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第75話「ましろんの演出」

第75話「ましろんの演出」


まみとれぃ、それぞれの滑走動画撮影と急遽行われたトレイン滑走でゴンドラの中は興奮冷めやらぬと行った雰囲気だ。


ただ一人、ゆきを除いて。


ゆきは表には出さないが、ゆきなりにコンプレックスを抱えていた。

ゆきは三人の中で一番下手だと思い込んでいる。

まみほどスピードは出せないし、れぃほど器用でもない。

普段は大ざっぱなキャラクターを演じているが根本の所でゆきは誰よりも真面目。

スノボも「滑れたらいい」と言う訳ではなく、美紅里のお手本どおり出来なければ、ゆきの中では滑れたうちに入らないのである。

故に美紅里に滑りを指導してもらっている時も、「ちゃんとできているか」を常に気にしていた。

加えてゆきはかなり臆病で、未だにスピードを出すのが怖い。


そんなゆきが憧れ、今まさにゆきがコスプレしているのは「速さ」を武器に戦う勇猛果敢な風の女騎士シルフィード。


コスプレに対しても真面目で、ちゃんとシルフィードをやらなければいけない。

シルフィードのイメージを壊すような滑りをしてはいけないと自分でハードルを上げてしまっていた。


ゆきは3学期の終業式のあと、美紅里に相談していた。


ゆき「美紅里ちゃん、今いい?」


美紅里「ん?どした?」


ゆき「今度、コスプレ滑走イベントに行って、あたしの滑りを動画で撮ってもらう事になってるんだけど……」


美紅里「あー、前に言ってた厳岳のやつね」


ゆき「あたしがコスプレするシルフィードってえれぇ速さが特徴の風の騎士なんだけど、あたしまみやれぃに比べても滑るスピードおせぇじゃん?こんなあたしがシルフィードやっていいのかな……って思って……」


美紅里「あたしはそのシルフィードってキャラクターは申し訳ないけど詳しく知らないのよ。でも楽しくコスプレして滑れたらいいんじゃないの?」


ゆき「まぁそりゃそうなんだが、できる事ならちゃんと再現してぇし、シルフィードのイメージ壊す滑りはしたくねぇし……」


美紅里「気持ちはわからなくはないけど、スピードなんて一朝一夕で速くなったりしないし、コントロールできないスピード出すのは危険以外の何物でもないしね」


ゆき「だよね〜」


美紅里「それにゆきもスノボ行った時に他の人の滑りを見ると思うけど、同じスピードでも上手い人と、そのスピードを出す程の技術の無い人とでは見た目に違う……って、そこまではわかんないか……」


ゆき「あはは、それはちょっとわかんねぇだなぃ」


美紅里「まぁ見る人が見たら、速いスピードをコントロールできてる人か、暴走してる人かの見分けは付くのよ。ゆきの言うシルフィードはコントロールできないようなスピードで戦ってるの?」


ゆき「そんなこんねぇ!シルフィードはスピードを完全にコントロールしてて……」


美紅里はこのままゆきにシルフィードの事を話させたら話しが長くなるのを察し、すぐに口を挟んだ。


美紅里「でしょうね。だからカッコ良いんでしょ?暴走してるスピードとスピードをコントロールしているけどゆっくり滑るのだったら、どっちがカッコ良いと思う?」


ゆき「そりゃぁ……スピードコントロールしてよいと滑る方が……。でも、あたしの滑りはスピード感なんて微塵も無くて……」


美紅里「ゆき、あなたがれぃやまみに比べて秀でている所ってどこだと思う?」


ゆき「そんな所あるんか?」


美紅里「あるわよ。ゆきは最初の転ぶ練習の時からちゃんと必要な練習をしっかりしてるから、派手さは無いけど一番キレイな滑りをしてるの。姿勢やら動作やら。変なクセが無く、教科書どおりのお手本のような滑りよ」


