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第27話「それぞれのタイプ」

第27話「それぞれのタイプ」


まみ「あ、れぃちゃん、明けましておめでとうございます!」


れぃ「……あけおめ、ことよろ……」


校門の前でれぃに追いついたまみが自分から声をかける。

夏休み前のまみからは想像できない進歩だ。


れぃはコミゲに行く時に会った時からリアクションは変わらないものの、少し表情を出すようになった。


正確にはれぃは変わってないのだが、その微妙な表情の変化をまみが気付けるようになったのだ。


れぃはクリスマスプレゼントでもらった紫色のニット帽を被って来ている。

もちろんまみの背中にはキツネのぬいぐるみリュックがあり、歩くのに合わせて尻尾がゆらゆらと揺れている。


部室に入ると既にゆきが来ていた。


ゆき「あけおめ〜!ことよろ〜!」


まみ「明けましておめでとうございます!」


れぃ「……あけおめ……旧年中はほんじゃらもんじゃら、今年もどうぞほんじゃらもんじゃら……」


ゆき「あはは、何それwww」


れぃ「……昨日、親戚が家に来たときお母さんがそんな事言ってた……」


ゆき「ほんじゃらもんじゃらとは言ってねぇだろ」


ゆきのツッコミにれぃはニヤッと笑う。


どうやら年明け一発目のギャグだったようだ。


まみ達はそれぞれ部室に置いてある道具をまとめていると美紅里が部室に入って来た。


ゆき「あ、美紅里ちゃん、明けましておめでとうございます!」


まみ「明けましておめでとうございます」


れぃ「……明けましておめでとうございます……」


さすがに顧問である美紅里には「あけおめ」とほ言わない。


美紅里「はい、みんな明けましておめでとう。じゃあ荷物積むわよ。ゆき、ストーブと部室の『鍵閉め』してきてね。あたしは車に行ってるから」


そう言うと美紅里は自分のカバンを持ち、早々に出ていった……と思いきや、思い出したように顔だけ振り返り


美紅里「あ、2時間半くらいはかかるからトイレは済ませておく事」


と、釘を刺して駐車場へと向かった。


美紅里に言われたとおりトイレを済ませてから荷物を持って駐車場に集合する3人。


2回目なので荷物の積み込みも前回よりは手際が良くなっている。


れぃ「……あの……美紅里ちゃん、車の中でまたごはん食べていいっすか?……」


美紅里「おっ、今日はちゃんと用意してきたのね。いいわよ」


まみ「あ、あの……あたしも……」


美紅里「おぅ、食べろ食べろ。ゆきは?」


ゆき「あたしは今日も家でガッツリ食べて来ました!餅が3つとおせちが腹ん中に入っとる」


美紅里「オッケ!実はあたしも走りながら食べるつもりなんだわ」


ゆき「じゃああたしはお菓子でも食べてようかな」


まみ「まだ食べるの?」


ゆき「あたしだけ何も食べねぇとか寂しいじゃん」


こうして車は出発した。


食べながら今日のスノボの話になる。


れぃ「……美紅里ちゃん、今日は何の練習すんの?……」


美紅里「基本的には前回の続きと言うか、前回の事を繰り返しやって身に付けるのが今日の目的」


ゆき「斜滑降から直滑降に持っていって、板をスライドさせて……ってやつ?」


美紅里「そ。それの動きが体に覚えさせたら次第に考えなくても体が動くようになるから」


まみ「また一番下のゲレンデでやるの?」


美紅里「最初だけね。今日は一番上まで上がるわよ」


れぃ「……一番上?あたしらでも滑れるようなコースあるの?……」


美紅里「山頂イコール上級って訳じゃないから大丈夫よ。それに竜神スキーパークに行ったら一度はゴンドラ乗って上に上がらなきゃ」


ゆき「何で?」


美紅里「スノボの楽しみの一つは景色を楽しむ事だと私は思ってる。竜神はゴンドラ乗って上に上がったら、運が良ければ雲海が見れるのよ」


まみ「雲海!」


ゆき「写真撮りたい!」


美紅里「あ、今回からスマホ持って行っていいわよ。ただし自己責任ね」


れぃ「……あたし百均でいい物買ってきた……」


まみ「何?何?」


れぃ「……ティキティキ〜ン!『モバイルポーチ』〜……」


ゆき「ネコえもんの秘密道具かよ」


「ネコえもん」とは未来の猫型ロボットが……説明以下略。


れぃが取り出したのはモナカ状で周りにチャックが付いている軟質プラスチック製のスマホの入るポーチだ。


れぃ「……これに入れときゃコケた時に体で押し潰してもスマホにダメージ行かねぇ……と、思う……」


ゆき「あ、それいいな!」


まみ「あたしも今度買おう!」


れぃ「……ふっふっふっ……そう言うと思ってゆきとまみの分も買って来たぞ……」


無表情なれぃにしては珍しく、あからさまなドヤ顔。


ゆき「わぁ〜お!れぃ、さんきゅっ!」


まみ「ありがとう!」


れぃ「……このライトグリーンがゆきで……こっちの赤がまみ……、あたしのは黒だ……」


美紅里「それに入れておけば安心ね。あとは落とさないように気を付けて」


れぃ「……ふっふっふっ……美紅里ちゃん、そこもぬかり無ぇっすよ……」


そう言うとまたカバンをゴソゴソと漁る。

膝の上にカバンを乗せているから本当にネコえもんが不思議ポケットの中を弄っているようだ。


れぃ「……ティキティキ〜ン!『スプリング付きキーホルダー』」


ゆき「だからネコえもんかよwww」


れぃ「……これも百均。ケースに合わせてスプリングの色もチョイスして来た……」


美紅里「へぇ〜、れぃってアイデアマンなのね」


れぃ「……アイデアガールだ……」


そう言うと、ゆきとまみの分のスプリング付きキーホルダーを二人に渡す。


ゆきのスプリング付きキーホルダーはグリーンとクリアのグラデーション、まみのは赤のクリアのグラデーションだ。


れぃ「……モバイルポーチにDカン付いてるから、それにこのリングを付けて、ナスカンをリュックのどっかに付けておけば、落としてもスプリングがびよ〜んってなるから失くさねぇ……」


