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第39話「雪ん娘スプレー」

第39話「雪ん娘スプレー」


追試も無事終わり、ようやく平穏な学校生活が戻って来た三人。


今日も今日とて郷土活性化研究部の部室である理科準備室に三人はたむろしていた。


れぃ「……で、コスチュームの防水対策どうするよ……」


ゆき「あたしの場合はインナーをどうするか考えなきゃ……」


まみ「防水スプレーじゃダメなの?」


れぃ「……あたし防水スプレーって使った事ねぇんだ……」


まみ「あたしも……。スプレーをシューってするだけでいいんじゃねぇの?」


ゆき「あたし、通学に使ってるカバンに防水スプレーした事あるけど、すぐ効果なくなってしまった」


れぃ「……コスチュームがダメになるのもヤだしな……」


まみ「コケなくちゃ(コケなければ)大丈夫なんじゃねぇ?」


ゆき・れぃ「いや、コケるだらず」


まみ「コケるしなぃ〜」


まみ達が話しているのは来るコスプレ滑走イベントでの自分達の衣装の防水についてだ。


当然、誰も経験が無いので暗中模索。


ゆき「ちーちゃんはどうしてるんだらず?」


れぃ「……ちーちゃんくらい上手かったらそうそうコケねぇから防水要らねぇんじゃね?……」


まみ「お姉ちゃんはどうんだらず?」


それまで自分の仕事をこなして、ゆき達の会話を聞くだけだった美紅里がピクリと反応する。


美紅里「え?紀子もコスプレ滑走するの?」


ゆき「そうなんスよ!えれぇ楽しみ!」


れぃ「……美紅里ちゃんもやる?……」


美紅里「やらないわよ!」


まみ「和装で防水は大変そうだしね〜」


美紅里「いやそう言う話じゃなくて」


ゆき「そういや和服の撥水加工でパールなんとかって無かった?」


美紅里「着物の撥水加工はあるけど、あたしはやらないわよ」


ゆき「いや、そうじゃなくて、着物を撥水加工できるんなら、あたしらのコスチュームも撥水加工できるんじゃね?」


れぃ「……おぉ……名案……」


既にスマホで検索を始めていたまみが声をあげる。


まみ「あった!着物の撥水加工……料金は……ダメだ!高校生が出せる金額じゃねぇ!」


スマホを覗き込んだれぃも絶句する。


れぃ「……確かに。この金額は出せねぇ……」


ゆき「そういやちょっと気になったんだけどさ……」


その言葉にまみもれぃもゆきに視線を移す。


ゆき「防水と撥水って何が違うの?」


れぃ「……同じなんじゃねぇの?……」


まみ「どっちも、水がかかっても大丈夫……だよね。言い方の差?」


そこまで聞いて美紅里がずっこける音がした。


美紅里「あんた達、防水と撥水の違いも知らずに喋ってたの?」


ゆき「何か違うの?」


美紅里「全然違う。漢字を見てみなさいよ。撥水の『撥』は跳ね返すとか、はじくって意味。防水の『防』は守るとかって意味でしょ」


ゆき「RPGの呪文のリフレクトとプロテクトの差みたいな物?」


美紅里「ゆきがどんなゲームの話をしてるかは知らないけど、たぶんニュアンス的には当たってる」


れぃ「……どゆこと?……」


ゆき「つまり、敵の攻撃を跳ね返すか、防御してダメージを受けねぇようにするかの差」


まみ「敵って何?」


れぃ「……今はそこは気にしねぇでいいと思うぞ……」


ゆき「美紅里ちゃん、ニュアンス的には解ったけど、実際に布に撥水加工するのと防水加工するのと、どう違うの?」


美紅里「撥水加工は布の繊維1本1本に水を弾く加工をするの。防水加工は……そうね、服の上から薄いビニールコーティングをするイメージ」


れぃ「……じゃあ防水はコケたらそのビニールコーティングが剥がれたり破れたりして水が染み込んでしまうの?……」


