第3話「スノーボードやってみない?」
第3話「スノーボードやってみない?」
『エイッ!エイッ!ヤァ!
え〜い!狐火乱舞!
『けぇ〜〜〜ん!無念で鹿ない〜!』
『勝負あり!完勝!
勝者、巫狐!』
『コ〜ン!ふふふ、コン性だけは認めてあげる。』
コミゲから帰って来て2日。
今日は自室でお気に入りのゲーム「裏十二支戦記」だ。
モニターに映る推しキャラ「巫狐」とコミゲでとってもらった自分の写真とを頭の中で見比べる。
やっぱり私の写真には躍動感がいっさらねえなぁ(全然無いなぁ)……。
かれこれ1時間そんな事を考えながらやっているけど、実はこんな事をしている場合じゃない。
遅い朝食を食べながら母親に「宿題は進んでるの?」と言われ、宿題のプリントを30分かけて1枚終えた後、ちょっと休憩に1ゲームだけ……と始めてしまって現在に至る。
『裏十二支大戦最終戦!
緋熊!対するは巫狐!』
まみ「最終戦、よりによって緋熊か〜」
北海道の雪深い原生林の中に対峙する緋熊と巫狐。
緋熊は赤みがかった頭髪の筋骨隆々巨漢のパワー系キャラ。
巫狐同様、ヒグマを擬人化したキャラクターだ。
まみ「雪の原生林ってステージは綺麗だし、巫狐の炎の技も映えるから好きなんだけど、緋熊との相性悪いんだしな(悪いんだよね)〜」
『三本勝負!いざ、始め!』
ピリリリリリ、ピリリリリリ……
ゲーム機から号令が出ると同時にスマホから着信音が鳴る。
慌ててポーズボタンを押し、スマホを手にする。
スマホには〈着信 ゆきちゃん〉と表示されている。
まみ「えぇ〜〜〜!で、電話、電話っ!どうするぅ(どうしよう)!」
超人見知りの真由美。
友達が今までできず、スマホは家族との連絡にしか使った事がない。
友達から電話なんて初めてだ。
意を決して通話ボタンをタップする。
まみ「も……もしもしもしもし?」
ゆき「ラピョタの将軍かよ(笑)」
まみ「いや、あの、噛んだって言うか……」
ゆき「いや、笑ったわ。あ、で、要件なんだけど、午後から学校近くまで来る時間ある?」
まみ「え?はいっ!はいっ!あります!」
ゆき「じゃあ12時に駅の近くのファミレスに集合ね。れぃも呼んでるから。じゃあ。」
ひゃぁ〜!
は、初めてお友達と待ち合わせだ〜!
な、何着て行こう?
遅れちゃダメだから早めに出なくちゃっ(汗)
バタバタと用意を済ませる。
まみ「行ってきま〜す!」
母「え?あんたどっか出かけるの?」
まみ「うん。友達と待ち合わせ!」
母「ふーん、行ってらっしゃい……って、友達⁉」
まみ「は……早く着きすぎてしまった……」
こう言う時はどうしたらいいんだろ?
先に中に入って待ってる?
でも一人でファミレス入るの心細いし……。
お店の前で右往左往する事10分。
れぃ「……ほらね。まみなら30分は早く来るって言った通りだらず(言った通りだろ)?……」
ゆき「ホントだ。まみ、予想を裏切らねえねぇ(笑)」
まみ「ゆきちゃん、れぃちゃん!」
ゆき「やっほー」
れぃ「……おっす……」
ゆき「じゃ、入ろうか」
店内にぞろぞろと入る。
もちろん私は最後尾だ。
店員「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンでお知らせ下さい」
ゆき「さーて、何を食べずかな(食べようかな)」
れぃ「……日替わりランチ……」
ゆき「今日の日替わりは、チキンの照り焼きか。私もそれでいっか?」
まみ「あ、じゃあ私も」
先日のコミックゲノム、通称コミゲの話をしながらみんなでランチ。
コスネットの写真を見せあったり、お姉ちゃん(ののこ)の話をしたり……。
食事も終えてもドリンクバーで、まだまだお喋りは続く。
そしてあるタイミングでゆきちゃんが眼鏡をくいっと上げ、少し芝居がかった口調で切り出した。
ゆき「さて、今日みんなに集まってもらったのは他でもありません。コミゲからの帰りの電車で見た動画覚えてる?」
れぃ「……コスプレしてスキーしてた動画?……」
ゆき「そう!あの動画にあった『スノーボード』、あれみんなでやってみねえ?」
ゆきちゃんの眼鏡がキラっと輝いた気がした。
れぃ「やる」
ゆき「って、決断早いな」
れぃ「……興味はある。ただ、道具揃えたりするのにどのくらいお金がかかるかわかんねえ……」
ゆき「まみは?」
まみ「え〜〜〜っ、あたし運動音痴だからなぁ……」
ゆき「体育の成績は?」
まみ「えっと……たしか……2」
ゆき「あたし、3。あまり変わりないじゃん。れぃは?」
れぃ「ふっふっふ、5だ……」
