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2.最初の弟子

 

 さらわれていたのは3人だけでなく、他にも7名。



 すでに王都から別の場所に異動させられた者も大勢いると判明した。

 すぐに機動魔法部隊に光暗号通信で命令し、東の港で差し押さえた。どうやら帝国に売り飛ばしていたようだ。




「――そういうわけなのでトーブ商会の処分と人身売買をした貴族の方はお任せしますよ、内務大臣」

「君には借りがあるが、あえて言うよ。くたばれ」



 王宮の内務大臣執務室で、ベリアムが頭を抱えている。

 トーブ商会は賠償金と関わった者たちの処分、子供たちの返還への協力と支援、業務改善報告で存続はできる。潰してしまうと今度は下請けまで総崩れして失業者であふれてしまうからな。

 一方、取引していた貴族は複数いて、どこもそこそこの領地を有している。

 処理を間違えると戦争になるかもしれない。



「まぁまぁ。人さらいをのさばらせ、人身売買を見過ごしてきた懲罰会の責任ですし」

「そういわれると耳が痛いがね。全てを白く染めることは叶わない。それにこの件の原因は魔法省にもある」

「分かっています。魔法職の地位向上のための変化がこんな事態を――」

「いや、そうじゃない。膿はどこかのタイミングで出るものだ。それより知らないのかな?」


 秘書官が資料を寄こした。

 なんだこれ?


「ライセンス試験、揉めているそうだよ」

「え?」


 それは魔導連盟員のシフト表のようなものだった。

 めくるごとに空欄が目立っていく。


 ミカルディーテとバラレスが来てしばらく、他の連盟員も到着し魔導連盟ローア支部が設立した。彼らにはライセンス試験の試験官として新機軸の魔法力測定、新たな連盟員の推薦等をお願いした。


 盛大な調印式典までやったというのに最初のトライアウトに宮廷魔導士たちが参加して以降、職務を放棄したらしい。



「ぼくは報告を受けてませんが」

「面子だよロイド卿。対等な立場での交渉を成立させたと息巻いていながら、はしごを外された。魔法省最初で最大の失態だ。まだ一部の者しか知らないのだろう」



 ライセンス試験、技能判定による評価が進まなければそれに基づく適正な社会的地位は築けない。

 それではいつまで経っても魔法職の待遇は変わらない。

 貴族の戦闘の身代わりとして子飼いにされ、実力的に不相応な戦闘に駆り出される。


 そうしてあの子供たちのような犠牲者が増える。



 駐屯魔導士団の人員不足も貴族のそういった動きを助長してしまう。



 ライセンス試験の実施は急務。最優先事項だ。どうなっているか問い質す必要がありそうだ。

 いや。

 その前にまずは子供たちか。

 保護した子たちの安全を確保すること。口封じで貴族が刺客を放つ可能性がある。

 おれが保護し、人さらいやトーブの手の者が摘発され安全が確保されたのちに責任を持って送り届けよう。

 可能ならすでに帝国に売り飛ばされた子供たちの捜索と、返還のための使節派遣などを陛下に上奏せねば。


「子供たちはぼくが預かります」

「……君も子供だが。まぁ、それが一番望ましいだろうね。わかった。後始末はやって置く」

「この借りはいつか精神的に返します」



 おれは一先ず王都で保護された十人を迎えに憲兵隊の本部にある兵舎に向かった。



 ◇



 兵舎は増員に備えて居住スペースが充実している。子供たちにはそこに滞在してもらっている。まだ捕まった時の状況や関わった者の情報を聞く必要もあるので憲兵隊預かりになっている。



 すでにおれのことは内務省から軍務局へ伝達があったのだろう。

 憲兵隊本部には顔パスだ。その代わり身分がバレていた。

 おれが制服を着てブラブラしている奴だと思われたし、今後制服を着て姫とブラブラできないじゃないか。

 誤魔化しとけよ、内務省。


「この度は恐ろしい思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」



 彼らは兵士たちから聞いたのかおれのことを知っていたようだ。おれが誠心誠意頭を下げている間無言だったので辛かった。


「……償いはするので許してください……」



 無言の圧。

 元社畜でなければ許しがある前に頭を上げてしまっていただろう。だが、おれの精神的タフネスは筋金入だ。頭を下げている時が一番仕事してる気がする。



「なんであんた――ロイド様が謝るの? 助けてくれたのに」



 おれが謝罪する理由を説明したが複雑でよくわかっていないらしかった。

 こんなに長時間謝罪姿勢をさせておいて?



