第59話「地雷」
第59話「地雷」
しばしの休憩は洗濯機のすすぎが終わった事を告げるブザーで終わりを告げた。
三人はまたぞろぞろと洗濯機の元に向かい、こぞって洗濯槽の中を覗き込む。
ゆき「キレイにすすぎできてるね」
れぃ「……うん。大丈夫だと思う……」
まみ「取り扱い説明書には脱水せずに風通しの良い所で陰干しってなってるんだけど、絞るくらいはいいのかな?」
ゆき「いや、やめておかず。こう言う時はマニュアル通りだ」
れぃ「……とりあえず引き上げてたらいに入れておかず。次のすすぎもあるし……」
三人は手分けしてすすぎが終わった衣装を洗濯機から引き上げ、たらいに移す。
空いた洗濯機にウインドブレーカー等の一回目に撥水処理をした衣装を放り込み、再びすすぎを始める。
ゆき「とりあえずすすぎ終わった衣装はハンガーにかけて水を切らず」
ゆきは浴室に「突っ張り棒」を設置し、ハンガーにかけた水びたしの衣装を掛けていく。
ぽたぽたと衣装から水が滴り落ちる。
まみ「あっ!すごい。ウインドブレーカーが撥水して表面が水玉になってる」
ゆき「ホントだ、スゲェじゃん」
さしあたり「撥水している」と言う結果に、れぃは内心胸を撫でおろす。
れぃ「……衣装の重さで突っ張り棒がたわんでるけど大丈夫か?……」
ゆき「ヤバいね。もう一本あるから二本に分割して掛けず」
まみ「ゆきちゃん、ハンガー足りねぇんだけど、まだある?」
ゆき「あるある〜、一緒に持ってくるから突っ張り棒が外れねぇか見といて〜」
そう言うとゆきは別の部屋に突っ張り棒を取りに向かう。
れぃ「……ヤバい……突っ張り棒がズレて来てる……まみ、そっちの端持て。このままじゃ落ちる……」
二人は突っ張り棒の両端を持とうとした瞬間、突っ張り棒が外れる。
間一髪で突っ張り棒を支える事が出来たので落下は防げたが、背の低いれぃの方に突っ張り棒が傾き、掛けた水びたしの衣装がれぃに殺到する。
びた……びたびた……
れぃ「……うぎゃ……」
まみ「れぃちゃん!?」
れぃ「……びしょ濡れになったぁ……」
そこにゆきが戻って来る。
ゆき「間に合わなかったか。もうちょい待ってくれ。すぐ新しい突っ張り棒を設置するから」
れぃ「……ちべてぇ……」
ゆき「あとでタオルとドライヤー貸してやるからもうちょい辛抱してくれ。よし、できた」
そう言うとゆきはまみとれぃが支えている突っ張り棒から半分の衣装を新たに設置した突っ張り棒に移し替える。
少し軽くなったまみ達が持っている突っ張り棒からゆきは手早く衣装を取り外す。
ゆき「まみ、これ持ってて」
かき集めた水びたしな衣装をまみに預け、さっき外れた突っ張り棒を再度設置し直す。
ゆき「おっけ。掛けていいよ」
思わぬハプニングで三人とも多かれ少なかれ水で濡れてしまった。
まみ「あたしも靴下濡れてしまった」
れぃ「……あたしは頭と顔と上半身……」
ゆき「あたしは袖口とズボンが濡れてしまった。ドライヤーは部屋の机の所にあるから先行ってて。タオル持っていく」
まみは脱衣場で靴下を脱ぎ、裸足でスリッパを履く。
れぃは軽く手を前に出し、力なく指を垂らす。
まるで幽霊のようだ。
部屋に戻り、まみは急いでドライヤーのコンセントを差す。
まみ「あたしは靴下だけだかられぃちゃん、先使って」
れぃ「……あんがと……えれぇ目にあった……」
れぃはドライヤーでまずは髪を乾かし始める。
女の子とは思えない乱雑な乾かし方だ。
まみ「れぃちゃん、そんな乾かし方じゃ髪痛むよ。ちょっと待って」
そう言うとまみは自分のバッグからブラシを取り出す。
まみ「貸して」
まみはドライヤーを受け取り、れぃの髪を乾かし始める。
れぃ「……まみ、何でそんな上手いんだ?……」
まみ「ほら、お姉ちゃんズボラじゃん。お風呂入ってそのまま髪も乾かさずそのままビール飲み始めてしまうから、たまにあたしがやるんだよね〜」
