第67話「バウムクーヘン」
第67話「バウムクーヘン」
ワイワイと賑やかな雰囲気の中、スキー場のスタッフジャンパーを来た人がハンドスピーカーを持って出て来た。
スキー場のゆるキャラの着ぐるみ「まんぞくっく君」も一緒だ。
スタッフ「え〜、本日は『まんぞくっくの日』にご参加頂きありがとうございます。これより集合写真の撮影を行います。なお、集合写真はホームページに掲載させて頂きますのであらかじめご了承下さい。また、ホームページに集合写真のダウンロードのリンクを……」
挨拶と諸々の説明が行われる。
スタッフ「……では、これより集合写真撮影をさせて頂きます。ご参加の皆様はあちらのポールからこちらのポールまでの間に入るようお願いします。撮影される方はこの位置から……」
撮影場所の説明が終わり、スタッフ誘導のもと、皆が並ぶ。
スタッフ「え〜、ガンデさんのチームの皆さんは大きいので一番後で、その間に一列……さらにそのまえに一列、中腰になって頂いて、最前列の方で座れる方は座って頂くようお願いします」
まみ達は後から二列目の端に位置取る。
カメラマン「それでは何枚か撮ります!お願いしまーす!3、2、1」
シャッターの音がする。
その直後、ガンデのチームメンバー全員がポーズを変え、後から「ザッ」と言う音が聞こえる。
カメラマン「次、3、2、1」
シャッターの音がする。
またガンデのチーム全員がポーズを変える。
何の合図も無く、一斉に。
カメラマン「はーい、ありがとうございました〜。次、写真撮られる方は順番にお願いします」
すると即座にガンデムーンのチームのカイと呼ばれていたカメラマンがスッと前に出る。
カイ「じゃあ次、こちらお願いしまーす、3、2、1」
シャッター音がした直後、被写体側の一番後の列の真ん中あたりから聞いた事のある通る声が上がる。
ガンデ「じゃあ次は右手を高く上げてガッツポーズ!『我が雪山人生に一片の悔い無し!』的な感じで!」
参加者とギャラリーのあちこちから小さく笑いが起きる。
カイ「行きまーす、3、2、1」
パシャ
ガンデ「はい、次は『ちょっとやり過ぎかなーって思う位のカッコいいポーズ』で!」
ノリの良い人達が、大げさなポーズを取り、あちこちから笑いが起きる。
カイ「行きまーす、3、2、1」
パシャ
ガンデ「最後ー!はい、皆さん、変なポーズでーっ!」
場が温められたと言うのはこう言うのを言うのだろうか。
みんなが笑い、みんなが思い思いの変なポーズを取る。
それに連れるようにゆきやまみもちょっと変なポーズ。
ゆきは投げキッスをしているようなポーズで、まみは力こぶを作るようなポーズ。
こう言うノリが大好きなれぃは、両手で顔をはさんで変顔。
そしてののこも右手を顔にかざして中二病みたいなポーズ。
カイ「行きまーす、3、2、1」
パシャ
ガンデ「ありがとうございました〜!」
あちこちから拍手が上がる。
カイ「先ほどの写真は公式に提供しますので、御要り様の方はホームページからダウンロードして下さ〜い」
集合写真撮影が始まるまでは、コス滑走の参加者同士も、各グループや個人的な付き合いのある人同士の交流と言う感じだったが、この「笑い」により一気にその垣根が崩れた。
有り体に言うなら初対面同士でも話しかけやすい雰囲気が出来上がった。
ののこ「これができるガンデさんってマジで凄いよね……」
誰に言う訳でもなく、独り言のようにののこが呟く。
この効果だろうか。
れぃが望んでいたアルマナックのコスプレの人がれぃに話しかけて来た。
アルマナック「すみません、グルキャナックさん。一緒にお写真いいですか?」
れぃ「はっ!はいっ!!……って、女の人!?」
アルマナック「はい。女でーす」
れぃ「かぁっ………こいぃ〜〜〜!!」
