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第62話「センシティブじゃん!」

第62話「センシティブじゃん!」


ののこ「それじゃ2本目行くよ!」


ののこの良く通る声で三人に気合いが入る。


ののこ「さっきの1本目で、衣装が風を受けて感覚が違う……ってのを実感できたと思う。次の1本はどんな滑りをしている時にどんな抵抗を感じるか……を意識してみて。じゃあ、スタート!」


さっきの1本目とは違い、ののこはスッと滑り出す。

それでもウェアの時の滑りとは違う事に気付いたのは、前回一日中一緒に滑ったまみだけだ。


ゆき「さすがののこさん。2本目でもういつも通り滑るじゃん」


れぃ「……以前もコス滑走した事あるって言ってたから、その経験もあるのかな……」


まみほどののこの滑りを知らないゆきとれぃの目には、ののこがいつも通り滑っているように見える。


あえてその差についてまみは言葉にしなかった。

具体的に何がどう違うかまでは、まみにも判らなかったし、言葉で説明もできなかったからだ。


まみ「じゃあ、あたしからでいい?」


ゆき・れぃ「「どうぞ〜」」


まみ「三本勝負!いざ、始め!」


これはまみの扮する巫狐が登場する格闘ゲーム「裏十二支戦記」の試合開始のアナウンスだ。


まみ的に裏十二支戦記の世界に浸り、巫狐になりきろうと言う作戦。


まみはいつも通り直滑降で少し勢いを付けてから……と思ったが、その最初の直滑降で衣装が風に煽られバランスを崩し転倒する。


ゆき「まみ〜!大丈夫〜?」


まみ「あはは、やっぱりいきなり直滑降は無理だ」


バツ悪そうに照れ笑いをすると再び滑り出す。

今度は慎重に斜滑降から。


まみ『やっぱり袖が風でなびいて引っ張られる……』


まみはチラと袖がどうなっているか確認する。


まみ『袂が風はらんでパラシュートみたいになってんじゃん!』


次にターン。

やはり袂が風を受けて大きく膨らんでいるが、ふとした瞬間に袂の中に入っていた空気が抜けたように萎み、バタバタとなびく。


空気抵抗が軽減され、その結果思わぬタイミングで速度が上がる。


まみ『最初は袴の空気抵抗も気になったけど、慣れたらそうでもねぇな』


今度はかかと側のターン。

また袂が大きく膨らみ空気抵抗が増す。

思っていたよりスピードが落ちたせいか、傾けていた体の角度と遠心力のバランスが崩れて尻もちをつくように転倒。


まみ「ムズい〜〜〜」


再び立ち上がり、滑り出す。


まみ『ゲームの中では高速移動してもこんなに袂があばけ(暴れ)る感じじゃなかったけど、これがゲームとリアルとの差か〜』


その後も暴れる衣装に悪戦苦闘しながら滑る。


まみ『袂を手で持てばあばけねぇんだけど、それじゃ巫狐の動きの躍動感が表現できねぇし……』


まみは腕の位置や角度を変えて試行錯誤を重ねる。


結局、コツが掴めないまま滑りきってしまった。


悪戦苦闘したのはまみだけではない。

まみに続きスタートしたのはれぃだ。


れぃ『翼が……やっぱり風圧で持って行かれる!』


れぃの扮するグルキャナックは左半身は肉体があり、右半身は骸骨と言うデザインだ。