ゆき「だって怖いもん」


美紅里「でも一番見た目にキレイな滑りよ。コスプレ滑走の時も、ゆきの滑りなら何をしなくてもキレイで優雅な動画を撮れると思うよ」


ゆき「じゃあ、あたしがシルフィードの速さを表現する滑りは、現時点では無理……って事だかね」


美紅里「結論から言うなら無理ね。変にスピードを意識して滑れば、おっかなびっくり腰の引けたみっともないシルフィードになるわよ」


ゆき「それはヤだ。何か方法はねぇかな……」


美紅里「表現を変えてみたら?」


ゆき「表現?」


美紅里はゆき達「郷土活性化研究同好会」の顧問であるが、同時に演劇部の顧問でもある。

演技や表現の知識も深い。


美紅里「極端な例になるけど、歌舞伎の女形や、宝塚歌劇の男役は逆の性別を演じているけど、女形は本物の女性より女性っぽく、宝塚の男役は男性より男性っぽいでしょ?」


ゆき「歌舞伎も宝塚も見たことねぇからわかりませんけど、コスプレでも女装の人で本物の女の子にしか見えねぇレイヤーさんいますね。もちろん男装のレイヤーさんも」


美紅里「女形や宝塚に男役がいるって事を知識として知ってればいいわ。とにかく女形の人は男性が女性を表現してる訳。立ち振舞から踊りから、舞台にいる時は指先まで女性を表現しているの。ゆきの言うシルフィードは戦っている時以外も全てスピードが速いの?ごはん食べてる時とか」


ゆき「いえ、戦いの時だけだ」


美紅里「そうよね?ゆきはシルフィードの速いスピードで戦っているシーンの再現をしたいと思っているんだろうけど、戦いの時以外のシーンの再現ならできるんじゃない?」


そして今、ゆきはゴンドラの中で改めて美紅里の言葉を思い出していた。


さっきまでは高速で戦場を駆け抜けるシルフィードを演じたいと言う願望を捨てきれずにいた。


ゆき「……表現を変える……か……」


まみ「ゆきちゃん、何か言った?」


ゆき「あ、声に出てた?ゴメンゴメン。いや〜、シルフィードの高速戦闘の再現やりたかったんだけど、やっぱどう考えても今のあたしじゃ無理だな……って」


まみ「あたしの巫狐もスピード特化のキャラだけど諦めた。せめてカービングできたらやってみてもいいかな……って思ったんだけど……。カービングもできねぇのにスピード出して転んだりしたら、それこそ巫狐のイメージ壊しかねねぇしね」


ゆき「でも、さっきのまみの巫狐、えれぇ良かった。スピードの表現ではなく、巫狐のおしとやかな所とか、優雅な所が表現できてた。そだからあたしもシルフィードの威風堂々とした所の表現に全振りしようと思って、どんな滑りにしずか考えてたのよ」


まみ「シルフィードなら威風堂々とした滑りでもカッコ良いもんね!さっきトレイン滑走した時、ゆきちゃんが剣を引き抜いて剣を掲げて滑ってたの、えれぇカッコ良かったもん!」


