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第45話「滑りを見る」

第45話「滑りを見る」


ゴンドラを降りた4人は美紅里に促され、朝イチに滑ったコースに向かう。


ゆき「美紅里ちゃん、このコースあたしにはちょ〜〜〜っと斜度がキツいんだけど……」


美紅里「大丈夫よ」


ゆき「いや、実際朝イチ滑って斜度が急で怖かったって言うか……」


美紅里「その後、ゴンドラ降り場から初中級コース滑ってたんでしょ?じゃあ大丈夫」


美紅里に「ホレホレ」と促され、ペアリフトの乗り場まで滑る。


美紅里とれぃが一緒に乗り、続いてゆきとまみが一緒に乗る。


美紅里とれぃは何か話しているようだが、会話は聞こえない。


ゆき「午前中、初中級コース滑ってたら、大丈夫ってどういう事だらず?」


まみ「あたしに聞かれても……」


リフトを降りると美紅里から指示が出る。


美紅里「まずはれぃの滑りを見せてもらうね。ゆきとまみはれぃと私の後から付いてきて」


リフトの上でれぃにはそれなりの説明があったのか、れぃは特に何も言わずに板を履く。


ゆきとまみは何だかよくわからないけど板を履いて準備する。


美紅里「はい、じゃあ行くわよ。れぃ、スタート!」


美紅里の合図にれぃは少し手を上げて滑り出す。

まずは少し幅の狭い緩やかな斜面。

そこは難なく滑りきり、いざ斜度が急になる所まで来て一度止まる。


後ろを着いてきていたゆきとまみも同じように止まる。


ゆき「あれ?」


まみ「そこまで急……じゃねぇ……よね?」


ゆき「何で?」


二人の会話に美紅里が割って入る。


美紅里「朝イチって『ちゃんと滑れるかな』とか心配してたりするから同じ斜度でも恐怖感が増したりするの。でも午前中滑って、滑る事に対しての恐怖感が和らいだらあまり怖くない。あなた達くらいなら、この斜度でも大丈夫」


