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8.【剣術】切っ先の恐怖


 神殿で治療を受け屋敷に戻った時、ブルゴスは何食わぬ顔で屋敷に居た。



「すまない。ベスの父親はセイロン一族という南部の古い血族で、ボスコーン家がその長なのだ」



 ヒースクリフに頭を下げられ恐縮した。



「ブルゴスは?」

「ベスのいとこだ。奴を神殿送りにするには軍を動かし、ベスの責任を問うことになる。だが、そうなれば戦争になる」

「わかります」



 屋敷にはベス派の使用人もたくさんいる。 

 藪蛇というやつだな。



「護衛を就ける。優秀な部隊長二人だ。それからお前の部屋や使用人への接近を禁じた。お前も近づかないように用心してくれ」

「わかりました」

「つらいだろうが耐えてくれ。学院に入れる7歳にさえなれば‥‥‥」



 駐屯騎士の護衛が就いておれに直接手出しできなくなったため三人はおれの顔を見れば口汚く罵ってきた。


 そんなジメっとしたシーンを語ってもつまらないから割愛しよう。


 二人の義兄弟は学院を落第していたため、すぐに王都に戻ったし、ベスのヒステリーは耳障りだが、長年パワハラを受けていたおれには耐性があるのでどうということは無い。


 そんなことよりも、少し自慢話に付き合って欲しい。


 おれはこの世界に来て、ようやくまともに教育を受けられることになった。

 ヒースクリフがおれに家庭教師たちを付けてくれたのだ。ありがとう父上!!


 それで気が付いたのだが、おれは、と言うかこのロイド少年は元から頭がいいのかもしれない。


 とにかく、知識の吸収するスピードが尋常じゃなかった。




 ◇


「素晴らしい!! 書式、文法、内容全て完璧でございますよ、坊ちゃま!!」


 興奮気味におれをべた褒めしてくれているのは家庭教師。


 おれも最初は驚いた。

 先生が文字を書いているのを見ていたら、すぐにできた。一発だ。


 今まで書く代わりに『記憶の神殿』に記憶することが習慣になっていたからか、先生のペンの運び、抑揚のつけ方、クセまで、完璧に記憶できた。


 それだけでなく、それを自分で再現できたのだ。



『記憶の神殿』は大げさな言い方をしているだけで、ただの記憶法のはずだ。

 それに記憶が完璧だからって、再現もできるものではない。


 元々が器用なのかもしれない。


 貴族のルール満載の定型句や言い回しを一通り教わり、算術、歴史、マナー、一般教養まで様々なことを教えられた。




「あの、坊ちゃま? ここまではまだ教えていませんが?」



 元々の知識に加え、おれは屋敷にある本をとにかく貪り食うように読んでいった。

 さらに驚いたのは、一回読んだ本を完璧に記憶できていることだ。

 完全記憶というやつだ。

 本の内容という複雑で膨大な情報も、集中すると正確に引き出せる。


 二か月もしたら大抵の本は読みつくし、基本的な座学は吸収し切った。


 前世は暗記するにしても要領悪かったのに、ここまで効率がいい脳みそなのは、やはり元々の才能なんだろう。


 おかげで毎回の授業は基礎から応用、実践へとシフトしていった。


「坊ちゃま、ここは!? この問題はさすがにわからないでしょう? ね!!?」

「……わ、わからなーい」


 教わることが無いと家庭教師はいらなくなる。

 わざわざ来てもらっているのに、二か月でお役御免とするのは申し訳ない。


 それにちょっとムキになった先生たちが怖いので子供らしく授業を受け続けた。



「坊ちゃまはすごいですね~。私には何のお話をされているのかサッパリです」

「どれも形式的な手続きとか、法の解釈とか普通に生きてたら必要の無い知識だよ」

「でも、坊ちゃまには将来必要なのですよね? それぐらいは私にもわかります」

「ヴィオラも文字ぐらいは覚えたら役に立つでしょ? ぼくが教えてあげるよ」

「ええ、無理ですよ私なんか……それに……」

「大丈夫だよ。それぐらいの時間はあるから」


 勉強は楽しいが、女の子に勉強を教えている方がもっと楽しい。




 ギブソニア家の養子になって二か月の間。


 おれが悠々自適な生活を送っていたわけではないことも知っておいてもらおう。


 人には必ず苦手分野がある。


 おれにもあった。

 剣術だ。



 おれは先端恐怖症だった。刺されて死んだからだろう。

 転生しても悪影響が残っているなんて、迷惑な奴だ、荒木め!!



 そんなことを言っていても剣術は修得しておかなければならない。

 なぜなら、剣はブランドンの得意分野だからだ。


 後数か月もすると、学院の休みで戻ってくる。

 その時あいつの得意分野で勝つ!



 幸い、おれには立派な先生が就いてくれた。

 領地の防衛を担っている騎士のスパロウとローレル。時々エルゴン隊長。


 騎士と言ってもスパロウは元々平民で、爵位は持っていない。

 兵士として軍に所属し、一定の地位に上がると、騎士と呼ばれる。まぁ、普通の鎧を着ているのがこの軍人騎士と言うわけだ。

 一方、エルゴン隊長はモノホンの騎士爵だ。土地も持っているし、立派な貴族。

 この国の騎士爵は結構地位が高い。



 準男爵、男爵、子爵、騎士爵という順番でいわゆる王都の王宮騎士とはこの騎士爵を指す。



 闘う人が重要視されているというわけだ。

 なぜならこの世界には魔獣の脅威があるからだ。

 魔獣と戦える剣士の力は並ではない。



 当然その訓練も厳しく、先端恐怖症を患うおれにはなお不利だった。



 おれは血反吐を吐きながら剣を振るった。



 この国の代表的な剣術、パラノーツ軍隊剣術の基礎をおれはわずか半年でマスターした。



「全然マスターしてないよ若様~」

「ええ、若様がマスターしたと口にするには百年早いですね」




 ウソを付いた。

 おれは魔獣に対しての剣技ではなく、対人の技をひたすら反復した。

 地味な訓練だったが木刀ならよく見えるし、反応できるようにはなった。




「でも、立派に剣を振るわれていると思いますよ! ロイド様かっこいいです!!」

「ヴィオラ、苦しゅうない。もっと言って」




 こうして屋敷にやって来て半年。

 6歳になって間もなく、その時はやって来た。




■ちょこっとメモ

戦う者の地位が高いため、戦える令嬢、女騎士の人気は男女共に高い。

一方隊内でスパロウは男女ともに人気が無い。




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