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第65話「あたしはまだ小学生なんじゃん」

第65話「あたしはまだ小学生なんじゃん」


ガンデ達とセッション滑走をする為にまみ達はバインディングを付ける作業をしていた。


まみ達に比べれば、はるかに重装備であるガンデ達はとっくに準備を終えて、チームメンバーと何やら打ち合わせをしている。


まみ達が準備を終えて、ようやく立ち上がろうかと言うタイミング。

計ったかのように、ガンデは周りを見渡し声をかける。


ガンデ「皆さん準備よろしいですか?」


やたら通る声がゲレンデに響く。


それに呼応する「うぃ〜っす」と言う複数の声。


ガンデ「ののこさん達も行けます?」


ののこはまみ達を見回す。

ゆき達もいつでも行ける旨、ゼスチャーで応える。


ののこ「大丈夫です」


ガンデ「じゃあ、ののこさんのグループが先行して下さい。ののこさんのグループに合わせたスピードで滑りますんで」


ののこ「いいんですか?ほんっとに遅いですよ」


ガンデ「かめへんかめへん!じゃあ、ののこさん達スタートして下さい。麓のペアリフト乗り場まで行きます」


ののこはゆき達のスピードに合わせるようゆっくり滑り出す。


続いてれぃ、まみ、ゆき。


少し慣れたとは言うものの、やはりゆき達のスピードはかなりゆっくりだ。


それを確認して、少し経ってからガンデが号令をかける。


ガンデ「各機、出撃!」


号令と共に飛び出したのはカメラマンのカイだ。


ののこ達の集団を迂回するように大きく回り込んでののこ達の前方で止まり、即座にカメラを構える。


ガンデ達も滑り出す。

8機のロボットがののこ達と十分な距離を取りながらも縦横無尽に滑る。


れぃ「凄い凄い凄い凄い!」


ゆき「ガンデムーンの戦場にいるみてぇだ!」


あっちを見てもロボット、こっちを見てもロボット。


そのロボット達が滑りながら剣を交えたり、射撃シーンの再現を繰り返す。


まみ「夢見てるみたいだ……」


まみは別にガンデムーンの世界に憧れている訳ではないが、非現実的な光景として、こう呟いた。


さっきより長い距離を滑ったはずなのに、あっと言う間に麓のリフト乗り場まで来てしまった。


ガンデ「ありがとうございましたー」


ド・ムーン「お疲れ様でした〜」


リフト乗り場に着く直前には全てのロボット達は既にののこ達を追い越していた。

これもどうやら打ち合わせしていた結果だろう。


そして滑り終えたロボット達が次々とリフト乗り場に到着したののこ達に声をかけ、中には「イェ〜イ」と声をかけながらハイタッチで迎える者もいる。


ののこ「お疲れ様で〜す」


ののこはガンデに手を振り、会釈する。


ゆき「イェ〜イ!」


ゆきはド・ムーンにハイタッチで応える。


れぃ「最高です!」


れぃは「みど」と呼ばれていた緑色のロボットとハイタッチ。


まみ「夢みてぇでした!」


まみはまみの前でシンクロ滑走パフォーマンスをしてくれた赤色と青色の増産型のロボットに手を振りながら声をかける。


まみが自分から見ず知らずの人達に声をかけたのである。


だが、本人もののこ達もそれが異常な事と感じる事すらできないほど、ののこ達は興奮していたのだ。


ののこ「すごい遅かったでしょ?ホントすみません」


笑顔ではあるが、ののこは再びガンデに頭を下げる。


ガンデ「どってこと無いって。俺らオッサンは毎回ガッツリ滑ったら体力保たへんからたまにはゆっくりまったり滑るのは体力温存に丁度いいんよ」


ド・ムーン「楽しかったら何でもOK」


カイ「良い写真もいっぱい撮れましたよ。後でギガファイル便で送りますね」


少し談笑した後、ガンデが切り出す。


ガンデ「さて、ほぃじゃ俺らボチボチ行きますわ。またね〜」