アルマナックは「ドジまぬ」において、グルキャナックの世話役の美形男性型魔族。
グルキャナックのドジの尻拭いを毎回させられているが、その尻拭いが毎回何ともスマートにこなす有能な悪魔。
それ故、女性ファンが多く、界隈では「アルマナック様」と呼ばれている。
確かにこのアルマナックのコスプレをしている人は並ぶと長身のゆきより少し背が低い。
声はそのまま女性だ。
だが、身長の低いれぃと並ぶと良い縮尺になる。
思わず見惚れているれぃにゆきが声をかける。
ゆき「れぃ、写真撮らずか?」
れぃ「あっ!うん!お願い!」
れぃは慌ててスマホを取り出し、カメラを起動してゆきに渡す。
れぃとグルキャナックのツーショット。
他の人が入らない場所を探した移動。
二人が並んでポージングしている。
ゆきがれぃのスマホを構え構図を探る。
するとれぃのスマホにLINEの着信を知らせるウィンドウが画面の上に出る。
「柳江敏彦 さっきは告白してくれてありがとう……」
ゆき『ん?んんんんんんんんん!?』
思わず目を見開き、固まるゆき。
ゆき『は?さっき告白?れぃが?柳江君に?いやいや、友達に届いたLINEとか勝手に読んじゃダメだ。私は何も見なかった、私は何も見なかった!』
れぃ「ゆき〜、撮り方わかる?」
ゆき「ア、ウン。ワカル。ゴメン。トリマス」
パシャ
アルマナック「別のポーズもいいですか?」
れぃ「もちろん!」
そのタイミングで今度はゆきが女性グループに声をかけられる。
女性「あの……シルフィード様、時間できてからで結構ですので、良かったお写真よろしいですか?」
ゆき「え?あ、はい。じゃあちょっと待って……」
れぃ「いいぞ、ゆき〜。まみ〜、写真撮るのゆきと代わって〜」
まみ「は〜い」
ゆき「え?あ、でも……」
れぃ「いいって。お姉さん達待たせちゃ悪りぃだらず?」
まみ「れぃちゃんのスマホならあたしと同じAndroidだからわかるよ」
ゆきは戸惑いながらもまみにれぃのスマホを渡して、撮影に向かう。
まみ「はーい、撮りま〜す。あ、ちょっと待って、後に人が……」
一度スマホを下げてれぃ達の後を通る人が通り過ぎるのを待つ。
通り過ぎたのを確認して再びスマホを構え、画角を調整する。
スマホの画面を見ながら構図を探る。
まみ『ここはちょっとあおり気味で撮った方がいいかな……ん?』
スマホの画面を見ながら構図を探っていると、スマホにLINEの着信を知らせるウィンドウが画面の上に出る。
「柳江敏彦 本当は俺の方から告白しようと思ってた……」
まみ『ん?んんんんんんんんん!?』
まみも目を見開き、固まる。
まみ『え?俺の方から告白しようと思った?って事はれぃちゃんから告白しただ?え?いつ?』
れぃ「まみ〜、いけるか〜?」
まみ「ウン。ダイジュウブ。トルリマス」
れぃ「なんかカタコトになってんぞ?」
れぃはまみが突然人見知りを発動したのかと勘違いした。
まみ「イッサラ、ダイジョウブダス、トリマス」
パシャ
れぃ「ありがとうございました〜!」
アルマナック「こちらこそありがとうございました!祥子ちゃん、撮れた?」
祥子と呼ばれたアルマナックの友達であろう女性も親指を突き立てて上手く撮れた事を示す。
れぃ「どんな感じ?見せて見せて!」
れぃはまみに駆け寄り、スマホを受け取り撮った写真を確認する。
れぃ「いーじゃんいーじゃん!まみ、さんきゅー!……ってか、まみ……人見知り大丈夫か?」
まみ「ウン、ヒトミシリシタワケジャナイカラ、ダイジョウブ」
れぃ「……いや、大丈夫じゃねぇだらず……」
そこにゆきも撮影を終えて戻って来た。
ののこはまだ撮影に捕まったままだ。
ゆき「え〜〜〜っと、あ〜〜〜、ののこさん、まだちょっと〜〜時間〜〜かかりそう〜〜じゃん」