そして蝙蝠のような翼も左に1枚だけ存在する。

翼の付け根は背骨と左肩甲骨の間辺りで、ほぼ体の中心付近ではあるが、やはりバランスは悪い。


しかも風圧で翼が後になびいてしまっている。


れぃ『これ、翼を左側に固定した方がいいのか?……うおっとぉ!』


かかと側のターンの際に翼の風圧で思った以上に小回りになってしまい、バランスを崩しかける。


そしてもう一つ問題があった。

滑り的にはそう気にならないのだが、パニエを2枚重ね履きしてかなり広がったミニスカート。

これが風圧でめくれ上がる。

もちろん重ね履きに重ね履きをしているので下着が見えるような事は無いが、乙女のれぃとしてはやはり恥ずかしい。


れぃ『……うぅ……こりゃなんかハズいぞ……』


かと言ってスカートを押さえながら滑る訳にも行かない。

コスプレイベントの時はスカートの下に短いレギンスを履いていたので気にもならなかったし、そもそもスカートの中が見えてしまうようなポージングはしなかった。


れぃ『……こりゃ対策すべきか、それとも開き直るべきか……』


スカートの事に気を取られていたせいか、翼の風圧がさほど気にならなくなって来た。


意識すれば、変わらず翼が風を受けて背中側に引っ張られる感覚はあるが、その感覚に既に慣れつつあった。


むしろ背中で翼がはためいている感覚は、まるで翼を動かして空を飛んでいる表現のようだと感じ、これはこれでアリと言う気にもなって来ていた。


かと言っても、まだウェアで滑っている時のようには滑れない。

気を抜くと転びそうになる。


そろそろリフト乗り場が近づいて来たので、リフト乗り場に寄るように右に進路を取る。


その直後、リフト脇に柳江がカメラを構え、自分にレンズを向けている事に気付いた。

リフト乗り場からは離れてしまうが気分的にかかと側のターンをして柳江から距離を取ろうとする。

その瞬間、麓から吹き上げるような風がれぃのスカートを巻き上げる。


れぃ『はわっ!!』


反射的に両手でスカートを押さえるれぃ。


そして恥じらいにおける防衛本能の一種なのか、その場に座り込むように、尻もちをついて転ぶ。

しかし、両足はスノーボードに固定されている為に足を閉じる事ができない。

あまりスピードが出ていなかったとは言うものの、慣性の法則に従い、れぃはお尻で滑って行く。

柳江の方に……。


そして柳江の1m手前で止まる。

スカートがめくれ上がり、足を開いた状態で……。


この一連のアクシデントはれぃが扮するグルキャナックが登場する作品、「ドジまぬ」に非常に似たシーンがあり、奇しくもそれを再現したかのようであった。


そして作品の中では、グルキャナックが密かに想いを寄せる世話役の悪魔「アルマナック」に下着を見られ、真っ赤になって悲鳴を上げる。

これまたれぃは意識していなかったが、グルキャナックと同じセリフを言う事になる。


れぃ・グルキャナック「きゃ〜〜〜〜!……み………見た?み………見たんなら……殺す!」


柳江「凄いよ、むか……じゃなかった、れぃさん!ドジまぬの完全再現じゃん!」


れぃ・グルキャナック「み………見たんだな……?」


柳江「バッチリ写真撮れたよ!」


