第72話「あたしがやりたかったグルキャナックはこれなんよ!」
第72話「あたしがやりたかったグルキャナックはこれなんよ!」
厳岳スキー場、コスプレ滑走イベント。
いよいよ1本目の滑走。
夏のコミゲのコスプレイベントで動きのあるシーンの再現ができず、その時のフラストレーションから動きのあるキャラクターの再現を目標にここまできたゆき、まみ、れぃの三人。
そしてその目標にしてきた厳岳スキー場でのコスプレ滑走イベント。
このイベントの為にスノボを始め、ようやくここまで来た。
しかし、まだまだ滑りは拙い三人。
期待と不安が入り交じる。
ののこ「じゃあ、ゆきちゃんスタート!次、れぃちゃん、真由美の順番ね。行ってみよ〜っ!」
ののこの合図に三人は顔を見合わせ、お互い無言で頷く。
ゆきは山向きで立ち上がると剣を構え、ポーズを決める。
そして少し作った凛とした声でギャラリーに聞こえるような声で宣言するように声を出した。
ゆき「風の精霊騎士団団長、シルフィード出陣する!」
するとギャラリーから歓声上がり、構えていたスマホのフラッシュがあちこちで光る。
また一部の女性ギャラリーからは黄色い声が上がる。
その後、ゆきは一度ゆっくり空を見上げ、ゆっくりと滑り出す。
いや、ゆっくりと言うより、「威風堂々と」と言う方が正しい。
実はゆきは数日前にののこにラインでこんな相談をしていた。
ゆき『ののこさん、相談いいですか?』
ののこ『どした〜?』
ゆき『あたしみんなほど速く滑れないし、上手くもないじゃないですか。そんなあたしがシルフィードのコスプレで滑ったら、シルフィードのイメージを壊してしまわないですかね?』
ののこ『だったら、速く滑れないのではなく、あえてゆっくり滑っているのだと言う演出をすればいいのよ』
ゆき『えーっと、具体的には?』
ののこ『作中でシルフィードって常に高速移動してた?堂々とゆっくり歩くシーンや、落ち着いて戦況を見極めるシーンもあったじゃない』
ゆき『確かに最後の戦いに出る時は覚悟を決めた表情でゆっくり歩いてました』
ののこ『それを表現すれば速く滑る必要無いし、むしろゆっくり滑っている必然になるでしょ』
ゆき『わかりました!やってみます』
そこからゆきは四精霊戦記のDVDを何度も繰り返し見て研究。
自分の好きなシーンだけではなく、コスプレ滑走で再現できそうなシーンを探すように見る。
そして家で何度も練習を重ね、本番である今日、完璧な再現をやってのけたのである。
そう。
ゆきはスノボやコスプレに対しても真面目なのだ。
それを見ていたまみとれぃも、ゆきのその演出に驚いていた。
まみは思わずつぶやく。
まみ「ゆきちゃん、えれぇキレイ……」
まみの独り言だったが、れぃの耳には届いていたようで、れぃが応える。
れぃ「……うん。認めざるを得ねぇ……。ってか、負けてらんねぇ!」
次の滑走順であるれぃはガバと立ち上がる。
既にスイッチが入っているれぃだが、れぃのお笑い好きな所も完全開放。
れぃは立ち上がり少しサイドスリップで前に出た後、振り返りまみに言うふりをして、ギャラリーに聞こえるように言う。
れぃ「よーっし!スノボなんて簡単なんだから!あたしがお手本見せてあげるからよーっく見ておきなさい!」
れぃもグルキャナックのモノマネだ。
少し声のトーンを高くして、無駄に偉そうに言う。
もちろんグルキャナックがスノーボードをするシーンはアニメ「ドジでまぬけな魔王がいたっていいじゃない」には無い。
だが、喋り方が完全にグルキャナックだ。
その再現度の高さにギャラリーが沸く。
拍手と歓声。