まみ「ソウダネ、アッチデマッテヨウカ」
れぃ「……どうしたんだ?おまぃら……」
さすがに違和感を感じたれぃがゆき達の異変について聞く。
ゆき「いやぁ〜、アルマナック様が液晶越しに見たら本物にしか見えんでさ〜、ドキッてしてしまって狼狽えた」
ゆきはそれっぽい事を言って誤魔化す。
れぃ「そんなに!?あたしまだゆきに撮ってもらった写真見てねぇんじゃん。ちょっと見ず」
そう言うとれぃはスマホを取り出し、写真を確認する。
れぃ「おおおおおお!このアルマナック様は本物だぁ!」
「本物」と言う表現は、れぃなりの最大の褒め言葉だ。
れぃ「まみに撮ってもらったのも良かったしなっ!くぅ〜〜〜〜!アルマナック様カッコいい!」
れぃのテンションが爆上がりである。
ゆきとまみはれぃが写真を確認しているタイミングで、また柳江からLINEが来ないかヒヤヒヤしていた。
ののこ「何騒いでいるの?」
やっと撮影の列が途切れたののこが合流する。
れぃ「あ!ののこさん、見てくんなさい!アルマナック様とのツーショ、えれぇ良い感じなんじゃん!」
そう言うとれぃは半ば押し付けるようにスマホをののこに渡す。
ののこ「どれどれ?」
ののこは嫌がる訳でもなく、ニコニコとスマホを受け取り、写真を見る。
ののこ「へぇ〜!いいじゃんいいじゃん!アルマナック様、えれぇ雰囲気出てるね」
れぃ「だらず!?まみが撮ってくれた煽りの写真も良いんじゃん!次の写真も見てくんなさい!」
ののこ「へぇ〜、真由美が撮ったんだ。どれどれ……」
画面をスワイプして次の写真を見る。
と、同時にスマホにLINEの着信を知らせるウィンドウが画面の上に出る。
「柳江敏彦 だからせめてお付き合いの申し出は俺からさせて……」
ののこ『ん?んんんんん……んがぁぁぁぁぁあ甘酸っぺぇ〜〜〜〜!!』
しかしそれを声に出す訳にもいかないし、れぃに届いた柳江からの交際を申し込むLINEを見たと察知される訳にもいかない。
ののこ「う……うん!真由美もなかなか写真撮るの上手いじゃん!煽りで撮ってるからアルマナック様が長身に見える」
れぃ「だらずっ!だらず〜〜〜!」
れぃはののこから返されたスマホでその写真を見て、またテンションを上げる。
れぃ「あ〜!今日はホント良い日だ〜!もう私の中で記念日だわ」
この発言にゆきもまみもののこもそれぞれが間違った方向で勘違いし、納得する。
ゆき『そうか……れぃの性格だもんな。モヤモヤするより気持ちを伝えてスッキリしたくなるのは当然か……。確かに人生初の告白は記念日だわな〜』
まみ『れぃちゃん告白したんだもんな……。勇気振り絞ったんだらずな……。柳江君から良い返事来てるのにまだ気付いてねぇみたいだけど、教える訳にいかねぇし……。でもこれで記念日確定じゃん!良かったね、れぃちゃん!』
ののこ『そっかぁ〜。れぃちゃんと柳江君って付き合う直前だったんだな。だからゆきちゃんはその件には触れないでやって……って言ってたんだ。いや〜、めでたい!』
れぃ「ん?どうしたんだ?みんなやたらニコニコしてねぇ?」
ゆき「いや、れぃが嬉しそうなのを見て、こっちまで嬉しくなってしまった」
まみ「あたしもちーちゃんの美卦とツーショ撮ったられぃちゃんみたいな気持ちになるのかと思ったら今からわくわくしてしまって」
ののこ「そうね〜。あたしはれぃちゃんが心から喜んでる表情見れたから、もうそれだけで幸せかな」
れぃ「え?あたしそんなに浮かれてました?なんかハズい……」
テンションが上がりきっているれぃは、ゆき達の目が泳いでいる事に気付かない。
ゆき「いいじゃん、いいじゃん!アルマナック様とのコラボ写真が撮れたんだ。浮かれて当然じゃん」
れぃ「えへへ〜、そうじゃんね〜、仕方ねぇじゃんね〜」