美紅里「『ビニールでコーティング』はあくまで例えだけど、でもれぃの推測はおおよそ正しい」


まみ「じゃあ、あたし達は撥水じゃなきゃダメじゃん」


ゆき「防水スプレーなら安上がりでできると思ったのにぃ〜」


美紅里「でも撥水は防水にないメリットもあるわよ」


まみ「何?」


美紅里「さっきも言ったけど、防水は言うなればビニールコーティングする感じ。ビニール製のレインコート着たらどんな感じ?」


れぃ「……軽い……」


ゆき「着心地がわしゃわしゃする」


まみ「ん〜……蒸れる?」


美紅里「正解」


ゆき・れぃ「「おぉ〜〜」」


思わず拍手する二人。


美紅里「いやクイズじゃないんだから……。で、何で蒸れるの?」


ゆき「通気性が悪りぃから」


美紅里「そう。通気性が悪いと言うか空気を通さないの。それに対して撥水は繊維が水を弾くだけだから空気は通す。だから蒸れにくい」


ゆき「あたしのアーマーコスチュームにはあまり意味がねぇね」


美紅里「でもインナーに耐水性のある物着るんでしょ?」


ゆき「あ、そっか……」


まみ「美紅里ちゃん、撥水加工ってどんな布でもできるの?」


美紅里「撥水加工はできるけど、効果があるかどうかは布の素材次第ね」


れぃ「……どう言う事?……」


美紅里「布の繊維1本1本が撥水するけど、繊維と繊維に大きな隙間がある布だとその隙間から水は入って来るわね。例えば麻とか、もちろんメッシュみたいな布はどうやっても無理」


まみ「あたしのコスチューム、素材何か知らねぇや」


れぃ「……あたしも。まさかスキー場で着る事になるとは思わなかったから……」


ゆき「じゃあ、まみとれぃもインナーを考えた方がいいかもね」


まみ「コスチュームとインナー、両方に撥水加工……。お金足りるかな……」


れぃ「あ゛ぁ゛〜〜〜!」


まみ「あひゃぁ!」


突然のれぃの叫びにビクっと身を強張らせるまみ。

対して冷静に対応するゆき。


ゆき「突然どうした、れぃさんや」


れぃ「これ見ろ!すんげぇもんめっけた!」


そう言うとれぃはスマホをまみとゆきに見せるが、すぐに引っ込める。


れぃ「いや、リンクをLINEで送る。その方が早ぇえ」


変な所で変に冷静なれぃ。


スマホをポチポチと触り、即座にまみとゆきのスマホから着信音が響く。


ゆき「ウォッシュイン撥水剤?」


まみ「なにこれ?」


れぃ「いや、説明読めよ!つまり、この撥水剤に漬け込んだら、どんな衣類も撥水加工されるって代物だ」


ゆき「すげぇじゃん」


イマイチ感動が薄いゆき。


まみ「これが?」


れぃ「『これが?』じゃねぇよ。コスチュームもインナーも、これ一つあれば問題全部解決じゃん」


ゆき「でもこれってさっきの和服の撥水加工と同じであたし達のお金でどうにかなる金額じゃねぇんだらず?」


れぃ「そう思うだらず?」


そう言うと、またスマホからまみとゆきに送信するれぃ。


まみ「へ〜。アマゾンで売って……って安っ!」


ゆき「さっきの和服の撥水加工に比べたら安いけど、でもやっぱちょっと気軽に手を出せる金額じゃねぇなぁ」


まみ「だね〜。この撥水剤1本買っても余ってしまいそう」


れぃ「その価格が1/3だったらどうだ?」


ゆき「それなら……って……あっ!」


まみ「え?何?何?」


れぃ「あたし達三人で割り勘して買うんじゃん」


まみ「れぃちゃん賢い!」


れぃ「いや、正確にはゆき1/5、あたし2/5、まみ2/5かな」


ゆき「何であたしだけ負担が低いの?」


れぃ「ゆきのアーマーコスチュームはそもそも撥水加工いらねぇだらず?つまりインナーの1着。あたしとまみはコスチュームとインナーの2着。使用量を考えたらそれが妥当な負担分率じゃね?」


