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第73話「動画撮影」

第73話「撮影開始」


一行はゴンドラに乗り込むとすぐに撮影の打ち合わせに入った。


ましろん「誰から撮ります?」


ここでいきなり手を挙げる人は居ない。

ののこでさえも。


ちー「あたしの勝手な判断なんやけど、追い撮りしてもらった事ある人から順にやるのがええんやないかと思うんよ。それ見て追い撮り初体験の人はだいたいの流れがわかると思うし」


ののこ「って事はあたしかちーちゃんって事になるよね」


ゆき「あたしも美紅里ちゃんに知らねぇあいさに追い撮りされてた事はあるけど……」


ましろん「お兄さんは経験あります?」


健太郎「ある事はあるけど、コスプレ滑走での追い撮り経験は無い」


ましろん「じゃあ、最初はちーちゃん撮って、後半をののこさんとお兄さんのコンビで撮ろうか?」


ちー「それでええんちゃう?」


ましろん「ののこさんもそれでいいです?」


ののこ「オッケー。健太郎君もいいよね?」


健太郎「はい」


半ば押し切られるように健太郎も同意する。


ましろん「で、どんな絵が欲しいの?」


ちー「あたしは追い撮りから追われ撮り。ましろんの位置見ながらアドリブで滑り方変えるつもり」


ましろん「りょ。じゃあ、途中で追い抜いてボクが先行すればいいんだね」


ちー「うん。あとはましろんのセンスに任せるわ」


ましろん「ののこさんはどんな感じで撮ります?」


ののこ「あたしもソロで追い撮りしてもらった事無いから、ちーちゃんと同じ感じでお願い」


ましろん「ののこさんとお兄さんはペアだからさっきみたいにシンクロとかコンビネーションやってくれたら良い絵になると思います。ただ、あまり二人の距離が離れると撮影難しくなるんで、それなりに近い距離でお願いします」


ののこ「じゃあ基本的に近い距離でシンクロで滑る感じかな」


ましろん「多少離れてもののこさんとお兄さんが直線になるようにボクが位置取りすればフレームには入りますんで、あまり気にしないで大丈夫です」


ゆき「あたし達はどの辺にいればいいのかな」


ましろん「ボクや被写体より後ろだったらいいよ。ってか、ボクと被写体の間入らなければいい」


ふむふむと、ゆき達は説明を聞いている。


れぃ「あたし達の撮影はこの1本滑った後、もう一度ゴンドラ乗ってから……かな」


ましろん「ボクの勝手な計画で喋っていいなら、次は巫狐さんとグルキャナックちゃん、その次がシルフィードさんで、後半がちーちゃんの美卦と巫狐のコンビ撮影がいいと思う」


まみ「あたし、次の一本の最初なの!?」


ましろん「せっかく裏十二支大戦のキャラが二人いるんだから、コンビ撮影しないのもったいないと思うんだよね」


ちー「ってか、コンビ撮影は絶対やりたい!」


ましろん「このあとちーちゃんの美卦をゴンドラ降り場から麓までの半分追い撮りするじゃん?同じコースで巫狐を次の1本で撮って、次の次一本の後半でコンビ撮れば動画素材として、ゴンドラ降り場から麓まで1本まるっと繋げれるんだよね」