「ドジまぬ」ではここでグルキャナックがアルマナックに飛び掛かり、ポカポカとアルマナックを叩くシーンになるのたが、さすがにこの再現には至らなかった。

スノーボードの板を履いていて身動きに制限があるのもそうだが、そもそもれぃは「ドジまぬ」の再現をしているつもりは無かったのだ。


れぃ「消せ〜〜〜!今すぐ写真のデータを消せ〜〜〜!写真確認する前に消せ〜〜〜!」


柳江「え?えれぇ良い写真なのに……何で?」


れぃ「だって、おま……その写真は……なんて言うか……センシティブじゃん!」


そう言われて柳江は消せと言われた理由を理解する。

柳江的には下着じゃないし、「ドジまぬ」の再現だと思っていたので、全く意識していなかったのをれぃにそう言われて赤面する。


柳江「あっ!あぁっ!そっか……そうだよね、ホントごめん!すぐ消すから!」


柳江はれぃがターンする所を写真に収めるべく、連写で写真を撮っていたので写真の枚数も膨大だ。


柳江「あの……スカートが……その……めくれてねぇ写真も消した方がいいのかな……」


れぃ「あ、いや、それはいい……」


この時れぃはそこまで深く考えていなかった……と言うより、そこまで頭が回っていなかった。


スカートがめくれているかどうかを判断するには、それなりに写真を「見て」確認しなければいけない事にまで意識が行かなかったのだ。


柳江はその場で一眼レフカメラのモニターを見ながらスカートがめくれ上がっている写真を削除していく。

れぃの目もあるのでじっくり見る事も無く、パッと見で判断して作業を進める。


……が、ある写真でピタと動きが止まる。


柳江「えっと……この写真、どうしよ?」


柳江が一眼レフカメラのモニターをれぃに見せる。

モニターには少しスカートがめくれ上がっているが、れぃがスカートを押さえる事によりギリギリセーフといった写真だ。


れぃ「!!わぁ〜〜〜!見るな見るな!」


れぃは咄嗟に柳江をポカポカ叩き、これ以上自分の恥ずかしい写真を見せまいとする。


柳江「ゴメン!これもダメなやつね。すぐ消す!すぐ消す!」


はたから見たら、カップルがいちゃついているようにしか見えない。


また削除作業を進めていた柳江の手が止まる。


柳江「れぃさん……これは残してぇ」


れぃが見せられた写真は、れぃがスカートを押さえているおかげでスカートはめくれ上がっていない。

そして何よりピント、構図、グルキャナックの雰囲気全てが「良い写真」と評さずにはいられない写真だ。


れぃ「これは……いい……です」


こうして一連の写真の削除作業は終わった。


柳江もれぃも、ふぅとため息をつく。


そのタイミングがぴったり揃ってしまったので、何となくおかしくて、二人で笑い出してしまった。


柳江「ホントごめんね。今度からは気を付けて撮るよ」


れぃ「うん……あの……写真撮ってくれた事はありがと……」


柳江「うん。また後で撮らせてもらうね」


れぃ「……うん。お願い……します……」


そう言うとれぃは立ち上がり、下で待っているまみ達と合流した。


だが、れぃは知らなかった。

転んだシーンの連写でスカートがめくれ上がっている写真はチェックして削除したが、滑走中の写真の中にまだ何枚もスカートがめくれ上がっている写真が柳江の一眼レフカメラの中に収まっている事を。