ののこ達は揃って頭を下げ、リフトに乗って上がって行くガンデ達を手を振って見送った。


ののこ「凄かったね〜」


ゆき「これぞパフォーマンス!って感じでしたね」


れぃ「滑りの方はレベル高すぎて参考にはならんかったけど、面白い話は聞けた」


すっかりキャラを忘れているれぃ。


まみ「写真撮影だけでもあれだけのパフォーマンスできるって凄いよね〜」


まみも当然であるかのごとく会話に参加する。


ようやくテンションが通常運転に戻りつつあるゆきが、やっとまみに聞きたかった事を口にした。


ゆき「そういやまみ、ガンデさんには人見知りしてなかったけど……え〜っと……ぶっちゃけ、何で?」


ののこが聞きたいけど聞けない事をズバっと聞くゆき。


そして返ってきた言葉は思いがけない言葉だった。


まみ「あたし人見知りだけど、ロボット見知りじゃねぇよ」


ののこ・ゆき・れぃ「「「は?」」」


まみ「あ、そだから、カメラマンのカイさん……って人だっけ?あの人と喋るのはえれぇ緊張した」


ゆき「いや、待て。一旦、待て」


まみ「何が?」


れぃ「……今はカイさんの話じゃなくってガンデさんの話な……」


まみ「うん。わかってるよ」


ゆき「うん。……で、何でガンデさんには人見知りしなかっただ?」


まみ「そだから、ガンデさん、ロボットだから」


れぃ「……いや、何言ってるかわかんねぇ……」


どうにも話が食い違う。

全員の頭の上に「?」が浮かんでいる。

そのタイミングで後から声をかけられた。


振り返るとデゼニーキャラクターの「サンダース・ベア」の着ぐるみを着た人がいた。


サンダース「すみません、良かったらお写真撮らせてもらってよろしいですか?」


会話に集中していたので、少し驚いたがののこが対応する。


ののこ「はい。え〜っと……誰の写真ですか?」


サンダース「できれば皆さんお一人ずつお願いしたいです」


ゆきがふとまみを見ると、既に居ない。


正確には居たが、一番背の高いゆきの後にスッと隠れていた。

人見知りスキル発動である。


ののこが写真撮影対応を始めたので、ゆきとれぃは少し移動する。

もちろんまみもゆきの後の位置をキープしたまま一緒に移動。


サンダースがののこの写真を撮り終えて、次はれぃ。


人の入れ替わりが行われているタイミングでまみがまたスッと移動。


今度はサンダースの背後に移動。

そしてその動きは非常に自然だ。


れぃの撮影が終わってゆきと入れ替わるタイミングには既にまみは姿を消していた。


サンダースはそれに気付かず、そもそも巫狐が居た事にさえ気付いて居なかったかのようにののこ達三人にお礼を言ってリフトに乗って上がって行った。


ののこ「あれ?真由美は?」


姿が見えなくなったまみ。

三人は麓にある自販機の辺りやトイレの辺りを見回す。

しかし、声はゲレンデ側から聞こえて来た。


まみ「居るよ」


ゆき「え?まみ、さっきあたしの後に居て、その後サンダースさんの後に行って……」


まみ「あたしの出番は無ぇかなぁ〜って思ったからスケーティングの練習してた」


もちろん嘘である。

そしてその嘘は全員にバレている。


れぃ「……嘘つけ。ただの人見知りじゃん……」


言いにくい事をサラッと言うれぃ。


まみ「え〜〜〜……っと………あ〜〜〜〜……。いきなり声かけられてたまげてしまったって言うか、そんな感じで……」


ゆき「ガンデさんには人見知り発動しねぇのにサンダースさんのには人見知りするんだ」


まみ「サンダースの人って……人じゃん?」


れぃ「……まぁな……」


まみ「ガンデさんはロボットじゃん」


ゆき「いや待て。その理論で言うならサンダースさんは熊じゃん」


れぃ「……人じゃなかったら人見知りしないのかと思ったけど、そうじゃ無ぇのんな……」