れぃ「……おぉ、ののこさんと同じ方法……」
普段は無表情なれぃがあからさまにニマニマしている。
そんな油断している表情を部屋に入って来たゆきにバッチリ見られる。
ゆき「お待たせ。タオル使って……って、なんだか今日は新鮮な光景を目にする事が多いな」
ゆきが部屋に入って来たのをキッカケにれぃはいつも通りの無表情に戻す。
れぃ「……あんがと。借りるね……」
まみに髪を乾かしてもらいながら、れぃはゆきの方に手を伸ばす。
ゆきはタオルを差し出しながらニヤ〜っとした表情。
れぃ「……何だよ……」
ゆき「いや、れぃ様は何やらご満悦の表情だったので……ね」
れぃ「そっ……そんな事ねぇしっ!」
ゆき「えれぇニマニマしてたじゃん。ねぇ?」
ゆきはまみに話を振る。
まみ「してた」
れぃ「はぁ!?してねぇし!ただちょっと眠くなっただけだし!」
まみがドライヤーを切った事によりその話題が途切れる。
まみ「はい、終わり。お姉ちゃんと同じ髪形にしてみました〜」
そう言うとまみはれぃの前に鏡を置く。
もともと寝癖のついたままでも気にしないようなれぃ。
特に髪形とかを気にしていない。
服装にはこだわりがあるが、自分を可愛く見せようとかそう言う気が無い。
着たい服を着ているだけ。
そんなれぃが突如髪形をセットされたのだ。
しかも憧れの人と同じ髪形に。
れぃは鏡に写った自分の姿を見て、見た目にわかるくらいに赤面して行く。
ゆき「へ〜!れぃも髪形ちゃんとセットしたら可愛いじゃん」
れぃ「どう言う意味だ!」
強い口調で言い返すが、さらに赤面度合いが増して耳まで真っ赤っ赤。
そのリアクションが面白く、ゆきはさらに畳み掛ける。
ゆき「こりゃ男子が放っておかねぇね〜」
だが、これは逆効果だった。
即座にいつもの能面フェイスに戻り、顔の紅潮も引いて行く。
目もいつもとジト目だ。
そしておもむろに頭を両手でガシガシと掻きむしり、手ぐしでパパっと整える。
いつものれぃに戻った。
れぃ「……そんなのいらねーし……」
当然ゆきは知る由もないが、この発言はれぃの特大の地雷を踏んでいたのだ。
ゆき「あらら、せっかく可愛かったのに」
れぃはゆきを無視してタオルで体の濡れている所を拭き上げる。
自分の心の内を悟られまいと、視線を合わせないようにするれぃ。
だが、これが逆にゆきにれぃの心情を察するキッカケになってしまった。
ゆき『おいおいマジか。れぃがこの反応って事……。そういやこないだもコス滑走の写真の話の時に柳江君の名前出た時の反応がおかしかった……って、そうなの!?れぃ、あんたそうなの!?』
内心、「きゃ〜〜っ」と黄色い声を上げたくなったが、そこは我慢。
また、れぃ自身も自分のリアクションがいつもの自分と違う事を自覚していた。
れぃ『やべやべやべやべ……あたし今、絶対変じゃん!これ、肯定してしまってるリアクションじゃん!え?どうする?やっちゃたリアクションは取り消せねぇし、あのリアクションを中和できるリアクションを取らねぇとバレちゃ……って、何がバレるって言うんだ、あたし!別にそんなんじゃねぇんだから普通にしとけばいいだけじゃん!……普通って何だぁ〜〜〜!向井玲奈の普通?それともいつもの普通?いや、どっちもこんなシチュエーションでの普通なんてやった事ねぇ!じゃあいっそキレるか?キレて誤魔化すか?いや、ダメだ。これも図星突かれて怒ってるようにしか見えねぇ!……そうだ!ギャグだ!一発ギャグで爆笑かっさらって忘れさせたらいいんだ!……あたし一発ギャグなんて持ってねぇじゃん!そうだ、まみ!何か別の話題振れ!』
その念が通じたのか、まみが口を開いた。
まみ「あ、そう言えば……」
れぃ『まみ、グッジョブ!』
れぃは心の中でガッツポーズ。
まみがこれほどまでにベストなタイミングで喋り出した事があっただろうか?