まみ「すごーい!」


ゆき「いいね〜!百均で2つだから220円でいいの?」


れぃ「……ん……、あたしが勝手に買って来たもんだからおごっちゃる……」


まみ「え〜、そんな……、悪いよ」


ゆき「そうだよ。ちゃんと出すよ」


れぃ「……ん〜〜、じゃあ……」


そう言うとれぃはあまり気乗りしなさそうにお金を受け取った。


れぃ「……それより、そのモバイルポーチ、あたしの記憶を頼りにゆき達のスマホが入る大きさチョイスしたんだけどちゃんと入るか?……」


まみ「あたしのは入る」


ゆき「あたしのも入った」


れぃ「……よかった……」


まみ「え〜っと実はあたしもお姉ちゃんのアドバイスでみんなに買って来た物があるんだけど……」


ゆき「まみもかよ」


れぃ「……何?……」


まみ「え〜っと……ティキティキ〜ン『ペットボトルホルダー』!」


ゆき「まみもネコえもんか!」


まみ「この流れならやるべきかて思って」


まみなりの最大の勇気だったのだろう。

恥ずかしさで耳が真っ赤だ。


れぃ「……で?ペットボトルホルダー?……」


まみ「あ、そうそう、コレ。」


まみが取り出したのは断熱材入りのペットボトルホルダーだ。


まみ「お姉ちゃんいわく、『滑ってると案外気付かないけど気温はしっかり氷点下だからね。対策してないとペットボトルの飲み物凍るよ』って言ってたの」


その瞬間、美紅里が吹き出した。


美紅里「あっはっはっはっは!さすが姉妹ね。まみが紀子のモノマネしたらそっくりだわ」


まみ「え?そんなに似てた?」


ゆき「今、そこにののこさんが居た」


れぃ「……一瞬、顔つきもののこさんになってたぞ……」


まみ「えっ!?ウソっ?」


まみはののこのモノマネをしたつもりは無かったのだが、自然とののこの喋り方を模していたようだ。

また耳を真っ赤にしてバツ悪そうにしている。


れぃ「……ほいじゃあ、ペットボトルホルダー代110円……」


ゆき「あたしも、はい!」


さっきの流れからまみは受け取らざるを得な状況なので素直に受け取った。


そんな三人の会話を楽しそうに聞きながら運転している美紅里。

時折、カップホルダーに入れたコーヒーを飲む。


ゆき「美紅里ちゃん、それまみからのプレゼントのやつ?」


美紅里「そうよ。コーヒー冷めなくていいわ〜」


れぃ「……あ、そうだ。朝ごはん食べとかなきゃ……」


まみ「あ、あたしも」


ゆき「あたしはポッキーでも食べるか。美紅里ちゃん、食べる?」


美紅里「ありがと。でも、あたしも朝ごはん食べるから……」


出発して1時間ほどして朝日が登ってくる。


ゆき「昨日もご来光見たけど、これはこれでいいね〜」


まみ「あたし、昨日のご来光の時は夢の中だった」


れぃ「……あたしも……」


ゆき「美紅里ちゃんは?」


美紅里「あたしは紀子と飲んでた」


まみ「あ、そういやお姉ちゃん大晦日から居なかった。美紅里ちゃんとこに行ってたんだ」


美紅里「そうなのよ。紀子ったらアポ無しで来たかと思ったらお酒どっさり持って来てさ……」


れぃ「……美紅里ちゃんとののこさんってホント仲いいんだな……」


美紅里「まぁね〜……。あの子どうにも憎めないのよ」


ゆき「しかし、アポ無しって……」


美紅里「そうなのよ『美紅里さん、どうせ年越しヒマしてるでしょ?』って言ってさ。失礼しちゃうわ」


れぃ「……でも一緒に飲んでたって事は実際ヒマだったんじゃね?……」


美紅里「う……。ぐぅの音も出ない……」


まみ「お姉ちゃん、結構強引なとこあるから……」


まみは美紅里に対してなのか、少し困ったような表情と、申し訳なさそうな表情が入り交じった表情をしている。


ゆき「そこも素敵」


れぃ「……かっこいい……って言うか男前……」


まみ「……そう?……」


出発してから2時間ちょっとで竜神スキーパークに到着。


美紅里「ちょっと予定より遅くなっちゃった。さ、更衣室行くわよ」


4人でゾロゾロとセンターハウスにある更衣室に向かう。


れぃ「うおっ!足元が滑る!」


美紅里を除き、三人とも足元はスニーカーだ。


ゆき「美紅里ちゃんが履いてるの、スノーブーツ?」


美紅里「そうよ。これ履いてたら多少は下が凍ってても大丈夫だからね」


更衣室に入り、さっそく着替える。


着替えも慣れている美紅里は早い。


れぃ「……美紅里ちゃん、もう着替え終わってる。早い……」


美紅里「着る順番に出せるようにカバンに詰めてるからね」