まみ「あたしもそれでいいよ」


ゆき「うん……まぁ……れぃとまみがそれで良いなら……。あ、でも実際に使う時に使う量で精算しよ。あたしもひょっとしたら増えるかもしれねぇし」


少し気分が落ち着いたのか、れぃはいつものテンションに戻っている。


れぃ「……おけ。じゃあ、ポチッとな……」


まみ「じゃあ次はインナー考えねぇとね」


ゆき「3月の雪山ってどの程度の装備がいるんだ?」


れぃ「……美紅里ちゃんわかる?……」


美紅里「あたしはウェアの中に着てるもので調整してるけど、あなた達はコスプレするんでしょ?あたしはコスプレして滑った経験ないからわかんないわね」


ゆき「だよね〜」


れぃ「……やはりここは経験者に聞くべきか……」


まみ「じゃあちーちゃんに聞いてみる?」


ゆき「それだ!」


れぃ「……ってか、コスプレ滑走用のグループLINE作った方が良くね?……」


ゆき「だな。ちょっと待って……。え〜っとグループ名は……『コスプレ滑走の会』……っと」


れぃ「……ベタだな……」


ゆき「シンプルイズベストだらず」


れぃ「……まみ、何かねぇか?……」


まみ「あたし?」


れぃ「……名付け上手ぇじゃん……」


まみ「前のはたまたまじゃん」


ゆき「じゃあ、全員一つ考えよ〜!持ち時間10分!」


れぃ「……パラレル滑走グループとかどうだ?……」


ゆき「わかりにく〜い」


れぃ「……む……。じゃあ、コスプレして滑るから……『コスべりの会』」


ゆき「びみょ〜」


れぃ「……まみ!……」


まみ「あっ!はいっ!え〜っと、じゃあ……仮装して滑るのを目的としてるから『仮装滑走渇望検討会』てか……」


ゆき「韻を踏んでて悪くねぇけどちょっと長いかな」


れぃ「……じゃあ『渇望』を抜いて『仮装滑走検討会』……」


ゆき「『仮装滑走の会』でいいんじゃね?」


れぃ「……もう一押し欲しい……」


ゆき「こだわるなぁ……」


ゆきは少しめんどくさそうに言う。


れぃは少し、でもわざと聞こえるように舌打ちする。

他にアイデアが無いかまみに話を振ろうとまみに視線を送ると、まみは集中モードになっていた。


少しうつむき、スマホに視線を向けているが、スマホに焦点は合ってない。

宙を見たままぶつぶつと何か言っている。


まみ「雪……スノー……ゲレンデ……コスプレ……コスチューム……仮装……パフォーマンス……滑走……滑り……アクション……」


ゆき「ん?まみ、どした?」


れぃ「シッ!まみが集中モードに入ってる……」


まみ「ゆき……まみ……れぃ……ちー……」


まみは頭の中でコスプレ滑走に関連しそうなキーワードを組み合わせ、自分達に合うグループ名を考えていた。


まみ「ゲーム……キャラ……アニメ……演じる……遊ぶ……なりきる……」


ゆきとれぃはまみの集中を切らさないようにあえて会話せず、まみの考えがまとまるのを待っている。


そしてその時は来た。


まみの目の焦点が合い、ボソッと何かを言った。


ゆき「え?」


れぃ「……まみ、もっかい……」


まみ「え〜っとね……『雪』で遊ぶあたし達……『娘』が、『コスプレ』して滑ってコケたりブレーキかけたりして『スプレー』上げる……ってのを全部ごちゃ混ぜにして……」


そう言うと部室である理科準備の小さめの黒板に向かい、チョークを持つ。


その動きをゆきとれぃは期待を込めた目で見つめる。


まみは無言で「雪ん娘スプレー」と書くと、振り返る。


まみ「『雪ん()スプレー』ってどうか……な?『娘』と『スプレー』をかけて『こスプレー』……みたいな……」


ゆきとれぃは顔を見合せたと同時にバッとまみに向き直り、二人の言葉がハモる。