ゆき「マジで?」


まみ「マジマジ!思わずカッコ良い〜って声出たもん」


ゆき「サンキューっ!ちょっと自信出た。でもずっと剣を掲げて滑るだけじゃ変だし、他をどうしずかな……」


考えがまとまらないうちにゴンドラは山頂駅に着いてしまった。

一行は板を抱えてぞろぞろとゲレンデへ歩いて行く。


途中でゆきは中学生くらいの姉妹に声をかけられた。


「あの……写真撮らせてもらっていいですか?」


思わずいつものゆきの喋り口調で快諾する返答をしそうになったが、今は自分がシルフィードである事を思い出し、シルフィードの口調で返す。


ゆき「あぁ、構わない。嬉しく思うぞ」


そしてこれもシルフィードを意識してだが、シルフィードっぽく優しい笑顔を作り、そう答えた。


それがこの姉妹に刺さったのか、その姉妹は黄色い声を上げる。


「「きゃあ〜〜〜!カッコ良い〜〜〜!」」


まずはシルフィード単独での写真。

両手で剣を持ち、剣先が真っすぐ天に向くように胸の前で構える。

四精霊戦記の中で、救出した王女にシルフィードが無事に城まで送り届ける事を剣に誓うシーンの再現だ。


そのポージングを見て、またその姉妹は黄色い声を上げる。


それぞれがスマホを取り出し、高いテンションのまま何枚も写真を撮る。


姉妹は頭を下げ、お礼を言って立ち去る気配。


ゆき「君達、一緒に写真を撮らなくても良かったのか?」


姉妹の顔は輝き、驚きの表情と共に歓喜の声を上げる。


「いいんですか?」

「よろしくお願いします!」


ゆきは剣を鞘にしまい、腰に手を当てたポージングに変更する。

凛とした表情で自然なポージング。

シルフィードのクールなキャラクターを見事に再現している。


ゆきは意図していた訳ではないが、あまり動きを感じさせる「動」のポージングはせず、「静」のポージングをいくつか取る。

姉と妹、それぞれ順番交代に写真を撮る。


写真を撮りながら何度も「カッコ良い」を繰り返す。


何度もお礼を言いながら姉妹は去って行った。


既にまみ達は滑り出すスタート地点で準備を終えていた。


ゆき「すみません!ちょっと写真撮影対応してて……」


ましろん「うん。全然いいよ」


ゆきはバインディングを装着しながら、さっきの撮影を思い出す。

「動」のポーズではなく「静」のポーズでもあの姉妹はカッコ良いと言ってくれた。

ゆきもそれは理解している。


だが、それは止まって写真を撮るから。

今からましろんに撮影してもらうのは動画。

強制的に「動」の映像となる。


ゆき『止まってる時のシルフィードもカッコ良いし、高速戦闘してる時のシルフィードもカッコ良い。シルフィードはいつでもカッコ良い。……って事はよいと動いてる時もカッコ良い……。特にあたしが高速戦闘している時のシルフィードに憧れてるだけで、シルフィードのカッコ良さは高速戦闘の時だけじゃねぇ。よいとでも優雅なシルフィードを再現すればカッコ良いんだ……』


ゆきは自分に言い聞かせるように頭の中でそう繰り返す。


解っていても、それでもゆきは高速戦闘するシルフィードの再現をどこかで諦めきれずにいたのだ。

何故なら、ゆき本人がそれを見たいから。


理想と現実の技術の差。


ゆき『下手に高速戦闘を意識してコントロールできねぇスピード出して転んだり、ビビってるシルフィードになるより、よいと優雅に滑る方が断然カッコ良いはず……』


ましろん「シルフィードさん、どうかした?」


ゆきは知らず知らずのうちにバインディングを付ける手が止まっていた。

まるでフリーズしているみたいになっていた。


ゆき「えっ!あ、ごめん!どんな滑りするか考えてたから……」


ましろん「そこまで細かく考えなくてもボクが良い感じに撮ってあげるからリラックスして滑ってもらっていいよ」


ゆき「ありがと。いや、実はあたしはシルフィードの高速戦闘の再現やりたかったんだけど、そこまでのスノボの技術ねぇから……ってジレンマがあって……」


ましろん「あー、そう言う事か。ボク、高速戦闘の再現撮れるよ」


ゆき「あ、ましろんちゃんが撮れるかどうかじゃなくて、あたしがスピード出すの怖くて速く滑れねぇんじゃん。でも、高速戦闘の再現してぇって憧れをなかなかぶいゃりきれなんで……」


ましろん「うん。だからボクが良い感じに撮って、良い感じに編集したら普通にゆっくり滑ってても高速戦闘の再現みたいな動画にできるよ」


ゆき「え?どう言う事!?」


ましろん「例えば、鳥が羽ばたくシーンのスローモーションの映像って見た事ない?実際は目で追えないくらい速い翼の動きだけど、それをじっくり観察できるようにスローモーションにするやつ」


ゆき「見た事ある……けど……それが?」


ましろん「その逆をすればいいのさ。ゆっくり滑っている動画を早送りで再生すれば高速滑走しているように見える」


ゆき「なるほどっ!……あ、でも、他に写り込んでる人も速くなるから、違和感ある動画にならねぇ?」


ましろん「そこは演出で何とでもできるよ。他の人が写っているシーンはあえて通常速度で再生。そしたら高速戦闘しているシーンのスローモーションのように見える」


ゆき「そんな方法があるんだ!」


ましろん「もちろん完璧に……とは行かないけどね。なるべく他の人やリフトなんかのスピードが判る物を写し込まないように撮ればワンチャンいけそう……な、気がするんだよね」


ゆき「お願いしやす!あたしどうしてもシルフィードの高速戦闘の再現やりてぇんだ!」


ましろん「オッケー!やりたいは正義だよ。じゃあ、仕込みするね」


ゆき「仕込み?」


ましろん「良い絵を撮る為には下準備が必要……ってね。ま、ボクに任せてよ」


そう言うと、ましろんはまみ達がいる所にツイッと滑って行き、まみ達に何かを伝えている。

やがてまみ達はゆきとましろんを残して滑り出した。


それを見送るとましろんはゆきの所に戻って来た。


ましろん「まずは写り込む他の人をなるべく排除しといた。他にもちょっと仕込みしといた。もうちょっとしたら撮影開始できると思う。他の人がなるべく写らない角度に回り込んで撮るから、厳密には『追い撮り』じゃなくなるけどいいよね?」


