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第70話「動画撮影」

第70話「動画撮影」


午後9時、まみとゆき、それぞれのスマホからLINEの着信音。


     ご報告

平素より格別のお引き立てを賜り心より御礼申し上げます。

私事で大変恐縮ではございますが、かねてより多少縁のございました柳江敏明さんと交際させて頂く運びとあいなりました。

まだまだお互いの理解が浅く、またお互い交際経験が皆無の為、この交際がどれだけ続くかわかりませんが、お互いお試し期間的な認識で交際して参ります。

今回の交際を決意するにあたり、様々な事に思い悩みました。

私にとって柳江君と交際する事により、浅野真由美さんと吉田美由紀さんとの交流に障害が発生する事は何としてでも避けたいと考えておりました。

その点も柳江君と話し合った結果、浅野さん吉田さんとの交流を主とし、交際はその合間の時間で行う事を両者了承の上で交際して参ります。

最後に、何分未熟な私ですので、今後とも今までと変わらずご指導ご鞭撻、あと今日の授業のノートを賜りますよう、お願い申し上げます。

向井玲奈


ゆき「芸能人の交際発表のFAXかよ!」


ツッコミを入れると同時に大笑いするゆき。

そして心の中で安堵していた。


一方まみも全文を読み終え、自分の事も考えてくれていた事に喜びを感じていた。

まみ「れぃちゃん良かったね〜」


ゆきもまみもそれぞれ「おめでとう」とか「良かったね」と言った内容のスタンプを返信する。


れぃもとりあえずまみ達に報告する事ができてホッとしていた。

ホッとし過ぎて、ゆきはともかく柳江と交際を開始した事に対してまみが驚くリアクションを見せなかった事にれぃは気付かなかった。

ホッとした脱力感でスタンプに対しての返信が遅れる。


れぃの返信より先に動いたのは、ゆきだ。

れぃの報告のメッセージに乗っかるように悪ノリして来た。


ゆき『それではこれより、向井玲奈さんと柳江敏明君の交際についての記者会見に移らせて頂きます。ご質問のある方は所属とお名前、ご質問をお願いします』


れぃ「あっ!ゆき!あんにゃろ……」


予想していなかった展開にLINEを見ながら悪態をつく。


既に主導権を握っているゆきの行動は早い。


ゆき『シルフィード通信の吉田です。告白はどちらからされたんですか?』


これについてはれぃも説明したいと思っていたので、事の顛末を説明する。


ゆき『マジか……。ってその展開で柳江君も告白するかね、普通』


れぃ『あたしもそう思う』


ゆき『ってか、れぃもスタンプ誤爆って……。れぃの言う「好意が見えるようなスタンプ」ってどんなだったんだ?』


れぃ『これ↓』


そう返信すると、立て続けに「ちゅき〜♥」のスタンプを貼る。


挿絵(By みてみん)


ゆきもまみも、スマホを片手に吹き出す。


ゆき『これはアカンwww』


まみ『柳江君、これをれぃちゃんからの告白と思ったんだwww』


れぃ『ありえねぇだろ?』


まみ『えーっと、巫狐巫狐新聞の浅野です』


れぃ「まみも乗っかるのかよ」


ゆき「いいぞ、まみ!」


すっかりこの状況を楽しんでいるゆきとまみ。

そしてまみからの質問が飛ぶ。


まみ『れぃちゃんはいつから柳江君の事が気になってたんですか?』


ゆき『まみ、ぶっこむじゃんwww』


まみ『あ、ダメだったかな……』


ゆき『いいじゃんいいじゃん!れぃ、答えてよ』


れぃ『おめぇら遊んでるだろ……』


文面と違い、れぃは少し照れたような表情でスマホを見ていた。


れぃ『栂の森スキー場でナンパヤローに絡まれて、あたしが落ち込んでる時柳江君にあたしが「魅力的だ」って言ってくれたんだよ。その時はからかわれているのかと思ったんだけど、顔はマジだったし……』