もちろんまみはれぃの気配を察して話を変えようとした訳ではない。
まみにそんなスキルは備わっていない。
ただ単に聞かなければいけない事を思い出しただけだ。
だが、この状況においてれぃには救いの一手である。
ゆき「ん?どした?」
まみは少し言いにくい雰囲気だ。
れぃはどんな話題でもそれに乗っかり、さっきの話題から遠ざかる気満々だ。
れぃ「……まみ、言いにくい事か?いいぞ、何でも聞くぞ……」
そう言われてまみは小さく頷き、話し始める。
まみ「こないだの話なんだけど……。コス滑走の日のカメラマンを柳江君にお願いする打診をゆきちゃんがしてくれるって言ってたけどどうなったのかな……と思って」
れぃ『ぶーーーーーっ!』
イメージの中でれぃは吹き出す。
れぃ『今、そこで!何でその話題なんだぁぁぁぁぁぁぁ』
声に出す事だけは何とか抑えたが、れぃはパタと座ったままの姿勢で倒れる。
まみ「れぃちゃん?」
ゆきはまさかのまみの発言と、れぃのリアクションに大笑いしそうになったが、顔を背け必死で抑える。
ゆき『まみ、おま、オモシロ過ぎんだらず』
一方、その発言をしたまみは恋愛どころか人付き合いすら経験不足なので、何故二人がこのようなリアクションをしているのかサッパリ解らずキョトンとしている。
まみ「ゆきちゃん?」
とりあえず笑いそうになる波を一旦抑えてゆきは通常モードに戻る。
れぃは死んだままだ。
ゆき「あー、ごめん。ちょっとクシャミでそうになった。そうそう柳江君ね」
ゆきはそう言う事にして笑いをこらえたリアクションを誤魔化す。
ゆき「うん、実はまだ学校で顔合わせる機会が無くてね〜。わざわざ柳江君のクラスまで行って……ってのも面倒くさいし」
これはホントの事である。
まみ「あ……そうなんだ」
ゆき「でも、どした?やっぱり声かけねぇ方がいい?」
まみ「ううん、そう言うんじゃねぇんだけど、柳江君がカメラやってくれるんなら、事前にどんな写真撮って欲しいか伝えなきゃいけねぇのかな……って思って」
ゆき「あ、なるほどね。その場でちゃんと説明できるかわかんねぇもんね。じゃあ、早めに声かけて、引き受けてくれるんだら打ち合わせとかした方がいいのかな」
そしてゆきはチラとれぃを見る。
れぃはさっきから微動だにしていない。
まみ「れぃちゃん、どうしたの?……れぃちゃん?」
呼びかけられたれぃは、起き上がりこぼしのように、ぴょこんと元の座っている姿勢に戻る。
いつも通りのジト目の無表情に戻っている。
まみとゆきが話している間にれぃは頭をフル回転させ、感情のコントロールと済ませ、言い訳も考えていた。
れぃ「……重苦しい雰囲気で話し出したから、どんな重要な話かとおもって身構えたんだが、どうて言う事じゃなかったのでズッコケた……」
れぃは我ながら見事なリカバリーであると自負していた。
しかし、
ゆき「ホントに?」
この瞬間、れぃはゆきには見抜かれた……いや、あらぬ誤解をさせていると確信。
ポーカーフェイスで「そうだよ」とシラを切ろうとしたタイミングで
「ブーーーーーーー」
洗濯機がすすぎを終えたブザーを鳴らす。
ゆき「洗濯機がそらっこと(嘘)だって言ってるよ」
れぃ「そらっことじゃねぇわ!」
ゆき「はいはい、洗濯機んとこ行くよ〜」
さらっとあしらわれ、れぃは聞こえるように舌打ちをすると、ゆきとまみの後を追う。
ゆき「ちゃんとすすぎの水、透明になってるね」
まみ「さっきハンガーに干した衣装もだいぶ水が切れてるみたい」
れぃ「……じゃあ、引き上げるぞ……」
ゆき「まみはそっちのハンガーの衣装をタライに移して。今から引き上げる衣装をそっちに移すから」
まみ「は〜い」
三人で手分けしてテキパキと作業を終える。
これで撥水作業の工程は全て終わりだ。
第二弾の水が切れるまで、またゆきの部屋に戻る。
冷めてしまったコーヒーを飲みながら一息入れる。