これ以上喋ると余計な事を口走ってしまいそうなまみはとりあえず話題を反らす。
まみ「お姉ちゃん、このあとどうするの?」
ののこ「あー、ぼちぼちお昼だね。何か食べに行く?」
ゆき「賛成ー!」
ゆき達はとりあえず「れぃのスマホ」から意識を遠ざけたかった。
もちろんゆきもまみもののこもお互い柳江かられぃへのLINEを読んでいるとは思わない。
自分だけが秘密を知っていると思っているからたちが悪い。
それぞれ、れぃの秘密を知っていると思い込んでいる。
それでいてゆき達がモヤモヤしている原因を唯一知らないれぃは引き続きテンションMAXである。
れぃ「あたしもお腹すいた!ののこさん!ここのゲレ食、何がうまいんか?」
いつものボソボソ喋りで無表情無感情の姿はそこには無い。
気圧されるようにののこが答える。
ののこ「あ…あたしが前来た時に食べた『まんぞくっくバーガー』が美味しかったよ」
れぃ「じゃあ、それ食べに行きやしょ!それ、どこで食べれるんスか?」
率先して板を取りに行くれぃ。
連れるようにののこ達も板を持ち、ゲレンデに向かう。
ボードを履く。
滑る。
リフトに乗る。
滑る。
レストランに着く。
その間、ゆきもまみもののこも意識は柳江かられぃへのLINEの内容だ。
ゆき『れぃから告白したんだ……』
まみ『れぃちゃんが告白したのって、あたし達が駐車場に行った時?』
ののこ『れぃちゃん、あんなにはしゃいじゃって……かっはぁ〜〜〜甘酸っぺぇ〜〜〜』
四人でワイワイとレストランでまんぞくっくバーガーを食べる。
もちろん話題はコスプレ滑走についてだ。
だが、やはりゆきとまみとののこの脳内はマルチタスク。
脳内の別画面ではれぃと柳江の事についての処理が行われている。
食事しながらののこがゆき達に撤収時間について意見を求めた。
ののこ「今日の撤収時間なんだけど、車を今日中に返さなきゃいけないから、15時に上がるとするなら『帰りに温泉』プランか『スイーツとお茶』プランかどっちかにしなきゃいけないのね。どっちも行くなら、かなり早めに上がらないと無理。どうする?」
まみ「お姉ちゃん、スイーツってどんなのが食べれるの?」
ののこ「ふふふ……実は帰り道にバウムクーヘンの美味しいお店があるのよ」
ゆき「バウムクーヘンか〜……」
れぃ「……あれ?ゆきはバウムクーヘン苦手だっけか?……」
ゆき「いや苦手って訳じゃねぇんだけど……」
ののこ「バウムクーヘンのドッシリした感じが合わない感じ?」
ゆき「え〜……っと、まぁ……はい……すみません」
ののこ「なら良かった」
にっこり笑ってそう言うののこにゆきの頭の上に「?」が浮かぶ。
ののこ「そこのバウムクーヘン食べたらバウムクーヘンのイメージ変わるから、そう言う人にこそ食べてもらいたい」
ゆき「そんなに違うんか?」
ののこ「コンビニで売ってるお手頃価格のバウムクーヘンって、硬くてパサパサしてて、しっかり噛まなきゃ飲み込めなくて口の水分持って行かれる感じじゃん?」
ゆき「そうそう!それなんじゃん」
ののこ「だよね〜。でもそこのバウムクーヘンは柔らかくて、しっとりしてて、口の中で溶けて行く感じなのよ〜」
そう言うとののこは頬に手を当て、目を細めてうっとりとした表情で宙を見る。
コスプレの衣装とメイクも相まって、強烈な色気を発する。
それを見たゆきは少し顔を赤らめながらも即答する。
ゆき「行きやしょ!」
ののこ「じゃあ、14時をめどに撤収。着替えて15時には出発しようか」
まみ「バウムクーヘン楽しみ〜。あたしはバウムクーヘン好きなんだよね〜」
れぃ「……じゃあ、滑る時間もったいねぇからそろそろ行かずか?……」
ののこ「そうだね」
四人はレストランを出て、再び板を履く。
その後も幾度となく、それぞれが写真撮影に対応し、リフトの上の人やギャラリーにパフォーマンスを見せる。