ゆき・れぃ「「採用!」」


まみ「あひゃぁ!」


ゆきとれぃの圧に押され、小さく悲鳴を上げるまみ。


ゆき「いいじゃん、いいじゃん!」


れぃ「……うむ。言葉の中に可愛さと言葉遊びの上手さが調和し、絶妙なハーモニーを……」


ゆき「グルメ評論家かよ」


れぃ「……いや、でもマジでいいぞ。なんか盛り込みたかったものが贅沢に全部盛りみたいな感じで……」


この時、美紅里だけは少し微妙な表情をしていたが、そこは現役女子高生と大人の女性の感性の差なのかもしれない。

ただ単に、まみ達のセンスが特殊なのかも知れないが、本人達はこのネーミングを気に入っているようだ。


ゆき「じゃあ、早速グループ設定するね……っと。……で……送信」


ピロン♪


れぃ「……ん。入った……」


まみ「あたしも入った。ちーちゃん招待する前に一言言っといた方がいいよね?誰が連絡する?」


ゆき「あ〜、じゃあまみ連絡しといて」


まみ「あたしっ?」


れぃ「……同じ裏十二支大戦仲間だろ?……」


まみ「え……あ……まぁ……そうなんだけど……」


ゆき「グループの命名したのもまみだし、いいじゃん」


まみ「う………ん。わかった……。何て言えばいい?」


れぃ「……自分で考えろ……」


まみ「え〜〜〜〜」


ゆき「『え〜〜〜〜』じゃねぇよ」


珍しくゆきが少し意地の悪そうな笑顔を見せる。


まみ「だって書き方とか誘い方が悪くて入ってもらえなかったりしたら……」


れぃ「……そん時ゃそん時だし、ってかちーちゃんに限ってそれはねぇ……」


ゆき「じゃあ、まみが書いた文章を送信前にチェックしてやるから……なっ」


そう言われてまみは渋々ちーへグループLINEへの誘いの文章を書き始めた。


待つこと10分。


まみ「書けた」


ゆき「どれ、見せてみ?」


ゆきはまみからスマホを受け取る。

れぃも横から覗き込む。


「謹啓

松の内の賑わいも過ぎ 寒気ことのほか厳しく感じられます。

さて、先日お誘い頂きました3月のコスプレ滑走の件ですが、私共々大変楽しみにしております。

しかしながら、当方はコスプレ滑走の知識に乏しく、経験者たるちー様に詳細についてご教示頂きたくこの度連絡用のグループLINEを開設致しました。

お忙しいとは存じますが、そちらのグループLINEに入って頂きたくご連絡差し上げました。

一度検討頂き、もしグループLINEに入って頂けるようでしたらご連絡下さい。

改めてグループへの招待をお送りさせて頂きます。

お返事お待ちしております。 敬白」


ゆき「アホぉ〜!……ってか、堅いわっ!」


れぃはお腹を抱えて声も出ないくらい笑い転げている。


まみ「えぇっ!?ア……アホって言ったぁ〜」


ゆき「そりゃ言うよ!友達に『一緒に遊ぼうぜ!』的な誘いをするのに、何でこの文章なんじゃん!」


まみ「だって、丁寧な方がいいかて思って……」


ゆき「もっと柔らかく、砕けた感じで書けばいいんだって」


まみは眉間にシワを寄せ、スマホを受け取り添削を始める。


待つこと10分。


まみ「ん……。だいぶ柔らかくなったと思う」


ゆき「どれどれ?」


「謹啓

松の内の賑わいも過ぎ 寒気ことのほか厳しく感じるよね。

さて、先日お誘い頂きました3月のコスプレ滑走の件ですが、私共々大変楽しみにしてるのだ。

しかしながら、当方はコスプレ滑走の知識に乏しく、経験者たるちー様に詳細についてご教示頂きたくこの度連絡用のグループLINEを開設致しちゃった。

お忙しいとは存じますが、そちらのグループLINEに入って頂きたくご連絡差し上げた訳っす。

一度検討頂き、もしグループLINEに入って頂けるようでしたらご連絡して欲しいのよ。