まみ「なるほど……。あ、お尻パッド履くの忘れてた」


ゆき「よし!あとはコンタクト入れるだけ!」


美紅里「リフト券の引き換えしてくるから、着替え終わったら車の所にいらっしゃい」


そう言うと美紅里は早々に更衣室を出て行った。


更衣室は次から次に利用者が入っては出て行く。


まみ「なんかコミゲの更衣室みたいじゃん」


れぃ「……あそこも戦場だからな……」


車に戻ると既にボードがキャリアから下ろされ、ソールカバーも外して畳まれている。


ゆき「美紅里ちゃん、おまたせだ」


まみ「ごめんなさ〜い、遅くなってしまいました」


れぃ「……美紅里ちゃん、ありがと……」


美紅里「はい、じゃあ荷物を車に積んだらブーツ履いて」


バタバタと荷物を積み、ブーツに履き替える。


れぃ「……んっ……っと……このっ!……ちくしょう!なかなか足が入らねぇ!」


美紅里「もっとしっかりブーツを前に開くのよ」


ゆき「ブーツのインナーってどのくらい締めたらいいんだらず?」


美紅里「インナーはあまりキツく締めないでいいわよ。締め過ぎたら足が痛くなるから」


まみ「できた!」


れぃ「……お?ブーツ履くのは早いな、まみ……」


美紅里「ブーツ履けたらパウダーガードを被せるの忘れないようにね」


ようやく準備が整い、板をかついでゲレンデに向かう。


まみの背中でキツネのぬいぐるみリュックのしっぽがゆらゆらと揺れる。


ゆき「ぬいぐるみリュック、かわいいな。あたしも欲しくなってしまった」


まみ「えへへ〜。この子、『ココ』って名付けました」


れぃ「……ここ?……」


まみ「『小狐』と書いて『ココ』」


まみはご機嫌で背中のココを片手で軽くポンポンとたたく。

まるで子供をおんぶしてあやしている母親のようだ。


ゲレンデの入口まで来て美紅里からリフト券が配られる。


それぞれがリフト券ホルダーにリフト券を入れる。


ゆき「あたしも今日からシルフィードパスケースよ!かぁ〜〜っ!テンション上がるわ〜〜〜」


無表情ながら少し照れた表情を見せるれぃ。


美紅里「ムービングベルト乗るとき転ばないようにね」


まみ「リフトじゃねぇんだ」


れぃ「……ベルトコンベアだ。工場の流れ作業の現場みたい……」


ゆき「へっぽこスノーボーダー量産計画」


まみ「あはは……」


れぃ「……なんか独特な揺れがバランス崩しそうで怖いな……」


ムービングベルトを降りて見回してもリフト乗り場が見当たらない。


美紅里「リフト乗り場まで滑って行くから板履いて」


ゆき「え?いきなり?」


美紅里「自信無かったら左足だけ付けてスケーティングでもいいわよ。ただ、斜度のある所でスケーティングって思ってる以上に怖いと思うけど」


れぃ「……何で?……」


美紅里「スノボって板をずらして曲がったり止まったりするでしょ?スケーティングで右足を装着してないって事はそのどっちも使えないからスピード出た時に逆に怖いの」


まみ「あたし達でも板履いてリフト乗り場まで行ける?」


美紅里「ん〜〜〜、あ、あのボーダーさん見てみな?直滑降で行ってあの程度のスピード」


れぃ「……あ、後ろの人、止まっちてしまった……」


美紅里「フラットな所あるからね。勢い付けて抜けないと止まっちゃうの」


まみ「あたし、履いて行こ」


れぃ「……ん。じゃああたしも……」


ゆき「ん〜〜〜〜〜〜〜、じゃあ、あたしも」



三人は板を履いたが美紅里は左足だけ付けて右足は付けてない。


まみ「美紅里ちゃんは履かないの?」


美紅里「あたしはワンフットである程度板のコントロールできるから。それにたぶんあなた達がフラットになってる所で止まるだろうから、後ろから押してやろうと思ってね」


れぃ「……止まるの前提なんだ……」


美紅里「じゃあ、さっき行った人と同じ方向に滑って行きなさい。あの辺まで行ったらリフト乗り場見えるから。あたしは一番後ろから行く」


まみ「じゃあ、行きまーす」


そう言うとまみは勢いよく滑り出した。

とは言うものの斜度がほとんどないのであまりスピードは出ない。


れぃ「……んじゃ、あたしも……」


れぃが続く。

まみほどでは無いが、滑り出しこそ少し躊躇したが、その後は板が滑っていくまま身を任せて滑って行く。


ゆき「ん〜〜〜、滑り方覚えてるかなぁ」


最後はゆきだ。

おっかなびっくり滑り出す。


その後ろから美紅里が付いてくる。


美紅里「左足に体重乗せて!足の指を雪面に引っ掛けるイメージで!へっぴり腰になってるよ!」


