第7話「悪魔のささやき」
第7話「悪魔のささやき」
笑顔と共に始まった「ゆき・まみ・れぃ」計画だったが、その数日後、三人は危機的状況にあった。
それは三人のグループLINEへの発言から始まった。
ピロン♪
れぃ『助けて』
ピロン♪
ゆき『どうした?』
ピロン♪
まみ『大丈夫?』
そこから1時間経ってもれぃからの返信は無い。
ピロン♪
ゆき『おーい、大丈夫かー?』
ピロン♪
まみ『れぃちゃ〜ん!どうしただ〜?(汗)』
れぃから返信が来たのは最初の「助けて」の発言から1時間半後だった。
ピロン♪
れぃ『ヤツらに殺される』
ピロン♪
ゆき『ヤツら?』
ピロン♪
まみ『どうしただ!?』
ピロン♪
れぃ『夏休みの宿題に殺される』
そう。
今日は8/25。
夏休み終了まであと1週間しかないのである。
ピロン♪
ゆき『○ねww』
ピロン♪
まみ『わたしは既に死んでる』
ピロン♪
ゆき『実は私も(汗)』
話を総合すると、ゆきの宿題進捗率は20%、まみも20%、れぃは10%と言う状況。
三人とも絶望的状況である。
ピロン♪
ゆき『あー、毎年思うけど何で計画的にしなかったかな、私(泣)』
ピロン♪
まみ『わたしも苦手な教科はほぼ手付かず……(泣)』
ピロン♪
れぃ『あたし英語しかやってねぇ(泣)』
ピロン♪
ゆき『私は理科と数学は終わらせたけど、あとはいっさら(全然)OTZ』
ピロン♪
まみ『私は国語と社会しかしてねぇ』
数分の間があり……
ピロン♪
れぃ『見せあいっこしたら終わるんじゃね?』
この「悪魔のささやき」は強烈だった。
また数分の間があり、
ピロン♪
ゆき『その話、乗った』
ピロン♪
まみ『お母さん、真由美は悪い子だ(悪い子です)(泣)』
こうして「ゆき・まみ・れぃ」のメンバーは共犯者となる事になった。
……が、切り替えは早い。
いつ、どこでそのたくらみを実行するかと言う話題に即座に移行する。
ゆきの家はお店をやっているのでダメ、れぃには弟がいて日中は弟の友達が来て宿題どころではない。
いつものファミレスも月末で全員小遣いに余裕が無い。
……と、言う事で翌日、まみの家でその不正行為が行われる事になった。
まみ「お母さん、明日友達来て、一緒に宿題する事になった」
母「おっ……お友達!?」
まみ「うん。ゆきちゃんとれぃちゃん」
父「二人もっ!」
母「あ、あなた…」
父「母さん!」
以下、前回と同じ流れである。
父親が暴走して、会社休んでBBQでもてなすとか言い出したから、まみと母親で必死に父を落ち着かせるオプションが付いていたが……。
翌日、まみは最寄り駅まで二人を迎えに行っていた。
ピロン♪
まみ『駅まで迎えに来たよ〜。着いたらLINEして〜』
ピロン♪
ゆき『もうすぐ着く。れぃも一緒。……あ、着いた。』
改札まで迎えに行く。
まみ「いらっしゃ〜い!」
ゆき「やっほー!」
れぃ「……まいど……」
まみ「じゃあ、乗って」
ゆき「乗って?」
まみ「家までちょっと遠いからお姉ちゃんに車出してもらっただ(もらったの)」
ののこ「お二人さん、おひさ〜」
ゆき・れぃ「「ののののののののののこさんっ!」」
ののこ「いや、私の名前、そんなに『の』多くないしww」
まみ「お姉ちゃん、夏休みでちょうど帰って来てるんだ〜」
ゆき「ちょっ……まみ、そう言う事は早く言ってよっ!」
まみ「あはは、だってお姉ちゃん予告も無しに昨日の夜に帰って来たんだもん」
れぃ「……ののこさん、ポテチしかありませんが、どうぞ納めてくんなさい(お納め下さい)……」
ののこ「いらんいらんww、みんなで食べなよ。さ、乗って乗って!行くよ!軽だから狭いけど我慢してね」
ゆき「ジムニー!しかもミッション!かっけぇ!」