ののこ「ひょっとして……人の顔が出てるかどうか……なのかな?」


ゆき「その可能性はありやすね。さっきのサンダースさんは熊の頭はフードでスキーヤーさんの顔は出てるし、ガンデさんはフルフェイスだし」


れぃ「……じゃあ……まみ、あの人はどうなん?……」


れぃが指差した先には特撮ヒーローの「仮免ドライバーGTR」がいた。


まみ「仮免ドライバーGTRは……人……じゃん」


ゆき「じゃあ、あの人は?」


ゆきが指差した先には人気ゲーム「シータ・オートマーダー」に出てくるロボット生命体。


まみ「ロボット生命体は、アンドロイドじゃん」


れぃ「……いや、作品の情報を知りてぇ訳じゃねぇからな……」


ゆき「あのロボット生命体コスの人に対しては人見知りするか……って話」


まみ「わかんねぇ」


ののこ「そう言うば真由美が子供の頃、どこだったかのフェスティバルに真由美も見てた女児向けのキャラクターショーやってて、最後に握手会あったんだけど人見知りして行かなかったのね。でも、別のイベントで『モグラのもぐりん』ショーの着ぐるみには躊躇せずに握手会行ってたわ」


ゆき「つまり、人または人由来のキャラクターはダメ、人由来でなくても人の顔が出てるものはダメ。人由来でなくて人の顔が出てねぇものはセーフ……なのかな」


れぃ「……条件厳しいな……」


ゆき「ガンデさんってえれぇ喋るし、『人』っぽさ全開なんだけどね……何でだらず」


まみ「あたしもわかんねぇ。でもガンデさんは大丈夫だった。ロボットだからかなぁ……って思ってたんだけど、違うのかな?」


れぃ「……あたしらに聞かれたってわかんねぇよ……」


ののこ「考えててもしかたないし、次、行こうか」


四人はペアリフトに乗り、さっき滑って来た所まで上がる。

リフトの降り場になっているのは小高い丘の上のような所。

さっき滑った方にも滑れるし、反対側にも滑って行ける。

山頂に行くなら反対側に下りて行かなければならない。


ゆき「ののこさん、次はどこにいくの?」


ののこ「山頂行ってもいいんだけど……コスで滑れるのちょっと慣れた?」


ゆき「慣れては無ぇけど、とにかく経験積まなきゃどうにもなんねぇな……とは思いやす」


れぃ「……山頂からのコースは難しいの?……」


ののこ「初級コースもあるよ」


まみ「あたしは行ってみてぇ」


ののこ「じゃあ、一度行ってみようか」


そう言うとののこは反対側に少し下った所にあるリフトを指差す。


ののこ「とりあえずあそこまで行くよ。かなりフラットだから止まるかも知れないけど」


れぃ「……直滑降で勢い付けて行けって事だなぃ?……」


ののこ「くれぐれも無理しないでね。転んだ時の為にフォローできるよう、一番最後から行くから準備出来た人からスタートして」


やはり最初にスタートしたのはれぃだ。


れぃ『確かに最後えれぇフラットだな……。少し直滑降でスピード出してみるか……』


斜度のある所の半分くらいから直滑降で滑って行く。


れぃ『やっぱり風の影響がある!思ったほどスピード出ねぇ……』


結局れぃはフラットになって間もなく止まってしまった。


次にスタートしたのはまみだ。


最初2〜3回小さいターンをした後、直滑降でスピードを上げていく。

しかしやはり衣装の風圧でスピードが出ず、しかもフラットになる直前で風に煽られバランスを崩す。

転倒は免れたが、完全に勢いが殺され、れぃより手前で止まってしまった。


最後にゆき。

最初から止まるのを覚悟の上で慎重に滑る。

フラットになる直前から直滑降で少しスピードを上げたが、れぃの所まで届かなかった。


三人が無事滑り終えたのを確認し、ののこがスタート。

ののこの衣装も風に煽られているが、コス滑走に対しての慣れと、カービングでフラットになってもそれなりに進み、頑張ってスケーティングで移動している三人を追い越した所で止まった。