ゆき「このコース、たしか中級だから、あたし達ってもう中級って事?」


美紅里「今から中級にステップアップする為に練習するの」


まみ「初中級コースでもちょっと急な所だとまだコケてしまうもんね」


美紅里「さ、れぃ、行くわよ!」


れぃ「……うぃ……」


まだれぃのテンションは微妙だ。


コースを目の前にして、少し頭から柳江の事が薄らいで来てはいるが、まだどこか頭の中がモヤモヤする。


れぃもゆき達同様、朝イチに比べれば恐怖感は薄らいでいた。


意を決して滑り出す。

朝イチはビビってサイドスリップと斜滑降だけだったが、斜滑降から入りスピードが乗る前に板をずらしてターン。

斜滑降で少しスピードをコントロールした後、また少し慌て気味ではあるが板をずらしてターン。


三度目のターンでエッジが抜けたのか、尻もちをついたがすぐに立ち上がり再び滑り出す。


徐々に斜度にも馴れたのか、スムーズにターンを繰り返すようになり、スピードも上がって来た。


れぃ『……楽しい……楽しい、楽しい!楽しい!!』


好きなラインどりで好きなスピードで滑り、好きなタイミングでターンする。


コースも終盤に入り斜度もだいぶ緩やかになり、スピードもだいぶ落ちて来た。

気持ち的にも余裕が出てきたせいか、また頭の中に柳江の事がふと過る。


れぃ「ぎゃぶっ!」


一瞬の気の緩みか、逆エッジになって派手に転ぶ。


れぃ「……ってぇ〜〜〜……」


美紅里「れぃ、大丈夫?」


言葉的には心配しているが、美紅里はさほど心配していない。

スピードは落ちていたし、何より上手い転び方をしていたからだ。


れぃ「……なんともねぇ……」


れぃは立ち上がり、再び滑り出す。


れぃ『くそっ!コケた!これも全部柳江のせいだ!ぎゃぶっ!』


また気もそぞろになったタイミングで転ぶ。


れぃ「あ゛あ゛あ゛っ!」


転んだ事に対して……なのか、自分の技量の低さに……なのか、はたまた柳江への八つ当たりなのか、れぃはゲレンデをバンバン叩いて悔しがる。


今度は美紅里も「ほら、行くぞ」と促すだけで心配の声すらかけない。


その後は板が止まるまでゆるゆると滑り切り、美紅里とれぃはスケーティングでリフト乗り場に向かう。


美紅里「はーい、だいぶ良くなってるわよ。特に後半はリズムに乗れてたし、体の動きも固さが無くなって来てたわ。最後の最後は少し集中力が切れたみたいだけどね」


頭の中を見透かされたような気がして少し気まずかったが、れぃは一言「……ありがと……」とだけ言って、それ以上は喋らなかった。

今、何か喋ったら自分でボロを出しそうな気がしたからだ。


ゆきとまみも少し遅れて下りてきた。


美紅里「今度は……ゆき。一緒にリフト乗るよ」


美紅里はゆきを手招きし、一緒にリフトに乗る。


れぃとまみも次のリフトに一緒に乗る。


もともと自分から話しかけるのが苦手なまみ。

最近はれぃにもずいぶん気負う事無く話しかけられるようになったのだが、

さっきのナンパ師の事があるので、なかなかまみからは声がかけられない。


そんな気配を察してはいるが、れぃも自分のメンタルがまともじゃないのがわかっているし、れぃ自身もそもそも自分から話しかけるタイプではない。


リフト半分くらいまで無言が続く。


前のリフトに乗っている美紅里とゆきが会話しているのが見える。


まみはれぃに話しかけた訳では無かったが、思わず声が出ていた。


まみ「ゆきちゃんと美紅里ちゃん、何喋ってるんだらず」


れぃ「……あたしん時は……」


自分に対して聞かれたと感じたれぃはさっき美紅里と一緒に乗った時の事を話し出した。


れぃ「……午前中どんな滑りしてた……とか、午前中の滑りで上手くいかなかった所はどんな所だった……とか、そんな話の後に美紅里ちゃんがアドバイスしてくれた……」


会話を始めるきっかけができたので、まみも続ける。


まみ「さっきの1本、朝イチに比べたられぃちゃんえれぇスムーズに滑ってたもんね。やっぱりアドバイスのおかげ?」


れぃ「……わかんねぇ……。アドバイスって言うかビビらねぇんだらできるよ〜とか、そんな感じの話だったから……」


実際はもっと色々と有効的なアドバイスがあったのだが、れぃの頭には半分も入って来なかったのだ。


まみ「ゆきちゃんはどんなアドバイスもらってるんだらず」


れぃ「……あたしは今日、ずっと先頭滑ってるからゆきとまみの滑りをあらかた見れてねぇし……」


まみ「あたしは一番後ろから二人を見てたけど、二人ともすっごい上手くなってたよ」


れぃ「……自覚はある……。まみは自分の滑りに手応えみてぇなの感じてねぇの?……」


まみ「手応えかどうかはわかんねぇけど、なんかいい感じだなぁ〜ってのはあるよ」


れぃ「……さっき、あたしが美紅里ちゃんに滑り見てもらってた時はどうだった?……」


まみ「れぃちゃんの滑りの事?」


れぃ「……いや、まみ自身が滑った感想……」


まみ「あぁ……うん。朝イチよりいい感じだった」


れぃ「……漠然としてんな……」


まみ「あはは……。ん〜っとね……ほら……朝イチって下が固くてエッジがあまり効かねぇ感じだったじゃん。でもちょっと緩んだって言うか、ちゃんとエッジが効く……みたいな?感じでちゃんとイメージどおりに滑れてるって言うか……」


