第76話「戦闘シーン」
第76話「戦闘シーン」
ゆきとましろんが四精霊戦記の話で盛り上がっている間、まみとちーはこの後のバトル動画をどうするかを話し合っていた。
ウキウキした表情のちーと不安げな表情のまみ。
二人の表情は対照的だ。
まみ「バトルシーンって言っても、あたし何もできねぇから……」
ちー「そんなんテキトーでええねんって。実際に戦うんとちゃうんやから」
まみ「そりゃそうだけど……」
ちー「美卦は近接戦闘が多いけど、巫狐って中長距離戦闘が得意なキャラやん?だからあたしがまみちゃんに近付いて攻撃するふりするから、その時はまみちゃんは防御姿勢。んで、距離が開いたら巫狐が長距離攻撃しかけてる感じのアクションして、それをあたしが避ける……みたいなんでええんちゃう?」
まみ「えっと……、結局あたしは何をすればいいんかな?」
ちー「つまり、あたしとまみちゃんがお互い交差するように滑って、近付いたらあたしの攻撃ターンでまみちゃんは防御ターン。距離が離れたらまみちゃんの攻撃ターンであたしは防御ターン。それの繰り返しで戦闘してる雰囲気出るんちゃう?知らんけど」
ちーは身振り手振りで頭の中の構想を伝える。
まみ「交差って……ぶつかったりしねぇ?」
ちー「交差って言っても距離開けるし、まみちゃんのライン見てあたしがよけるから大丈夫。もしぶつかりそうなラインだったら、あたしは山側に逃げてまみちゃんは麓側に逃げるって決めておけば大丈夫。もし気に入らんかったら二人で土下座してましろんにもう一回撮ってもらえばええやん」
まみ「あはは……そんなんでいいのかな……」
ちー「かめへんかめへん!あとはましろん先生に丸投げしたらええ感じにしてくれるって」
そう言うとちーはましろんの所に滑って言った。
未だゆきと話し込んでいる感じだったが、ちーに声をかけられ話はそこで終わったようだ。
そのままちーはましろんに撮影内容を、また身振り手振りで説明している。
ましろん「うん。だいたいわかった。あとはボクのセンスで撮っていいんだよね?」
ちー「ましろん先生、おなしゃーっす!」
ましろんの撮影準備も整い、いよいよ撮影開始。
ちー「まみちゃんのタイミングで滑り出してかめへんよ〜」
ましろん「こっちもいつでもOK……ってか、もうカメラ回してる」
まみ「え……あ……じゃあ、行きやす!……せーのっ!」
まみはポンと跳ねるように板を90度回し、いきなり直滑降。
それを合図にちーとましろんもスタートする。
直滑降でスタートしたまみはちーとの距離を取る為、麓に向かって左側、ゲレンデ中央方向に向かう。
それを見てちーは反対側、麓に向かって右側に進路を変える。
ましろんはさしあたり、ちーを追うように撮影している。
ちーはバック走に切り替え、まみの動きを観察。
まみがターンするタイミングを見計らい、バック走から正面に戻し、直後にターンしてまみとの距離を詰める。
ターンを終えたまみは斜滑降に移行している。
進行方向正面にちーがこちらに向かって来るのが見えた。
まみ『なるほど、そう言う事ね』
滑走前に説明してもらったものの、いまいちイメージがわかなかったが、実際に滑って光景を見るとちーの言ってた事が全て理解できた。
まみはお祓い棒を使い、✕を描くように振る。
ゲームの中では巫狐がこの動きをした時はお祓い棒から繰り出された衝撃波が敵に飛んで行くのだ。
まみ『3……2……1……0!』
まみがイメージしたタイミングでちーはキュンと蛇行して存在しない衝撃波をかわす。
まみ『〜〜〜〜!!』
まみは声にならない歓声を上げる。
今まで感じた事の無い興奮を感じていた。
まみ『凄い!ホントに美卦と戦ってるみたい!』
思わず顔がニヤけそうになるのをこらえる。
何故ならもうちーは目の前まで迫って来ている。
お互いほぼゲレンデの真横に進む斜滑降で滑走ラインはズレている。
これならぶつかる危険性は無い。
すれ違う間際、ちーは右手を高く掲げる。