ゆき「巌岳のコスプレ滑走までに行けるのってあと1回くらいだよね」
まみ「楽しみだけど不安もあるしなぃ〜」
れぃ「……そういやこないだののこさんがあたし達もスノボ連れてってくれるって言ってたけど、期待していいのかな……」
まみ「お姉ちゃんに聞いてみる?」
ゆき「なんか催促してるみたいで、なんか……ねぇ?」
そう言うとゆきはれぃに視線を向ける。
れぃはその視線に気付き、無言で頷く。
まみ「あ、返信来た。来週末空いてる?ってお姉ちゃん聞いてるけど」
ゆき「え?まみ、ののこさんに聞いただ!?」
まみ「うん」
れぃ「……ったく、おまぃはまた……」
ゆき「前にもあったしない」
れぃ「……それより、来週末、ののこさん連れてってくれるの?えれぇ嬉しいんだが……」
ゆき「とにかくちょっと待て、心の準備が……」
まみ「どうする?都合悪いなら他の日にしてもら……」
ゆき・れぃ「「行くっ!」」
少し気圧されながらもまみは即座に返信。
ほんの数分時間があったが、今度はまみ
達のグループLINEにののこからメッセージが送られて来た。
ゆき「乗鞍スキーランド?」
れぃ「……行った事ねぇ所だね……」
三人それぞれ自分のスマホでののこが貼ったリンクからスキー場のホームページを見る。
まみ「こ……これっ!イベントのページ見て!」
ゆき「『まんぞくっく』の日?」
れぃ「……ゆるキャラの名前か……かわいい……」
まみ「ゆるキャラの話じゃなくて、イベントの内容!」
ゆき「まんぞくっくの日はコスプレで来場した方はリフト券……無料っ!?」
れぃ「マジかっ!?他に条件あるんじゃねぇのか!?」
まみ「今、規約の所読んでるけど、全身フルコスチュームだったら無料で一部コスプレだったら半額……」
ゆき「滑走に伴い、危険の生じる衣装は禁止……」
れぃ「ジャンル問わず……安全に配慮した衣装であればOK……」
ゆき・まみ・れぃ「「「神だ……」」」
ゆき「じゃあ実質、交通費と食事代だけでいいって事?」
れぃ「……場所は……松本市安曇?……ちょっと遠いけど、大丈夫なんかな?……」
まみ「お姉ちゃんが運転してくれると思うけど、ちょっと気になるのが……」
ゆき『運転の荒さだな』
れぃ『運転の荒さだ……』
まみ「お姉ちゃんのジムニーに4人乗って板とか荷物とか積めるのかな……って」
ゆき「そっちかい」
まみ「そっちって?」
れぃ「いや、でも確かにジムニーじゃキツいだろ」
まみ「この前、お姉ちゃんのジムニーで二人で行った時、あたしとお姉ちゃん二人分の荷物でギュウギュウだったし、お母さんのスープラも荷物あらかた乗らねぇし……ってか、冬はスープラ使わねぇからたぶん冬用タイヤ履いてねぇ。あとは軽トラ……」
ゆき「軽トラは無理だなぁ」
れぃ「……電車で最寄り駅まで行く感じかな……」
まみ「お姉ちゃんに聞いてみる」
ゆき「あ、だからちょっと待……」
まみ「送ったよ」
ゆき「だ〜か〜らぁ〜」
まみ「あ、返って来た。美紅里ちゃんに車借りるんだって」
れぃ「……おぉ、それなら積載量は問題ない……が……」
まみ「……が?」
れぃ「……いや、何でもねぇ……」
まみ「あ、また来た。『美紅里さんが貸してくれるか知らんけどな』だって。爆笑してるスタンプも一緒に来た」
ゆき「美紅里ちゃん……貸すかな?」
れぃ「……微妙だと思う……」
まみ「美紅里ちゃんも来てくれたらいいのにね」
ゆき「それだ!」
まみはまた何かスマホを操作している。
まみ「……信……っと……」
ゆき「まみ、今何か送信しなかった?」
まみ「したよ。美紅里ちゃんは来れないのかなってお姉ちゃんに聞いた」
れぃ「いや、だぁら、こっちで意見まとめてから質問しようぜ」
れぃが珍しく呆れたような口調である。
まみ「美紅里ちゃんが来れるかどうか、あたし達が話し合ってもどうにもなんねぇじゃん」
ど正論である。