まみ「ただでさえ……スケーティング……えれぇのに……衣装着てると……もっとえれぇね……」


息を切らしているので喋るのも途切れ途切れだ。


ゆき「やっと着いた〜」


れぃ「……これ、板外して持って歩いたほうが楽なんじゃね?……」


ののこ「は〜い、じゃあこれ乗って上行くよ〜」


まみ「これ乗ったら山頂?」


ののこ「まだ。もう一本乗り継いでから山頂」


ゆき「このリスト、クワッドリフトなんだ。四人で乗りてぇ!」


れぃ「……さてはクワッド乗ってる所の写真撮るつもりだな。賛成……」


空いているが、四人でクワッドリフトに乗る。


リフトの上で端に座っているののこと逆の端に座っているゆきがそれぞれ順番に自撮りモードで写真を撮る。


何枚か撮った後、ゲレンデコースの上をリフトが通過する。


ゆき「あっ!見て見て!モケットポンスターのピカチョーの集団!」


ゆきが指差した方を見ると、ピカチョーの同じ着ぐるみパジャマを着た10人くらいの集団が滑り下りてくる。


れぃ「……同じコスで集団滑走するとバえるな……」


まみ「あっ!れぃちゃん!ピカチョーたちの上!あれ、アルマナックじゃねぇ?」


れぃ「えっ!どこ!?」


まみ「ほらっ!一番後のピカチョーのさらに後!」


れぃ「いたっ!ホントだ!写真撮りてぇ!」


ゆきは出したままになっているスマホを向けて写真を撮ろうと試みる。


ゆき「最大望遠にしてもこの距離じゃ無理だ〜」


れぃ「後で取っ捕まえてぜってー写真撮る!」


ののこ「11時にリフト券売場の所で集合写真撮るイベントあるから、その時間に行けば会えるよ」


れぃ「くぅ〜〜〜〜!来て良かった〜〜〜」


ゆき「れぃ、またキャラ崩壊してんぞ」


れぃ「今はグルキャナックだからいいんじゃん!」


リフトを降りると、またなだらか……と言うかほぼフラットのバーンがあり、少し行った所にリフト乗り場がある。


ののこ「次、あれに乗ったら山頂だよ」


ゆき「これは……板履いてもほとんど滑らねぇだらずな」


れぃ「……でも板持って歩くのはもったいねぇくらいには斜度がある……」


ののこ「スケーティングが楽になると思えばいいんじゃない?」


ののこの言うとおり、一度雪面を蹴っただけでいつもより長い時間滑って行く。


しかし半分着た所で完全にフラットになってしまい、またヒィヒィ言いながらスケーティングでリフト乗り場に辿り着く。


今度はペアリフト。


ののことまみ、ゆきとれぃが一緒に乗る。


まみ「お姉ちゃん、このコース、ちょっと急過ぎねぇ?」


ののこ「このコースは上級コースだからね。迂回する初級コースあるから大丈夫だよ」


まみは見渡すがそれらしきコースは無い。


まみ「初級コース?」


ののこ「あの木が生えてる所の向こう側をぐるっと回って、そこに出てくる」


喋りながらののこは指差す。


まみ「良かった〜。この急斜面はあたし無理〜」


ののこ「そんなヤバい所連れて行かないって」


そう言うとののこは笑う。


まみ「あ……ガンデさん達だ」


今、まみが無理と言った上級者コースの斜面をガンデムーンのチームが爆速で滑り下りて来る。


しかもトリックを入れたり、パフォーマンスをしたりもしている。


ののこ「やっぱガンデさん達ハンパないわ〜」


そして最もののこ達を驚かせたのは、爆速、トリック、パフォーマンスをしながらリフト上のまみ達に気付いて手を振って来た事だった。

しかもチームのほぼ全員が。


後のリフトのゆきとれぃから黄色い声が上がる。


声こそ上げなかったが、まみも全力で手を振り返していた。


ののこ「ガンデさん達、あの滑りしながらリフト上にまで気がまわるんだ……。視野の広さがハンパないね」


まみ「あんな滑りができるようになるのって何年くらいかかるんだらず?」


ののこ「何年……じゃなくて結局は練習量でしょ。年に一度スノボに行くペースで10年より、一年で10回行った方が上手くなるだろうし」


まみ「あたしも巫狐であの滑りができたらいいなぁ」


ののこ「できるんじゃない?練習すれば」


当たり前の事を言われてまみは返す言葉もない。


ののこ「ただ、目標持って滑るのと、目標無しで滑るのとでは、また違うだろうし。さしあたり真由美はカービングやりたいんでしょ?なら今はカービング習得へのロードマップを辿るしか無いよね」