改めてグループへの招待をお送りさせて頂きますよん。

お返事お待ちしてるじゃん。 敬白」


読み終えたゆきは盛大にずっこける。


れぃは机をバシバシ叩いて声も出ないくらい笑っている。


まみ「え?違う?」


ゆき「え〜……っと……。ど直球で言うんだら『そうじゃねぇ』」


れぃ「『楽しみにしてるのだ』!『のだ』!」


ゆき「ん〜っと、何て言うかキャラがとっ散らかってるって言うか……」


れぃ「『ご連絡差し上げた訳っす』!」


完全にツボに入っているれぃは既にアドバイザーとしては役に立たない。


ゆき「え〜っと、あたし達と喋る時みたいな喋り口調で書いてみたらどうだらず?」


ゆきもどこからアドバイスしたらいいか困惑している。


まみ「ん……。わかった。ってか、れぃちゃん笑いすぎ!」


まみはバッとスマホを奪い返し、少しムキになった感じでまた添削を始める。


今度はさっきより早かった。


まみ「これならいけるだらずっ!」


フンスと鼻息が聞こえそうな勢いでスマホを差し出す。


「謹啓

松の内の賑わいも過ぎ 寒気ことのほか厳しく感じられるよね〜。

さて、先日お誘い頂きました3月のコスプレ滑走の件なんだけど、私共々大変楽しみにしてる。

しかしながら、当方はコスプレ滑走の知識に乏しく、経験者たるちー様に詳細についてご教示頂きたくこの度連絡用のグループLINEを開設致したよ。

お忙しいとは存じますが、そちらのグループLINEに入って頂きたくご連絡差し上げちゃった。

一度検討頂き、もしグループLINEに入って頂けるようでしたらご連絡ちょうだい。

改めてグループへの招待をお送りさせてもらうじゃん。

お返事お待ちしてるよ〜。 敬白」


ゆき「あれ?なんかあたし、何が正解なのかわからなくなって来た……」


れぃ「あ〜……、でも、さっきよりだいぶ良くなったじゃん」


れぃは笑いすぎたのか、涙を拭っている。


まみ「ホント?じゃあ、送信!」


ゆき「え?ちょっ……待……」


まみ「え?送ったよ」


れぃ「ぶふ〜〜〜〜!」


れぃが吹き出す。


まみ「え?え?良くなったんじゃねぇの?」


ゆき「料理で例えるなら『ギリ食べれる物ができた』くらいに良くなっただけだったんだけど……」


まみ「そうなの!?削除!削除しなきゃ!……あ、既読ついた……」


れぃ「ぎゃははははははは」


れぃは今日イチの大笑いである。


まみ「どどど……どうしよ!?」


ゆき「まぁ、意図は伝わるだらず。変な文章である事には変わりねぇけど」


まみ「変なの!?」


ゆき「とりあえず……あたし達がLINEする時に、謹啓とか敬白とか付けるか?」


まみ「付けた事ねぇ」


ゆき「だろ?あと、『松の内の賑わいも……』とかも付けねぇだろ?」


まみ「付けねぇ」


ゆき「だろ?……で、もしあたしが送るんだらこう」


そう言うとゆきはまみにスマホを差し出す。


「やっほ!この前誘ってくれたコスプレ滑走の事なんだけど、こっちも早めに準備を始めようって話になってるんだけど、色々わからない事あるんよ。で、ちーちゃんに色々聞きたいからグループLINE入ってくれないかな?」


読み終えたまみの目は点になっている。


まみ「これでいいの?」


れぃ「……あたしならこうだな……」


今度はれぃがスマホを差し出す。


「コスプレ滑走の事教えて欲しいから、このグループ入ってちょ」


まみ「これでいいの!?」


ゆき「いや、いいだろ」


困惑するまみだが、そのタイミングでまみのスマホから着信音が鳴る。


ピロン♪


まみ「ちーちゃんだ……」


ゆき「何て?」


「wwwwwwwww

まみちゃん、めっちゃオモロいやん!