だが、れぃ達はののこの運転が怖いと言う事をののこに知られないようにしたい。
美紅里が来れるかどうかを聞く事で、その事をののこに勘付かれる、強いてはそれによりののことスノボに行く機会を失いたくないと言う気持ちがあるのだ。
もちろんそんな事を察する能力がある訳ではないまみは、ことさら遠慮する事なくののこにズバズバ聞く行動に出る。
それがゆきもれぃも、ヒヤヒヤさせていた。
まみ「あ、お姉ちゃんから。美紅里さんはこの時期忙しいから一緒に行くのは十中八九無理だって」
ゆき「やっぱそうか〜」
まみ「何でわかるの?」
ゆき「だってこの時期、新入生とか新学期とかで、先生みんなバタバタしてんじゃん」
まみ「そうなの?」
まみは自分と直接関係無い事には全く興味が無い。
れぃ「……ともかく、車の事をあたし達が気にしても仕方ねぇじゃん。ひょっとしたら、この辺から送迎バスとか出てるのかも知れねぇし……」
ゆき「そうだな。あたし達は連れて行ってもらう立場だから、ののこさんの指示に従わず」
れぃ「……それより前回のまんぞくっくの日の写真、ブログに出てるぞ……」
ゆき「ホントだ!レイヤーいっぱい来てる!集合写真とか撮るんじゃん」
まみ「あっ!この人、『ドジまぬ』のアルマナック様じゃねぇ?」
れぃ「どこっ!」
まみ「ほら、右側の真ん中あたり……」
れぃ「うぉぉぉぉ!ホントだ!次も来るのかな!?」
ゆき「アルマナック様って、グルキャナックちゃんがドジやらかす度に巻き込まれて酷い目に遭わされたあげく、グルキャナックちゃんの尻拭いさせられてる人?」
れぃ「人じゃなく、アルマナック様も魔王の一人な。えれぇいい人……じゃなくて、えれぇいい魔王様なんじゃん!」
いつになく鼻息が荒いれぃ。
ゆき「すごっ!『月軌道戦線ガンデムーン』の機動スーツのコスの人もいるじゃん!これ着て滑れるの!?」
まみ「みんな上手いんだらずな〜」
れぃ「……いや、そうでも無さそうだぞ……」
まみ「何でわかるの?」
れぃ「……SNS漁ったらこの時の動画アップしてる人いた……見てみ?……」
そう言われてゆきとまみはれぃのスマホを覗き込む。
そこにはゆき達とさほど変わらないレベルの人が滑っている光景が写っていた。
れぃ「……投稿内容も『今年始めたばかりだけどコス滑走やってみた。めっちゃ楽し〜!』って書いてある……」
ゆき「コメントも付いてるけど、叩かれたりしてねぇ?」
れぃ「……ん。いっさら。むしろ『一緒に滑れて楽しかった』てか『また遊びましょう』てか肯定的なコメントばっかだ……」
まみ「良かった〜。ちーちゃんみたいに上手い人ばかりかと思ってたからしんぺぇしてたんだ」
ゆき「あたしも」
れぃ「……あたしも……」
皆、口には出さなかったが、同じ不安を抱えていた事を知ってお互い照れ笑い。
その後も三人それぞれスマホを使って過去の「まんぞくっくの日」の動画やSNS投稿を探す。
ゆき「あっ!凄い!このレイヤーさん、有名な人だ!」
まみ「見せて!?ホントだ!え〜っと……確か『風花さん』って人だったと思う」
れぃ「……おぉぉぉぉクオリティ高けぇ……スノボも上手いな……」
ゆき「!?」
まみ「ゆきちゃん、どうしただ?」
ゆき「いや……なんでもねぇ。凄いなぁ〜って思って……」
これは嘘である。
風花がアップした動画にリフトに乗って手を振っているシーン。
風花の後ろのリフトに見慣れた人が乗っている事に気付いたのである。
ゆき『風花さんの後ろに乗ってたのって……柳江君じゃね?』
ゆきは動画を少し戻して、もう一度そのシーンを見る。
ゆき『間違いねぇ、柳江君だ。こんな所まで来るんだ。こりゃれぃには黙っておかず……』
ゆきはれぃをチラっと見たが、れぃは自分のスマホに夢中で、ゆきのリアクションには気付いていないようだ。
降って湧いた「コスプレ滑走のリハーサル」の機会に三人はかつてない期待に胸躍らせていた。