よろよろと危なっかしくゆきが滑る。


スピードに対して恐怖感の無いまみはフラットになってる所も一気に滑り切るが、れぃはあと少しと言う所で止まってしまった。


もちろんゆきはその手前で止まってしまう。


美紅里はゆきの腰の辺りを押して進む。

れぃは一度四つん這いになって手で雪面を押してカニのように進み、何とかフラットな所を抜けた。


再び滑り出したれぃ。

先行したまみを見付けて追いかけようとした瞬間、順調に滑って行ったまみが転ぶのが見えた。


れぃ「……あ、まみ、コケた。追いつくちゃ〜んす……」


やっとフラットな所を抜けたゆきは、またへっぴり腰で滑り出す。


美紅里「足元見ないよ〜。左足に体重乗せて……え〜っと、シルフィードよ!」


シルフィードと言う単語が出た瞬間、ゆきの姿勢が一気に良くなる。


美紅里は頭の中で「面白い子ね」と思ったがそれは口には出さなかった。


転んでもがいていたまみの所にれぃが追いつく。


れぃ「……まみ、大丈夫?……」


まみ「あはは、コケた」


れぃ「……どしたの?……」


まみ「ターンしようとしたら目の前を他のボーダーさんが横切ったからびっくりしてしまって……」


実際は随分まみとの距離はあったのだが、初心者はその距離でもびっくりするのだ。


二人はまたリフト乗り場に向かって滑り出す。


まみ「何とかターンのコツは思い出した」


れぃ「……う〜……、でもやっぱターンする時ちょっと怖い……」


数回ゆっくりターンしてリフト乗り場まで下りてきた二人。


数分後にゆきと美紅里が合流する。


ゆき「着いた〜」


美紅里「どう?感覚戻った?」


三人はそれぞれ少し困ったような愛想笑いで返す。


美紅里「じゃあこのリフト1本練習で滑ろうか」


4人はリフト乗り場に並ぶ。


ゆき「あ、このリフト4人乗りなんだ」


美紅里「ゆきが一番外側、次にれぃ、まみ、一番内側があたしの並びで乗るよ」


たどたどしいスケーティングで乗り場に向かう。


美紅里「すみません、この子達ビギナーです」


リフトの駆動音が響く中でもよく通る美紅里の声。

リフト係員は機械を操作してリフトの速度を少し落としてくれた。


美紅里「慌てなくていいからね、乗るよ」


またモタモタしながら乗車位置まで進み、無事リフトに乗車する。


美紅里「セーフティバー下ろすよ」


セーフティバーに手をかけてやっとホッと息をつくゆき達三人。


ゆき「あ、4人でリフト乗ってる写真撮りてぇ!」


美紅里「じゃああたしが撮る。万が一リフトからスマホ落としたら大変だからね」


美紅里は胸ポケットからスマホを取り出し、ゆき達に向ける。


ゆき「え〜、美紅里ちゃんも一緒に写真写らずか」


美紅里「あたしも?」


まみ「是非っ」


れぃ「……ん……」


美紅里はあまり乗り気ではなさそうな感じだが、カメラをインカメに切り替えてシャッターボタンを押す。


タイマーのピッピッと言う電子音が鳴り、パシャっとシャッターが下りる音がする。


美紅里「あなた達だけも撮っとくわね」


そう言うと美紅里は最初に構えたようにゆき達3人だけの写真を撮る。


れぃ「……美紅里ちゃんって自撮り好きじゃねぇ感じ?……」


美紅里「あ〜、昔は仲間とよく撮ってたけど、なんか今さらって感じがして最近は撮ってないのよ」


実はこれは嘘である。

美紅里も友達やののことスノボに行った時はリフトで自撮り写真を撮ってたりするのだが、今日はクラブの顧問として引率していると言う立場上いつものノリでできなかったのだ。

また、女子高生と同じノリで自撮り写真を撮ると言う事に少し抵抗があったと言う事も否めない。


ただこのウソは後日、ののこの不用意な発言によってバレる事になる。


美紅里はスマホをしまい、前回のおさらいを三人に始める。


美紅里「リフト降りたら、このリフト沿いに下って、またこのリフト乗るわよ。まずは斜滑降。できるようならターンしてもいいけど斜滑降に不安があるなら端まで行って止まって方向転換してからまた斜滑降すること」


まみ「あたしは大丈夫……だて思う」


れぃ「……あたしもさっきので何となく思い出した……」


ゆき「え?二人ともマジ?あたしはちょっと斜滑降の練習してからにする」


美紅里「ターンやるなら一度止まるくらいのスピードまで落として丁寧にターンする事。とくにまみ。あなたはののこと同じでスピード出す事を目的にしてターンが雑になるような雰囲気あるから」