そしてシャッター音があちこちから鳴る。
れぃはまた高飛車な雰囲気で「ふんっ!」と言うと滑り出す。
だが、れぃの滑りはいつも以上に素人っぽい。
なんなら今日スノボを始めたレベル。
へっぴり腰で「はわわわわわ」と言いながら腕をぐるぐる回し、バランスを取る。
そして徐々に直滑降を始め「うわわわわわわ」と言う声と共に滑り去った。
これはもちろんれぃの演技である。
ギャラリーから笑い声と子供の「グルキャナックちゃん頑張れー」の声が聞こえる。
れぃは内心ガッツポーズである。
そしてその様子をいつの間にか先行していた柳江がしっかり写真に収めていた。
とうとうまみの番だ。
まみはさすがに何かパフォーマンスができる程のメンタルは持ち合わせていない。
だが、ギャラリーは必然的に巫狐のパフォーマンスに期待する。
まみは滑り出したと同時にターンし、ギャラリーの方を向くと前で両手を重ね、お辞儀をした。
このお辞儀はパフォーマンスを期待したギャラリーに何もパフォーマンスできない事への謝罪だったのか、それとも何もしないで滑り出す事の方がプレッシャーだったのかはわからない。
ただ、図らずしもこのお辞儀が、ゲーム内でのキャラクター選択画面で巫狐を選んだ時のキャラクターの動きと同じだったのだ。
また歓声とシャッター音が鳴り響く。
まみはギャラリーと目を合わせないようにスッと横を向き、滑り出す。
ちー「まみちゃんやるなぁ!よーっし、うちも!」
次はちーだ。
ちーはピョコンと一度跳ね、片足で立ち、もう片方のスキボのノーズを雪面に突き立てる。
そして猫の手を顔の横に当て、招き猫のようなポーズをしてウインク。
ちー「いっくぜぇ!」
ちーもまみと同じくゲームのキャラクター選択画面の再現パフォーマンスをすると一気に滑り出し、スピントリックを決めてまみ達を追いかける。
ののこはゆきとれぃが予想もしていなかったパフォーマンスをするのを見て即座に健太郎と打ち合わせを始めていた。
ちーが滑り出した後、スッと二人が並んで立ち、やや背中合せに立ち剣を構える。
これは「ソードワールドオンライン」DVD1巻のパッケージイラストの再現であり、また作品の顔とも言えるイメージイラストの再現だ。
メジャー作品と言う事もあり、ギャラリーが多いに盛り上がる。
そして二人はタイミングを合わせて同時に板のしなりを使ったジャンプ、オーリーをした後滑り出す。
滑り出した後も二人でシンクロ滑走。
ギャラリーからさらに大きな歓声と指笛の音まで聞こえる。
その頃先頭を滑っていたゆきは自分のペースでゆっくり堂々と滑っていた。
ゲレンデの途中で止まっていたギャラリーからの声援や手を振るリアクションに、剣を掲げたり手を振り返したりしながら滑る。
ゆき『何これ!えれぇ楽しい!顔がニヤける〜』
しかしシルフィードの雰囲気を壊す訳にはいかないので、ほころぶ口元をぐっとこらえて真顔を保つ。
最初は威風堂々とした雰囲気を意識していたが、いつしかそれも頭から抜け落ちていた。
ただゆったりと滑る。
そしてニヤけそうな口元をこらえた真顔なので、優しく微笑んでいるようにも見える。
そしてその表情とゆったり滑る姿は、どこか優雅ささえ感じさせた。
もちろんゆき本人は自分が今、周りの人から見て「優雅に滑っている」ように見えているとは思っていない。
やがて口元のほころびを抑える事も難しくなり、手を振るギャラリーに笑顔で手を振り返す。
ゆき『あれ?これって……映画の最後、凱旋する時のシーンみたいじゃん』
四精霊戦記の映画のラスト。
シルフィードが最後の敵を討ち倒し、満身創痍ながらも笑顔で凱旋するシーンとそっくりだ。
