奴らが集まってくるんや!!」

「その割にはぼくのこと、受付のお兄さん知らなかったですけど」

「人手が足りん言うたやろ? 事務員は駐屯騎士団からの出向や」



 ああ、だからあの人、おれの剣士としての噂の方しか知らなかったのか。

 もっとがんばろう。



「それで、成果の方は?」

「評判は王都まで届いとるやろ。即戦力がちらほら、有望そうなのがまぁまぁ。育成面でも十分な人員が確保されとる。ただ連盟員に推薦するほどの腕前は居らんな」

「そうですか。そっちは気長に待ちましょう」

「うえぇ~……」

「まぁまぁ、試験は今のところほぼ毎日ですが、十分な数が確保できたら定期試験に変更しますから」

「じゃあ厄介ごとを片付けて~。顧問代わって~」

「顧問はともかく、問題はこっちで何とかしましょう。それで、何をすればいいんですか?」

「説明するより会った方が早い」




 簡易的な天幕に集められていたのは身なりのいい若者たちだった。



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