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4.『水星』の弟子 『神童』のアラス

 


 決闘の当日。


 場所は学院の演習場。

 対抗戦と同じく拠点が組まれており、それを崩すか相手を倒せば勝ち。


「ロイド、私、あなたを信じています」

「……」


 システィーナが真剣な眼差しを向ける。


「信じてますからね」

「ちょっと不安そうじゃないですか。無茶な約束をして」

「だって……」


 システィーナの気持ちも理解できる。

 だがそれ以上に彼女を止めなかった大人たちに腹が立つ。


 こういう生贄制度はおれのもっとも嫌いなやり方だ。


 それを提案した皇太子にも腹が立つ。

 まるで彼女を賞品のように扱うなんて。



「慈愛の神エリアス様、どうか私に不届きな帝国皇太子を滅殺する力をお与え下さい」

「そんなこと祈らないで」

「滅殺するな」


 エリン。あんたはおれが腹を立てている大人の一人だ。

 室長が王女をけしかけたに違いない。

 ん?


 エリン室長の案はハリガン師団長の【将星】獲得だったよな……


「いい試合をして下さい。皇太子殿下は『神童』と名高い帝国きっての水魔法の使い手です」



 ミカルディーテ。

 アラスとの決闘は彼女の発案。それ自体は合理的だ。

 連盟独自の派閥の力関係が、称号と格に値する影響力を持つ。

 でも妙だ。

 ミカルディーテは事前にこうなると予期できたはず。


 いや、こうなるように仕組んだのか?

 目的はなんだ?

 皇室に恨みでもあるのか?


「エリン室長。ミカルディーテさん。決闘の後でお話があります」

「奇遇だな。私もだ」

「わかりました」


 ◇



 演習場には宮廷魔導士たちと連盟員が集まり、一触即発の雰囲気だ。



「結構結構。全員集まりましたな」



 唯一協力的な狐獣人シティ博士が何とか集めてくれた。



「うぇっへっへー。あなたがアラスと戦う子~?」

「はい。あなたがシャロンさんですか」



 細身で背の高い女性。ボサボサ髪。

 黒いローブの下に白いダルダルのシャツ。

 随分とズボラそうだな。

 あと酒臭い。



「そやで~。いい戦いをしたら私の弟子にしてやんで~」



 五等【将星】。三等星魔導博士でもある。とてもそうは見えないが。

 鱗魔族という爬虫類の特徴を持つ魔族。

 外見は人族と変わらないが、オズ先生と同じように眼が紅い。魔人族と区別がつかない。

 彼女は探検家で冒険者として金級に位置している。

 世界中に弟子がいて、今回十人以上の弟子を引き連れてやってきた。


 弟子たちの人種、種族も様々だ。



 単身来た者が三人。


『あ、がんばってね……あ、言葉わからないよね。あ……』


 ハウル。四等【士星】。氷皮族という魔族の少数民族。彼は眼が灰色だ。シティ博士曰く、先祖返りで、人族の血が混じっているらしい。

 まだ十五、六歳ぐらいに見える。無口で伏し目がちだ。



「ふん。不気味な魔族め。我が国に来たら即焼き殺してやるものを」


 カテディウス。五等【士星】。帝国軍人で、おそらくアラスの監視で派遣されたであろう人物。皇室と軍はあまり仲がよろしくないようだ。『火星』の弟子で、『水星』の一派とは犬猿の仲。

 40代ぐらいで堂々と帝国の軍服を着ており、仏頂面だ。決闘の結果次第で彼の任務も変わるのでナーバスになっている感じだ。



 そしてアラス。称号は無いが虎が刻印された金の指輪をしている。帝国における『金帝虎紋』の魔導士だ。

 星を三つ有していてその一つは『水星』から授与されたもの。連盟員は弟子にしたものに自身の星を分け与える。これにより派閥を拡大する。


「全く、王国の魔導士はとんだ腰抜けよ!! 王族を召し上げてまで戦うのがかような小僧とは!」


 美人の侍女たちを侍らせ現れたのは15歳ぐらいの少年。ローアではあまり見ない黒髪だ。

 簡素な黒のローブ以外、派手な装飾品で自身を飾り立てている。



「いや、余に対する献身と見るべきか? 王女を余に献上する方便と考えるべきか? 全く、この国の王族に対する忠誠心には恐れ入るぞ」



 こいつ、敵を造るのが上手いな。


「ハハハ、そう思うだろ、グズ共。はいと言え」

「はい。殿下のおっしゃる通りでございます」

「殿下が正しゅうございます」

「殿下の御慧眼には恐れ入ります」



 一見するとただの馬鹿皇子にしか見えない。

 だが、魔導連盟は実力主義。俗世の権力は通用しない。

 その証拠に、この俗物根性丸出しの傲慢な小僧も『水星』の命令に従いここに来ている。

『水星』は【勇星】の称号を持つ。【将星】の二つ上、上から二番目の称号だ。

 その『水星』が弟子にしたのなら油断は禁物だ。



「帝国皇太子アラス様にご挨拶申し上げます。本日対戦の光栄に預かりました、王室近衛軍所属、ロイド・ギブソニアと申します」


 おれは中央大陸語であいさつした。


「フン、最低限の礼儀はわかるらしい。安心するがいい。余は弱者を痛めつける浅ましい趣味はない。我が魔法に相対する名誉を抱きながら死ぬがいい」



 殺す気かよ。

 まぁ、決闘だからな。

 まぁ、いい。



「殿下、我がパラノーツ王家の第一王女システィーナ殿下を賭けたこと、安くは無いとお覚悟下さい」

「なに? あのような性悪、我が師より賜りし星などと釣り合わぬ! 応じてやっただけありがたく思え!!」

「しょ、性悪……だと!?」



 このクソガキ。



「ふん、貴様らローア人の魂胆などわかっている。我が師の力をこの地にもたらすためであろう。だが負けても我が皇室にローアの血を送り込める。これでは貴様らに損はない。ならば今後決闘を山車に帝国に入り込む下賤な蛮族が増えるであろう。そうならないために余は貴様らの王女を召使として一生こき使ってやる。決闘を受けてやったのは貴様らの部をわきまえさせるためだ。要するに王女は見せしめだ。田舎猿には言ってもわからんからな」 



 これは連盟員をまとめるため『水星』の力を得る戦いだった。たった今、それは変わった。



「アラス殿下、水魔法が得意だそうですね」

「得意? 余こそ水魔法を極めし者なり」

「なら、私も水魔法以外使いません」

「何? 余を愚弄する気か?」

「いいえ。ただ、水魔法が上手上手と持ち上げられて勘違いしてしまった了見の狭い妄想の中で最強のあなたに現実の広さと厳しさを力を持って丁寧に教えて差し上げるのがせめてもの情けと思いまして」



 侍女たちが何やら口汚くおれを罵り始めた。

 アラスはそれを制した。



「……余に、帝国皇太子たる余にそこまでの妄言を吐いたのは貴様が初めてだ!!」

「ご安心ください。あなた様が死なないよう細心の注意を払って、毎朝毎晩ベッドの上で今言った戯言の数々を後悔する人生を送らせてあげますからね」

「ぬ、何だ、この……」

「そしてあなたの暴言の数々を世界中に広め、最も愚かな『口だけ皇太子』として歴史に残してやりますよ」

「ぐ、貴様!!」


 真っ赤になったアラスと乱闘寸前になった。



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