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20.流星剣

 

 相手の周囲の酸素濃度を下げることで酸欠にさせる。酸素をピンポイントで制御できる大気属性でこそ可能なサイレントキリング。

 この魔法の狙いは相手を無力化することだが、気づいたときにはすでにチアノーゼが始まっている。


 すなわち思考停止。肉体の硬直。


 すかさず『虚門法』で接近し間合いの中に入る。

 何万回も繰り返してきた型。

 パラノーツ軍隊剣術のセオリー。

 突き。


 それはいとも簡単にかわされた。



 うーん。自信なくしそう。



 おれの視野にランハットの姿はなく、幽霊のように掻き消えた。

 人が身体ごと視界から消える。酸素制御圏内から楽々脱出された。

 思考はアラート。相手を探すことに意識が裂かれる。

 普通ならパニックだ。


 ただし、おれはこういう状況に慣れている。

 対策もしている。


「せい!!」

「おっ!?」


 背後にいたランハットに剣を合わせた。

 おれの御子様(おこさま)剣とランハットの剣がつばぜり合い、火花が散る。

 青龍刀や鯨包丁のような身幅の広い片刃の剣だ。


 すぐにランハットを見失う。


 それにしてもみんなホイホイ人の視界から消えすぎだろ。消える前に一言あってもいいんじゃないの。


「えいや」

「なぁ!?」



 死角からのびてきた剣に、対応する。


 身体が勝手に反応する。

 彼の動きはシスティナそっくりだ。

『虚門法』を使いこなしている。



 人の反応速度は0.1秒ぐらい。

『鬼門法』×『気門法』に加え『虚門法』をマスターする者はこれより早く動く。

 だから反応できずやられる。

 戦いの最中終始ドッキリを仕掛けられている感じだ。

 ただし、ドッキリを何度も受けてると、「ああ、来るな」とか「そろそろだなー」と売れっ子芸人は気配を察知できるという。そこからカメラアングルやタイミングなどを逆算してリアクションをとるらしい。


 それと同じ原理で、対応できる。



「なるほど。魔導士は魔力を読むわけか」

「魔法の種明かしはマナー違反ですよ?」



 ランハットが動きを止めた。

 剣士ではありえないほど接近した間合い。

 腕がのびてきた。

 即座に払い手で避け、足払いを飛んで躱す。


 いいぞ、意外と対応できてる。



 剣が交錯する。

 つばぜり合い。


 力で圧倒的に劣るおれだが、つばぜり合いは力比べではない。相手の力の流れを受け流し、刃を内側に入れるか、相手の刃を外に逃がせばいい。


 手押し相撲と同じ。

 競り合いでおれの剣とランハットの剣はくっついたまま上下左右に揺れ動いた。


 さすがバルト人。

 こういう力の流れをコントロールする術はお手の物。


 だが彼の動きはおれの想定の域を出ない。


 ランハットは不敵に笑っている。

 手加減してる?


 これならやりようがある。


 巻き込むように剣を絡め、絶好のタイミングで弾いた。

 ランハットの身体の軸がブレた。


 余裕の笑みが消えた。

 技の一つ一つに限って言えば、おれは人の動きを完コピできる。

 そしておれの師は剣神システィナだ。恐れおののけ!


 ここに『虚門法』の投げ技を合わせる。


 腕をつかみ『虚空』投げ。



 ランハットはバランスを崩し、頭から床に突っ込む。

 背が付けば試合はおれの勝ちだ。


 だが彼は()()()()()()、跳躍し、ぐるりと一回転。


 逆におれを投げた。


 あらゆる技を相手に返す『瞬回』だ。

 空中に足場を造る『気門法・外気』にこういうのがある。ふむ。


 おれは圧縮した大気の反発を足場に跳躍し、一回転。

 ランハットの返しを返す。

 再びランハットに『虚空』をかました。

 勢いは三回転で三倍。


 回転による勢いで今度はランハットの『瞬回』は間に合わなかった。


 ドシンという音とともに、ランハットは反対側の手で着地。

『鬼門法』にこんな使い方が!?



 逆立ち状態のランハットから蹴りが繰り出された。


 おれはそれを剣で受けた。


「ぐひゃ!!」


『気門法』で強化された足は斬れることなくおれの身体ごと吹っ飛ばした。

 ちなみにおれのおててはか弱いのでグローブで衝撃を吸収している。それでも結構いたい。


『風圧』で勢いを殺し、体勢を整える。



 さすがだ。手加減してこれほどとは。完璧に技を決めたのに一瞬で状況が逆転される。

 剣術だけではない。

 戦闘経験が違う。対応力が違う。才能が違う。


 ランハットは二刀を抜いていた。


 黒い刀身。ぬらりと光を反射すると怪しく紅く、蒼く光る。神鉄(アダマンタイト)の刀だ。


 ならあれを試すか。

 鞘を片手に振りかぶる。


「何かする気だな? 面白い。当ててみなよ!」


 ランハットが飛んだ。

『韋駄天走り』、空中闊歩か。

 また消えた。


 広範囲を高速で動き回るランハットを捉えるには五感に頼ってもダメだ。

 おれの感覚の中でも最も優れているのは魔力感覚。

 大気の魔法で広範囲に魔力を流し、魔法の反応で動きを把握する。レーダーのように。


 照準を定める。

 この剣は剣に非ず。

 間合いなど関係ない。


 絶対不可避、防御不能。

 青い光が広間を照らす。


 鞘から伸びた青い刀身が一点へ伸びた。



 当たった!!



「こりゃすごい! 神器でなければやられていたよ」


 黒い剣がおれのプラズマ刀を止めていた。


「な、なに!?」


 一瞬で伸びるプラズマに反応して止めるとは。

 反応が早いとかじゃないぞ!!


 さらに驚くべきは神器。

 高濃度の酸素ガスに火魔法の『着火』と熱魔法の熱制御で生み出したプラズマカッター。 

 神鉄(アダマンタイト)は斬れなかったか。


 だが、ここからだ。

 この剣『流星剣』は防御不可能なのだ。



 高濃度の酸素を送り出し、生み出した超高温の熱を熱属性で無理やり留めて得たこのエネルギーは留めるのをやめると爆発する。



「『墜星(メテオ)』」


 ランハットが吹っ飛んで剣を落としていた。


 はた目には勝負がついていた。

 だが、斬撃が降り注いだ。



 三刀目を隠し持っていた?

 それとも剣を手放す前に?


 どっちにしろおれは反応が遅れていたため避けられなかった。



「やばー」



 おれが神気で『治癒』を開始するより前に横から別の斬撃が飛んでランハットの斬撃を打ち消した。



「……『飛剣』だと……」


 おれもだが、ランハットも驚いている。

 師匠に助けられた。



 歓声はおれの勝利を称えていた。



「あ、いや……」

「敗けたよ。剣を落とした時点でおれの負けだ」



 どうやらおれは勝ったらしい。



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