そんな二人を途中で追い越したのは、一番最後にスタートしたゆきだ。


今回も谷向きで立ち上がるのにチャレンジしたが、やはり上手く立ち上がれず、結局ひっくり返って山向きで立ち上がる事になった。


ゆきもおっかなびっくり滑り出す。

ローブの裾の風圧と、予想以上に風を受ける小道具の剣。


もともと慎重なゆきはローブの風圧に警戒しながら滑る。


非常にゆっくりだが、4回ほどターンした頃、この風圧に慣れて来ている自分に気付いた。


ゆき『あれ?風圧は相変わらずかかってるけど、ずっと一定の風圧だから慣れたら案外いける?』


そう思うとゆきにしては珍しく、少し挑戦したい気分になった。

それはゆきの「よりシルフィードを再現したい」と言う想いがそうさせたのかも知れない。


少しスピードを上げると、ローブが受ける風圧はより一層増した。


ゆき『うわわわわ……予想はしてたけど、やっぱり引っ張られる!でも……』


ゆきの耳に届くローブがはためくバタバタと言う音。

剣を右下に低く構え雪煙を上げながら疾走する姿。


ゆき『あたし今、えれぇカッコいいんじゃねぇ!?』


実際は少しゆきの頭の中で自身の姿がかなり補完されていた。


少なくとも「疾走」と言えるほどのスピードは出ていないし、「剣を右下に低く構えている」と言うより、剣が重くて持ち上げられないから引きずっているといった感じだ。


そして次の瞬間、ゆきのテンションが一気に上がる。


さっき一緒に写真撮影した女性二人がリフトの上から声援を送ったのだ。


女性A「シルフィード、カッコいい!」


女性B「最高!来て良かった!」


その声にゆきは無意識に剣を高々と掲げていた。


と、同時に黄色い歓声が上がる。


この時の感情をゆきは後日、思い出す事が出来なかった。

ただ漠然と嬉しいとか楽しいとか、そう言ったポジティブな感情が脳内を支配した事だけは覚えていた。


この時の感情を思い出す事は出来なかったが、ゆきは思い出せなかった事を含め、「夢が叶った瞬間ってあんな気持ちになるのかもしれねぇ」と語った。


そんな夢見心地のゆきは、れぃと柳江のやりとりに全く気付かず、先に待っていたまみとののこに合流した。


まみ「ゆきちゃん一度も転ばなかったんじゃねぇ?」


ゆき「まみ……あたし今日、死ぬかもしれねぇ」


まみ「え?ゆきちゃんどうしただ?」


ゆき「今日、何でこんなに幸せな事ばっかおこるの?あたしこれ、反動で絶対死ぬわ」


どう返せばいいかわからず、思わずののこの方を見るまみ。


ののこ「な?」


そしてまたののこは謎のドヤ顔で親指を突き立て、グーと言うポーズを取る。


それを見たまみは、珍しく呆れた目つきだ。


まみ「そだから『な?』じゃねぇって」


ののこ「そういやれぃちゃんは、柳江くんと何やってるんだ?」


まみ「わかんねぇけど、怪我したとかじゃ無さず。あ、ほら、なんか二人でカメラ見てる」


ののこ「ねぇ……真由美」


まみ「ん?」


ののこ「あの二人って付き合ってんの?」


まみ「えぇ!?そうなの!?」


ののこ「いや、あたしが聞いてるんだよ」


まみ「知らねぇけど、何で?」


ののこ「だってほら……」


そう言うとののこはれぃ達を小さく指差す。


れぃと柳江はゲレンデの端に座り込み、二人並んでカメラを覗き込んでいたかと思うと、れぃが柳江をポカポカ叩いている。


ののこ「いちゃついてる……」


まみ「ホントだ……いつの間に……」


この会話をゆきは聞いていた。

壮大な勘違いをしているこの姉妹に真実を告げるべきか、いや、そうするとれぃの秘密をベラベラ喋った事にもなりかねない。


悩んだ挙句、ゆきはまみ達にこう一言だけ言った。


ゆき「あー……、その件についてはあまり触れねぇでやって下さい」


ゆきは肯定も否定もしていない。

純粋にれぃがそう思われたと思った時点で、また取り乱すだろうと予想したからだ。


だが、このゆきの言葉でまみとののこの盛大な勘違いは「憶測」から「確定事項」となってしまった事をゆきは知らない。


ほどなくしてれぃが下りて来て合流した。

微妙な空気が流れる。


ののこ「え〜っと、みんなどうだった?1本目に比べたらちょっとコツ掴んだかな?」


その空気を打破する為にののこが切り出すが、変な空気は変わらない。


ゆき「あ〜、あたしはまだウェアの時みたいには滑れねぇけど、ローブの裾の空気抵抗が常に一定量かかってるからちょっとわかったかな……みたいな感じだ」