何やようわからんけど招待して〜。

ナンボでも喋るで」


まみ「……だって」


れぃ「……とりま通じたみてぇだな……」


まみ「面白いの?」


ゆき「面白いだらず」


まみ「何で?」


ゆき「えれぇ堅苦しい文面と思いきや、語尾がめっちゃフランク。さらにキャラがブレブレ」


まみ「あ……」


れぃ「……『あ……』じゃねぇ……」


そう言うとれぃはクククと笑う。


まみ「ってか、さっきのお手本みたいなのをパッと書けるんならゆきちゃんかれぃちゃんが送ってくれたらよかったのに」


少し不満げなまみの表情。


それを聞いたゆきは少し芝居がかったように、眼鏡の弦に手を添え、眼鏡をかけ直すような仕草をしながら笑みを浮かべる。


挿絵(By みてみん)


ゆき「ふむ……。まみの言う事ももっともだ。でも、今後まみからちーちゃんに連絡取る事もあるだらず?その時困るのはまみだし、練習しとかないとぶっつけ本番で書けないだらず?」


まみ「うぐ……。確かにそりゃそうだけど……」


れぃ「……そうこれはまみの為を思って……つまり友情じゃん……」


まじめな表情でそう言ったれぃだが、こらえきれずに最後で吹き出す。


まみ「あーっ!れぃちゃん笑った!絶対楽しんでんじゃん!」


ゆき「それよりちーちゃんに招待出さんでいいの?」


まみ「あ、そうだった」


あわててまみは「雪ん娘スプレー」のグループから、ちーに招待を送る。


ちーも待って居たのか、即座にグループ参加の通知が来る。


ちー『まいど〜!ちーちゃん参上!』


ゆき「ほらね。こんな感じでいいのよ。友達なんだから。あたしも返そーっと」


ゆきはスマホを手慣れた手つきで文字を打ち込む。


ゆき『いらっしゃ〜い!よろしく!』


れぃ『よ』


まみ「『よ』って何?」


れぃ「……よろしくの略……。それよりホラ、まみも返さなきゃ……」


急かされてまみも慌てて返事を書く。


まみ『この度はグループに参加して頂きありがとうございます』


ゆき「堅っ!」


ちー『ところでまみちゃん、それは何キャラ?』


れぃ「ぶふっ!そらそう思うわな」


まみ「え〜……どう返そう」


ゆき「そのまま返せば?」


まみ『どう返せばいいのでしょうか』


れぃ「ぷーーーーっ!」


ゆき「いやそうじゃねぇ」


まみ「違うの!?」


ちー『最初の誘いのLINEで、あたしゃてっきり結婚式の披露宴にでも誘われてるんかと思ったわwww』


ゆき「つまりそう言う事」


まみ「え?全然わかんねぇ……」


れぃ「……『謹啓』とか季節の挨拶とか入れる手紙は、結婚式の披露宴の招待状とかに使うんだわ。友達同士のLINEに使うもんじゃねぇの……」


まみ「でもスマホで『失礼の無い手紙の書き方』で調べたらこう書いてたんだもん」


ゆき「ビジネスとかならそうかも知れねぇけどね……。ん〜……例えば友達とショッピングに行こうって話になって、友達が待ち合わせ場所にパーティードレス着てきたらどう?」


まみ「『え?何でドレス?』ってなる」


れぃ「……そう言う事……」


愕然とするまみだが、時間は容赦なく流れる。


ちー『え〜っと、ネタ?』


ゆき「しゃあねぇな……と」


ゆき『まみはこう言うのに慣れてないから練習させたんだけど、結果こうなった』


ちー『あ〜。納得www』


れぃ『さすがちーちゃん、理解が早い』


ちー『で?この雪ん娘スプレーって何?』


ゆき「ほら、まみ、出番だ」


まみ「あっ…はい!」


まみ『雪とあたし達、スキースノボの時のスプレー、それからコスプレを混ぜ合わせて命名しました』


ちー『あ、な〜る。つまりアレだ。コスプレ滑走の打ち合わせのグループLINEだ』


れぃ「……意図は通じて無かったな……」


ゆき『そゆこと。色々準備しなきゃ……と思ってるんだけど、わかんない事だらけでさ。ちーちゃんに教えてもらおうって話になったの』


ちー『おけ。何から知りたい?』


こうして「雪ん娘スプレー」を立ち上げ、ゆき、まみ、れぃはようやくコスプレ滑走の準備のスタート地点に立った。

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