こんなやり取りが2時間ほど続いた。


れぃ『お時間となりました!寝不足なんで今日の会見は以上をもって終了させて頂きます!』


そう言われてゆきもまみも、れぃが寝不足だった事を思い出し、引き伸ばす事が出来なかった。


ゆき『おっけ。じゃあ明日ゆっくり聞かせてもらう』


まみ『ゆっくり休んでね。おやすみ〜』


それぞれが、それぞれ抱えていた昨日からの一連のモヤモヤが解決し、三人はぐっすりと眠った。


翌日、教室で顔を合わせた三人。

今日はれぃの顔色も良い。

すっかり隈は消え血色も良い。

ただ少しいつもより紅潮しているようにも見える。


何の事は無い。

駅で柳江はれぃを待っていて、二人で一緒に登校して来たのだ。

一緒に登校と行っても距離的には「普段から喋っているクラスメイト同士」と言った距離で、はたから見れば同じペースで歩いている生徒二人としか見えない。

挨拶以外は特に会話する訳でもないので尚のことだ。

正確には会話しなかったのではなく、会話出来なかったと表現する方が正しい。

お互い何を喋ればいいか、迷っているうちに学校に着いてしまったのだ。

それでも二人にしてみれば「恋人」と一緒に登校した事に変わりはないのだ。


学校に着いて校舎に入り、お互いの教室に向かう為の分岐点でお互い小さく手を振り相手にだけ聞こえるような声量で「あばね」と言って別れて来た。

それだけである。

それだけで、れぃにしてみれば赤面ものの出来事なのだ。


ゆきもまみもあえて触れなかったが、いつもは寝癖がついていても気にせず登校してくるれぃが、今日はしっかりブラシをかけ、以前ゆきの家で撥水加工をした際まみに整えてもらった時の髪型に近い髪型に整えて来ている。