もうすっかり衣装を来て滑る事にも慣れた。
ゆきとまみに至っては、剣やお祓い棒を持った状態での滑走も、まだ完璧ではないができるようになった。
それぞれがコスプレでの滑走を存分に楽しみ、また滑走に必死だった事もあり、頭の中から次第に柳江の件は薄らいで行った。
それ故、気付かなかった。
集合写真以降、柳江の姿を見かけ無かった事に。
ののこ「じゃあ、このリフト乗ったら、駐車場に向かおう」
時間は既に13時半。
もう少し滑りたい気持ちはあるが、バウムクーヘンを食べると言う目的もあるし、更衣室が混むとバウムクーヘンを食べる時間さえ無くなる可能性があるので、撤収する事にした。
更衣室に入ると既に撤収作業をしているレイヤーさんがいた。
お互い少し会釈して撤収作業を進める。
ゆき「そういや撥水加工、効いてたね」
まみ「あたしも何度か転んだけど、いっさら水が染みて来なかったよ。防水スプレーはあまり効果無かった感じだけど……」
まみは袴に付いている氷と化した雪を見て苦笑いする。
れぃ「……あたしも撥水かけた所は雪付かねぇのに、撥水かけてねぇ所は見事に濡れてる……」
ゆき「もっと寒さに耐えなきゃいけねぇかと思ったけど、あたしは暑いくらいだった」
れぃ「……あたしもここまで重ね履きしんでも良さそう……」
まみ「あ、見て見て〜。袂に雪の塊入ってた」
ののこ「ほらほら、くっちゃべってると次の人が更衣室使えないよ」
ゆき・まみ・れぃ「「「は〜い」」」
それぞれ衣装をカバンやスーツケースにしまい、更衣室をあとにする。
更衣室の入口でアルマナックとすれ違ったが、アルマナックはれぃの事をグルキャナックと認識出来なかったようだ。
コスプレイヤーあるあるだ。
ののこ「荷物積んだら出発するよ。忘れ物は無い?」
ゆき「大丈夫だ」
れぃ「……え〜っと、あたしも大丈夫……」
まみ「いいよ〜」
ののこ「は〜い、じゃあ出発〜」
駐車場から車を出すタイミングでガンデ達が駐車場に戻って来た。
ののこは窓を開けてガンデに挨拶する。
ののこ「ガンデさん、お疲れ様でした〜。あ、ののこで〜す」
ガンデ「お〜、ののこさん、お疲れ〜!気を付けて帰ってね」
ガンデのチームのメンバーがののこのハイエースの周りにどんどん集まってくる。
ゆき達もハイエースの小窓を開けて顔を出す。
ゆき「お疲れ様でした!シルフィードです」
みど「またね〜」
れぃ「……今日はありがとうございました……」
ド・ムーン「バイバ〜イ、また遊ぼうね〜」
ののこ「ガンデさん達はこのあと温泉?」
ガンデ「それが楽しみの一つやからね」
話しながらガンデは頭に被っていた頭部装甲を外し、素顔を見せる。
思っていた以上にオジサンだ。
見た目、まみ達の父親より年上にも見える。
ガンデは助手席にいるまみに気付いた。
ガンデ「あ、ひょっとして巫狐やってたのって妹さん?ののこさんに良く似てるわ〜」
まみは無言のまま、愛想笑いを浮かべて俯き気味に何度かコクコクと頷く。
どうやらガンデの中からオジサンが出て来たので人見知りモードを発動したようだ。
ののこ「よく言われる。あたしに似て美少女でしょ」
ののこは少しおどけた言い方で返す。
ガンデ「美人姉妹やね〜。ほいじゃ!」
そう言うとガンデは少し笑って手を振って自分の車の方に引き上げて行った。
メンバーもそれにならうようにののこ
達に手を振ってそれぞれの車に戻って行った。
ののこ「あたし達も行こうか」
ののことゆきとれぃは窓から手を出して手を振る。
まみも車内から小さく手を振る。
車は駐車場を出て数分後、まみが口を開く。
まみ「ガンデさんって中に人が入ってたんだ」
ゆき達にしてみれば当然と言う事をしみじみと言うまみ。
れぃ「……いや、そりゃ入ってるだろ……」