れぃ「……あ、そりゃあるな……。アイスバーンじゃねぇからちゃんと止まれる感あって、そこは怖くねぇ……」


まみ「それに朝イチより何でか斜度がゆるく……」


れぃ「……っと……まみ、着くぞ……」


いつの間にか、れぃとの会話に夢中になっていたのでリフトが終点に近付いている事に気付かなかった。


慌てて二人はセーフティバーを上げて降りる準備をする。


少しバタついたが、転ばずに美紅里の所に合流できた。


美紅里「じゃあ今度はゆきの滑りを見るから。れぃは今度は一番後ろからおいで」


美紅里はそう言うとパッとバインディングを付ける。

まみ達もつられるようにしてバインディングを付ける。


美紅里「いい?じゃあゆき。さっき言った事を意識しながら滑ってみて」


ゆきは無言で頷く。

正確には何か言っているようにフェイスマスクがモゴモゴと動いているが、たぶん独り言だろう。


斜度のゆるい所を慎重に滑るゆき。

少しフラットになった所で止まり、何かを確認するように美紅里を見るが、美紅里は何も言わずゆきを促すように手だけを動かす。


ゆきはそれを見て小さく頷き、さっきより斜度のきつくなったバーンを滑り始めた。

浅い角度の斜滑降だが、スムーズに滑っている。

そこから大きめの弧を描きターン。

ターン中の加速に怖気づいた様子もなく、そのまま次の斜滑降に移る。


ゆき『うそっ!できた!?』


見ていたまみとれぃ以上にゆき本人が驚いている。


美紅里「いいよ!そのまま続けて!」


その声が聞こえていたのかどうかはわからないが、ゆきはそのまま次のターンに入る。


今までゆきのターンを表現するなら、おっかなびっくりと言う表現がぴったりだったのだが、驚くほど安定した余裕のあるターンだ。


まみ「ゆきちゃん、すごっ!」


れぃ「……ゆきも凄ぇけど、美紅里ちゃんも凄ぇな……」


まみ「え?どう言う事?」


れぃ「……さっきのあたしもそうだけど、リフト乗ってるあいさの短い時間で直すべき所をピンポイントで指摘して、その対策をあたし達でもわかるように説明して、さらにそれができるコツまで教えてくれんだぜ……」