まみ「ロードマップ?」


ののこ「今は一つひとつ基礎を練習するって事。基礎が一通りできるようになってから、どっちに進むか決めればいいじゃん。人生の進路と同じよ」


まみ「同じ?」


ののこ「小、中までは基礎。高校で基礎をさらに伸ばすのが普通校で他にも専門分野の基礎を学ぶ工業、農業、商業高校。さらにそこから大学や専門学校で、自分の進む道を決めて行く。スノボも基礎やって、そこからカービングするのかグラトリやるのか、ハーフパイプやるのかパーク行くのか決めたらいいって事」


まみ「あたしはまだ小学生なんじゃん」


ののこ「例えるならね」


まみ「目標持ってたら早くできるようになる?」


ののこ「持ってないよりは……ね。同じ1本滑るにしても、ただダラダラ滑ってるのと、一つの事を練習しながら滑るのとでは差があるだろうし」


まみは今まで何となく流される人生だった。

目立たないようにするのが最優先で、自分のしたい事や自己主張をする事は無かった。


もちろん食べたい物や、やりたいゲームなどは主張してきたが、それも家族に限っての事だ。


明らかにまみの中で何かが変わりつつあった。

それを本人も自覚していたし、ののこもそれを感じ取っていた。


やがてリフトの降り場が見えてくる。

山頂は少し風が強い。


山頂はかなり開けている。

木等の遮蔽物が無いから風がダイレクトにまみ達に吹き付ける。


まみ達はののこの後について、滑り出しのスタート地点まで移動する。


するとスタート地点にさっきのサンダースの着ぐるみの人が居た。


サンダースはまみを見付けると近寄って来た。


ゆき『これはまみも逃げれねぇな……』


サンダースは会釈した後、まみに話しかける。


サンダース『巫狐さん、お写真撮らせてもらってよろしいでしょうか?』


ゆき達はまみが人見知りを発動して、オロオロする未来を予想していたが、その予想は外れる。


まみ「はい!ありがとうございます!」


そして自分から巫狐の有名なポージングをする。


サンダース「ありがとうございます!」


ポージングはその一度だけでなく、そこから二度ポージングを変え、三種のポージングを披露した。


3つ目のポージングを終えた後、まみから口を開く。


まみ「ありがとうございました!」


サンダース「こちらこそありがとうございました!最高です!」


サンダースはホクホク顔で何度も会釈して去って行く。

それをまみは笑顔で小さく手を振り、見送る。


それを唖然とした表情で見るののこ達。


サンダースに声が届かない距離になったのを確認し、れぃがまみに疑問をぶつける。


れぃ「……まみ、どうした?着ぐるみは人見知り対象じゃなかったのか?……」


そう言われた直後、腰が抜けたようにまみはへたり込む。


まみ「人見知りしてたに決まってんじゃ〜ん……」


ゆき「それなのによくあれだけ対応できたな」


まみ「ガンデさん達ってさ……パフォーマンスしてぇってのと同時に『人を楽しませる』ってのに全力なんだな……って思ったら、見習わなきゃな……って思ってさ」


まみは言葉を選ぶように話す。


ののこ「真由美……強くなって……」


ののこはわざとらしく泣き真似をする。


まみ「お姉ちゃん、そう言うの要らねぇ」


ののこは泣き真似ではあるが、本心でまみの変化を喜んでいた。


れぃ「……まみ……頑張ったな……」


まみ「うん。巫狐ってゲームの中では堂々としてて、それでいて優しくて、かわいい所もあって……今のあたしはパッと見の見た目しか同じ所ねぇんだよね。巫狐のアクションの再現したくてコス滑走も始めたけど、そう言う所もちゃんと再現してぇな……って」


