第5話「吉田美幸はマジメっ子」
第5話「吉田美幸はマジメっ子」
「ま……マジか……」
コミゲ(コミックゲノム)から帰って来た翌日、ゆきは自宅のパソコンの前で画面を見つめてフリーズしていた。
パソコンがフリーズしたのではなく、ゆきがフリーズしたのだ。
ゆき「スノーボード、ビンディング、ブーツ、ウェア、ゴーグル、グローブ、リフト券代、交通費……もうこれだけで一女子高生が小遣いやお年玉で買える金額を余裕で超えてるじゃん……」
ゆきはスノーボードを始めるにあたり、必要な金額を調べていた。
ゆき「女子高生がスノーボードを始めるのはハードルが高すぎるなぁ……」
ゆきは幼少の頃「ふたりでプリズム!」と言う女子中学生が正義のヒロインとなって戦うアニメの主人公に憧れ、それ以来戦うカッコいい女性に憧れ続けてきた。
コミゲでゆきがしていたコスプレも四精霊戦記というアニメに登場する女騎士シルフィードのコスプレだ。
風の騎士シルフィードはその名の通り、風のように優雅に、そして舞うように戦う。
戦闘シーンでは、ドレス型の甲冑を纏い、スカートをなびかせながら、そのスピードで敵を圧倒し倒す。
ゆきはコスプレしてスノーボードで滑走する動画を見て、これならシルフィードの戦闘シーンの再現ができると確信した。
だから何としてでもスノーボードで滑れるようになりたいと思っている。
ゆきは眼鏡でストレートロングの髪型も相まって、マジメそうとか、委員長っぽいとか言われる事が多い。
勉強はあまり好きではないが、家業の薬局を継ぐために薬剤師の資格を取らなければいけないと言う目的があるので、それなりに勉強はしているが、それでも勉強はあまり得意ではない。
結果、「マジメで委員長っぽくて勉強できそうなのに成績は普通」と言う本人の最も望まない印象で言われてしまう。
だから口調を意識してみたり、アクティブな事に挑戦してみたりして印象を変えようとしているが、どれもゆきのイメージを払拭できるに至っていない。
だが本人は否定したいが、実際ゆきは根がマジメなのだ。
スノーボードの事もこうしてしっかり下調べしてしまうのもマジメ故にだろう。
もちろん本人は自覚していない。
ゆき「中古のスノーボードとか無ぇ(無い)のかな?」
パソコンで情報をあさる。
ゆき「あ、これなら買えそう……って、キッズサイズって書いてある。スノーボードにサイズってあるんだ」
次にスノーボードのサイズについて検索。
ゆき「なるほど。身長から15センチ引いた長さが適正なサイズ……と。私が160センチだから145センチが適正な長さって事ね」
今度は「スノーボード、145cm、中古」のキーワードで検索。
するとまた一覧がズラっとパソコンの画面に表示される。
ゆき「あ、これなら買えるかも……バインディングも付いてる!……え〜っと、なになに?『20XXモデルのキャンバーボードです』……ってキャンバーって何?」
今度は「キャンバーボード」で検索。
そしてまた画面を見てゆきはフリーズする。
ゆき「スノーボードってそんな色々形状があるの!?えーっと、キャンバー、ハイブリッドキャンバー、ダブルキャンバー、ロッカー……って、どれ買えばいいのよ!!(怒)」
父「美幸、どうした?」
ゆき「あ、お父さん。冬になったらスノーボード始めずかて(始めようかと)思って調べてんだけど、もう何が何やら……」
父「俺もスキーしかやった事ねぇからなぁ……。道具はレンタルか?」
ゆき「そうか!レンタルって手があるのか!お父さんありがとう!」
レンタルならビギナー向けの道具になっているはず。
早速、近くのスキー場のサイトでレンタルの価格を調べる。
ゆき「この値段なら何とかなりそう」
父「俺も職場の人にいらなくなった道具がねえか聞いといてやるよ」
ゆき「ありがとう!」
そう答えて、調べものを続ける。
レンタルを利用すると言ってもお金はかかるし、レンタルしてない物は買わなきゃいけない物もあるしリフト券代もいるよね〜。
お母さんの手伝い(薬局のバイト)以外で何かいいバイトないかな?
お金はたくさんあっても困らないし。
ゆき「お父さん、知り合いでバイト募集してる人いねえ?」
父「それなら林檎農園やってるおじさんに聞いてみればいい。この後収穫期で忙しくなるし、たしか毎年バイト雇ってたはずだよ」
ゆき「マジ?おじさんとこなら学校からも近いじゃん!」
ゆきも行動は早い。
即座に電話をかける。
ゆき「もしもし、おじさん?美幸です。おじさんとこアルバイト募集してません?」
叔父「おお、美幸ちゃん。久しぶりじゃん。バイト?美幸ちゃんうちでバイトしてくれんの?それなら友達にも声かけてよ。3〜4人は人手欲しいんだわ」
ゆき「きゃー!おじさんありがとう!でも、私にできる仕事?」
叔父「力仕事とか選別の仕事だからできるよ。バイト代は……」
仕事内容と条件、給料の話を詳しく聞く。
ゆき「わかった!友達にも声かけてみるね!じゃあ、決まったらまた連絡しまーす」
よし!
家の手伝いとおじさんとこのバイトで何とかなる!
ゆきは気持ちのスイッチが入るととことん突っ走る。
その後もスノーボードの動画や知識を得る為にパソコンにかじりつき気が付けば朝になっていた。
目の下に隈をつくり、調べあげた資料を読み返す。
ゆき「板とバインディングとブーツはシーズン前に量販店で初心者向きの3点セットが2〜3万くらい……と。ウェアはメーカーによっては上下セットで1万円くらいから。グローブとゴーグルその他で1万円くらい。道具揃えるのはあらかた(だいたい)5万円くらい……か。これなら何とかなる!あとは交通費とリフト券代……っと。よしっ!これならまみとれぃも誘える……」
そのままゆきはパソコンの前で寝落ちしてしまった。
実際、この試算は甘々だった事をゆきは身を持って知る事になるが、現時点では完璧な試算であると確信していた。
目が覚めたのは10時を回った頃だった。
おもむろにスマホを手にしてれぃに電話する。
ゆき「もしもし?れぃ?あたし……」
れぃ「……誰?……」
どうやられぃは最初に「誰?」と聞くのがれぃなりの会話のパターンらしい。
ゆき「今日この後空いてる?」
れぃ「……うん、いいよ。どこに行けばいい?……」
ゆき「じゃあ、学校の近くのファミレスに……」
こうして三人のスノーボード計画はスタートしたのであった。