まみ「……だよね……」
まみは「今さらな事」に今さら気づき、赤面すると同時に、ガンデに対して人見知りしなかった自分に驚いた。
そして昼間にゆき達がガンデに対して人見知りしなかった事を不思議がっていた事の理由をようやく理解した。
まみ『あたしも人見知りせずに人と喋れる事があるんだ……』
車は数分走り、道沿いにあるオシャレなカフェに入った。
ゆき「ここ?『ヤムヤムバウム』って書いてある」
れぃ「……ヤムヤム……美味しい……バウム……木……美味しい木……なるほどバウムクーヘン専門店だ……」
車から下りてお店に入る。
店員「いらっしゃいませ」
ののこ「4人ですが、入れますか?」
店員「お召し上がりですね。どうぞ」
ののこ「ここで注文して中で食べるスタイルだから、みんな何食べるか選んで」
れぃ「……こりゃ美味しそうだ……」
まみ「れぃちゃん、これ『白樺』だって!美味しそう!」
まみが見付けたバウムクーヘンはバウムクーヘンの表面に白い飴のような物でコーティングされており、その上から粉砂糖が振られている。
れぃ「……おしゃれ〜……あたし、これにしよう……」
まみ「あたしも!」
唯一バウムクーヘンにあまり興味を持って居なかったゆきもまみ達に倣う。
ののこ「飲み物は?」
ゆき「あたしブレンド」
まみ「アールグレイ」
れぃ「あたしミルクティー」
ののこ「じゃあ、『白樺』を4つと、ブレンド2つ、アールグレイとミルクティーでお願いします」
ゆき達はそれぞれ財布を取り出すが、それをののこは制止する。
ののこ「いいよいいよ、あたしが誘ったんだからあたしの奢り〜」
ゆき「いいんですかっ!」
れぃ「ゴチになります!」
まみ「ありがと〜」
四人は店員さんに案内され、奥の喫茶コーナーへ。
ゆき「中もおしゃれ〜」
れぃ「……学校の近くにもこんなオシャレなお店あったらいいのにな……」
まみ「ほわ〜……」
どうやら店内の雰囲気がまみのどストライクのインテリアだったらしく、まみは目をキラキラさせながら店内を見回している。
ののこ達が座ったのは靴を脱いで、ローテブルとソファのあるスペースだ。
まみ達はウキウキした気分でソファに座る。
まみは店内が見渡せるように窓際の席に座る。
やがて店内さんが、バウムクーヘンと飲み物を持って来てくれた。
店員「ごゆっくり〜」
皆、小さく会釈して改めて雰囲気を味わう。
ゆき「忘れないうちに写真撮っとこ」
れぃ「……それだ……あれ?」
スマホを取り出し、カメラを起動させようとしたれぃが声を上げる。
ゆき『気付いたのか!?このタイミングで!』
ののこ『また柳江君?』
まみ『柳江君からのLINE?』
れぃ「お母さんからLINE来た。お風呂と晩御飯、家で食べるのか聞いてる」
ゆき達は謎の安堵。
ののこ「ここでお茶したらまっすぐ帰るし、みんなの家まで送って行くから、7時くらいには帰れるよ」
れぃ「……あざます……。え〜っと、7時くらいに帰るから、ごはんは家で食べやす。お風呂も家で入りやす……っと……」
れぃは母親にLINEを返信し、バウムクーヘンの撮影に移る。
ちょうどそこに店員さんが、コーヒー用のミルクポーションを持って来た。
ののこ「あ、すみません、シャッター押してもらっていいですか?」
店員「いいですよ〜」
店員さんはののこのスマホを預かり、全員が入る画角でシャッターボタンを押す。
ののこ「ありがとうございます。じゃあ、食べよ!」
それぞれがバウムクーヘンに手を伸ばす。
そして一口食べたゆきから感嘆の声が上がる。
ゆき「何これ!これがバウムクーヘン!?口の中で溶けた!」
れぃ「バウムクーヘンの常識が今覆った!こんなに口当たりの軽いバウムクーヘン、初めてだ!」
ののこ「でしょ〜」
ののこはドヤ顔である。