そしてそのシーンはゆきが毎回涙腺崩壊するシーンでもある。
ゆき『あたし今、シルフィードなんだ……。コスプレ滑走やって良かった〜〜〜』
思わず目頭が熱くなる。
憧れのシルフィードになれた感動を噛み締めながらゆきは滑り続けていた。
まみやれぃも自身のコスプレしているキャラクターへの思い入れは強い。
だが、ゆきのシルフィードへの思い入れはそれを上回っていた。
シルフィードはゆきの憧れと目標そのもの。
初めてコスプレイベントでシルフィードをする事になり、父親に鎧のコスチュームを作ってもらい家で試着して鏡を見た時も感動のあまり泣き出したくらいだ。
だがその想いは、常に自分はシルフィードになりきれているかと言うジレンマを感じる原因でもあった。
故にシルフィードになりきれていないコスプレイベントでは喜びや楽しさと同じくらい、シルフィードになりきれていない自身の力不足を感じていた。
だが、今日のゆきは100%では無いにしろ、ちゃんとシルフィードが出来ている実感を感じていた。
一方れぃはノリノリで滑っていた。
無駄に手をバタバタと振り、グルキャナックのドジさを演じながらの滑走。
前回のまんぞくっくの時に風の抵抗は経験済み。
今日はいくらか気持ちにも余裕がある。
上手く滑る事はできないが、あえて素人っぽく、毎回大口叩いてドジっぷりを発揮するグルキャナックそのものだ。
ギャラリーからも「グルキャナックだ!再現率高けぇ!」と言う声や、小さい女の子から「グルキャナックちゃん頑張れーっ!」の声援に、一度フンと胸を張り、その直後転びそうにワタワタするパフォーマンスを続ける。
れぃ『これや!あたしがやりたかったグルキャナックはこれなんよ!』
そしてれぃの近くには常に柳江が同行し、先行してはスマホを構えれぃの写真を撮る。
れぃも柳江の姿を確認しているので、その都度グルキャナックっぽい演技で柳江の前を通り抜ける。
ゆきと違い、れぃは何度か転倒していたが、その転倒さえもグルキャナックっぽいリアクションで悔しがったり、あたふたと取り繕うようなリアクションで笑いを取っていく。
れぃ『えれぇウケてる!コスプレイベントじゃ、こりゃできねぇもんね!コスプレ滑走して良かった!』
グルキャナックのキャラも相まって、この時のれぃはいつもと違う素の表情での「楽しそうな表情」で滑っていた。
もちろんその表情を逃す柳江ではない。
途中かられぃの表情が作った表情じゃなくなったのを見て、一気に先行し、れぃが来るまでに一眼レフを取り出してその表情をカメラに収めていた。
一眼レフを取り出して撮影するあたり、柳江の本気度が見える。
後日談になるがこの日柳江が撮った写真のおおよそ6割がれぃ、もしくはれぃを含めた写真だった。
楽しそうに滑っているのはまみも同じだ。
まみとちーは同じ裏十二支大戦のキャラと言う事もあり、二人コンビで滑っていた。
滑走技術的にはまみより数段上のちー。
まみのスピードに合わせてまるで美卦と巫狐が戦っているかのような演出。
しかし、あまり接近しすぎるとまみが怖がるのも解っていたので、ゲーム内でお互い長距離攻撃を繰り出しているようなリアクション。
または距離をある程度取った上での交差。
その滑走パフォーマンスにギャラリーから「すげぇ!」「カッコいい!」等の声が上がる。
滑るのに必死だったと言うのもあるが、まみの表情は真剣そのもの。
逆にそれが戦っている時の表情にも見える。
ちーは楽しくて仕方ないので常に笑顔だが、美卦のキャラクターがもともと戦いを楽しむようにニヤリと笑った表情なのでこちらもゲームの世界観とマッチしている。