ゆき『これ、下手に髪型の事言うと、また照れ隠しでキレて髪をぐしゃぐしゃにするんだろうな』


そう思ってれぃに気づかれないようにゆきは顔を背けてニシシとちょっと意地の悪い笑い方をする。


まみもれぃの性格を知っているので照れ隠しに逆ギレされるのを恐れて口に出せなかった。


そんなれぃの事情を知らないクラスメイトはド直球でれぃにその話を振って来た。


石田「あれ?向井さん、今日はかわいい髪型してんじゃん」


れぃは赤面し、ゆきとまみは青ざめる。


れぃ「きょ……今日は……寝癖がいつもより酷くって……さすがにアレだったから……ちょっと……ゴニョゴニョ……」


石田「そうなんじゃん、いいじゃん!似合ってるよ。あっ!りっちゃん、おはよー!」


あっと言う間に石田は別の所に行ってしまい、残された微妙な空気の三人。

赤面したれぃが両腕を少し動かした瞬間、左右からそれぞれの腕をゆきとまみにガッシリ掴まれてしまった。


ゆき「せっかく整えてきたんだからわざわざ乱さんでいいじゃん」


まみ「そうだよ!もったいねぇよ!」


れぃ「は……放せ!こんなの何か意識してやったみたいじゃん!」


ゆき「ここでわざわざ髪をぐしゃぐしゃにしたら、余計に怪しまれるぞ!」


れぃ「……え?……そんなもんなの?……」


ゆき「石田さんに言われる前ならまだしも、言われてから乱したら違和感しかねぇじゃん」


納得行かない表情だが、れぃはとりあえず髪をわざわざ乱すのを諦めた。


その後は特にれぃの髪型について触れる者もおらず、平和な時間が流れる。

ただ、れぃは休み時間の度に昨日の授業のノートを書き写す作業に追われ、昼休みにはぐったりしていた。


ゆき「れぃー!昼飯行かずー!」


三人は連れ立って部室に向かう。


ゆき「美紅里ちゃん、こんちゃー!」


れぃ「……こんちゃ……」


まみ「失礼しやーす」


美紅里はやれやれと言った表情。

昨日も言われたが、部室の使用は放課後の部活の時間か、部活の都合で顧問が許可した場合のみなのだ。


しかし、今日は美紅里がその事に触れる事は無かった。

美紅里もれぃの事が気になっていたからだ。


昼休みの間も三人は部室に居座り続けた。

その様子を見て、美紅里はれぃに話を聞かなくても万事解決した事を察する。


昼休み終了の時間が近付き、ゆき達は退散する。

部室から出る時、れぃと美紅里の目が合う。

美紅里は無言で少し頷くと、れぃもその意図を察してペコリと頭を下げて部室を後にした。


午後も穏やかに時間は流れ、放課後。

また三人は部室である理科準備室へ。


先日のコス滑走の話から、いよいよ三人の目標である厳岳スキー場で行われるコスプレ滑走イベントの話になる。


乗鞍スキーランドで初コス滑走を行い、それぞれがまだ課題を抱えている。