れぃ「偉いっ!」


まみのみならず、ののこやゆきもびっくりする声量だ。


まみ「あひゃぁ!」


まみは思わず声が出る。


れぃ「そうじゃん!キャラのイメージを壊しちゃいけねぇ!それこそが愛!」


ゆき「ガンデさん、正座してグルキャナックに怒られてるパフォーマンスしてたけど、ありゃイメージ壊す事にならんのか?」


ののこ「それ、ガンデさんがSNSで言ってたけど、それも含めてパフォーマンスなんだって。ガンデムーンってスピンオフとかパロディ作品もいっぱい出てんのよ。その中にはギャグ漫画もあるし、人間みたいに日常生活送ってるガンデムーンもいる。ギャラリーがどのガンデムーン作品か判らないから、あらゆるニーズに応えて型にはまらないパフォーマンスをやってるんだって」


ゆき「そりゃそれですげぇな……。あたしガンデムーンは詳しくねぇけど、確かにSDのガンデムーンもあるもんな」


ののこ「だからガンデさんは自分はコスプレイヤーではなく、パフォーマーだって言ってた。実際にガンデさんはコスプレイベントとかほぼ来ないし」


れぃ「……なんかガンデさんって色々次元が違うな……」


まみ「ガンデさんの……さっきの正座して怒られてる写真だって、グルキャナックちゃんのキャラを引き立たせる為の演出じゃん?あたしの時も巫狐のキャラに合ったポージングを『受け』の視点からあたしにポージングリクエストしてくれたんだな……ってさっき気付いた」


ゆき「確かにれぃの時も、最初れぃが固くなってたのに、ガンデさんからリクエストもらってかられぃの固さ取れたもんね」


れぃ「……固くなってねぇし……」


ゆき「なってたじゃん!最初のれぃのポージングの真似……」


そう言うとゆきは直立不動の姿勢で小さくピースを出す。


まみ「あー、そう言えば……」


れぃ「してねぇ!」


ゆき「してたよ。写真見る?」


れぃ「撮ってたんかぃ!」


ゆきが開いたスマホにはゆきが再現したポージングそのままのれぃが写っていた。


ゆき「ほら、してんじゃん」


れぃ「これは、最終的にポージングする前段階って言うか……アレじゃん!」


ゆき「別にムキになって否定する事ねぇじゃん。あたしだって最初は緊張したし」


ののこ「あたしもお会いするの2回目だけど、緊張したよ」


れぃ「……はい、緊張してました……」


ののこが言うと、れぃは素直に認めた。


ののこ「うん、まぁでも、表現の方法って人それぞれだからね。皆が表現したいそのキャラを演じればいいんじゃないかな」


ゆき「世の中にはギャップ萌えってのもあるしな」


そう言うとゆきはニカっと笑う。


れぃ「……あたしも、そう考えたらグルキャナックを完全再現できてるとは言えねぇな……」


ゆき「でもグルキャナックのキャラを撮影以外の時に出したら、完全に社会不適合者じゃん」


れぃ「あぁ〜!そうだった!」


ののこ「TPOを見定めて演じる時は演じる。演じない方が良い時は演じない……で、いいんじゃないかな」


まみ「ガンデさんのパフォーマンスはカッコ良い以外のパフォーマンスもあるけど、面白くて楽しくて、誰も嫌な気分になってねぇんだよね。それが凄いって思ってさ」


ゆき「そうじゃん。ガンデムーンの完全再現だったら、そもそも喋る事もできねぇからね。あたしもちょっと意識してみず」


れぃ「……とりあえずはそのキャラっぽく滑れるようになる所から……だな……」


ゆき・まみ「「それな」」


四人は特に申し合わせる事もなく、板を履き始めた。


そして次の一本はそれぞれがキャラを意識した滑りをする事になる。

その滑りが本当の意味でのコス滑走になる事をまみ達はまだ知らない。


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