まみ『ちーちゃん、再現率高い!よーっし、あたしも!』
まみは以前やってみたら何となくできた「板をずらしながら回転する」と言う技も織り交ぜ「狐火神楽」の再現もやってみる。
狐火神楽は両腕を大きく開き、フィギュアスケートのスピンのように回りながら御札を周囲に放ち、その御札から炎が上がり相手を攻撃する技。
巫狐の衣装の「たもと」が風と遠心力で大きく開く。
これもコスプレ「滑走」ならではの演出と言える。
もちろん御札を投げる事もできないし、炎の演出もできない。
だが、ちーもこのゲームのヘビーユーザー。
まみが何をやっているかを即座に理解し、防御のポーズで応える。
ちー『まみちゃんやるやん!ほなうちも!』
今度は両腕を大きく開き、同時に体の前で手を交差し、爪で真空の刃を作り出す、美卦の遠距離技「猫爪真空波」のアクションをまみに向けて放つ。
それを見たまみはタイミングを見計らい、お祓い棒を振って見えない真空波は叩き落とすが、そのアクションをした為にエッジが引っ掛かり、まみは転倒してしまった。
まるで真空波全てをかき消す事が出来ず、ダメージを負ったかのようだ。
ギャラリー的にはそう言う仕込みなのだろうと思うレベルだ。
転倒したまみをちーは確認していたので、その場で止まりファイティングポーズで待機。
まみが立ち上がるタイミングを見計らい、また同時に滑り出す。
二人は完全に裏十二支大戦のゲームの世界に入り込んでいた。
そして最後から付いて来ているののこと健太郎。
両者それなりに滑走技術があるので、パフォーマンスもレベルが高い。
しかも人気作品の主人公とヒロインとなれば、注目度はゆき達の比では無い。
実際に一般のギャラリーの一部がアクティブカメラで追い撮りしていたのはこの二人だ。
動きを合わせたシンクロ滑走、突如両者左右に分かれて滑走ラインが交差するギリギリですれ違うコンビネーション。
実際はののこの技術はそこそこ。
健太郎の技術が高いので、健太郎がののこの動きに合わせている。
ちょうどまみとちーのパフォーマンスと同じように、技術の高い者が相方に合わせるように演出している。
また並走を始めた健太郎にののこが声をかける。
ののこ「健太郎君、すごいじゃん!コスプレ滑走が初めてって思えないよ」
健太郎「あざっす!」
もうこれだけで健太郎は浮かれ気分だ。
ののこ「ね!次、トレインやってみよ!」
健太郎「わっかりました!ののこさん先行して下さい」
そう言うと健太郎はスッとののこの後ろに付く。
二度ターンした後、ののこのシュプールを完全にトレースする。
そしてまたギャラリーから歓声が上がる。
ののこはコスプレイベントでも囲みができるレイヤーだし、去年のコスプレ滑走でも人気を博していた。
歓声を受ける事や羨望の眼差しで見られる事に少なから経験がある。
一方の健太郎は、コスプレ未経験。
スノボはかなり上手いが、プロと比べればやはり素人の域を出ないので、滑っていても賞賛されるような事はない。
パークでメイクしても、同じパークユーザーから小さい声で「おぉ〜……」と言われる程度。
しかもその声は健太郎に届く事は無い。
顔もブ男では無いがイケメンでもない。
言ってしまえば十人並み。
性格的に奥手なのでモテた事もなければ、彼女ができた事も今まで一度も無い。
そんな彼が、ちーのメイクの助力もあり、顔、姿共にかなりキルオに寄せている。
そしてこの滑りだ。
男女問わず「すごい!」「カッコいい!」と賞賛の声をあちこちから掛けられ、生まれて初めて「モテ期」が来たような錯覚に陥っていた。