まみ「あはは、言われちゃった」


れぃ「……なんつーか、まみって普段は慎重と言うか引っ込み思案な雰囲気なのに、スノボ履くとキャラ変わるしない……」


ゆき「そうそう!普段はあたし達が『ほら、まみ行くよ!』って声かける事が多いのにスノボになったら、『え?まみ、もう行ってる』ってなる」


ゆきはそう言うと少し意地の悪いニカっを見せる。


まみ「え〜、そうかなぁ……。あ〜……そうかも……」


れぃ「……どっちやねん……」


美紅里「さ、もうすぐ降りるわよ。板を真っ直ぐにして、視線は真正面!絶対に足元見ない事!」


リフト降り場が近づきセーフティバーを上げる。


まみ達の一つ前のリフトの降車が終ると同時にリフトの速度がゆっくりになる。

どうやら乗り場の係員が降り場の係員に連絡してくれていたようだ。


美紅里「は〜い、慌てないでいいからね〜、はい、降りるよ」


美紅里の合図でバラバラと立ち上がり、それぞれがスケーティングで降車する。


ゆき「できた〜」


れぃ「……毎回緊張する……」


まみ「そう?」


れぃ「……まみ、そう言うとこやで……」


少し移動して板を履く。


れぃ「……ヤバい……テンション上がってきた……」


言葉とウラハラにれぃの表情はいつも通りの無表情だ。


美紅里「じゃあ、れぃから出発!」


れぃ「……あたしから?……」


美紅里「いいから行きな」


れぃ「……うぃ……」


れぃは少しずりずりと横滑りした後、ゆっくりと斜滑降に入る。


端まで行って止まる直前からゆっくり直滑降に移行し、即座に板をズラして向きを変える。

止まるかとおもいきや、そのまま斜滑降に繋げた。


どうやら本人のイメージどおりターンらしき物ができたようだ。


ゴーグルとフェイスマスクで表情は見えないが、たぶんドヤ顔をしているのであろう。

まみ達の方に顔を向ける。


しかしスノーボードは視線方向に板が向く。

直後に反対側のエッジが引っ掛かり、れぃは派手にすっ転んだ。


美紅里「こっち見なくていいから、進行方向だけ見な!」


れぃ「ちくしょ〜〜〜!」

コケた事が悔しかったのか、雪面を叩いて悔しがっている。


ゆき「あ、れぃがキレてる」


ゆきがクククと笑う。


美紅里「次、まみ!」


まみ「は〜い」


待ってましたとばかりにまみが滑り出す。

端まで行ってしっかりと進行方向側の足に体重を乗せて直滑降。

速度が一気に上がって行くが、恐れる様子もなく、板をスライドさせてターン。

そのまま斜滑降でれぃの所まで行く。


美紅里「あの子、ホント紀子とそっくり」


ゆき「滑り方?それとも顔?」


美紅里「初めて紀子をスノボに連れて行った時の紀子の反応とそっくり」


ゆき「反応?」


美紅里「最初は怖いだの何だの言ってたくせに、ちょっと滑れるようになったらカッ飛んで行ったのよあの子も」


ゆき「さすがののこさん」


美紅里「まみもそうなりそうで……ね」


珍しく美紅里が苦笑いしている。


美紅里「たぶんまみも、紀子と同じで直感で技術を習得していくタイプね。伸びる時はぐんぐん伸びるけど変なクセつく事も多くて、そのクセを直すのに時間かかるタイプ」


少し喋り過ぎた気になった美紅里は話を逸らすようにゆきに滑り出しを促す。


美紅里「さ、ゆき、行くわよ」


美紅里に急かされてゆきが滑り出す。

そのすぐ後ろを美紅里が付いてくる。


美紅里「ゆき!シルフィードよ、シルフィード!」


ゆき「シ……シルフィード!」


意を決したように前傾姿勢になるゆき。


そのおかげかスムーズに端まで斜滑降で進む。

一度止まって座り、ごろんと転がって向きを変え、斜滑降でれぃ達と合流した。


美紅里「さ、どんどん行くわよ。まみとれぃは爪先側とかかと側のターン1回ずつやったら止まって。ゆきはとりあえず1回ターンをやろう。よし、出発!」


出発の合図と同時にまみが立ち上がり元気よく「はーい」と言うと早々に滑り出した。


その後をれぃが追う。


最後にゆきが美紅里引率のもと滑り出す。


美紅里「シルフィードよ!はい、そこで減速して……そうそう。慌てず直滑降に……はい、ブレーキ!そのまま斜滑降!」


何とかターンできたが、斜滑降に入ったとたん重心が後ろ足に乗ってしまいノーズが浮き上がり転倒。


美紅里「はーい、最後まで気を抜かずに前傾……シルフィードよ。もう一度行くよ」


スルスルと滑り出し、ターンに入る。


美紅里「シルフィード!最後までシルフィード!」


今度はターン成功。


と、言ってもまだまだ危なっかしい。


ゆき「あ、でもちょっと思い出してきた」


美紅里「じゃあ、まみのいる所まで行ってみよう」


コツを思い出したと同時にゆきはターンの際「シルフィード!」と言うクセも帰って来た。


れぃもだいぶコツを思い出したようだ。


美紅里「じゃあまみとれぃはここからリフト乗り場まで行っていいわよ。下に着いたら待ってて。ゆきはあたしと一緒に行こう」


今度はれぃが先に滑り出した。

れぃは負けず嫌いなのだ。

少しでも先行してまみを引き離す作戦。


まみ「あ、れぃちゃん待って〜」


あからさまにスピードが違う。

あっと言う間にれぃに追いつく。


ゆき「まみって運動神経悪くねぇんだ」


美紅里「運動神経はどうか知らないけど、スノボは普通に滑るだけなら運動神経とかあまり関係なく滑れるわよ。運動神経と言うより今の段階では恐怖心があるか無いかよ。まみはスピードに対しての恐怖心が少ないのよ。ほら、ゆきも行くよ」