ゆき「もちろん!ありがとう!」


ましろん「お礼は完成した動画が納得行く出来栄えだった時に言ってくれたらいいよ」


そう言うとましろんは小さく笑う。


ましろん「あ、でも、上手く行かなかったとしても怒らないでね。さ、そろそろ行こうか」


そう言うとましろんは周りを見渡し、ゆきの背後に人が居ない角度を探し、その位置で止まる。


ましろん「オッケー。シルフィードさん、始めて下さい」


ゆきにもアクティブカメラの録画ボタンを押したピッと言う作動音が聞こえた。


ゆきは立ち上がり、一度大きく深呼吸をした後、心の中で「スタート」と自分に合図を送る。


ゆっくりと斜滑降を始め、少しスピードが出た所でゆっくり抜刀する。

早送り再生した時に違和感が無いようにする為だ。


ましろんはゆきを挟み、ゆきの背景がコース外になる位置をキープしながら撮影している。


ゆきはゆっくりではあるが、正確な動きでつま先側のターン。

剣の先端を右下後方に向くように構えている。


ゆきの背景がコース外になるような角度となると、このシーンでは追い撮りになる。

自分の後にましろんが付いている事を理解した上でゆきはさらに剣を下げて剣の先端が雪面に少し擦れる位置に構える。


映画の中ではシルフィードが敵に突っ込んで行く時、石畳と剣先が触れて火花が散るシーンだ。

もちろん火花は散らないが、代わりに少量の雪が剣先に弾かれて舞う。


コースの端が近付き、今度は踵側のターン。

それを察知していたましろんはゆきより速くターン。

ほぼ同時にゆきもターン。

ゆきと並走するように二人はターンを終える。


ターンのイン側を滑っていたましろんは今度は先行。

ゆきの姿を正面から捕らえる角度で撮影。


ゆきは踵側のターンの動きに合わせて右下から左上に剣を一閃。

即座に剣先を左下に向け、今度は左下から右上へと剣を跳ね上げる。


斜滑降の間に今度は剣先を進行方向に向けて構える。

次のターン直前に剣を突き出す動きをした後、つま先側のターンに入る。


つま先側のターンの時と逆に腰をひねっていたので、つま先側のターンで少しバランスを崩すゆき。

しかし結果的に剣が雪面に触れて雪を舞い上げて派手なアクションのように見える滑りになった。


ターンを終えて再び斜滑降。

今度は剣を両手で持ち、また剣先を進行方向に向けて構える。


そのポージングのまま踵側のターン。

斜滑降に入り、父親が新たに導入してくれたギミックである、1本の長剣を2つに分け、2本のレイピアにして二刀流の構えで滑る。


このギミックを知らなかったましろんは思わず声を上げる。


ましろん「凄いっ!カッコ良い!」


あまり表に出していなかつたが、実はましろんも四精霊戦記の大ファンだったのだ。

それ故、ゆきの撮影にはまみ達より気合いも入っていたし、最初から動画編集までやるつもりであった。


ゆっくりだが澱みのないスムーズな滑り。

二刀流で構えたまま次のターンを終える。


すると前方に健太郎がいた。

健太郎も剣を携え、ゆきが違和感を覚えるくらいゆっくり滑っている。

それどころか、携えていた剣をこれまたゆっくり動かし、まるでスローモーションのようなアクションをしている。


もちろんこれはましろんの仕込みだ。


健太郎がゆっくり滑り、またスローモーションのようなアクションをしているのをゆきの背後に見切れるように写せば、ゆきのシルフィードが高速戦闘しているように見える映像が撮れるのだ。