「貴族様に話すと怒られてごはん、もらえないから」

「あ、そういうのは無いです」



 話してくれたお礼にエリアス様の肖像画を渡したが困惑していた。

 一先ず、おれが今後の生活と安全の保障をすること。

 安全の確保ができ次第、故郷に送り届けることを話した。


「ぼくは戻りたく、ない……」

「おれも。元々居場所なんてなかったし」


 すでに貴族の下で過酷な環境にさらされ続けた子たちは戻ることを拒否した。


 魔法が使えるというのは才能だが、村人からすれば不気味に思われることも多いようだ。それこそ普通の村人同士の子どもなのに魔法の才能があるとすれば、貴族の御手つきを疑うこともある。

 異分子として扱われてしまう。

 これもまた魔法職の冷遇につながっているのだろう。

 彼女たちが貴族の下にどう行き着いたのかもそれぞれ事情が違う。

 一刻も早く公正な能力評価とそれに基づいた適正な社会的評価を誰もが受けられるようにしたい。

 王国が保証する資格を有すれば、冷遇されることもなく、不相応な仕事で命を危険にさらされるリスクも減る。



「住む場所と仕事も紹介します」

「あの、あんた……ロイド様は……」

「ロイドでいいですよ」


 『一番』と呼ばれていた傷の少女を何と呼ぼうか考えてしまった。

 もう元の名前は憶えていないんだろうか。そう尋ねるのも酷なことだ。


「魔導士なんだろ?」

「はい……」


 なぜ改めて聞くんだ?


 はっ!! そういえば……

 自分がライセンス持ってなかった。

 宮廷魔導士でもないし。

 仕事は護衛騎士だよね。あと、工房の所長……

 今の俺って社会的に魔導士と名乗っていいんだっけ?

 おれは魔導士なんだっけ?



 あ、魔導連盟に所属している魔導士でした。

 ふぅ~、危ない。アイデンティティーを見失いかけたぜ。


「ぼくは魔導士です」



 傷の少女はわかってるというように大きくうなずいた。



「あたしらを追ってきた男たちをやっつけてくれただろ」

「あれは姫殿下に言われてやったことですのでぼくに恩義を感じる必要はありません」

「あたしもあんなふうに魔法を使えるようになりたい」

「あんな風?」


 話が見えた。

 彼女にはおれが救世主に見えたのだろう。

 

「離れた安全な場所から一方的に吹っ飛ばしたり」


 卑怯者に見えてた?


「君は言い方をまず学ぼうか」

「気に入らないやつを黙らせてねじ伏せたり」

「ねぇ、その卑怯者っぽいのぼくかな? そんな風に見えた?」

「あたしはズルいぐらい強くなりたい!」



 これもおれのせいなのか?

 この責任もおれがとる感じなのか?


 そうか。


「わかりました。どうなるかはあなた次第ですがぼくに教えられることは教えます」



 正統派の魔導士にしよう。

 魔導士=ズルいという認識はまずい。


 他の子供たちは普通の仕事を希望した。魔獣をおびき寄せる囮や盾にされ、トラウマを背負っている子たちだ。魔法のことは忘れたいのだろう。



 おれは彼女に魔法の手ほどきをすると約束した。

 自分にできることを考えての決断だろう。


「ありがとう。ロイド先生」


 そうと決まればきちんと手続きをしよう。

 魔導士の所属や雇用についてはライセンスを持ってなくても報告するのが新しい決まりだ。



「あなたを弟子として報告するために、名前が必要なんですが」

「……先生が付けて」

「では、あなたは今から、アカネです」

「えぇ~! そんなかわいい名前、あたしに似合わないぞ」


 アカネは顔の傷を気にしているようだ。


「夕焼けの色です」

「先生と会った時の色だな」

「そう。空を染めるような壮大で鮮やか、それでいて深みのある人物になりたいんでしょ」

「……言ってないけど?」

「言いましたよ」



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