まみ「美味しい〜〜〜っ!」
まみは頬に手を当て、目を細めてうっとりとした表情で宙を見る。
ゆき・れぃ『『まみって、こう見るとホントののこさんとそっくりだ』』
姉妹だからか、それとも偶然か。
まみのリアクションはスキー場のレストランでののこが見せたリアクションと全く同じだ。
ののこ「ここに来たら、このバウムクーヘン食べなきゃね」
そう言うとまた一口、ののこはバウムクーヘンを食べる。
ののこ「ん〜〜〜〜〜!いつ食べても美味しいっ!」
数分後。
ゆき「無くなってしまった……」
れぃ「これ、テイクアウトもできるんだよね!」
ののこ「できるよ〜。カットしたのもあるし、ホールでも売ってる」
まみ「お母さん達にお土産買って行かず」
食べ終えた四人はそれぞれテイクアウト用のバウムクーヘンを購入し、ホクホク顔で車に乗り込む。
最初は「家に帰るまで我慢できない」とか、「今日のコス滑走で……」とか話をしていたが、疲れもあって30分もしないうちに運転しているののこ以外は寝落ちしてしまった。
次にれぃが目覚めたのは既にれぃの自宅の前だった。
ののこ「れぃちゃん、着いたよ〜。忘れ物無いようにね」
れぃ「あぁっ!すみません!寝てしまってました!」
ののこ「いいのいいの。色々あったから疲れたの判るし」
そう言うとののこは優しく微笑む。
この「色々」と言うのはコス滑走の事でもあるし、柳江の件でもある。
だが、それはれぃには伝わっていない。
同時にまみとゆきも目を覚まし、れぃの荷物を下ろすのを手伝った。
れぃ「……今日は本当にありがとうござんした……」
そう言うとれぃはペコリと頭を下げる。
ののこ「うん。また行こうね」
ゆき「おつかれ〜」
まみ「また明日、学校で」
お互い手を振り別れる。
聡太「あ、姉ちゃん帰ったんだ」
物音に気付いて弟の聡太が玄関の扉を開けてひょいと顔を出す。
れぃ「聡太、お土産買って来てやったから、荷物運ぶの手伝え〜」
お土産と言う言葉に釣られて聡太は荷物を運ぶのを手伝う。
洗濯物を出して、コスチューム等の洗えない物はタオルで水分を拭き上げてドライヤーをかける。
板も水分を拭き取り自室に片付ける。
片付けが終わると同時に晩御飯ができた旨、聡太が呼びに来たので夕飯を食べる。
れぃは家ではキャラを作ってないので普通に喋る。
今日のコス滑走の話をしながら楽しく夕飯を済ませ、食後のデザートに買って来たバウムクーヘンを家族で食べる。
家族全員でバウムクーヘンの美味しさに驚き、楽しい夕食を済ませる。
母親「お風呂沸いてるからね」
れぃ「はーい」
れぃはそのままお風呂に入り、今日の楽しかった事を思い出しながらお気に入りの歌を口ずさむ。
れぃ「ドジでまぬけでも♪あたしはあたし♪どんな事でもかかって来いっ!あたしの魔力でちょちょいのチョイ!♪」
帰りの車で爆睡したおかげか、お風呂から出てもまだ元気だ。
鼻歌混じりに髪を乾かし、パジャマに着替えて自室のベッドに飛び乗るように座る。
れぃ「今日は一日が早かったな。あって言う間だった。そうだ、ののこさんにお礼のLINEしとかなきゃ」
スマホでLINEを開く。
れぃ「ん?柳江から数件LINE来てんじゃん。もう写真送ってくれたんかな?とりま柳江は後回し〜……っと」
そう独り言を言いながらののこに今日のお礼のメッセージを送る。
他にも広告等のLINEも来ているが、それもれぃの中では優先度は低い。
れぃ「さてさて、柳江はどんな写真撮ってくれたんかな」
れぃはベッドにうつ伏せで寝転ぶ。
柳江の撮った写真に期待して柳江のアイコンをタップしてメッセージを確認する。
画面を見てれぃは声にならない声で絶叫した。
こうしてこの瞬間から、れぃの今までの人生において一番長い一日が始まる。