ゆきもののこに乗っかり、空気を変えようとする。

だが、誰かが喋った後にれぃ以外の三人全員が謎の愛想笑いをする事で、結局変な空気は変わらない。

まみに至っては、愛想笑いのまま頷くのを繰り返すだけなので全く役に立たない。


ただ一人空気を読めていない……と言うか、それどころでは無かったれぃ。

自身も変に勘ぐられてはたまらないと言った意識もあるのだろう。

率先して会話に参加する。


れぃ「……あ……あたしもさ……背中の翼が片一方だけじゃん?バランス悪りぃせいか、左に左に曲がって行ってしまうんだよね……」


ゆき「確かにグルキャナックちゃんって左右非対称だから色々勝手が違うんだらずね」


れぃ「……あはは、非対称つっても翼の部分だけだけどね……」


何ともぎこちない会話である。


そこにカメラをしまってから滑り出した柳江が合流する。

一層変な空気になる。


ののこ「え〜っと……柳江くん、さっきあたし撮ってくれたのかな?」


柳江「はい。なかなか良い写真撮れたと思いやす」


ののこ「そっかぁ、ありがとう」


会話が続かない。


れぃ「あっ!そうだ、ののこさん、衣装の事でちょっと相談してぇ事あるんでリフトの上で教えてもらっていいですか?」


れぃなりに慌てていたのであろう。

いつものボソボソ喋りではない。


ののこ『この空気……れぃちゃん柳江くんとちょっとケンカでもしたかな』


誤認に誤解が重なる。


ののこ「オッケー!じゃあれぃちゃんあたしと一緒にリフト乗ろう!」


そう言うとののこはリフトに向かう。

れぃもその後を追い、ゆきとまみも続く。


ののことれぃは同じリフトに乗り込み、少し沈黙の時間。


ののこ『え〜?これ、あたし恋愛相談とかされるやつかな……』


身構えるののこ。

そんなののこの心配もいざ知らずれぃは話し始める。


れぃ「……ののこさん、質問なんだが……」


ののこ「ん?何?あたしでわかる事なら何でも答えるよ」


ののこ『でも恋愛の質問はあたし答えられないぞ。あたし、今まで付き合った事とかないし』


ののこはそれこそ中学生の頃から、見た目、スタイルそして誰ともフレンドリーに接する人柄から男子から人気があったし、告白される事も多々あった。

しかし、相手に恋愛感情を抱く事が無く、結局誰とも付き合う事なく現在に至る。


だが、ののこの予想とは違う質問がれぃから出て来た。


れぃ「……えっと……あたしの衣装なんだけど、スカート短いじゃねぇですか。滑ってる時にスカートめくれるのがしょうし(恥ずか)しくって、どうしずかと……」


やや拍子抜けするののこ。


れぃ「……スカートがめくれ上がらねぇ滑り方とか、スカートの加工とかあったら教えて欲しいな……みたいな……。ののこさんは以前にストライト・ローシェリーのコスで滑ったんだよね?あの衣装も横に大きくスリットの入った衣装だから風圧で……その……めくれてしまったりしなかったんかな……と……」


ボソボソ喋りだがれぃなりに饒舌だ。


ののこは本心で言うなら『そんな事か』と言う気分だ。


ののこ「あー、れぃちゃんはそれ気になるんだ」


れぃ「……えっと……ののこさんは気にならねぇんスか?……」


ののこ「コスイベの時もコス滑走の時も、下は下着じゃないから平気かな」


れぃ「……そりゃそうなんだけど、やっぱりスカートがめくれてるって事自体がしょうしい(恥ずかしい)って言うか……」


ののこは少し考える。


ののこ「れぃちゃんはスカッツとか履かない?」


れぃ「……スカッツ?……」


ののこ「いわゆる『スカートズボン』。ズボンの上に最初からスカート付いてるアレ」


れぃ「……最近は履いてねぇけど、中学くらいまでは履いてました……」


ののこ「スカッツもスカート部分短いから、ちょっと激しい動きとかしたらスカート部分めくれるじゃん?それも恥ずかしかった?」


れぃ「……いえ、それは全然……」


ののこ「あれと一緒だと思うんだけどね〜」


れぃ「スカートズボンは、あたしの中では『ズボン』なんで、大丈夫なんだけど……、体のライン……って言うかお尻や腰のラインがぴったり見えるタイツはちょっと……」


ののこ「じゃあレギンスは?」


れぃ「……レギンスはスカートの中が見えてしまうような事態になった時の最終防衛線……みたいな感じだから見られても大丈夫っちゃ大丈夫たんだが、わざわざ見せるものでもねぇとは思ってます……」