いつものボソボソとした喋り方ではあるが、いつになく饒舌なれぃ。

れぃなりにさっき自分ができるようになった事と、ゆきの滑りが一変した事に対して興奮しているようだ。

もちろんその事実にまみは気づいていない。


まみ「あー、なるほど〜。美紅里ちゃんも凄いね〜」


ふわっと何だかよくわからないけど凄いと言う事を言葉として理解したまみだが、本質的な所で凄さは未だ理解できていない。


美紅里「さ、あなた達も行くわよ。れぃはさっきの事を復習しながら滑るように」


美紅里はそう言うとゆきを追いかけ始めた。

あっと言う間にゆきに追い付く。


まみ「れぃちゃんは何てアドバイスもらっただ?」


れぃ「……ん。言えねぇ……」


まみ「え?何で?」


れぃ「……たぶん次のリフトでその説明が美紅里ちゃんからあると思うから……」


そう言うとまみの反応を待たずにれぃは滑り出した。


慌ててまみも続く。


ゆきは止まる事なく順調にターンを続け、美紅里はその後ろにぴったりと付いている。


ゆきは結局この中級コースを一度も転ぶ事なく滑りきった。


れぃは逆にさっきとは違い、転倒が目立つ。

リフト乗り場に着いたれぃに美紅里が声をかける。

その時右手の親指を立てて「良かった」と言うような反応をしている。


まみ『あれ?れぃちゃん何度か転んだのに褒められてる?何でだらず……』


れぃと美紅里の会話に興味を持ったが、ゆきが話しかけて来たので会話は聞き取れなかった。


ゆき「まみ!見た!?何かえれぇ良い感じで滑れた!」


ゆきも少し興奮気味だ。


まみ「うん!凄かった!急に人が変わったみたいに滑りが安定してた。美紅里ちゃんからどんなアドバイスもらっただ?」


ゆきはニカッと笑い、「それは言えねぇ」と少しまみをからかう様な口調で答えた。


れぃといい、ゆきといい、何故か美紅里からのアドバイスについては口を閉ざす。


ゆきに「何で?」と聞こうとした瞬間に美紅里から呼ばれる。


美紅里「まみ、おいで。リフト乗るよ」


まみ「あ……は〜い」


まみはツイっとスケーティングで美紅里の元に行き、一緒にリフトに乗る。


2本目の柱を過ぎた頃に美紅里が話し始める。


美紅里「まみの事だから、れぃやゆきにどんなアドバイスされたか聞いたろ?」


まみ「何でわかるの?」


美紅里「紀子の妹だもん」


そう言うと美紅里はカラカラと笑う。


まみ「あたし、そんなにお姉ちゃんと似てる?」


美紅里「似てる似てる。好奇心旺盛で感覚で物事判断して、それでいて小器用な所あるから何でもあっさりできるようになるけど基礎をおろそかにするからすぐ伸び悩む所とか、もうそっくり。紀子とまみの差はその好奇心に対してアクティブか否かって所ね」


まみ「えぇ〜〜〜……」


この「えぇ〜」は事実と違うから出た物なのか、何でわかるのかと言うリアクションから出たものなのかは美紅里にはわからなかったか、どっちでもいいので美紅里はスルーした。


美紅里「さて、まみ」


少し口調を変えて美紅里は話を切り替える。


美紅里「さっきの2本、れぃとゆきの滑り見てどうだった?」


まみ「上手くなってた」


美紅里「本当にそう思う?」


まみ「うん。特にゆきちゃん」


美紅里「れぃは?」


まみ「んっ……と、ちょっと上手くなってた?」


美紅里「じゃあ具体的にどこがどう上手くなってた?」


まみ「え?……え〜〜〜〜っと……わかんねぇ」


美紅里「そこ。そこがまみと紀子の最大の欠点にして伸び悩む原因」


まみ「え?どこ?わかんねぇ」


美紅里「つまり、まみはれぃやゆきの『滑っている所』は見てるけど『滑り』は見てないのよ」


まみ「違うの?」


美紅里「全然違う。例えば……『モナリザ』って知ってる?」


まみ「レオナルド・ダ・ヴィンチの?」


美紅里「そう。どんな絵だったか思い出せる?」


まみ「え〜っと、黒髪のロングヘアの女の人が椅子に座って微笑んでる……って感じ?」


美紅里「モナリザって膝の上で手を重ねているのよ。どっちの手が上だったか思い出せる?」


まみ「え〜〜〜〜っ?そんなの思い出せねぇ。こっち?いや、こっち。」


まみは自分の手で再現しながら考えている。


美紅里「今、まみの頭の中には『モナリザの手』がクローズアップされてイメージされてるでしょ?思い出せないだろうけど」


まみ「うん」


美紅里「モナリザの絵全体を見るのが『滑ってる所を見る』で、モナリザの手に注目して見るのが『滑りを見る』な訳。まみも紀子も人の滑りを漠然と見て、全体的なイメージから自分の滑りに反映させているのよ。でもあなた達姉妹に必要なのは板の動きだとか、姿勢、重心がどう動いているかとか、そう言ったピンポイントでの観察が必要なの」


まみ「確かに『どこ』って決めて見てねぇなぁ」


ズバリ言い当てられて苦笑いするまみ。


美紅里「あと、れぃとゆきに指導内容を秘密にしろと言った理由なんだけど……これもまみと紀子の共通点。『良い』って言われた物はその理由も考えずに鵜呑みにしちゃう所」


まみ「え?そうかな?」


美紅里「例えばAさんにX社のスノーボードが良いってアドバイスしたとするよね?それを聞いたあなたは『そうかX社のスノーボードは良いんだ』ってなってそれを買っちゃう。でもそれはAさんに合っているスノーボードであってまみに合っているかどうかは別なの」