ののこ「中古だけどね〜。どうしてもミッション乗りたかったから中古車探すの苦労したよ。あ、後部座席でもシートベルトしてね。じゃあ行くよ」
そう言うと、ののこの運転するジムニーはタイヤを鳴らして走り出した。
ののこ「そういやみんなでスノボ始めるんだって?」
ゆき「は………は、はい〜っ」
れぃ「ののこさんは!何年くらいスノーボード!やってるだ……ですか!?」
ののこ「私も高1の冬からだよ。クラブの先輩に誘われて始めたんだ……よっ!」
キョキョキョキョキョキョ……
ゆき「クラブは……、何部だった……んです……か?」
ののこ「演劇部。コスプレもその先輩の影響で始めたんだ。あ、跳ねるよ。」
バゥン
れぃ「浮いたっ!今、浮いたっ!」
まみ「喋ると舌噛むよ〜」
ゆき・れぃ「「きゃ〜〜〜〜っ」」
ののこ「はい、着いたよ〜」
まみ「ゆきちゃん、れぃちゃん、大丈夫?」
ゆき「な……何とか………」
れぃ「……生きてるって素晴らしい……」
ののこ「あ、そうだまみ、私午後から先輩と飲んでそのまま先輩んちに泊まるから、帰りはお母さんに送ってもらって。ゆきちゃん、れぃちゃん
、ごめんね〜」
ゆき「いえ、いえ、あの、ありがとうございます」
帰りはこの車に乗らなくてすむかと思うと、ゆきもれぃも一安心だった。
ふらふらになったゆきとれぃを連れて家に入る。
まみ「ただいま〜」
ゆき・れぃ「おじゃましま〜す」
母親「はーい、いらっしゃ〜い。あら、お友達顔色悪いわね。紀子あんた乱暴な運転したんじゃねえだらずね(ないでしょうね)?」
ののこ「いや、普通だったよ。なぁ?」
まみ「うん。いつも通り。」
母親「まぁいいわ。さ、上がって上がって!」
あれで普通か……と戦慄するゆきとれぃではあるが、マイペースな浅野家の面々。
まみの部屋に入り、ほっと一息。
れぃ「……ののこさんの運転、凄えな(汗)……」
ゆき「見た目と運転のギャップ、萌えるわ(苦笑)」
まみ「そう?普通だったよ」
ゆき「いやいやいやいや、普通タイヤ鳴らないし、浮かないし!」
れぃ「……それに、まみも何でそんな平気だ(平気なの)?……」
まみ「お姉ちゃんの車、何回も乗ってるし、あんな物かと……」
ひとしきりその話題で30分を浪費し、皆ふと我に返りようやく宿題を広げる。
順繰りに宿題を写しあう。
ゆき「それにしても、れぃが英語得意とは知らなかったな」
れぃ「……あんなの読んで書くだけじゃん……」
まみ「その『読む』のが一苦労なんじゃん」
れぃ「……ふふふ……ティキティキ〜ン『英和翻訳アプリ』〜……」
ゆき「あ、こいつ汚えww」
まみ「それを早く教えてよ、レィえも〜んww」
ゆき「ってか天才かww」
まみ「じゃあ、れぃちゃん英語得意って訳じゃねぇ(ない)んだ」
れぃ「……ん〜、このアプリが面白くて英語の本とかアメコミとか、翻訳して読みまくってたら、得意になった。ちなみに1学期の英語は中間98点、期末92点……」
たまに見せる、れぃの無表情ドヤ顔だ。
ゆき「減点された理由は?」
れぃ「……学校で習ってねぇ事書いて×になった……」
まみ「いったい何書いただ?(汗)」
れぃ「……期末の時に『あなたの得意な教科と苦手な教科は何ですか?』って設問に答える問題あったじゃん?あれに、『It's no business of yours!』って答えた……」
ゆき「え?どういう意味?」
れぃ「……お前の知った事じゃない!……って意味……」
まみ「あかーん!それはあかーん!」
ゆき「他の減点もそんな感じだ?」