爪での斬撃の前動作だ。
まみ『ガード!』
まみは両腕をクロスして防御体制、ちーはすれ違うタイミングで爪を振り下ろす。
ちょうど交差するタイミングで、ましろんはちーとほぼ並走状態。
これならお互いが本当なら手が届かない距離だと言う事がわかりにくい。
そのままお互いがすれ違い、次のターン。
実際は持っていないが、まみは袂から札を取り出すような演技の後、左手でそれを投げるアクション。
巫狐の狐火攻撃だ。
これもちーは絶妙なタイミングで見えない狐火を今度は爪で叩き落とすアクションで返す。
また二人の距離が短くなる。
今度はちーが猫じゃらし型メイスを振り上げている。
まみはそれをお祓い棒で受け止めるアクション。
今回ましろんは二人から少し離れた山側の位置からちーより先行する形で撮影している。
まみとちーが交差するタイミングを見計らいターンして二人の交差するであろうポイントに突っ込んでくる。
まみとちーがすれ違った後、今度はまみの追い撮りの位置に付いた。
まみ『あっ!今度はあたしの撮影だ……よーっし!』
まみはつま先側のターン直前に両腕をクロスした状態で板をずらしながら回転する。
回転を止め、斜滑降に入るとクロスした腕を一気に広げる。
「狐火神楽」のアクションだ。
狐火神楽は巫狐から四方八方に狐火の火球が飛び出し、一斉に敵に飛んで行く技。
これもちーは絶妙なタイミングでかわしたり手で払い除けたりするアクションで応え、さらには最後の狐火を喰らったように仰け反るアクションまで加えてくる。
今度は美卦の攻撃。
猫じゃらし型メイスを背中に隠すような予備動作。
「猫じゃらし大回転」だ。
猫じゃらし大回転は猫じゃらし型メイスを体を回転させながら振り回す大技。
既にまみはかなりテンションが上がっている。
まみ『猫じゃらし大回転なら……よーっし!』
さっきまでぶつかる事を恐れていたが、数度のターンと交差で感覚を掴んだまみはちーとの交差距離を縮めるラインで進む。
猫じゃらし大回転で振り回されるメイスが十分届く距離だ。
ちー『おっ!まみちゃん、わかって来たやん』
ちーもまみの進行ラインを見て意図を察し、ニヤリと笑う。
交差直前にちーは猫じゃらし大回転の動きに入る。
大きく両腕を伸ばし、片足で滑りながら体を回転させてメイスを振る。
メイスの高さはまみの頭の高さだ。
まみ『今っ!』
まみはかがむように重心を落し、メイスをかわす。
それと同時にお祓い棒を凪ぐように振り、美卦にカウンターを入れるアクション。
ちーは事前の打ち合わせでぶつかりそうになったらまみは麓側、自分は山側に回避すると決めていたので、まみが直前で麓側に回避するだろうと踏んでいた。
だが、実際はまみがメイスをかわしてカウンターを入れるアクションをして来た。
すれ違う瞬間、お互いの目が合う。
お互い、ニヤリとした表情だ。
次のターン。
今度は踵側のターンをしながら両腕を大きく広げながら、板をずらして回転する。
「狐幻神楽」だ。
狐幻神楽は3つの大きな狐火の火球を撃ち出す技だが、その3つの火球のうち2つは幻影で当たってもダメージは受けないが、1つは本物の狐火の火球。
まみ『狐幻神楽からのキャンセル、妖狐斬!』
狐幻神楽は最後に左手を敵に向けて撃ち出すのだが、それをせずに両手でお祓い棒を持って少し貯めた後に真っすぐ振り下ろし特大の真空波を撃ち出す。
この、貯めからの振り下ろしが「妖狐斬」だ。
実際にゲームでまみがよくやるコンボ技だ。
ちー『くっはぁ〜〜!まみちゃんエグい技使ってくるやん!』
ちーは狐幻神楽が来ると思ってそれに対するリアクションに入っていたが、まさかキャンセル技を出してくるとは思わなかった。
即座に猫じゃらしメイスを両手で持ち、正面に構えて衝撃波を受け止めるアクションに切り替える。
ちー『あ、ダメだ。このタイミングだったら間に合わない……なら!』
メイスを正面で構えたままやられたようなアクション。