何なら今日ののこに告白したらOKがもらえるのでは無いかとまで勘違いしていた。
一方ののこは自分が酔っ払ったせいで、健太郎を今日のコスプレ滑走に引きずり込んでしまったと言う負い目がある。
しかもなかなかいい値段する衣装や小道具のセットも健太郎に買わせてしまった。
何としてでも健太郎にコスプレ滑走やって良かった、衣装や小道具に使ったお金が無駄じゃなかったと思ってもらわなくてはならない。
だがこれがなかなか難しい。
ののこなりに健太郎の気持ちに感づいているが、今のところ健太郎の気持ちに応える気は無い。
そもそもののこは今まで特定の誰かを好きになった事は無いのだ。
コスプレ滑走に引きずり込んだ負い目はあれど、あまり距離を詰めすぎると健太郎に勘違いさせる事にもなりかねない。
人懐っこい性格であるののこ。
以前、美紅里にも注意された事があるのだが、人との距離感が近く、分け隔てなく誰にでも好意的。
故に勘違いさせてしまう案件が後を絶たないのだ。
ののこはまみと別の意味で人との距離感をつかむのが苦手なのだ。
そして今日既に何度か勘違いさせてしまうような発言を知らず知らずのうちにしてしまっている。
ののこ『健太郎君、楽しんでくれてそうで良かった〜。あたしに合わせてくれてるし、お礼とかカッコ良いとか言いたいけど、あまりやり過ぎると健太郎君に勘違いさせちゃうしなぁ〜』
二人はそれぞれそんな事を考えながら、さしあたり今のパフォーマンスを楽しみながら滑っていた。
二人が本気で滑れば、あっと言う間にまみはもちろん、先頭のゆきにも追い付いてしまう。
二人はゲレンデの端から端まで広く使い、滑走距離を伸ばして絶妙な距離を保っていた。
そんな二人の前を一陣の白い風が二人を追い越して行った。
そしてその風はまたたく間に麓方向へと滑り去る。
ののこ達を抜き去り、次にまみ達を追い越した一陣の風はれぃ、そして先頭を滑るゆきをも追い越して行った。
距離があったので怖さは無かったが、「迫力」と言う点においては、ある意味コスプレして滑走しているまみ達と同じくらい目立つ滑りだ。
ちーはその白い一陣の風を見た瞬間、思わず「あ…」と声を漏らしたが、すぐにまみとの滑走パフォーマンスに意識を戻した。
ゆきは普段ならゴンドラ降り場から麓まで何度か止まって休憩しながら滑るのだが、あまりにも楽しく止まる事を忘れ、いや、止まるタイミングを計れず一気に麓近くまで滑ってきてしまった。
やがて麓のゴンドラ乗り場が見えて来た頃にはれぃ、そしてまみとちー、ののこと健太郎もゆきに追い付いた。
あと数百メートルだが、柳江を含め7人での集団滑走。
そこにさっきゆき達を追い越した白い一陣の風の正体がゆき達を待っており、スッと合流。
ちー「ましろーん!おっひさー!」
ましろん「ちーちゃんおひさー。今年はメンバー多いじゃん」
ちー「せやろー。ゴンドラ乗り場着いたら紹介するわ」
ましろん「オッケー。じゃあ、先に行ってゴンドラ乗り場で待ってる」
そう言うとましろんは一気に加速し、あっと言う間に麓まで行ってしまった。
まみ「ちーちゃん!今の子がましろんちゃん?」
滑走しながらなのでいつもと違い、まみは少し声を張るように声を出して喋る。
れぃのようにボソボソ喋る訳ではないが、目立ちたくないまみは普段からあまり大きい声で喋る事は無い。
ちー「せやでー。ましろん、笑ってまうくらい爆速やろ?」
ゆきは言葉にはしなかったが、滑り出す前にちーが「この一本滑ってる間に追い付くで」と言っていたのが冗談では無かった事を思い知る。
やがて7人はゴンドラ乗り場にまで滑り終えた。
既にましろんは板を脱いで手を振っている。