まみ「ん〜〜〜っと……よくわかんねぇ」


美紅里「そうね……まみはカービングがしたいんでしょ?」


まみ「うん」


美紅里「で、れぃはどうやらグラトリがしたい」


まみは無言で頷く。


美紅里「カービングは速度が出て遠心力も強くかかるから、ある程度板が硬くキャンバー形状の板の方が向いている。まぁ一概には言えないけどね」


美紅里は手でゼスチャーを交えながら説明を続ける。


美紅里「一方グラトリは板をしならせて飛んだりするから少しの力で板がたわむ柔らかめで、回転の時にエッジが引っかからないようにロッカー形状が向いてる。これも一概には言えないけどね」


まみはふんふんと無言で説明に聞き入る。


美紅里「で、れぃに柔らかめのロッカー形状の板がいいわよ……とアドバイスしたとして、それを予備知識無しにまみが聞いたら、まみも柔らかめのロッカーの板を買っちゃう。でもそれはカービングに向かない……とも言い切れないけど、まぁカービングするにはより高い精度の技術が必要になるわね。つまりそう言う事」


まみ「ゆきちゃんやれぃちゃんが聞いたアドバイスをあたしがやったら、あたしには良くねぇ事になるって事?」


美紅里「ざっくり言うならね」


まみ「だいたいわかった!」


美紅里「ホントの意味で理解できるのはもう少し先だと思うけど、今はそれでいいわ。さて、この後まみにやってもらう事なんだけど……」


いよいよ本題である。


美紅里「あたしの後ろをあたしと同じスピード、同じラインで滑って来て。もちろんまみのレベルに合わせたスピードだから安心して」


まみ「それだけでいいの?」


美紅里「もちろんあたしの『滑りを見て』それを真似して滑るのよ」


まみ「あたし美紅里ちゃんみたいに難しい滑りできねぇよ!?」


美紅里「あたり前でしょ。だからあたしが今のまみのレベルでの滑りをするからそれを見て真似ろって話よ。さ、着いたわよ」


二人はリフトを下りて板を履く。

次のリフトかられぃとゆきも下り、少し遅れて板を履く。


美紅里「じゃあ、いい?」


まみは手を上げて応える。


それを見て美紅里はスッと滑り出し、まみもそれに続く。


緩斜面を美紅里は直滑降で滑って行く。


まみ『美紅里ちゃんの滑りを見る……』


同じ直滑降なのに美紅里に離されるまみ。


まみ『美紅里ちゃん、早い。同じ直滑降なのに……板の性能?』


フラットな所まで来て美紅里は一度止まる。


美紅里「あたしとまみの差、わかった?」


まみ「同じ直滑降なのにスピードが違う」


美紅里「それは何でだと思う?」


まみ「板の性能?」


美紅里「違う」


まみ「ワックスの差?」


美紅里は無言で首を横に振る。


まみ「わかった!体重だ!重たい方が加速……」


そこまで言った所でまみは美紅里にはたかれた。


まみ「いたた……違うの?」


美紅里「ち が う !」


まみ「え〜……わかんねぇ」


美紅里「じゃあこのバーンの後半。斜度が緩くなった所で一度止まって動画を撮影するから、それ見て差を見つけなさい。じゃあ、行くわよ」


美紅里は緩やかな斜滑降を始める。

まみもその後ろを付いて行く。


美紅里はターンする前に一度止まり、まみも止まる。


美紅里「はい。振り返ってあたしのシュプールとまみのシュプールを見比べてみて。このラインがあたしのシュプール。こっちがまみのシュプール」


まみはそう言われて改めて美紅里と自分のシュプールを見比べる。


身のシュプールはスタート地点から綺麗な一本の直線になっているが、まみのシュプールはヨレヨレの線になっている。


まみ「あたしのシュプール、ガタガタだ……」


美紅里「じゃあ次は何故まみのシュプールがガタガタであたしのシュプールが一本線なのか、その差を考えながらあたしの滑りを見て滑って。じゃあ行くよ」