まだ全員滑るのが精一杯で、以前まみが提案したシンクロ滑走だのフォーメーション滑走だのはとうてい出来そうにない。

コス滑走での勝手の違いを身を持って知ったまみも、自分がかなりハードルの高い事を言ったと自覚しているのでその件については満場一致でこれらのパフォーマンスは諦めると言う結論に達した。


そしてまみもゆきも触れたい話だが、なかなか言い出せない話があった。

柳江がカメラマンを引き受けてくれるかどうかと言う話だ。

それとなくゆきがそっち方向に話を誘導するように、先日撮ってもらった写真を見せる。


ゆき「やっぱゲレンデで撮るってのは雰囲気あっていいよね」


ゆきはれぃをチラっと見る。


まみ「でも良い写真って撮るの難しいよね〜」


まみもれぃをチラっと見る。


れぃ「……何で二人してあたしをチラ見すんじゃん……」


ゆきとまみはしらばっくれるようにわざとらしく明後日の方向を見る。


ゆき「そう言えば、アルマナック様と同行してたカメラマンの人っていたじゃん」


まみ「いたね〜。一眼レフカメラ持ってた」


れぃ「……どこ見て喋ってんだよ……」


ゆき「いや〜……あたし達にも同行カメラマン居たらいいな〜って」


まみ「乗鞍スキーランドでコス滑走やってホントそれ思った」


れぃ「……カメラマンの件はどうするか目星付けてたじゃん……」


まみ「うん、だよね〜」


ゆき「そういやまだお願いする機会が無くて、話が進んでねぇな〜」


れぃ「……そのわざとらしい会話止めろ……。わかったよ。あたしがLINEしとく……」


ゆき「ホント!?ありがとう!」


れぃは無表情ながら、少し不機嫌そうな雰囲気。

二人が妙な気を使っているのが見え見えだからだ。

しかしその発端が自分にある事も解っているので、キレキャラをやる訳にも行かない。


れぃはスマホを取り出し、柳江にメッセージを送る。

すると1分も経たないうちにれぃのスマホが着信を知らせるチャイム音を鳴らす。


やはり柳江からの返信だったようだ。

一気にれぃの顔が赤くなる。


まみ・ゆき『『柳江君、何て返信して来たんだろ……』』


れぃはスマホを隠すようにカバンに突っ込み、少しわざとらしささえ感じる咳払いをひとつ。


れぃ「……やってくれるって言うか、そもそも行く予定だったんだって……」


ゆき「ホント!?ラッキー!」


まみ「ありがとう、れぃちゃん!」


ゆき「あとは動画撮影だな」


まみ「そもそも何で撮るの?スマホ?」


れぃ「……スマホじゃねぇの?……」


そこに美紅里が口を差し挟む。


美紅里「スマホで滑走中の動画撮影は止めときなさい」


ゆき「何で?」


美紅里「まず紛失と故障の危険性。転んだ時、手から離してスマホが転がって、その上に雪が乗ったら見つけられなくなるわよ。後続の人に踏まれたらスマホなんて一瞬で液晶割れるし。あとは防水効いてるスマホじゃないと水で壊れる」