まみ「すごーい!そういや足早かったもんね?」
ゆき「何もプロを目指すって訳じゃねえし、ちょっと練習すれば滑るくらいできるんじゃないかや?ちなみにれぃは経験者だったり?……」
れぃ「……しない。スキーも学校の授業でやっただけ……」
まみ「あたしも学校の授業でスキーをちょっとやったけど、初級コースを『ハの字』で滑るのがやっとなんだけど?(汗)」
ゆき「じゃあみんなあらかた(ほとんど)同じじゃん」
そう言うとゆきちゃんはまたニカっと笑う。
れぃ「……道具揃えるのにどのくらいかかるもんなの?」
ゆき「一応調べて来たんだけどね〜……。全部新品で揃えるのはちょ〜っと高校生には厳しいかなぁ〜って金額……」
れぃ「……ダメじゃん……」
ゆき「ただ、スキー場でレンタルもやってるみたい。レンタルなら安い。」
まみ「中学のスキーの授業の時もスキー場のレンタルのウェアだった」
ゆき「あとは知り合いとかで、スノーボードやってた人とかいたら、ひょっとしたらお下がりとかあるかも……って都合よく期待してんだけどね〜。とりあえずやるかやらねえかを決めないと、始まらねえじゃん?」
何かスノーボード始めるような話の流れになってる(汗)
れぃ「……仮に道具が誰かからのお下がりもらったとして、リフト代とかどうすんの?…」
ゆき「地元の人用の割引券とかあるみたいだけど、まぁそれはそこそこかかるしない(よね)……」
まみ「おこづかいで足りるかなぁ……」
ゆき「まみ、いい事言った!」
まみ「ひゃ、ひゃい?」
ゆき「ともあれ、先立つ物が私達には必要って話な訳よ。そこで……みんなバイトしねえ?」
まみ「えっ!えぇぇぇぇぇ〜〜〜?」
れぃ「乗った」
ゆき「れぃ、決断早いよね(笑)」
まみ「あ、あの、あたし人見知りで、その、バイトとかした事なくて、あの……」
ゆき「わかってる、わかってるって」
そしてまたゆきちゃんがニカっと笑う。
れぃ「……何かプランがある感じ?……」
ゆきちゃんは少しもったい付けた感じの間を取り話出した。
ゆき「実は親戚のおじさんが林檎農家やってて、収穫の手伝いのバイト探してるのよ。
平日は放課後、土日は朝から夕方まで。雨の日はお休みで……」
れぃ「……あたしは何でもいいよ……」
ゆき「まみは?」
まみ「えっと、よくわかんねえけど、お客さんを相手にするバイトじゃないならやっててえ(やってみたい)……かも……」
ゆき「よし、決まりっ!」
今まで見たニカっを上回るニカっの表情でゆきちゃんはパンと手を叩く。
まみ「あ、でも一応お母さんにバイトしていいか聞かなきゃいけねえから……」
れぃ「……あたしも一応……」
ゆき「うん、そうだと思うから、許可が出たらまた連絡して!」
こうして私達はスノーボードを始める為の計画は始まった。
まみ「ただいまぁ〜」
母「お、おかえり。ご飯できてるよ。お父さんも帰って来てるし手を洗っておいで」
ダイニングに行くと、何故か私の好物ばかり並んでいる。
誕生日はまだ先なんだけど、何かあったかな?
まみ「じゃあ、いただきまーす」
食べ始めたものの、お父さんとお母さんの様子がどうにも変だ。
父「うおっほん」
わざとらしい咳払いをした後、一瞬お父さんはお母さんに視線を送った後、喋り出した。
父「え〜っと、真由美は今日、どっかに遊びに行ってたのか?」
まみ「うん。ちょっと友達と……」
父「!!か、母さん!」
母「あなた!」
何?何事?(汗)
父「ま、真由美……、その……お友達が……できたのか?」
まみ「うん。この前お姉ちゃんとこに行く時、偶然クラスメイトの子二人と同じ電車になってね〜。それがびっくりする事に、その子達もレイヤーで会場でも会って……」
父「母さん!」
母「あなた!」
父「そうかぁ!真由美に友達ができたか!いや、良かったなぁ!」
母「本当に……本当に良かった(泣)」
まみ「えっ、いや、ちょっと大袈裟……」
そこから詳しくコミゲの時の話や、今日電話がかかって来て昼食がてらお喋りをした事を話した。
まみ「……で、みんなでスノーボードしようって話になってね。実際にスノーボード始めたらリフト代とかかかるから、みんなでバイトしねえかって話になっただ(なったの)。」
その話を聞いて両親は目が飛び出さんばかりの驚きようだ。
超人見知りでなかなか友達ができず、唯一友達だった幼馴染も高校進学と同時に名古屋に引っ越してしまった。
両親は私が思っている以上に心配していたようだ。
何だか申し訳ない気持ちになる。
私が人見知りになったのは小学校1年生の1学期。