ゆきは立ち上がり、リフト券ホルダーのシルフィードのイラストをまじまじと見る。


ゆき「あたしもシルフィードみたいに勇猛果敢に……行くっ!シルフィード!」


気合い一閃。

前傾姿勢でスムーズな斜滑降。


ゆき「ここから……ビビらないで重心を前にして、直滑降!……で、曲がる!」


美紅里「うん、いい感じ!次も行こう!」


ゆき「シルフィード!」


もちろんまともに滑れるボーダーから見たら、まだまだビギナー丸出しの滑りだが、ゆきのイメージの中では雪煙を上げて疾走する風の精霊騎士シルフィードの姿が出来上がっていた。


美紅里『この子もイメージに入り込むといきなり滑り変わるわね。面白い』


美紅里はゆきの後ろを滑りながらクスクスと笑う。


美紅里『さて、あとはれぃ。あの子はよくわかんないのよね〜。表情ほとんど無いし、いつもボソボソ喋る……かと思ったら突然キレるし……』


美紅里はれぃの滑っている姿を目で追う。


れぃはまみに追い越されたが、必死に付いて行っている。


美紅里『ん?あの子、器用ね。まみの滑りの動きをコピーしてる。見たものを即座に体現できるタイプ……?面白い!』


美紅里はニヤリと笑う。



その間もゆきはターンの度に「シルフィード!」と気合いを入れてターンするのを繰り返している。


そのおかげか、ゆきもコツを思い出して来ている。


リフト乗り場までゆきは何度か転んだが、それでも前回の状態までは戻った感じだ。


美紅里「はーい、じゃあまたこのリフト乗って、次は別の所行くよ」


さっきと同じ並びでリフトに乗る。


今度はさっきよりスムーズな乗車だ。


美紅里「今度はあたしが先行するから付いてきて。あたしの後ろはれぃ、次にゆき、ラストがまみね」


ゆき「見失っちゃわねぇかな」


不安そうにゆきがつぶやく。


美紅里「大丈夫。見える範囲で先行するし、距離が開いたら止まって待ってるから自分のペースでおいで。まみはゆきと同じペースで来る事。その時ターンは丁寧に。スピード出すの禁止ね」


まみ「え〜〜〜〜」


不服そうなまみ。


美紅里「『え〜』じゃないわよ。まみは紀子と同じでスピードに興じて基本を疎かにするタイプだから今のうちにちゃんとしたターンを覚えないと次のステップで伸びなくなるわよ」


まみ「お姉ちゃんも?」


美紅里「そ。紀子もスピード出す事ばかり夢中になってたから、変なクセついちゃって、今カービング覚えるのに苦労してんのよ」


れぃ「……カービングって何だっけ?……」


美紅里「ターンの時、板をずらさずエッジだけで滑る滑り方」


ゆき「美紅里ちゃんがやってるギュ〜ンって滑るやつ!」


まみ「あたしそれやりてぇ!」


美紅里「だったら今は丁寧にターンのやり方を覚える事!」


まみ「ん〜〜〜でも『丁寧に』って言われても何が丁寧でどれが雑なのかわかんねぇ」


美紅里「そうね、例えるなら自転車。ある程度スピード出して曲がるのとゆ〜〜〜っくり走って曲がるのとだったらどっちが簡単?」


まみ「ゆっくり?」


れぃ「……いや、逆だらず。自転車はスピード出してた方が安定する。歩くようなスピードだったら逆にフラつく……」


美紅里「その通り。その自転車でゆっくり曲がる事ができたらスピード出して曲がるのは苦もなくできる。つまりちゃんと自転車をコントロールしてるって事。スノボも同じよ。ゆ〜〜〜っくりターンするのって思いの外難しいから」


ゆき「あたしはどうしたらいいの?」


美紅里「ゆきはまみと逆。スピードに対しての恐怖感を取り除くのが先決ね。止まれるスピードは怖くないってのを覚えれば重心が自然に前気味のちょうどいいバランスで乗れるようになるわよ」


れぃ「……えーっと、あたしは……」


美紅里「れぃは良くも悪くも器用だからね」


れぃ「……良くも悪くも?……」


美紅里「さっきまみの後ろついて滑ってたでしょ?その時まみの滑りを真似してなかった?」


れぃ「……何でバレたし……」


美紅里「わかるわよ。……で、また器用にまみの真似してんのよ。良いところも悪いところも。だから今回はあたしの後ろについてもらうの。つまりあたしの滑りの真似してみなって事」