確かにスキーもスノボも転倒は付き物だ。

そうなると美紅里が言ったとおりになりかねない。


美紅里「次に低温による低電圧で1本撮影したらスマホが使えなくなる危険性。スマホはいざと言う時のライフラインでもあるからね」


これはまみがののこと二人で練習した時、ののこがスマホで何度か追い撮りして一気にバッテリー残量が減った事を考えれば十分ありえる話だ。


美紅里「一番問題なのはスマホは画面が大きいから画面に集中しすぎて周囲への視界が狭くなって危険だって事」


ゆき「どう言う事?」


美紅里「アクティブカメラって小型な物が多い。そこに付いてる液晶画面なんておおよそ見ながら撮影できる大きさじゃない。結果、アクティブカメラの画面を見ながら撮る人はいない。でもスマホって画面が大きいでしょ?カメラのセンターに被写体を入れて写したくなるのは当然。だからスマホの画面を見ながら撮影してしまう。そうなると視野が狭くなって危険。最悪、他の人との接触って事もありえる」


れぃ「……確かにこないだゆきんち行った時、フレームから外れねぇように画面見ながら撮影してた……」


まみ「歩きスマホじゃなくて、滑りスマホになるんじゃん」


ゆき「確かに危ねぇわ」


美紅里「最後に……仮に画面を見ずに撮ったとしても、追い撮りする人がよほど上手くないと手ブレが酷くて見れたものじゃない動画になる」


れぃ「……あたしのスマホ、一応手ブレ補正付いてるけどダメかな……」


美紅里「れぃのスマホの性能がどれほどあるかは知らないけど、れぃのスマホだけ使ったらあっと言う間に低電圧で使えなくなるから、撮れて1本ね」


ゆき「ん〜……れぃのスマホだけってのは止めた方がいいな」


れぃ「……アクティブカメラの利点って何?……」


美紅里「耐水性、防塵性、耐衝撃、軽量、低温環境下でも使えて高画質。レンズが広角または360度」


ゆき「欲しい機能、全部盛りじゃん」


まみ「広角レンズなのは利点なの?」


美紅里「何となく被写体に向けていれば撮れてる」


れぃ「……でも広角なんだったら被写体が小さく写らねぇ?……」


美紅里「最近は4Kは当たり前、8Kのアクティブカメラもあるから、そもそも画像が綺麗。動画編集で被写体にパンしてもそこそこ映像が綺麗なまま」


ゆき「安いアクティブカメラってねぇのかな?」


そう言いながらゆきはスマホで検索する。


ゆき「あるじゃん!3000円出したらお釣りくる価格!」


れぃ「……大丈夫なんか?それ……」


まみ「美紅里ちゃん、これどうなの?」


美紅里「知らないわよ。あたしはアクティブカメラの専門家じゃないんだから。でも、この手の商品は値段と性能は比例するものよ」


れぃ「……まともなアクティブカメラの値段は……ダメだ。一介の高校生が買える値段じゃねぇ……」


ゆき「でも、せっかくコスプレ滑走するんだから動画は欲しいよな〜」


まみ「ちーちゃんに相談してみる?」


ちーは昨年のコス滑走イベントにも参加した経験者。

また、その時の滑走動画があった事を考えれば、何らかのヒントを持っている可能性は大いにある。


れぃ「……だな。柳江君は写真は撮るけど動画は撮った事ねぇって言ってたし……」


柳江の名前が出て、一瞬変な空気になる。

その事に触れていいものかどうか、まだれぃと柳江の関係性についての距離感をまみもゆきも掴めてないのだ。

実際、れぃ本人も口を滑らせた事に即座に気付く。


ただ、美紅里は別。

普段どおりに話し出す。


美紅里「そりゃそうでしょ。写真と動画は全く別のスキルだからね」


これをキッカケにゆきが即座に話題の方向転換。


ゆき「やっぱり追い撮り経験者を探さなきゃダメか〜」


まみ「滑ってる所を撮るのは無理でも、滑って来た所ならあたし達でも撮れそうなんだけどね」


れぃ「……それだと米粒みたいな大きさの被写体が近付いてきて、また去って行って米粒サイズになるって感じか……」


ゆき「ん〜……もっとガッツリ滑ってる動画欲しいよね〜」


まみ「カメラさえあれば、お姉ちゃんが撮ってくれると思うけど……」


ゆき「それだとののこさん写らねぇじゃん」


れぃ「それはヤだ。ののこさんが滑ってる動画見たい」


よほど譲れないポイントなのだろう。

れぃはボソボソ喋りではなく、ハッキリとした口調でその案を却下する。


ゆき「ちーちゃんに相談するのが一番だな」


れぃ「……だな……」


その結論に達し、早速ちーを含めた「雪ん娘スプレー」のライングループにメッセージを送る。


ゆき『ちーちゃん、前に見せてもらったコス滑走の動画ってどうやって撮ったの?』


まみ達もスマホを見ていたので、即座に「既読2」は付くが、どうやらちーはまだメッセージが来た事に気付いていないようだ。


その日は下校時間まであれこれ喋っていたが、ちーからの既読は付かなかった。

美紅里に追い出されるようにして三人は帰宅の途につく。


三人はそれぞれ帰宅し、お風呂も夕飯も終えた午後9時、ようやくちーからの返信が来た。


ちー『おひさー!ごめんごめん、LINE気付かんかったわ。前に見せた動画は知り合いが撮ってくれたものやねん』


まみ達もそれぞれ自室で何となくスマホをいじっていたので、即座に既読が付く。


ゆき『突然ごめんね〜。コス滑走イベントの時に動画撮りたいって話になって、ちーちゃん、どうやって撮ったのかな……って思って』


ちー『同じスキボユーザーでSNSで相互になったフォロワーさんに撮ってもろたんよ。その人、めっちゃ滑るの上手いし趣味で滑走動画とか撮ってる人なんよ。去年、偶然同じ日に厳岳来てたから撮ってもろたんよ』