もう既にまみとの距離が近付いているので、技の準備が間に合わない。
普通に爪での斬撃のアクションで交差する。
もちろんまみはしっかり防御体制だ。
この交差の直後、ましろんはスッとちーの追い撮りの位置に進路を変更。
ちー『おっけー、ましろん。次はあたしの反撃のターンって事やね』
ちーは猫じゃらしメイスを背中に背負うギミックを使い、背中に猫じゃらしメイスを固定。
両手の爪を高く掲げる。
猫が立ち上がって相手を威嚇しているようなポーズだ。
『双爪百斬』の構えである。
まみもましろんがちーの後に付いた事に気付き、今度はちーの反撃だと言う事を察する。
ターンの後、あえて大技は出さずにお祓い棒を振って衝撃波を出すアクションにとどめる。
もちろんその衝撃波をかわすように蛇行するアクションをした後、接近してちーは両腕を交互に振り回す。
まみは腕をクロスして防御のポージング。
交差した後、偶然にもまみはバランスを崩して転倒した。
まるで美卦の双爪百撃を喰らったように写る。
だが、まみは即座に立ち上がり、直滑降で加速し、滑走を継続。
もう麓が近い。
あと2回ターンしたら、もう大きなアクションはできそうにない。
まみ『こりゃ最後に出したかったんだよね……』
まみは両手でお祓い棒を持ち、高く掲げる。
そしてゆっくりとお祓い棒で星を描くように振り、元の掲げた位置にお祓い棒を戻す。
その後大きく円を描くようにお祓い棒を一周。
まるで魔法陣を描くような動き。
巫狐の神憑り技『九尾召喚』だ。
神憑り技はダメージゲージが赤にならないと使えない技だ。
さっき転倒したのを良い演出としてまみは利用しようと言うのだ。
ちー『九尾召喚来たぁ〜〜〜!』
九尾召喚は巨大な九尾の狐を召喚し、攻撃させる技。
ちー『今回まみちゃんは初の動画撮影やし……花持たしたろ!』
放たれた九尾の狐だ到達するであろうタイミングでちーは体を大きく左右に振ってダメージを受けている演技。
そして最後に、少々わざとらしくはあるが、その場にバタリと倒れこんだ。
まみもちーが演技で倒れた事は判ったので、慌てる事もなくゆっくりと倒れているちーの元へと進む。
もちろんましろんは絶妙な位置で撮影を続けている。
まみは一呼吸置いた後、勝利した時のポーズを決める。
ましろん「はい、オッケー!」
ましろんのOKコールと共にちーはガバっと起き上がる。
ちー「まみちゃん、サイコーやん!できるか不安とか言うてたのに、ノリノリやったやん」
まみ「ありがとう!2回くらい交差したら何となく感覚解って、ちーちゃんなら何とかしてくれるだらずって思って」
ちー「転んだのって、あれ、わざと?」
まみ「いや、あれはマジでバランス崩してコケた」
ちー「マジか!でもそれを最後の九尾召喚に繋げるとか、さすがヘビーユーザー!」
まみ「あはは、でも、あたしが勝ってしまう展開で良かったのかな?」
ちー「あれで美卦が凌ぎきったら、それはそれでリアリティ無くなるっちゅうか、何か変になるやん?あそこは美卦がやられてこそやと思ったんよ」
ましろん「撮ってる側としても、撮影側の意図を読んでくれたおかげでいい絵が撮れたよ」
三人はゆっくり滑りながら談笑。
そこには人見知りでいつもオドオドしていたまみの姿は無く、ごく普通にコミュニケーションが取れる女子高生がいた。
麓まで滑り終えると既にゆき、れぃ、ののこ、健太郎、柳江は既に着いており、それぞれが写真撮影の対応をしていた。
まみが板を外すと、待ってましたと言わんばかりにギャラリーが寄って来た。
「すみません、写真いいですか?」
「さっきのパフォーマンス、感動しました!」
「お二人で決めポーズお願いします!」
ちー「ほいほい、いいっすよ。じゃあ順番にお願いしま〜す」
またたく間に撮影の列ができる。
ましろんは気付いていたが、二人のバトルパフォーマンスはかなり目を引いた。
周りの歓声が耳に届いていたのはましろんだけで、ちーとまみは滑りとアクションにそれだけ集中していたのだ。