ちー「いぇ〜い!」
ちーが手を出してハイタッチの様子を見せるとましろんも手を上げる。
すれ違いざまに二人はハイタッチ。
ちー「お待たせ〜」
ましろん「いいよ〜。もう朝イチの美味しいバーンは堪能したから」
ちー「何本滑ったん?」
ましろん「今ので6本目。2本前のゴンドラでちーちゃん見つけたんだけど、コスプレしてるからたぶん降り場で写真とか撮るんだろうなって思ってそのまま滑ってた」
ちー「あー、正解正解。上でラジオ体操とかもしてたし、撮影会もやってたし。んで、この後合流できんの?」
ましろん「いいよ。追い撮りだっけ?」
ちー「うん。あたしと一緒に滑ってるグループ、それぞれ撮って欲しいんやわ。とりあえず紹介するわ」
流れるようにまみ達の紹介が始まる。
ちー「端からゆきちゃん、れぃちゃん、れぃちゃんの彼氏さんで柳江君、まみちゃん、ののこさん……うちのクソアニキは知ってる……よね」
健太郎「誰がクソアニキだ」
ましろん「よろしく〜。ましろです。ボクの事は『ましろん』って呼んで下さい」
ゆき「ゆきです。よろしくお願いします」『ボクっ娘だ……』
れぃ「れぃです」『ボクっ娘だ……』
柳江「柳江だ」『え?ボク?』
まみ「えっと……まみです」『ホントにボクって言った……』
ののこ「ののこです。よろしくね」
ちー「ほな、ゴンドラん中で撮影の打ち合わせしよっか」
8人はぞろぞろと板を持ってゴンドラ乗り場に歩いて行く。
途中、小さい子に「グルキャナックだ〜」と言われたれぃが笑顔で手を振る事が何度かあったが、特に撮影の申し出もなく、ゴンドラの待ち列に並ぶ。
待ち列の前後の人達から写真を求められることがあったが、それは全てののこが「山頂の景色の良い所で撮りましょう」の声により撮影会になる事はなかった。
並びながらも撮影の打ち合わせは進む。
ましろん「撮影はボクの360度カメラで撮ったらいいのかな?」
ちー「うん、うちらアクティブカメラ持ってへんからましろんにおんぶにだっこでお願いしよぅと思とってん」
ましろん「データは?」
ちー「ギガファイル便で送ってくれたらあとはこっちで編集するわ」
ましろん「何本か撮る?」
ちー「せやね〜。一人1本……めんどかったら一人1本の半分でええよ」
ましろん「それはいいんだけど……これだけ揃ってるなら集団滑走やコンビ動画も欲しいんじゃない?」
ちー「欲しいけど、頼んでええのん?」
ましろん「ボクは構わないよ。今日はちーちゃん達と遊ぶつもりで来たから」
ちー「あー、うちのクソアニキは別に撮らんでええよ」
ましろん「ん~~、そうは言うけど、さっき滑ってる時にチラっと見たんだけど、お兄さんとののこさんの動画はバえると思うよ」
ゆき「あたしはののこさんと健太郎さんの動画見たい!先頭滑ってたから二人の滑り見れなかったし」
ちー「ののこさんはええけどアニキ撮ったらレンズ腐れへん?」
健太郎「お前は毎回余計な事言い過ぎじゃ!」
ましろん「じゃあお兄さんとののこさんのコンビの動画は撮らせてもらいますね。お兄さんのソロの追い撮りはお兄さんが嫌なら控えますけど」
健太郎「え……いや、撮ってもらえるならお願いしたいな……と」
はにかみながら健太郎は答える。
ちー「……うわっ……キッショ!」
ましろん「こっちのカメラマンさんの追い撮りはする?」
柳江「俺はいい」
ましろん「了解。あ、次のゴンドラ乗れそう」
8人はぞろぞろと同じゴンドラに乗り込む。
扉が閉まり、ゴンドラが一気に加速する。
ガタガタとゴンドラの音が落ち着くと即座に動画撮影についての細かい打ち合わせが始まった。