まみ『やっぱり専用のカメラ?』


ちー『そうそう、アクティブカメラってやつ』


れぃ『いくらくらいするやつなんだろ』


ちー『ちゃんとしたやつ……って言うか、高性能な物なら7万くらいはするよな〜。でもなんちゃってアクティブカメラなら数千円。でもぶっちゃけ画像が粗くて見てらんない』


れぃ『じゃあ使えねぇじゃん』


ちー『せやね〜。スキーでもスキボでもスノボでも動きが速いし撮影環境も過酷やからね。なんちゃってアクティブカメラじゃ厳しいわな』


まみ『中古だったらアクティブカメラ買えるかな』


ちー『物によるけど、それでも数万はすると思うで』


ゆき『それは無理だ』


ちー『欲しいんやったらしゃあないけど、ただ動画撮りたいだけやったらアクティブカメラ持ってる人に撮ってもろたらええやん』


れぃ『アクティブカメラ持ってる知り合いいないんだよね』


ちー『そんなん、現場におるアクティブカメラ持ってる人に頼んだらええやん』


この発言にはまみのみならず、ゆきとれぃも軽く引く。


ゆき『見ず知らずの人とか、初対面の人に頼むの?』


ちー『せやで』


れぃ『どうやって?』


ちー『しゃっせーん!動画一本撮って下さーいって言うたらええやん』


まみ『無理無理無理無理』


ちー『何で?コスイベでもコス滑走でも見ず知らずの人が写真撮らせて下さいって来るやん?その逆もまたアリやろ』


ゆき『アリなのか?』


ちー『だって、向こうは撮影する被写体が欲しい。こっちは撮影してくれる人が欲しい。利害一致でWin-Winやん』


れぃ『撮ってもらうのはいいけど、撮ってもらうのが目的じゃなくて、撮影したデータが欲しいんだけど……』


ちー『送ってもらったらええやん』


ゆき『SDカードを?』


ちー『いや、ネットでデータファイルを』


ゆき『相手にメアド教えんの?』


ちー『SNSのアカウントでええやん?あたしはそうしてるで……って、みんなSNSやってないのん?』


れぃ『あたしは一応アカウントはあるけど、見る専だから何も発信してない』


ゆき『あたしも』


まみ『あたしはコスネットしかやってない』


ちー『どれでもええけど、ダイレクトメッセージでギガファイル便で送ってもらうんよ』


ゆき『ごめん。ギガファイル便って何?』


ちー『おっと……そっからか。おけ。説明するわ。ギガファイル便ってのは……』


そこからちーのネット講座が始まる。


ゆき『なるほど。クラウドにデータ上げてもらって、こっちでダウンロードする感じか』


れぃ『つまりSNSのダイレクトメッセージにそのクラウドのリンクを送ってもらうのか』


ちー『もちろんLINEで送ってもらう事もできるけど、LINEはちょっと教えるの嫌やん?』


れぃ『だな』


ちー『だから、みんなが嫌なら、あたしがその人とやり取りして、ギガファイル便のリンク教えてもらって、そのリンクをLINEで共有すれば全員に行き渡る』


まみ『そこまで頼んでいいのかな』


ちー『ええんちゃう?嫌なら断るやろし』


れぃ『でも初見の人に頼むのはさすがにハードル高いっす』


ちー『心配せんでも現場で見ず知らずの人が動画撮っていいですかって聞いて来るから。そしたらそのデータ下さいって言えばいいだけやん』


まみ『見ず知らずの人に動画撮らせて下さいって言われるのも緊張する』


ゆき『何となく雰囲気は解って来た。コスイベの動画版と思えばいいんだ』


ちー『うん。まぁそんな感じ。あたしの知り合い来てたらそんな心配もあらへんで』


そこから話は先日のまんぞくっくの日の話になる。


ちー『えぇな〜。あたしもまんぞくっく行きたかった〜』


まみ『でもその時は動画撮らせて下さいって人は居なかったよ』


ちー『ホンマに?珍しいな』


れぃ『いつもは居るもんなの?』


ちー『まんぞくっくの日ってシーズン中3回あるねんけど、他のスキー場とコス滑走イベが被ってたらコス滑走参加の人もカメラマンもフィルマーも散るからな〜』


ゆき『フィルマー?』


ちー『動画専門のカメラマンの事』


れぃ『なんかカッコいい』


ちー『カメラマンって言い方だったら、写真なのか動画なのかわかれへんくなるから、そう呼び分けてる感じ。カメラマン兼フィルマーって人もいてるし』


まみ『そのフィルマーさんって多いの?』


ちー『カメラマンに比べたら少ないんちゃう?知らんけど』


ゆき『YouTubeの動画撮影してる人はフィルマーさんが撮ってるのかな』


ちー『自撮りの人もおるけど、有名どころのYouTuberさんとかインフルエンサーの人とかはフィルマーさんが撮ってる事多いみたい。知らんけど』


まみ『ちーちゃんの知り合いの人ってYouTuberさんか何か?』


ちー『いや、その子のオトンもかなりのスキーバカで、休みの度に滑りに来てるみたいやねん。んで、その子も一緒に来てて、お互いに動画撮って滑りを研究してたりしてるみたいなんよ』