ちー「前半ソロで後半はコンビって1本になるのか」


ましろん「そうそう。お互いソロの撮影の時にチラっとは写るだろうし、後半スタート地点で遭遇してバトル開始……みたいなストーリーに持って行けるじゃん」


ゆき「凄い!そこまで考えてるんだ」


れぃ「まみのソロを前半撮って、そのまま後半コンビ撮影じゃダメなの?」


ましろん「できるならそれでも良いけど、撮影される側も集中力いるからね。一本まるっと巫狐さんの集中力が続くならいいけど」


まみ「自信ねぇ」


ましろん「あと、体力。撮影してる時は気合い入るから疲れる。せっかくのコンビ撮影なのに体力足りなくてコケまくったりミス連発して残念な動画になりがち」


ゆき「そこまで考えてるんだ。凄い……」


ののこ「ぼちぼち着くよ〜。降りる準備しよっか」


皆、慌てて降りる準備を始める。


山頂駅にゴンドラが到着し、ぞろぞろと降り、スタート地点まで移動。


ちー、ましろん、柳江のスキー、スキボ組はパッと板を履けるが、ボード組はバインディングを着けるのに少し時間がかかる。


その間にちーとましろんは最後の打ち合わせ。


ましろん「撮影初めて数秒は滑る速度合わせるのに時間かかるから、スピードが同じになってからアクションしてね」


ちー「おっけー!追い撮りから追われ撮りになるのんいつくらい?」


ましろん「考えてないけど、まぁ任せてよ」


ちー「任せた!」


ましろん「追い撮り、追われ撮りの他にも並走撮影もするつもりだから」


ののこ「お待たせ〜。こっちも準備完了です」


ちー「じゃあ、行こっか!」


ましろんはアクティブカメラの撮影ボタンを押して撮影を開始する。


それを確認してお互い頷きあってタイミングを合わせ、滑り出す。


数秒後、ちーとましろんの速度が同じになる。


ましろん「オッケー!いいよ!」


その合図と同時にちーはポンっと一度飛び跳ねた後、くるりと回ってバック走を始める。


ましろんはピッタリちーとの距離を保って滑っている。


バック走からバック走での片足滑走。

足を入れ替えてまた片足滑走。


正面に向きなおり、加速。

強めのエッジングで雪煙を上げる。


また加速し、コースの端の方へ行く。

ましろんはこの後の事を予測しているように今度は並走。

ちーは端まで行くと、ギャップを使ってジャンプ。

ジャンプの途中で両足を広げるトリック。


まみ『ちーちゃん凄い!本当に美卦みてぇだ!』


今度はましろんが前に出る。

それに付いて行くようにちーが続く。

今度は左右の足を交互に入れ替えながら滑るクロスステップ。


途中で美卦が技を出す時のアクションもしている。


そしてコースの中間地点が近付くと、ましろんは一気に加速し、急停止。

そこに向かってちーは突っ込んて行き、直前で派手にスプレーを上げ、最後は手を顔の横に構え小首を傾げて「招き猫」の決めポーズでフィニッシュ。


ましろん「オッケー!たぶん良い絵になった」


少し遅れてまみが追い付く。

また少し遅れてののこと健太郎、れぃと柳江、最後にゆきが追い付く。


ちーは撮影後、少し息を切らしている。


ちー「いや〜、ちょっと張り切って滑ってもぅたわ。あー、しんどー!」


一方ましろんは全く息を乱していない。


ましろん「この後すぐ、ののこさんとお兄さんの撮影入って大丈夫です?」


ののこと健太郎もコンビネーション滑走の練習をしながら滑ってきた。


ののこ「あたしは大丈夫。健太郎くん、行ける?」


健太郎「大丈夫です」


ましろん「じゃあ、合図しますんで、同時に滑り出して下さい。ゴンドラ乗り場まで撮影します」


ここからゴンドラ乗り場までは少し斜度がきつくなる。

とは言うものの、初級コースである事に変わりはない。


ましろんは再びアクティブカメラの録画スイッチを入れる。


ましろん「オッケーです。いいですか?3、2、1、スタート!」


スタートコールと共に、ののこと健太郎は同時に板のしなりを使ったジャンプ、オーリーをしてポンと跳ねた後、滑り出す。


ののこが少し先行し、その左後方に健太郎。

ののこの滑りに合わせて健太郎がシンクロする。


二人を後方から同じ速度でピッタリと追走するましろん。


ののこ「健太郎くん!抜刀行くよ!3、2、1っ!」