れぃ「……真似も何も、美紅里ちゃんレベルの人の真似なんてできっこねぇじゃん……」


美紅里「もちろんれぃレベルの滑りをするわよ」


れぃ「……ん……じゃあ……まぁ……」


リフトを降り少し移動。


美紅里「次、こっち行くから。はい、板履いて」


ゆき「さっきより斜度が急じゃね?」


れぃ「……そんな気がする……」


美紅里「ほんのちょっとだけね。さっきの所滑れたら大丈夫よ」


ゆき「不安しかない」


美紅里「ちゃんとシルフィードしてたらターンもブレーキもできるから。さ、行くよ。れぃ、付いておいで」


そう言うと美紅里は滑り出す。

慌ててれぃがその後を追う。


れぃのレベルに合わせると言っていただけあって、美紅里はゆっくり滑っている。


まみ「ゆきちゃん、あたし達も行こっか」


ゆき「まみ、コケたら助けてね」


まみ「あはは……それは無理」


ちょっと困った笑顔で答えるまみ。

確かにまだまみも誰かを助けるほど余裕は無い。


ゆきはゆっくり滑り出し、その後ろからまみが付いて行く。


同じスピードで滑ろうとしているのにまみはすぐにゆきに追いついてしまう。


まみ『何で追い付いてしまうんだらず?角度も同じなのに……』


ゆき「まみ!ターンするよ!シルフィード!」


まみも同じタイミングでターンに入る。


しかしターン中にゆきとの距離が一気に詰まってしまい、あわててブレーキをかけるがそのとたんバランスを崩して転んでしまった。


まみ『え〜〜?ゆっくりターン難しい!』


すぐさま起き上がりゆきを追う。

すぐに追いつき、次のターン。

しかしここでまた距離が詰まってしまい、一度ターンするのを中断して斜滑降に戻る。

端から見ていると、蛇行しているような滑りだ。


ゆきはゆっくりながらも一つずつ丁寧にターンを繰り返している。

もちろんターンする度に「シルフィード!」と気合いを入れながらだ。


一方、れぃは必死に美紅里を追いかけていた。


れぃ「美紅里ちゃん!どこがあたしのレベルなの!?」


美紅里「あら、ちゃんと付いて来れてるじゃない」


美紅里はスピードを落とす様子は無い。

もちろん美紅里はれぃに合わせたスピードでかなりゆっくりだ。


美紅里のスピードに少し慣れてきたれぃは自然と美紅里を観察し始める。


れぃ『美紅里ちゃん、まみと違って全てがスムーズ……どうなってんだ?……ってかターンの時、あたしやまみみたいに板をエイッて動かしてねぇ……』


滑りながら食い入るように美紅里の滑りを見るれぃ。


れぃ『そっか。斜滑降から直滑降、ターンまでそれぞれの区切りがねぇんだ。斜滑降から徐々に直滑降になってるし、直滑降から徐々に板をずらしてターンして……』「あっ!」


見る事に集中しすぎたせいか、れぃは逆エッジで派手に転ぶ。


れぃ「って、できるかぁ!」


すぐさま美紅里は止まって振り返る。


美紅里「その様子だと自分との違いに気付いたみたいね」


れぃ「なんとなくはわかった。でもこれ、いきなりやるの無理じゃね?」


美紅里「あら、やってる事は一緒よ」


れぃ「一緒かもだけど、まだ考えながら斜滑降から直滑降、直滑降からブレーキかけてターンってしなきゃできねぇのに、全てを一連の流れみたいにできねぇよ!」


美紅里「へ〜、思った通りだ。れぃの最大の武器は『目』だね。この短い距離で自分とあたしの差がどこにあるか目で見てわかったんだ」


れぃ「……そりゃわかるだらず……」


美紅里「いや、そうでも無いのよ。自分との違い、自分のできる事とできない事の把握は意外と難しいの」


れぃ「……そなの?……」


美紅里「じゃあまず、斜滑降から直滑降へのスムーズな動きだけ意識して付いて来てみ?」


れぃ「……うぃ……」


そう言うと美紅里はまた滑り出す。

れぃも続く。


れぃ『斜滑降から直滑降……斜滑降から直滑降……なんか逆ギレなりそう……でも美紅里ちゃんは逆エッジなってねぇし……ん?……美紅里ちゃん斜滑降から直滑降にする時、一度軽くしゃがんで立ち上がりながら直滑降にしてる?……こうか?』「ぎゃぶっ!」


さっきより派手に逆エッジでひっくり返るれぃ。


れぃ「あ゛〜〜〜!わかんねぇ!」


すぐさま止まる美紅里。


美紅里「あたしの動きも……だけど、板の動きも見てみな」


れぃが立ち上がるのを待って、また美紅里は滑り出す。


れぃ『板の動き?……あっ!何だこれ?かかと側のエッジから爪先側のエッジに切り替える時にどっちのエッジも使ってねぇ時間がある!なるほど……爪先側のエッジに切り替えた瞬間から板をズラし始めてそのままターンか!よーし!』「おわっ!たったったったっ……痛でっ!」

今度はノーズが浮き上がり転ぶれぃ。


また美紅里は止まり振り返る。


美紅里「さすが!解ったみたいね」


れぃ「……ん。たぶん合ってるて思う。ちょっと板の動きに集中しすぎて重心崩したけど……って、美紅里ちゃん滑ってる時は前向いてるのに何であたしが板の動きの事分かったってわかっただ?……」