ゆき『動画撮って自分で見て研究してるのか……凄いな』


れぃ『その子が来てる可能性って高いの?』


ちー『厳岳のズン券持ってるから、滑りに来るなら厳岳なんよ』


まみ『ズン券?』


ゆき『シーズン券の事』


れぃ『シーズン券ってえれぇ高いじゃん』


ちー『言うても10回滑りに来たら元取れるで』


ゆき『休みの度に滑りに来たら10回なんてあっと言う間か……』


れぃ『なるほど。だからその子も来てる可能性高いんじゃん』


まみ『その子?その人?何歳くらいの人?』


ちー『高1だから、あたし達とおない』


既に人見知りモードに入りかけていたまみにとってそのフィルマーが同い年と言うのは少し緊張レベルを下げる情報だ。


ゆき『え〜っと……女の子?』


ちー『せやで。一人称はボクやけどな』


ゆき『ボクっ娘!』


れぃ『どこの子?』


ちー『長野市って言ってたと思うで』


まみ『その人、コスプレはしないの?』


ちー『あー、たぶんせぇへんのとちゃうかな。動画撮るのは面白がって撮ってたけど、コスプレ自体にはあまり興味無さそうやったし』


ゆき『マンガとかアニメとかゲームとか詳しい感じ?』


ちー『あたし見て美卦ってわかってたから、まぁまぁイケる口っちゃうかな。知らんけど』


れぃ『もしその子が来て無かったらどうしよ』


ちー『ましろんなら十中八九来てると思うけど、来てても会えない可能性もあるし、他に忙しくて頼めない可能性もあるのは確かにあるけど、そん時ゃそん時で誰か動画撮影してくれそうな人探すわ』


まみ『ましろん?』


ちー『あー、その子のハンドルネーム。それより見て見て!コスチューム一新してん』


立て続けに画像が送られてくる。


挿絵(By みてみん)


まみ『すっご〜い!前のコスチュームよりクオリティ上がってる!』


れぃ『ちーちゃん腹筋凄いな』


ちー『あー、その腹筋、偽物。食器洗い用のスポンジを2cm厚くらいにスライスして面取りしてベージュシャツの下に仕込んでるねん。あとは布絵の具で肌の部分のベージュシャツに陰影描いて筋肉っぽくしたねん』


ゆき『なるほどそう言う手もあるのか』


れぃ『一発勝負?失敗したらやり直せないよね?』


ちー『一発勝負。まぁ失敗しても誤魔化すんやけどね』


あれやこれや。

その日のLINEのやり取りは日付が変わるまで続いた。


まだ3月に入ったばかり。

間もなく学年末テストが始まる。

ここで成績を落とすとコスプレ滑走イベントどころでは無くなる。

それぞれ気合いを入れてテスト勉強したおかげか、全員少し成績が上がり、大手を振ってコスプレ滑走イベントに参加できるようになった。


美紅里もテスト、卒業式、新入生と新学期への対応で時間が取れず、スノボの引率どころでは無い。

まみ達のスノボ資金も底を尽きかけているのもあり、スノボに行く事が出来なかった。


その間、れぃと柳江はまみ達に悟られないように何度かデートしていたようだ。

その事にまみもゆきも気付いてはいたが、あえて触れる事はなかった。

ただ、れぃが以前に比べて少し身だしなみを気にするようになったと言う変化はあった。

なんだかんだ上手くやっているようだ。


ののこも2月末で白馬78でのバイトを終え、一度東京に戻った。

大学のスノーボード部の活動もあるらしい。


またたく間に時は流れ、いよいよ明日は厳岳スキー場のコスプレ滑走イベントの日。

ののこも前日に実家に戻り準備に余念が無い。

明日の天気予報は一日通して晴れ。

気温は3月末にしては少し冷え込む予報。


ゆき、まみ、れぃ、ちー、ののこ。

そして全ての参加者がワクワクとした気持ちで期待に胸を膨らませていた。



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