れぃ「……うん。中間で『Mary has a liking for roses.』を逆の意味になるように書き換えなさいって問題があったじゃん?直訳したら『メアリーは薔薇が好きだ』だから普通に答えたら『Mary doesn't like roses.』で、メアリーは薔薇が好きではないになるんだけど、それじゃ面白くないじゃん?……」
まみ「テストで『面白い』必要ある?(汗)」
れぃ「……うん。まぁ、そんだから『Mary likes lily.』、メアリーはユリが好きであるって回答したら、×だった……」
ゆき・まみ「ぎゃはははははは(笑)」
れぃ「……んで、×の横に先生が赤ペンで『そう言う意味の逆じゃない』って書いててさ……」
ゆき・まみ「ぎゃはははははは(笑)」
れぃ「……2点ぶちゃって(捨てて)100点逃しても、あの回答にはあたしなりに価値はあったね……」
ゆき「あー笑った笑った……。れぃ、チャレンジャー過ぎるわww」
まみ「すごい度胸じゃんww」
ゆき「あっ……、まさかとは思うけど、宿題はまともにやってるよね?(汗)」
れぃ「……所々、笑いのエッセンスを散りばめておる(おります)……」
ゆき「え゛?」
まみ「あ、あの、れぃちゃん……この回答、書き出しFu●k!で始まってんだけど……(滝汗)」
れぃ「……そこはその会話の流れから考えたら、最初は悪態ついてから喋り出すのが自然な流れかと……」
ゆき「あ、あほ〜!こんなん提出したら、私達がれぃの宿題まる写ししたのバレバレになるじゃん!」
まみ「あとここも……。回答欄に対して回答が長過ぎねぇ?(汗)」
ゆき「イラストを見て□の中の単語を使って文章を作れ……で、CAさんが空港に飛行機が着く時間案内してるイラストだよね?」
れぃ「……イラストをよく見て。着陸の時機首は上がって後輪から着陸するはずなのに、この飛行機は滑走路に向かって機首が下がってる。そんだから回答は『よく聞けクソども!生命保険に入っているヤツには良いニュースだ。まもなくこの飛行機は……』……」
ゆき・まみ「あか〜ん!」
れぃ「……□の中の単語全部使ってるよ……」
ゆき「そう言う問題じゃねぇ!あぁもう!やり直しじゃん!」
れぃ「……面白いて(と)思うんだけど……」
まみ「いや、宿題に面白要素いらねぇよ〜(泣)」
れぃ「……でも、まみの歴史の宿題にも面白要素あんじゃん……」
まみ「え?どこ?」
れぃ「……北条政子と藤原頼経の関係は?の問題に『ただならぬ関係』はネタだらず(だろ)(笑)……」
まみ「違うの?」
ゆき「天然かよww」
まみ「いやぁ、昼ドラ見ながらやってたから(汗)」
ゆき「なんかもうグダグダじゃん(泣)」
その後もお互いに添削しながら宿題を写し合う。
途中、母親から昼食の差し入れとおやつ休憩をはさみ、何とか全員写し終える事かできた。
まみ「何とかなったね〜」
れぃ「……助かった……」
ゆき「いやはや、一時はどうなる事かと(笑)」
れぃ「……あとは美術の宿題と読書感想文だけ……」
まみ「静止画のデッサンは得意だからいいけど、本読む時間が(汗)」
ゆき「別に指定図書以外ダメって訳じゃないから、数年前に読んだ本やマンガの原作読んだ事にして書けばいいじゃん」
れぃ「……おぉ、その手があったか……」
ゆき「私、毎年、三国志読んだ事にしてるよww」
まみ「美術の静物画デッサンは得意だからすぐできる」
れぃ「……造形だったら得意なんだけどな……」
ゆき「とりあえず危機は去ったて(と)言う事で、乾杯しよう!」
ゆき・まみ・れぃ「カンパーイ!!」
しかし、危機は去っていなかった。
まみ「お母さん、ゆきちゃんとれぃちゃん帰るって。駅まで送って〜」
そうして乗り込んだ車はスープラ。
母親の運転はののこの運転の更に上を行った。
まみ「お母さん若い頃、この辺りの峠で最速だったんだって〜」
ゆき・れぃ「「きゃ〜〜〜〜〜〜!!」」