ののこ「じゃあタイツとパニエの間にレギンス履く……っての解決方法にはならない?」


れぃ「……え〜っと……レギンス履く方法もあるんですが、今、既にえれぇ重ね履きしてるからこれ以上はキツい……。まぁレギンス履けたら少しは気分的にマシにはなりやすが……」


ののこ「あ、じゃあ、重ね履きする順番換えたら?パニエとタイツの間にヒッププロテクター履くの。ヒッププロテクターってプロテクターの付いてるレギンスみたいなもんじゃん。体のラインもプロテクターで見えないし。色気は無いけど」


れぃ「色気はいらねぇっス。確かにヒッププロテクターだったら気分的にまだマシかな……」


ののこ「あとはやっぱり気分の問題だね。あたしはコスしているキャラクターの再現重視だからそのキャラクターが足の露出が多少あるくらいなら、同じように足を出す事はポージングは再現率を高める事になるって思ってるからね」


れぃ「あぁ……なるほど」


ののこ「ストライト・ローシェリーも戦闘シーンで片膝立てて、反対側の足を大きく横に伸ばすシーンがあるんだけど……」


れぃ「知ってます!知ってます!斬りかかる前の溜めのポーズだよね!」


ののこ「そうそう!あのポージングがカッコいいんだ!だからあのポージングよくやるんだかけど、あのポージングってスリットの所から足を出す感じだから、横サイドの足の露出けっこうあるんだよね〜」


れぃ「確かに……」


ののこ「でも、恥ずかしがってあのポージングしないのはもったいねぇし、中途半端なポージングはしたくねぇじゃん?」


れぃ「あ〜、わかります」


ののこ「れぃちゃんのグルキャナックちゃんはどう?」


「ドジまぬ」のグルキャナックはドジっ娘魔王と言うキャラ付けであるが故に、グルキャナックが恥ずかしがるようなドジを踏む事が多い。

最近のアニメ事情であからさまな露出シーンは無いが、「写ってないけど見えてるだろうな」と視聴者が感じ取れるシーンは多々ある。


威張り散らしてふんぞり返っているのに、魔界のゆるキャラ「けるべろすくん」のディフォルメがプリントされたパンツを愛用していて、それをアルマナックに見られて赤面するシーン等はその最たるものだ。