風の音に負けないくらいの声量でののこが合図をすると、二人は同時に鞘から剣を引き抜く。


それをかなり後ろではあるが、ガッツリ見ていたゆきとれぃは歓声を上げる。


ゆき・れぃ「「カッコいい!」」


今度は二人で剣を構えたままシンクロ滑走。


ましろんは何を思ったか、一気に加速し、二人に並びかける。

もちろんカメラは二人に向けたままだ。


ましろん「前出ます!減速するんで二人で挟むようにカメラに斬りかかりながら抜いて下さい!」


ましろんの声も少し興奮したような声だ。


ののこ達がターンしている間に直滑降で一気に前に出る。


二人のシュプールラインに合わせ、ちょうどましろんを頂点としたトライアングルのフォーメーション。


するとましろんが減速。

ましろんを左右からののこと健太郎が追い抜く。

指示どおり追い抜く際にカメラに向かって剣を振る。


ののこ「健太郎くん!スイッチ!3、2、1!」


かなりスピードが出ているが、健太郎は難なくボードのノーズとテールを入れ替え、ののこと向き合う形で並走。


そのままシンクロで滑って行く。


ゆきとれぃはもう声も出ない。

ただ、二人の滑りを見逃すまいと必死で二人に付いて滑る。


ののこ「ましろんちゃん!間、抜けれる!?」


少しののこと健太郎は距離を空け、ましろんが間を抜けれるスペースを作る。


もちろんそれに躊躇するましろんではない。

間を抜けて、追い抜きざまにカメラを頭越しに後に向ける。


ましろんはそのままフィニッシュラインまで直滑降で先行。

フィニッシュラインで停止して二人を待ち構える。


意を察したののこと健太郎。


ののこ「最後スピンで締めるよ!3、2、1!」


二人は同時にスピンを開始し、回転した勢いそのままにカメラを剣で斬りつけるアクションでフィニッシュ。


ゴンドラ乗り場近くと言う事もあって、ギャラリーから拍手が上がる。


ののこ「いぇ〜ぃ!」


ののこは手を高く上げて健太郎とハイタッチ。


ましろん「ののこさん、これかなり良い動画撮れたと思いますよ」


ののこ「マジで?嬉し〜!」


少し遅れてゆき達も合流。


ゆき「ののこさん、凄かったです!」


れぃ「えれぇカッコ良かった!」


ののこ「ありがとっ!でもそう見えたのはあたしの滑りに健太郎くんが合わせてくれたからなんだけどね」


実際、ののこはアクションはするものの、シンクロを合わせるのも健太郎、スイッチで滑るのも健太郎。

難易度が高い事は全て健太郎に丸投げしていた。

しかし、ののこにはコスプレイヤーとしての「見せる」経験値がある。


カメラの位置、つまりましろんの位置を見て即座にカメラに自分がどう写っているかが判る。

ののこはカメラに対して常にポージングしながら滑っていたのだ。

そしてコスプレ初心者である健太郎に、どのタイミングで何をすればいいかを的確に指示していた。

もちろん健太郎の実力を理解した上で。


ゆきやれぃは「憧れのののこさん」のパフォーマンスに目を奪われるだけだったが、まみは少し違った。


滑走技術とコスプレイヤーとしての経験値も、度胸も何も無い。

それに加え、まみが最も好きなキャラクターである巫狐を再現したいと言う願望、いや、巫狐のイメージを損ねるパフォーマンスをする訳にはいかないと言うプレッシャーがまみに重くのしかかっていた。


これまで巫狐を再現したいと言う目標でここまで来た。

頭の中ではゲームの中の巫狐がスノーボードを履いて、優雅に軽やかに、そしてキレのある滑りを想像していた。

しかし、いざ今から撮影となるとその想像の巫狐を再現する技術が全く無い事に改めて気付く。


まみ『どうしず……次、あたしの撮影だらずね?ちゃんと巫狐ができる気がいっさらしねぇ……』


そんな不安げな雰囲気を察知したのはちーだ。


ちー「まみちゃんどしたん?何か元気無いやん」


ゴンドラの待ち列に並んだ時にちーが話しかける。


まみ「ん〜……。あたし、ちーちゃんやお姉ちゃんみたいに上手くねぇから巫狐を表現できる気がいっさらしなくって……」


ちー「それ言うんやったら、あたしも美卦なんやからバック宙したり二段ジャンプせなあかんやん?そら、公式の再現したいってのはあたしも一緒やけど、仮にもっと技術あったとしても物理的に不可能な事ってあるやん?空中で静止するとか……」