美紅里はスッと向きを変えて今度はつま先側のエッジを使ってゆるい斜滑降を始める。

まみもそれに付いて行く。


まみ『すごい。美紅里ちゃんのシュプール、ホントに真っ直ぐだ。あたしは……あっ……今板がズレた……あ……また……』


またある程度進むと美紅里が止まる。


美紅里「わかった?」


まみ「美紅里ちゃんは全然板がズレてねぇのに、あたしは何でだらず……すぐに板がズレてしまう」


美紅里「うん。ちゃんと観察できてるね。今度はターンもするよ」


美紅里はまた踵側のエッジを使ってゆるい斜滑降。


まみ『確かに踵側の斜滑降でもエッジがズレてねぇ……っとととと、あたしはどうしてもズレてしまう……』


美紅里はチラとまみが付いて来ているのを確認し、つま先側のターンに入る。


まみは同じラインでターンしようとするが、同じドリフトターンなのに美紅里のラインでターンできない。


それどころか、ターンで美紅里に大きく離されてしまう。


斜滑降で追い付こうとするが、同じラインなので差が縮まらない。


先行していた美紅里がチラとまみを見てスピードを落とす。

距離が縮まったのを確認して、また滑り出す。


まみ『今度は踵側のターンだ。あたしとの違い、どこだらず……』


美紅里はつま先側の斜滑降からスッと踵側のターンに入る。


まみも同じラインをたどるように斜滑降からターンに入る。

つま先側ほどラインはズレなかったが、やはり斜滑降に入る頃には美紅里に離されている。


まみ『わかんねぇ〜!』


何度かターンを繰り返し、だいぶ斜度が緩くなった所で美紅里が止まる。


美紅里「はい、じゃあまみのスマホ出して。カメラ起動して……あ、動画撮影モードにしてね」


まみは言われるがままスマホを取り出し動画撮影モードにして美紅里に渡す。


美紅里「えっ……と、このボタンで撮影開始?」


まみ「うん。撮影終わる時は同じボタン押してもらったら撮影終わる」


美紅里「オッケー。じゃあまみ、ここからリフト乗り場まで、直滑降で行って。追い撮りするから。はい、じゃあスタート!」


美紅里に質問するする時間すら与えずスタートコールを出す。


まみは促されるまま滑り出し、すぐさま直滑降に入る。


美紅里はまみの後ろをぴったり付いて来る。


斜度が緩いとは言うものの、やはり直滑降。

それなりのスピードが出る。

それでも美紅里はぴったり離れない。


やがてフラットになり、勢いが無くなりリフト乗り場に着く前に止まってしまった。


まみ「届かなかった〜」


美紅里「いいわよ。じゃあスケーティングで少し登るわよ」


れぃとゆきもそれぞれ自分の課題をこなしながら、滑り下りてきた。


スケーティングしながらゆきがまみに近付いてきた。


ゆき「どう?美紅里ちゃんから説明あた?」


まみ「うん。『あ〜、だからゆきちゃんもれぃちゃんもアドバイスの内容を話さなかったんだ』って納得いったよ」


まみは苦笑いしながら先行している美紅里を追う。


ゆきとまみを追い越し、美紅里に近付くれぃ。


れぃ「……美紅里ちゃん、ちょっと質問なんだけど……」


美紅里「何?」


れぃ「……えっと……」


それ以降の会話はまみ達には聞こえなかった。


ようやく下りの斜面に着く。


美紅里「は〜い、じゃあここから麓まで行くよ。今度はゆきが先頭。次にれぃ。最後からまみ。それぞれの課題を意識して滑ってみて。じゃあ、スタート!」


またも三人に有無を言わせずスタートコールを出す美紅里。


この1本でまみ達は自分自身の滑りの変化に驚く事になる。



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