召喚!!!!
「やれやれ、この私を呼び出すとはね。まあ良い、これもまた一興。君に力を貸そうじゃないか。」
女は金髪をかき上げ美貌に嘲りの表情を浮かべながら、そんなキザでいけすかないけど終盤になると胸に秘めた熱いハートが発覚して一気に好感度が上がるキャラの様なセリフを言った。その足元は銀色にキラキラ輝いている。リセット。
「アヤマソの戦士ガルガン、貴殿の力となろう!」
鎧を着た厳ついおっさん。銅だ。リセット。
「へへ、俺のスピードについて来れるかな!」
銅。リセット。
「獣の力と人の叡智、これがどういう事か分かるか?」
リセット。
「吾輩の斧は、全てを」
リセット。
「あれー?何だここ」
「ああっ!愛しきご主」
「・・・そう。勝手にすれば」
「竜の」
「フハ」
「偉大」
「・・・そ」
「やあ!偉大なるボクの」
「アヤマソの」
「ああああ!!ミスったあああ!!!」
金が来たのにリセットしてまった。もちろんアヤマソの戦士ガルガンのことではなく、その前の奴だ。連打は良くないな。気を取り直してまたリセマラを続行する。今度は少し慎重に。
「フン!ハッ!この拳は」
「アヤマソの戦」
「よっしゃああ」
「アヤマソ」
繰り返す事100回近く。ようやく再び足元が金の奴が現れた。
「空を見るんですしおすしー。」
灰色のパーカーを着た、気怠げな少女。肌は病的に白く、身長は俺より頭一つ分小さい。しかし注目すべきはそういう所ではない。こういうゲームでキャラの強さを左右するのは、大体見た目の凝り度である。俺は欠伸する少女の周りをゆっくりと回りながらその全身を観察する。髪は鈍い銀色、肩程まであり、サラサラと音が鳴りそうなほど癖が無い。顔色は悪いが目鼻立ちは整っていて、ぼんやりと此方を見つめる金の瞳の中にはよく見ると写なんとかの様に模様がある。ポッケに突っ込まれていた手を掴み出してみると、細く華奢な指全てに様々な宝石のあしらわれた指輪が嵌まっている。下半身はショートパンツで不健康な太ももが見え、高そうな黒の靴を履いている。そして何より重要なのは、パーカーで隠れたお尻の部分から、三角形の先っぽのある黒い尻尾が出ていて、ゆらゆら揺れている事だ。触ると嫌そうに動く尻尾。
「・・召喚して挨拶もなしに体をまさぐられ、尻尾を掴まれて、それでもされるがままのボク、優しすぎね?」
声もいい。コイツは多分強キャラだろう。これ以上アヤマソのバカの声も聞きたく無いしな。俺は少女の尻尾を引っ張りながら、冒険の旅への第一歩を踏み出した。
「たらたらーん、たららーん、たららーん、たらら・・・おっ。」
いかにも第一ステージ、草原といった場所をbgmを口ずさみながら進んでいると、草陰から緑色で鬼の形相の腰巻き棍棒小人、多分ゴブリンが三匹現れた。彼らの目は血走り、口からは獣のように涎が滴る。体格は良くないが、道徳の無い一撃は危険に違いない。
「いけ、ショジョチュウ。」
「不愉快な歌が漸く止んだと思ったら同じくらいキモいのが出てきてなえるわー。あとそんな下品なあだ名で二度と呼ぶなよボクに何の関係もないし。」
ブツクサ言いながらもファイティングポーズをとる少女。ゴブリン共は不気味な笑みを浮かべて少女を見た。
「ヤクチュウ、あやしいこな。」
「そんなヤバい技無いから。てかさっきボクの名前教えたじゃん。あ、そうか、キミはあのキモすぎソングに夢中で聞いてなかったね。」
またもブツクサ言いながらのキック!ゴブリンAは吹き飛んだ!ゴブリンBとCは戸惑っている!ヤクチュウのコウソクパンチ!ゴブリンBもCも吹き飛んだ。
「てれれれーん。チュウバッカは3の経験値を手に入れた。フウレンは3ゴールド手に入れた。」
目の前に銅貨が3枚落ちてくる。俺はそれをそそくさと拾い、自分の着ている服にポッケが無いことに気づいて、少女のポッケにそれを入れた。
「キモいというか、怖いわキミ。」
「ごちゃごちゃうるせぇ、黙ってついて来い!てれてれー、てれれー、てれれー、てれれ、てれててれれれー、てれれれー!」
「わろえないぜ・・・。」
その後も立ちはだかる雑魚どもを蹴散らし、俺たちはまさしく最初の町という風な、つまり都市じゃないけどそれほど田舎でもないし、名産とかもあるけどまあ・・・みたいな町に着いた。
「そこの二人、止まれ!」
と思ったら門番おじさんに止められる。俺たち以外の奴らは普通に通っているのに。俺は隣の少女に肩をすくめた。
「顔ウザッ。どう考えてもさっきまでキミが大声で歌っていたせいだろ。周りを見てごらんよ、あの恐怖や憐れみを含んだ視線たちを。」
「怪しいやつめ・・・何処から来た?」
「何だと?貴様ガルガンみたいな顔しやがって、牢屋にぶち込むぞ!」
「それは此方のセリフだ!市民の平穏を脅かすものは兵として許さん!」
「此方のセリフ?俺がガルガン顔だってのかてめぇ!」
門番とメンチを切り合う俺を少女が引っ張り、その手で俺の口を塞いだ。指輪が頬に当たり痛い。
「ごめんなさい、これうちの兄で、見ての通りちょっと・・ね?私たちこの草原の向こうの村から上京して来たんですけど、もう食料も少なくて・・・兄には私がそれはもう言って聞かせますから、入れては貰えませんでしょうか・・・?」
少女が俺を抱えながら上目遣いで言うと、門番は頬を赤らめ、そして慌てて咳払いをした。
「私も意地悪しようという訳ではない。お嬢さん、若いのに苦労している様だ。ただああいう風に奇天烈な歌を歌うのはやめておくように、君の兄によく言っておけよ。」
門番は優しげな目になると少女を通した。少女は頭を下げると、しずしずと門をくぐる。俺を抱えながら。
「んん!んー!」
「もう、お兄ちゃん!」
俺が暴れてもびくともしない、金色の筋力を持つ少女。
「健気だねぇ。」
「お嬢ちゃん、頑張れよ!」
門周辺の人々の激励を受けながら、俺の頭を抱えた少女は町へと入った。
「チュウソンジよ。世の中、金だ。」
俺はふかふかのベッドに寝転がりながら呟く。町へ入ってしばらく。ゴブリン共を倒して集まった金は、夕食と、この宿の代金に消えていった。
「キミが温泉に入りたいとか、角部屋が良いとか言わなけりゃ、結構残ったけどね。まあ今日はもう遅いし、明日冒険者ギルドに登録して、魔物を倒して稼ぐしかないよ。」
温泉に浸かり血色の良くなった少女が隣のベッドからボヤく。冒険者ギルド。聞き慣れた言葉だが、よく考えてみると、なんなんだそれは。自由を求める冒険者達の集会と言えば聞こえはいいが、国家から独立した大規模な武装集団って、やばくない?というかそもそもなんか臭そうだし、そんなヤバい奴らと一緒に働きたくない。というか普通に働きたくないんだが。俺は憂いを帯びた瞳で天井を眺めた。