出席番号順に自己紹介をする事になった時、出席番号1番だった私は、自己紹介と言う物が何をするものかわからず、みんなの注目を浴びたまま立ち尽くすしかなかった。
それを察した先生が「お名前は?」と聞いてくれたので、「あさのまゆみです」と答えたが、男の子に大声で「聞こえませ〜ん!」と言われて以来、人見知りになってしまった。
また、中学の時は何とか変わろうと、前日から気合いを入れて自己紹介に望むも、今度は気合いが入り過ぎて第一声から盛大に噛んでしまい、恥ずかしさから、人見知りに拍車がかかってしまった。
高校に入ってもやはり自己紹介はトップバッターで、ど緊張。
名前と出身中学を言うのが精一杯だった。
そんな話を聞いたお姉ちゃんがコスプレイベントに誘ってくれた。
お姉ちゃんいわく、
「ポーズ取って立っとくだけだし、話かけられても用事があるのは真由美じゃなくて、真由美がやってるキャラクターに……だから。それにこっちから話かける事はまず無いし。ね、やってみない?」
って事だった。
結論から言うならお姉ちゃんの言ってた事は半分くらい当たってて、半分は嘘だった(苦笑)
まぁでも、結果的にゆきちゃんやれぃちゃんと友達になれたから、お姉ちゃんには感謝しなきゃね。
父「その、なんだ。スノーボード始めてえなら父さんが出してやっても……」
母「ちょっとお父さん!せっかく真由美がアルバイトを友達とするかもって話なのに邪魔しちゃダメでだらず(ダメでしょ)!」
父「あ、そうか。いや、でも困った事があったら言うんだぞ。」
そう言われて思い出した。
まみ「あ、それなら、お父さんかお母さんの知り合いでスノーボードしてて、古い道具を譲ってくれそうな人いねえ?」
父母「紀子」
あ、そう言えばお姉ちゃんが高校の時、お姉ちゃんもスノーボードやってた気がする。
まみ「お姉ちゃんまだ使うのかな?」
母「それこそ紀子に聞いてみたら?」
まみ「わかった。後で聞いてみる。あ、それで、バイトはしてもいい?」
バイト先がゆきちゃんの親戚の人の林檎農家で収穫の手伝いだと言う話を説明し、両親に快諾してもらった。
なんかバイト先に挨拶に行った方がいいのか……とかお父さんとお母さんでもめてたみたいだけど、まぁいいか。
夕食後、お姉ちゃんにLINEで連絡。
まみ『ちょっと聞きたい事あるんだけど』
ののこ『何?』
まみ『お姉ちゃんスノーボードやってたよね?まだやってるの?』
ののこ『やってるよ。どした?』
まみ『ゆきちゃん達とスノーボードやる事になった』
ムンクの叫びみたいなスタンプ来た。
しかも3連続で(苦笑)
ののこ『マジで言ってんの?スキー場って寒いんだぞ?コタツの純正オプションみたいに冬中ずっとコタツにへばりついてる真由美がスノボ?』
またムンクの叫びみたいなスタンプ来た。
ののこ『まぁいいや。それで?』
まみ『お姉ちゃんの知り合いで、スノーボードの道具のお古を譲ってくれる人居ないかな〜って思って』
ののこ『真由美身長何センチ?』
まみ『158』
ののこ『足のサイズは?』
まみ『24。足のサイズはわかるけど、身長って何か関係あるの?』
「おおあり」と書かれた蟻んこのスタンプ来た。
ののこ『スノボの板は身長に合わせて適正なサイズがあるんよ。だいたい身長から15cm引いた長さが適正って言われてる』
あ、どんな板でもいい訳じゃないんだ。
まみ『適正じゃない板だったらどうなるの?』
のここ『どうもならないけど、初心者は滑れるようになるまで適正サイズの板を使う以上に時間がかかるんじゃないかな』
まみ『じゃあなかなか適正サイズの板のお下がり探すのって難しいかな……』
ののこ『あたしの前使ってたボード一式が適正サイズだから、あれ使いなよ。物置に入れてるから。』
まみ『じゃあお姉ちゃんはどうするの?』
ののこ『あたしは去年バイトして新しいのを一式揃えたから』
まみ『いいの?やったぁ!ありがとう!』
ののこ『ただ、あたしも先輩からのお下がりだから、物は古いよ』
まみ『先輩さんから譲ってもらった物、あたしが貰っていいの?』
ののこ『先輩にはあたしから連絡しとくから』
お願いしますのスタンプを送信。
ののこ『スノボの事でわからない事があったら、お姉ちゃんを頼りなさ〜い』
また変なスタンプ来た(笑)
アルパカがドヤ顔してる。
軽くイラッとするイラストだ。
どうもお姉ちゃんのこの辺のセンスは理解できない。
こうして私はいともあっさりスノーボードの道具一式を手に入れた……と、この時は思っていた。