れぃも、グルキャナックの照れながら逆ギレするそのシーンはお気に入りのシーンだが、それを再現する度胸もないし、羞恥心がそれを許さない。


れぃ「……グルキャナックはちょいちょいパンチラシーンあったりするけど……その再現はちょっと……」


ののこ「だよね〜。だかられぃちゃんがどこまでグルキャナックちゃんを表現したいか。最終的にはそこになるんじゃねぇかな」


れぃ「……と……とりあえずヒッププロテクターの履く順番を変えてみやす……」


この方法でスカートがめくれ上がる恥ずかしさの対策と言う事になったが、この対策以上に、ののことの会話でメンタル的な解決をみていた。


グルキャナックをどれだけ再現するか。

また、「下着じゃないから平気」と言う認識は憧れのコスプレイヤーであるののこの言葉と言う事もあり、れぃの意識を大きく変えた。


一方、一緒にリフトに乗ったゆきとまみは平和だった。

いや、お互い「平和」を装っていた。


まみはゆきにれぃと柳江の事を聞きたい気持ちがあったし、ゆきはゆきでまみにその事を聞かれるのではないかと内心ハラハラしていた。


まみがれぃと柳江の事を気にするのは、好奇心からではなく、むしろ逆。

れぃと柳江が付き合っているとなると、今後まみ達のグループに柳江が加わる事になるのではないか。

そうなった場合、自分の人見知りがどう影響するか。

そう言う不安があったが為、聞かないと落ち着かない気分なのだ。

かと言って聞いた所で不安が払拭される訳ではないが。

しかし、そもそも今まで友達がいなかったまみ。

友達すらいないのに、友達に彼氏などと言うシチュエーションは全く想像もしていない事案。

どう聞いたらいいものか、そもそも聞いていいものなのかも判断が付かないのだ。


故にとりあえず無難な会話を進める。


まみ「さっきゆきちゃん一度も転ばなかったんじゃねぇ?凄いじゃん」


ゆき「何度か転びそうにはなったけどね〜」


まみ「シルフィードの衣装も風の影響受ける?」


ゆき「受ける受ける!特にこのローブの裾!ずーっとバタバタ言って、風圧で後に引っ張られる感じ」


まみ「あー、一緒だ〜。巫狐も袖と袴の風圧が凄いの!とくに袖が空気孕んで、パラシュートみたいになってしまって」


ゆき「うわ〜……動きにくそう!そう言えばまみのお祓い棒って風受けねぇ?」


まみ「えれぇ受ける!ひらひらの部分、布で作って来たから破けねぇけど、紙だったらあっと言う間に破けてるよ、これ」


ゆき「どうやって持ってる?」


まみ「え〜っと、最初は立てて持ってたんだけど風圧があまりにも凄いからひらひらの部分が後になるように持ってる……かな」


ゆき「あたしの剣もそう。立てて持ってたら『なんじゃこの重さはっ!』ってなるから、剣先を後になるように持ってる」


まみ「お姉ちゃん、普通に立てて持ってたよね?途中でアクションとかもしてた。どうやってんだらず?」


ゆき「え?それあたし見てねぇ!自分の事に必死で見る余裕無かったぁ〜!見たかったなぁ〜」


まみ「そりゃこの後見れるじゃん」


ゆき「とにかくまともに滑れるようにならなくちゃ、シンクロもフォーメーションも無理だな、こりゃ」


まみ「うんうん。あたしもコス滑走を甘く見てたよ」


ゆき「でも今日一日でコスに慣れりゃぁ、滑走の技術は既にあるんだし、まだ希望はぶちゃらん(捨てない)でおかず!」


まみ「そうじゃん!シンクロやフォーメーションもそうだけど、個人的なアクションとかパフォーマンスもやりてぇし……」


ゆき「え?まみ、そんな事考えてただ?」


まみ「あれ?言ってなかった?コミゲからの帰りの電車で、狐火乱舞とかの技のポージングがただ手を広げてるだけってのが、どうにも物足りんで……これじゃねぇ!ってなったんだよね」


ゆき「あ〜、そう言えばスノボ始めるキッカケって全員『動きを表現する方法』をどうするか……って話だったね。スノボ自体に夢中になってたから忘れてた」


まみ「え〜……」


そう言うとまみはクスクス笑う。


まみ「でもさっき滑ってた時、シルフィードのダッシュのシーン……姿勢を低くして風に乗って一気に接近戦に持ち込む時の動きみたいな感じで滑ってたじゃん」


ゆき「そう見えた!?マジ?あたしもちょっと意識したんじゃん!ここだけの話、あの時『あたし今、えれぇカッコいいはずっ!』って思ってたもん」


まみ「うんうん!シルフィードっぽかった!」


まみは本心でそう言ったが、実際アニメの中の風の騎士シルフィードの動きはもっと重心が低い、まるで地を這うような姿勢なのだが、ゆきの今のコスチュームがまみの記憶を錯覚させていた。


ゆき「ちょっとマジ〜?あたし今、えれぇ嬉しいんだけど……」


珍しくゆきが照れている。


ゆき「さっきもリフトの上から『カッコいい』『来て良かった』って言ってもらえたんだ。えれぇ嬉しかった……ってか、嬉しいで済まねぇくらいテンション上がった」


まみ「さっき『死ぬかも』って言ってたのってそれ?」


ゆき「うん。ホント、コス滑走やって良かったって思う」


まみ「あたしももっと巫狐っぽく滑れるようになりてぇ」


まだリフトは半分くらい残っていたが、二人は早く次の1本を滑りたくて仕方なかった。

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