美紅里「れぃの滑った跡……エッジのラインを見ればわかるわよ」


れぃ「……なるほど……」


美紅里「行ける?」


れぃ「……行く……」


そこかられぃの滑りは一気に変わった。

ゆっくり滑っているし、れぃの滑りに合わせた滑りの美紅里だが、その滑りにシンクロするようにれぃは滑り出した。


まだ少しぎこちなさはあるが、さっきまでの力任せてに曲がっている感じは無い。


少し滑って美紅里は止まる。


美紅里「オッケ!いい感じね。じゃあここでちょっとゆきとまみを待とうか」


れぃ「……うぃ……」


美紅里達と随分離れてしまったゆきとまみ。


ゆきは転ばないように悪戦苦闘。

まみもゆっくり滑る方法を模索している。


しかしゆきも徐々に慣れて来た感じでさっきから「シルフィード」の掛け声無しでターンを続けている。


一方まみはフラフラと蛇行を続けている。


美紅里達に合流した時の反応は真反対だった。


ゆき「なんかわかって来た!」


まみ「ダメだ!ゆっくりターンができねぇ!」


美紅里は思惑通りといった表情である。


美紅里「はい、じゃああのリフト乗りに行くよ」


そう言うと美紅里は滑り出す。

今度は何の指示も無い。


とっさにれぃが美紅里の後を追う。


まみ「あれ?れぃちゃんの滑りがスムーズになってる」


ゆき「ホントだ……動きがカクカクしてねぇ」


まみ「カクカク?」


ゆき「ほらあたしらって斜滑降、直滑降、ブレーキ、ターン、斜滑降でそれぞれ区切りがあるような滑りしてるじゃん?」


まみ「あ、ホントだ。れぃちゃん、カクカクしてねぇ」


ふと、まみの頭に何か引っかかるものがあった。


まみ『スムーズにするとスピードは上がってしまうよね?だけど美紅里ちゃんもれぃちゃんもゆっくり滑ってる……』


ゆき「まみ、先行くよ!」


そう言うとゆきも滑り出した。

ゆきは斜滑降、直滑降、ブレーキ、ターン、斜滑降それぞれを区切るような滑りをしている。


まみはゆきとれぃの滑りを見比べる。


まみ『あ、れぃちゃんは直滑降がほとんど無ぇや。だからブレーキも強くかけずにずっと弱いブレーキをかけたままターンに繋げてる。あ、そっか……』


まみは角度のついてないゆっくりとした斜滑降で滑り出し、全然加速していない状態から麓側に向けて吸い込まれるように自然に……落ちるように板の向きを変える。

そして加速するよりも先に少しエッジを効かせる。

麓側に落ちて行く加速分を相殺する絶妙なブレーキ。


そのまま数秒間。


いつしか斜滑降の角度まで板の角度が変わっていた。


まみ「これだ!」


コツをつかんだまみは反対側のターンも同じ要領で一定の速度のまま大きくゆっくりターンした。


既にリフト乗り場に着いてゆきとれぃを見ていた美紅里もそれを見てボソっとつぶやく。


美紅里「よし、まみもつかんだね」


数回緩やかなターンを繰り返し美紅里の元に合流するまみ。


まみ「美紅里ちゃん!どう!?」


「どう?」と聞いたまみではあるが正確を導き出した自信にあふれた「どう?」だ。


美紅里は無言の笑顔で親指を突き立てる。


そこに少し遅れてゆきが合流する。


ゆき「みんなどんどん上手くなってズルいっ!」


そう言ったゆきだが、滑り出した時に比べると格段に上達している。


美紅里「じゃあ、リフト乗って、その後ゴンドラ乗り場行くよ。ゆきはあたしとリフト乗るよ」


リフトに乗った美紅里とゆき。


美紅里「ゆき、だいぶ良くなったね」


ゆき「そうですか?れぃやまみみたいに滑れねぇし、あたし全然じゃん」


少し落ち込んでいる様子のゆき。


美紅里「いや、ゆきはあれでいい。三人の中で一番丁寧に滑ってる。次はずっと三拍子を意識して滑ってみ?」


ゆき「三拍子?」


美紅里「そ。イチ、ニ、サンでターンに入る。ターンを終えたらまたイチ、ニ、サンで次のターン。たぶんすごくスムーズにターンできるようになってるから」


ゆき「ホント〜?」


美紅里「あれ?疑うの?」


ゆき「だってさっきもターン1回するごとに必死な思いでやってたんじゃん」


美紅里「ん〜〜〜。たぶんもう体がターンのリズムを覚えたはずだから」


リフトを降りると目の前にゴンドラの駅舎があった。


まみ「ゴンドラだ!」


れぃ「……でかい……」


美紅里「短い距離だけど、乗り場まで滑るよ」


ゆき「イチ、ニ、サンでターン……」


美紅里「ゆき、先頭行きな」


ゆき「あたしが!?」


美紅里「たぶんその方が集中できると思うから」


ゆき「ん〜〜〜、じゃあ……」


しぶしぶ滑り出すゆき。


ゆき『イチ、ニ、サンでターン……イチ、ニ、サンでターン……』


少し斜滑降をしてゆきは頭の中でタイミングをはかる。


ゆき『イチ、ニ、サン!』


するとゆきはスムーズにターンを終え、そのまま斜滑降に。


ゆき『イチ、ニ、サン!』


次のターンもきれいに弧を描きターン。


まみ「ゆきちゃん凄いっ!どうしたの?」


美紅里「ゆきは努力型。今まで一つずつ丁寧にターンしたおかげで体にターンの動きが身に付いたのよ。今までぎこちなかったのは余計な事を考えてたせい」


れぃ「……あたしも行っていい?……」


美紅里「よし!行けっ!」


れぃ「……うぃ……」


れぃもスムーズにターンを繰り返す。


まみ「あ……あたしもっ!」


美紅里「よし、GO!」


まみもゆっくりだがキレイなターン。


美紅里「よしよし、みんな上出来、上出来」


ゆき達三人はお互いの上達にキャッキャと喜びあっている。


その姿を見て美紅里は教え子の上達に目を細める。


ゆきは努力型、まみは直感型、れぃはコピー型。

それぞれのタイプに目星を付けた美紅里は渋々受けたクラブの顧問だったが、顧問として三人を育てる楽しさを感じ始めていた。


そして三人はゴンドラに乗って雲の上に向かう。

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