ここでゆきが何のアクションもせずに剣を構えているだけでは意味が無い。


ましろん「シルフィードさん!剣のアクション!」


ましろんに声をかけられ、ゆきは両手に持った剣を振るう。


ましろん「ぃよっしっ!」


思い通りの絵が撮れ、ましろんは思わず声に出して小さくガッツポーズ。


この仕込みはまだ2回続く。

健太郎と同じようにスローモーションで滑るののこを追い抜く。


最後はちーだ。

猫じゃらし型メイスを構えてゆきを待ち構えている。


四精霊戦記には敵として獣人族の戦士が登場している。

もちろん美卦とは姿は異なるが、これはましろんの演出である。


ましろん「シルフィードさん!できる範囲でいいから小さいターンを繰り返してちーちゃんに斬り掛かって!」


さっきまで大きさターンを繰り返していたゆきは指示を受けて、ゆきなりの小さいターンに切り替える。


三度ほどターンをするとかなりスピードが落ち、もうちーの目の前だ。


ちーはゆっくりと猫じゃらし型メイスを振り下ろし始める。

それを止まりそうな速度で滑りながら、ゆきは右の剣で受け、通り過ぎざまに左手に持った剣を跳ね上げるようにしてちーを斬りつけるようなアクション。


ましろん「オッケっ!直滑降!」


止まる直前まで落ちていたスピードが徐々に上がる。

ましろんも板を蹴り出してスピードを上げ、ゆきに追い付く。


ましろん「はいっ!ターン!」


ゆきが怖いと感じるスピードになるよりも前にましろんからターンの指示が出る。


斜滑降になってもましろんはピッタリとゆきの後を付いてくる。


ましろん「あとはフィニッシュだけ!先行して構えているから、最後はゆっくり余裕をもって優雅に決めて下さい!」


そう言うとましろんはゆきの斜滑降のラインから離脱し、直滑降でフィニッシュラインに向かう。


ましろんはゆきが最後のターンを始める頃にはフィニッシュラインで待ち構えていた。


ゆきは言われたとおり派手なブレーキングをせず、余裕を持ってましろんの手前で停止。


二本のレイピアを合わせ、もとの長剣に戻し、大きく優雅な動きで長剣を鞘に収める。


一呼吸おいて、兜を脱ぎ、その兜を右の脇に抱える。

そして左手で纏めた髪を解き、その髪は風になびく。

そしてどこか虚しさの漂う表情で遠くを見つめる。

劇場版四精霊戦記1作目のラストのシーンの再現だ。


これは父親に兜を作ってもらった時からゆきの中で決まっていたフィニッシュアクション。

高速戦闘の再現が可能であろうが不可能であろうが、決まっていたフィニッシュ。

この流れを家で幾度となく練習して来た。


ましろん「オッケーっ!シルフィードさん、この動画の編集あたしがやっていいかな?」


少し熱を帯びたようにましろんは提案を口にする。

しかしゆきは反応しない。


ましろん「?……シルフィードさん?」


ゆき「……やった……」


ましろん「!?」


ゆき「やったぁーーーー!シルフィードの動画、撮れたぁーーーー!」


いつの間にか集まって来ていたまみ達もゆきに声をかける。


まみ「ゆきちゃん、カッコ良かった!」


れぃ「ラストのフィニッシュアクション、えれぇエロかったぞ」


れぃにとって「エロい」は褒め言葉だ。

色気があるとか、魅力的だとか、そう言った意味が色々込められている。

以前、美紅里にも「エロい」と言って美紅里にぶっ叩かれていたが、れぃの「エロい」は「いらやしい」と言う意味だけで使っている訳ではないのだ。

それを解っているゆきは素直に「だろ〜?」と笑顔で返す。


撮影後のにぎわいが少し収まった頃、ましろんは改めてゆきに動画編集の旨を提案した。


ゆき「え?いいの?動画編集って大えらいんだらず?」


ましろん「言うタイミング逃してて言えなかったんだけど、ボクも四精霊戦記大好きなんだよね。だから撮影にもちょっと熱が入ったって言うか……。ボクが演出兼監督兼撮影だったから、ボクの頭の中にしか完成した映像がないんだ。だから是非ボクに編集させて欲しいんだ。あ、もちろん動画の元データもちゃんと送るから」


ゆき「ましろんちゃんも四精霊戦記好きだったんだ!ありがとう!そう言う事ならお願いしやす」


ましろん「動画編集で相談したい事も出て来ると思うんだけど、LINE交換してもらえるかな?」


ゆき「もちろん」


二人はお互いのスマホを取り出す。

ゆきのスマホの壁紙は風の精霊騎士シルフィード。

ましろんのスマホの壁紙は水の精霊騎士ウィンディーネだ。


ゆき「あ、ウィンディーネ……」


ましろん「あはは、ボクの最推しはウィンディーネなんだ。なんかゴメンね」


ゆき「ううん、いっさら!ウィンディーネもいいよね〜」


ましろん「シルフィードはウィンディーネに続いて二番手推しなんだ!」


二人が四精霊騎士の話で盛り上がっている中、まみとちーはこの後撮影する二人同時の戦闘シーン撮影の打ち合わせを始めていた。

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