ようやく写真撮影の列も片付き、時計を見ると既にお昼ご飯の時間だ。
ののこ「お昼どうする?」
ゆき・まみ・れぃ・ちー「「「「ラーメン!」」」」」
厳岳はゆき達とちー兄妹との出会いの地。
そして麓のラーメン屋は四人が仲良くなるきっかけになった思い出の店。
ましろん「あ、ボクは父さんと食べる事になってるから、このままゴンドラで上がるね」
ちー「あ、そうなんや。わかった。今日はホンマありがとうやで」
ましろん「こちらこそ楽しいかった。いい絵も撮れたし、編集も楽しみ。誘ってくれてありがとう」
ちー「あれ?編集もしてくれんのん?」
ましろん「とりあえず360度カメラのデータを普通の動画ファイルに変換しないと見れないからね。あと、ボクの個人的な趣味でシルフィードさんの動画はガッツリ編集したいって思ってる」
ちー「あ、そう言う話になってたんや」
ゆき「ましろんちゃん、よろしくお願いしやす!」
ましろん「ちょっと時間かかるかも知れないから、また進捗は連絡するね」
れぃ「ホントにありがとう。動画楽しみにしてやす」
まみ「ましろんちゃん、ありがとう!凄く楽しかっただ」
ましろん「グルキャナックちゃんと巫狐さんの動画も、ひょっとしたらちょっと編集させてもらうかも……です。たぶんちょっとイジった方が良い動画になると思うし、どうせなら良い作品にしたいから」
れぃ・まみ「「よろしくお願いしやす!」」
ののこ「あたしからもお礼言わせてもらうね。時間取ってもらって、ホントありがとう。」
ましろん「いえいえ、ののこさんの事は前から存じ上げていたので、撮影できて光栄です。たぶんののこさんの動画は無編集でもいけるくらいのクオリティで撮れてると思います」
こうしてましろんとはここで別れた。
一行はラーメンに向い、食べながらさっきの撮影の話に花を咲かせた。
午後からイベントの集合写真撮影会に参加し、その後もみんなでコス滑走を楽しみ、あっと言う間に時間が経つ。
「本日は厳岳スキー場にご来場頂き、誠にありがとうございました。これをもちまして全てのリフト、ゴンドラの営業を終了致します。皆様お気を付けてお帰り下さい。またの起こしを心よりお待ちしております」
スキー場に営業終了のアナウンスが流れる。
営業終了間際のゴンドラに間に合ったので、まみ達の後からゴンドラを降りてくる人はもういない。
日中、あれだけ賑やかだったゴンドラ降り場からのスタート地点。
今は人もまばら。
少し寂しさを感じる。
ちー「この1本であたしはシーズンアウトやわ。まみちゃん達はこっちの人やからまだ滑れるんやんね?羨ましいわ〜」
まみ「いや〜、もう資金が底を突いてリフト券買うお金がねぇんじゃん」
れぃ「あたしも」
ゆき「それに新学期始まるからね〜」
ちー「言うても長野やったらゴールデンウィークくらいまでは滑れるやろ?」
まみ「うん……まぁ……」
ゆき「でも、あたしは今日でシーズンアウトかな。新学期始まったら家の手伝いするってお母さんと約束してるし」
れぃ「あたしも色々と出費の予定があったり無かったり……」
そう言うとれぃは柳江をチラと見たがそれに気付いた者はいない。
ちー「そっかぁ、じゃあラスト1本、味わって滑らなあかんね」
ののこ「じゃあ、そろそろ行くよ」
まみ「あ、待って、お姉ちゃん!最後に全員で集合写真、もう一回撮ろ?だって……」
そう言うとまみは麓側の空を指差す。
まだ夕日と言う訳ではないが、少し傾いた日の光が雲の陰影を際立たせ、幻想的な景色を作り出していた。
柳江「じゃあ、撮りやす」
柳江はリュックから一眼レフカメラを取り出し、準備を始める。
ゆき「じゃあ並ぼう!」
まずは全員で撮影。
次に女子高生四人だけで撮影する。
柳江「いいか?」
ゆき「オッケ!」
柳江「いくよ。3、2、1……」
ゆき「いえ〜ぃ!」
ゆきの掛け声につられて四人は腕を上げ、満面の笑顔になった所でシャッターが切られた。
後にこの写真は四人の宝物となった。