まみ「それはそうなんだけど……」


ちー「それにさぁ、巫狐も熟練のゲーマーが操作した巫狐と初めてプレイした人の巫狐の動きやったら雲泥の差あるやん?でも、どっちも巫狐やん?」


そこまで言うとちーは少しもったい付けるように一呼吸溜める。


ちー「つまり!まみちゃんと巫狐の融合、『ま巫狐』をやればええねんって事!」


そう言われてまみは思わず吹き出す。


まみ「『ま巫狐』って何それwww」


ちー「こう言うとアレやけど、アニメの実写化とかってあるやん?プロの俳優さんがやってても、アニメから入った人からみたら『これじゃない感』ってどうしてもあるやん?でも良い実写化作品もあったりするやん?あれって俳優さんがちゃんとその作品の世界観とかキャラとかを理解してるかどうかで変わるんやないかとあたしは思うんよ」


まみ「あー、それわかる……」


ちー「あたしらはプロの女優でもないし、プロのアスリートでもないし、プロのコスプレイヤーでもないやん。でもっ!あたしもまみちゃんも裏十二支大戦の世界観とキャラの理解はバッチリやん?それならちゃんと巫狐できると思うで」


まみ「そうかなぁ……」


ちー「あたしもさぁ……最後のキメのポージングで招き猫ポーズやったけど、普段だったらあんなあざといポーズ取ったりせぇへんもん」


まみ「それはそうだと思うけど……、滑る技術も無いあたしがどうやったら巫狐を表現できるのかな……って思って……」


ちー「巫狐を表現するんとちゃうで?」


まみ「違うの?」


ちー「ん〜……例えば斜滑降してるとするやん?巫狐なら次、どのタイミングで何をするか。アクションするのかターンするのか、止まるのか。それを意識して滑れば、それは巫狐なんよ」


まみ「ごめん、いっさらわかんねぇ」


ちー「まみちゃん、イメージの中で巫狐がスノボで滑ってるシーンって、ずっと凄いアクションしてたりせぇへん?」


まみ「してる」


ちー「せやろ〜。あたしも前はそうやってんけどな。でも、ゲームのムービーシーンとか、エンディングとかやったらアクションしてないのがほとんどやん?つまり戦ってるからアクションしてるけど、巫狐の日常パート考えてみ?ごはん食べたり郷の狐達と触れ合ってる時、アクションせぇへんやろ?」


まみ「うん。戦闘の時以外は巫狐はおしとやかキャラだもんね」


ちー「やろ?じゃあ、戦いに行く訳じゃない巫狐がレジャーでスノボやったとしたらどんな滑りすると思う?」


まみ「あ……そう言う事か」


ちー「そうそう、絶対に戦闘シーンの再現しなあかんってルールがある訳やないんやから」


まみ「じゃあ、隠しエンディングの再現やりたい!隠しエンディングで巫狐が神楽を舞うシーン、好きなんだよね〜」


ちー「え?」


まみ「え?」


ちー「隠しエンディング?」


まみ「そう。隠しエンディング……」


ちー「何それ!あたし知らんで!?」


まみ「全キャラに隠しエンディングあるよ」


ちー「マジ?美卦も?」


まみ「うん。ある」


ちー「どうやったら見れんの!?」


まみ「えーっと、スーパーハードモードでレギュラーキャラを不敗で全員倒して十二支戦で1勝1敗に持ち込んで3戦目でダメージゲージを赤まで減らした状態で神憑り技出して相手を倒したら隠しエンディング見れるよ」


ちー「まみちゃん、早口ワロタ……って、めっちゃハードル高いやん……。あたしスーパーハードモードで不敗で全員倒すのも無理かも……」


まみ「あはは……ゲームの話聞かれたらテンション上がって早口になっちゃうんだよね」


少し恥ずかしそうなまみ。


まみ「でも、練習したらできるよ!」


ちー「いや、でもほら……美卦と相性悪いキャラおるやん?亀の玄武とか……」


まみ「わかる〜。あたしも緋熊が苦手で……だって緋熊って術耐性と打撃耐性あるし投げ技の間合いも巫狐より広いじゃん?巫狐の特性全て使えねぇって言うか……」


やはり早口だ。


ちー「緋熊はその分斬撃耐性無いから、爪での斬撃がメインの美卦的にはカモなんよな」


その後もまみとちーはゴンドラの中でも裏十二支大戦の話を続けた。

そのおかげか、まみの緊張はすっかり無くなり、戦闘以外の巫狐の表現をする事が逆に楽しみになっていた。


そしてゴンドラは山頂駅に到着する。




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